地獄行きすれすれ男の異世界善行記録   作:ただのジョンソン

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第11話:前科者と働こう

サマンサ宿に着くとリズボンが俺とイシュメルにシチューを出してくれた。丁度昼飯の時間だったか。礼を言うとリズボンに聞いた。

 

「刑務所帰りの人間をここに?」

「しょうがないだろう。あそこのギルド長から金を受け取らされてるんだ。アタシだってね。そんな事したくなかったんだよ?そんな厄ネタ引き受けても何も良いことなんか無いからね。オイスタ市長から『前科者の更生の為に』って頼まれたら断れないだろ?違うかい?ほんとに…」

 

俺は「確かに、そりゃ大変ですね」と言ってリズボンの話を打ち切った。案外犯罪者の更生を考える優しい世界らしい。それともやたら戦闘力のある前科者が世の中を歩くのは困るから冒険者限定でそうしている可能性もありそうだ。

 

シチューの味はそれなりで、味付けはやたら濃かった。

 

沈黙の中無言でイシュメルと食事を続けた。しばらくするとアリアが書類を小脇に抱えて戻ってきた。そのころにはシチューは食べ終わっており、暇を持て余していた。

 

アリアは書類を俺とイシュメルに差し出した。

 

『冒険者身辺調査書』と書かれた表紙をめくると赤髪のショートヘアの女の似顔絵(精巧すぎるので魔法で作ったのだろうか?)が見えた。

 

「カミラ・ミストリアよ」

 

俺はアリアが差し出した書類を見た。

冒険者登録番号、年齢、使える魔法の一覧、所持している冒険者用の武器が書いてあった。

 

「冒険者の武器や魔法は登録が必要なのか?」

「…?あぁ、威力が普通じゃないからね。普通の衛兵とか一般人の持っている武器とは違うのよ」

 

凄い魔法や武器は見たことは無いが、確かに一般人がミサイルとか戦車を持っていると仮定すると管理しないと大変な事になりそうだ。

 

「シェール酒場での過重決闘罪で懲役2年、オイスタ市中央監獄内の暴行で追加1年」

「過重決闘罪?」

「喧嘩でブチのめし過ぎたのよ」

 

イシュメルは「いやぁ」と絞り出した様な声を出して言った。

 

「俺がソイツの面倒を見るの?俺はそんな…俺はまだ12だし」

 

俺は頷いた。

 

「そいつは大丈夫なんですか?私は喧嘩は得意じゃない、冒険者のような人間に対しては特に」

 

アリアはそれらしい顔で頷いた。

 

「大丈夫よ、仕事の時のケガで右足と右腕が無いからイシュメルでも制圧出来るわ」

 

それらしい顔でそれらしいことを言ったが。俺がどうなるかについては語っていなかった。俺は選択を誤れば死ぬのだろうか。

 

「2か月間彼女と生活して、生活基盤を一緒に整えてやってほしい、一週間に一回彼女の行動に問題が無かったかチェックリストに記入して何かコメントもお願いね」

 

子供にその仕事は難しいから、俺が見ておかないとならない奴じゃないかソレは?

 

アリアの説明を聞き終わると、イシュメルが少し渋い顔をした。

 

「つまり、俺があの女と一緒に住むの?二ヶ月も?」

「そうよ。あなたがその間、彼女の監視役ってわけ。言っておくけど、普通の住人として接するだけでいいの。無理に親しくなったりしなくていいから」

 

アリアは続けていった。

 

「ただし、何か問題があればすぐ報告して。彼女の行動が問題になれば、その分あなたの評価にも影響が出るから」

 

アリアはイシュメルでなく何故か俺を見て言った。分かってるよ、普通の子供にはそういう事は難しいからな。俺にやれって言ってんだろ?

 

イシュメルは不満げにため息をつきながら言った。

 

「これが奉仕活動…ね…」

「それで、彼女はいつ来るんだ?」

「んー、一週間後位よ」

「はぁ…私はこの宿で働くの初日ですよ?」

「良かったじゃない、新入り仲間が出来て」

 

俺は言いたい言葉を全て飲み込んで黙って2.3回頷いた。

 

その後、リズボンがキッチンから戻り、書類を見ると言った。

 

「なんだい、来るのはカミラだったのかい?」

 

俺はリズボンから酒のおかわりを貰うと聞いた。飲まないとやってられない。

 

「知り合いか?犯罪者になる様な人間は嫌いそうだが」

 

リズボンは俺の言い方が気に障ったのか眉間に皺を寄せた。

 

「あの子はいい子だよ。愛想は無いけどね」

 

そう言うとリズボンがアリアを睨みつけて言った。

 

「どっかのギルド長が変な事させ続けてなきゃこんな事になってないと思うけどね」

 

アリアは一瞬唇をきつく嚙みしめた。

 

「私は安宿の亭主と違ってデリケートな問題を抱えることも多いのよ」

 

リズボンはアリアの胸倉をつかんだ。

 

「アンタみたいな奴がいなきゃ…あの子はこんな事にはなってないって言ってんだよ!」

 

アリアは黙っていた。イシュメルは気まずくなって下を向いていた。

俺はこの空気が嫌になり、胸倉をつかむリズボンの手を掴んで言った。

 

「子供の前で喧嘩は辞めませんか…まだ、昼だ」

 

アリアはリズボンの手を振りほどくと、表情のない能面の様な顔で踵を返した。リズボンは彼女の背中に向かって叫んだ。

 

「アンタにも心があるってのには驚きだよ!!!」

 

俺は何も言わなかった。かける言葉が見つからなかったという訳では無く、とんでもなく厄介な事に巻き込まれた気がして、全てを放り出して逃げる算段を頭の中で考えていた。

 

俺は天使の顔を思い出してその考えを捨てた。

 

なんだよコレ。マジで凶暴そうな前科者が来る可能性があるのに、これしか説明されないのはクソ過ぎる。

 

そして、アリアを追いかけた。この空気で残されてどうするってんだよ。

 

「今後の予定は!?戻って説明を!」

 

アリアは空を見上げ、俺の方に早足で詰め寄ると言った。

 

「空気読めないの?何も心配しなくて大丈夫よ」

「厄介事を押し付けた善意の第三者に説明が必要でしょう?」

 

ムッとした顔のアリアに俺は「頼みますよ」と嫌味ったらしく言った。

 

流石に上に立つ人間なだけあってアリアは俺の頼みを聞き、テーブルに座り話を再開した。リズボンは不機嫌で夕食の仕込みをしながらこちらを見ていた。

 

アリアが不機嫌そうに黙っているので俺は司会進行を始めた。探偵時代のクソ仕事を思い出す。

 

「カミラ・ミストリア、31歳。テオドラ領オイスタ市ミランダ通り3-1番冒険者住宅502号。この住所は使ってるのか?」

「もう使ってないわ…変えないとね…郵便は私宛に届くようにしてあるけど…」

 

クソ…。元住んでた場所にいた方が精神衛生上良いって説得出来たのに…。

 

「実際のトコどんくらい強いんだ?」

「フレイム・ワイバーンを5体討伐してるわ」

 

強さの程度は理解できないが、まぁかなり強いんだろう。俺は黙って頷いた。一緒に住みたくねぇし、一緒に働きたくもねぇな。

 

俺はイシュメルに「強い?」と聞くと頷いた。

 

「両親は」

「生きてるわ」

「疎遠か?」

「あなたに関係が?」

「言い方を変えましょう。彼女と家族の話をした方が?」

 

アリアは黙って首を振った。家出して両親と疎遠って感じか?残念なことに、実家に帰ることも促せない。

 

「酒癖は?」

「良くないかも…」

「突然キレたりするか?」

「しないわよ」

 

まぁ、ヤバい奴ではなさそうだが、犯罪者である事は変わらない。

 

「彼女が問題を起こした時に誰が責任を」

「私よ」

 

俺は一呼吸置いた。誰が『法的な』責任を取るのか?と俺が聞いたことを彼女は理解しているのだろうか?ほとんどの人間はこう言って理解しなかった。

 

「気持ちの話じゃなくて…手続きの話です」 

「何かあったら私の名前を」

「彼女の保証人として?例えば…彼女がこの宿屋の全てを破壊したとして誰がその金を払うんです?」

「そう、私」

 

2,3回頷いた。含みのある態度だったのかもしれない。

 

「何よ…」

「出来ることじゃありませんね。いや、良い意味で」

 

俺はイシュメルを見た。嫌味も含めて「良い上司を持ったな」といった。彼はピンと来てない様だ。

 

「あなたがいない時は、誰を頼れば?」

「この期間は基本この周囲を出ないわ」

「そうじゃなくて、あなた以外に頼りになる人は?」

「マークの所に、ギルドの医者で私の弟よ」

 

あぁ、俺の手当てをした医者か。その弟に頼めないのかなと思ったが俺は言いかけてやめた。見るからに社会性が無い感じのする人間だった。

 

アリアは歯切れ悪そうに言った。

 

「マークは…そうね。ずっとギルドの医療室で研究をしてるから」

 

それには触れずに俺は話を続けた。まぁ、こういう事に慣れている人間では無いのだろう。良くは無いが、なんかあったらソイツに全てを擦り付けてしまえ。

 

「彼女が法執行機関の世話にならないという事は保証できませんよ」

 

アリアは何も言わずに頷いた。リズボンは切った食材を全て鍋にぶち込むと言った。

 

「ま!後は1週間後だ!イシュメル!自分の荷物を持ってきな!!」

 

リズボンは「あんたも心配しすぎだよ!」と付け加えた。彼女の機嫌は良くなっていた。

 

 

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