前科者の女と俺は働く事になった。
何が悲しくてこんな事をしなければならないのか。
カミラにはイシュメルと違い割と大きめの問題があった。決まった時間に起きられないという事だ。
まぁ、冒険者としては問題ないのだろうが、普通に働くとしたら大問題だ。
毎回朝は俺が起こしに行っている。彼女を警察学校に一回ブチ込んでやりたい所だ。
牢屋じゃ決まった時間に起こされるだろ。と聞いたらどうやらそうではなかったらしい。この世界の刑務所は終わっていそうだ。
「こんな早い時間に起きる必要ある?今日は5時だよ?」
イシュメルが薪を割りながら、文句を言った。カミラは何も言わずに眠い目をこすりながらジャガイモを剥いていた。
魔石を使い煮炊きをした方が煙も出なくて良いが、宿屋の主人のリズボンは死ぬほどケチなのでコストの安い薪を使っている。
「30分前に起きてたろ…雇用主の要望で早く起きる日もある。好きな時間に起きて好きな仕事をする訳にもいかんだろ」
俺は寝坊したカミラを見て「君にも言っている」と付け加えた。カミラは「うるせぇよ、母親か?」と吐き捨てて俺を見ようともしなかった。
「それなら冒険者の方が楽しいかな?」
イシュメルがそう言った事を聞くと俺は言った。
「決まった時間に起きて働けない奴を信頼する人間は少ないぞ。座って金を稼ぐ連中なら尚更」
イシュメルが座って金を稼ぐ人間になりたいという事は話を聞く中で薄々分かってきた。
カミラはというと、ジャガイモの皮を剥くという単純な作業でさえ、なぜか戦闘スキルの訓練か何かと勘違いしているようだった。剥き方は雑だ。何度かジャガイモを真っ二つにしていた。
そして今またジャガイモを真っ二つにした。これじゃイモが何個あっても足らんな。ま、不器用なんだろう。俺はカミラの背中に向け言った。
「剥き方を教える」
「じゃ、あんたがやれば?」
カミラは俺を睨みつけるとジャガイモと包丁を机に叩きつけると立ち上がってどこかに行ってしまった。社会不適合者あるあるだ。自分がバカにされたと勘違いしたのだろう。
イシュメルが言った。
「あんな奴ほっとけばいいんだ」
「社会奉仕活動はどうするんだ」
「それは…」
「ま、バカにされたと思ったんだろ」
俺は立ち上がりながら、独り言で空から俺を見ている神様に聞いた。
「冒険者もいつもああなのか?」
「冒険者『も』って?」
「…あぁ、昔犯罪者を取り締まる仕事をしてた。同じ感じだ…」
子供がいるのに大人気ない独り言を言ってしまった。
「人に教えを乞うのを恥だと思ってるって事さ」
俺はそそくさとカミラを追って行った。外に出て通りを見渡すとカミラらしき人影は見えなかった。彼女の部屋に行くと不貞腐れた様に寝ていた。コレで30超えてんだから驚きだよ。
俺はベットで寝ているカミラに話しかけた。
「俺は仕事を片付けたいだけだ。君をバカにしようとかそういう意図はない」
俺は何も言わないカミラに話続けた。
「この仕事は人手が欲しい。君が必要だ。早く戻ってきてくれ」
暫く無言の時間が続き、彼女は「わかった」と呟くと起き上がった。まったく、普通の企業だとクビだろ。
毎日がこんな事の連続だった。ただまぁ、カミラは比較的真面目(出来は試用期間中にクビなるかならないか位だが…)に仕事をやっていた。が、彼女はまともにコミュニケーションを取る気が無いし、イシュメルも会話するのに難儀していた。
「それで、その事を愚痴りに私のところへ?」
俺は移民組合のビスの所でワインを飲みながら愚痴を言っていた。
「えぇ、そうです。そもそも、アリア・スティルウェルが私をこんな事に巻き込まなきゃ良かったんですがね」
「断ればよかったじゃないか?」
「断れば衛兵に変な奴だと思われた。そういう状況じゃなかったんですよ」
「ま、彼女はそういう状況に人を持っていくのは得意だからね」
ビスは「忌々しい才能だね」とにこやかに言った。彼もアリアに煮え湯を飲まされた経験がある様だった。
もっとも、前科者の女と不良の子供なんて見捨てりゃよかったんだが。それに二人を見捨てて地獄に堕ちるなんて割に合わない。
「カミラは問題児だけど、やっぱりイシュメルは大丈夫そうじゃないか?」
「 えぇ、素直で生意気な子供ですよ。世界中どこにでもいる」
「それは良いね。早く彼がここで働く様にアリアに言って貰えないかな?」
俺は牡蠣のアヒージョを口に放り込んだ。
「ただ、彼の姉が手元に置きたがってる様で…貴族の…」
「イシュメルは貴族じゃないんだろ?」
「えぇ、そうらしいです」
ビスは含み笑いを浮かべて言った。
「貴族の家系で一番優秀な人間の悩みを知っているかい?」
「知りませんね。平民なモンで」
「優秀で自分の悩みを打ち明けれる人間がいない事さ」
彼はグラスに入ったワインを一気に飲み干すと言った。
「昔、貴族に友達がいてね。彼が僕を書記官にしようとしてきて大変だった」
「…栄転じゃないんですか?」
「彼は弱みを見せれる人形が欲しかったのさ、僕は誰かのお人形として生きるのは嫌だね」
俺は状況が理解できなかったし、詳細をもっと知りたかったが、ビスはこれ以上語りたそうでは無かった。
「ま、貴族の使い走りで腐らせるには惜しい」
俺はビスに向かって言った。
「この後…アリア・スティルウェルが彼に衛兵見習いの職を」
「彼女はセンスが無いね」
俺は何も言わずにワインに口を付けた。俺は「理由は知らないが、彼の姉が冒険者をやらせたがっている」と言おうとした。