地獄行きすれすれ男の異世界善行記録   作:ただのジョンソン

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第13話:ヤバいのは姉

明日職場に前科者が来る。それに関してギルド長のアリアに嫌味を含めた『挨拶』を俺はしに行った。彼女は馬車に乗ろうとしていたので、俺は閉まろうとするドアを開いて馬車に飛び乗った。彼女は非常識だと言わんばかりに抗議の目を俺に向けた。

 

「人の馬車よ?」

「明日、前科者が私の所に来ますからね。そのことに関して挨拶を」

 

革張りの内装で、木材もそれなりに良い物を使っていた。車内にはうっすら香水の匂いがした。足元にある棚には酒が入っていた。前科者を押し付ける人間らしい良い馬車だ。

 

「今日また説明しに行くわよ」

 

アリアはウンザリとした顔をしていた。

 

俺は座り心地の良い座席に尻を落ち着けると言った。

 

「一週間一緒に働きましたが、イシュメルはかなり優秀な人間ですね」

「そうね」

「移民組合のヴィドーさんも気に入ってました」

 

アリアもまた真顔で頷いた。

 

「冒険者以外の職をイシュメルに紹介出来たハズだと思うんです」

「正義感からそう言っているの?」

 

俺はアリアの言葉は聞き流すと言った。俺に正義感があった時もあった。警察学校を卒業した後までだが…

 

「前いた場所では、誰かの頼みを聞いて金を貰ってました」

「今あなたにやってもらってる事には報酬を払うわよ」

 

俺は首を振った。

 

「その中には、まぁ…組織の中で言い難いこと…やり難い事を…よそ者に押し付けるという仕事もありました」

「やり甲斐のありそうな仕事ね」

「ええ、ほんの少しの金と人からの恨みも貰えます」

 

俺は話を続けた。

 

「そういう仕事で一番厄介な人間は、支配的かつ、何かに激しく依存する人間です。そういう人間は権力を持ってるから、組織内の人間に任せるのは難しい…内部の人間関係も壊れるし…『説得』するのも骨が折れた」

 

漁業組合の死にかけの爺さんに漁業権を手放す様に『説得』したときの事、社内の不倫カップルを別れる様に仕向けた事、様々なロクでもない仕事を思い出した。

 

彼らに共通していた事は「それ」が無ければ、生きて行けないと思っている事だ。無くても生きて行けると納得させる事は出来なかったので、半分脅迫の様な形で「それ」を諦めさせていた。おかげでひどく人から恨まれた。

 

イシュメルの姉であるカリーナも『そういうタイプ』の人間なのかもしれない。少なくとも俺にはそういう予感がした。

 

イシュメルがいないと生きて行けない。イシュメルの存在が彼女の何かのバランスを保ってるとしたら?推測ではあるが、かなり面倒だ。

 

実際の所、子離れ出来ない親から子供を無理やり引き離す仕事をしたこともある。あの時は車に轢かれかけて大変だった。女の顔を殴ったのはアレが初めてだったかも知れない。

 

「この件、そういう仕事をする時と同じ匂いがするんですよね」

「確かに…部外者と私で片付けてギルドの人間は関わらせたくないわね」

 

俺は声を低くして、表情の読めないアリアに言った。

 

「彼が自立を望んだら、そいつは『唆した』人間を恨むか?」

 

アリアは再び黙って頷いた。

 

「ほ〜…」

 

俺は呆れたように目の前にいるロクでなしを笑った。

 

「分かってるわよ、ギルドにはイシュメルに普通の仕事をさせるべきって考えてる冒険者も多いし、バカ冒険者共とカリーナを喧嘩はさせたく無かったの…で、良いタイミングであなたが現れて、『問題』を片付けるチャンスが来た」

 

アリアは「私も仕事をしてる」と付け加えてた。

 

「おまけに死んでも誰も怒らない移民だ」

「半年は彼女は領地で叙任式と訓練があるから戻って来ないわよ」

「半年後に俺が消し炭になるって事か?」

 

アリアは小さい声で「そうなるとは限らないわよ」と呟いた。

 

「この件は別の人間に頼んでくれ。死にたくないしな」

 

俺は馬車から飛び降りようと扉に手をかけると、アリアが俺の手を掴んだ。乾燥した手だった。この女思ったより苦労してるのかもしれない。

 

「……前途ある若者の…未来は潰すのは気分が良くないわ」

 

アリアは金の入った袋を俺の方に差し出した。

俺は差し出された金をむしり取るように受け取った。俺は金で黙る男だ。

 

…いや、違うな。昔は金の為に仕事をしていた。だが今は?ここで金を貰う事は正しい事か?俺が消し炭になってどうする?俺の依頼人は幸せになったか?

 

そんな事を考えているとアリアが俺の名前を呼んだ。俺はハッとして金貨の入った袋を押し戻した。

 

「金を貰うのは全てが『平和』に片付いてからにしよう」

 

アリアは意外そうな顔をした。俺はその顔を見て言った。

 

「カリーナと何があったか教えてくれないか?」

 

アリアは躊躇したが「一緒に消し炭になる仲間でしょう?」と付け加えた。

 

「カリーナはクレチ家の長女でクレチ家騎士団の団長候補よ」

「よくわからんが、高貴な人間だって事は理解できた」

「修行の為うちのギルドに来たのよ、紹介だったから断れなくて…ま、優秀だったから良かったんだけど…」

 

アリアは言葉に詰まりながら言った。

 

「1年しない内にイシュメルを連れて来て…自分の弟で冒険者にしてくれと」

「断ったのか?」

「当り前じゃない、知り合いの馬車管理の仕事を紹介したわよ…そしたら、もう…すごく怒って大変だった。今まで彼女は怒った事なかったんだけど、もう様子が異常で押し切られちゃって」

 

アリアは深くため息をついて「あの時断っておけばよかったんだけどね」と付け加えた。

 

「ギルドの他の連中は?」

「反対する人が多かったわ…ただまぁ、言うとかなりカリーナはヤバい感じになるから…」

「誰も何も言えず?」

 

アリアは気まずそうに頷いた。

荒くれ冒険者連中が何も言えないってどんなヤバさなんだ?勘弁してくれ。

 

「その後は?」

「何をするにもイシュメルと一緒だったわよ、最近はカリーナが騎士団長になるって事で忙しくなっていない時も多いけどね」

 

俺は手を叩いて立ち上がった。

 

「何にせよ、ロクでもないことになるな」

 

そう言うと俺は馬車から飛び降りた。アリアが俺の背中に言った。

 

「明日からあなたが嫌いな前科者が来るわ。よろしくね」

 

そうだった。俺はこれから冒険者の子供と前科者の女と関わる必要があるんだった。神様が「善行の宿題」を俺に与えた様だ。

 

 

 

 

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