地獄行きすれすれ男の異世界善行記録   作:ただのジョンソン

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第18話:酒に飲まれる

俺は買い出しで雑貨屋でぼったくられそうになった帰り道、宿屋に何かを投げ込もうとしていた子供の右腕を掴んだ。

投げ込もうとしていたものは紙に包まれたネズミの死骸で紙には「前科者は出てけ」と書いてあった。

子供は鼻水を垂らしていかにもマヌケそうと言った印象を受けた。

俺は子供に聞いた。

 

「誰に頼まれた?」

「知らないよ」

「どんな奴だ」

「金髪の…」

 

俺は頭を刈り上げるジェスチャーをした。

 

「コレか?」

「そうそれ、やったらお金貰ってさ」

「親は?」

「貝ムいてるよ、あっこで」

「親に見習って真面目に働け」

 

俺は子供にパンを一個あげて『もうやるなよ、そんな事続けてるとロクな事にならないからな』と追い返した。

 

立ち去る子供の背中を見送りながら、彼が俺の言った意味を理解している事を祈った。

 

その事を昼飯のシチューとパン(嫌になるくらい固い)を食べながらカミラとイシュメルに言った。

 

「それじゃ、アントンが私に嫌がらせを?私はアントンとは何もなかったよ」

 

イシュメルが「殴りに行く?」と言ったので、俺は「やめろ」と言った。

 

「不思議な話だよな。ギルド長のアリアは、『カミラは人に恨まれる人間じゃない』と」

 

カミラが軽く笑った。彼女の純粋な笑顔を見たのは初めてかもしれない。

 

「カミラも笑うんだね」

 

イシュメルがそう言うとカミラはむすっとした顔に戻った。かわいいものだ。

 

「過重決闘罪の相手じゃないのか?」

「あぁ、それは大丈夫。今日飲みに行くし」

「えぇ?」

 

俺が困惑した表情を浮かべているとカミラは首筋を書きながら言った。

 

「あ~、賭けの拳闘で八百長…衛兵をタコ負けさせて。その逆恨みで過重決闘罪に」

 

何処から突っ込んで良いのか分からなかったが、俺はとりあえず頷いた。

 

「飲みに行くなら場所は教えてくれ、一応な」

「ま。『猛牛の酒宴』かな」

「なんだそのヤバそうな名前の酒場は」

「大丈夫だよちゃんと帰るって」

「いや、俺も一緒に行く」

 

その酒場で変なトラブルに巻き込まれない様に見ておきたかった。

 

結論から言うと俺は付いていかなければ良かった。

『猛牛の酒宴』はいかにもヤカラ向けの飲み屋だった。店はきれいだったが、客層が刺青の入った人間だらけだった。

 

俺はミノタウロスが酒を飲んでいる看板を見ながら、口をポカンと開けた。絶対にろくなことにはならないだろう。

 

カミラが慣れたように入って行った。

 

「おぉ、カミラじゃねか。生きてるって噂で聞いてたけど…新しいツレか?」

 

首筋から右頬まで刺青の入った男が話しかけてきた。この店にはどこかしかに刺青が入った人間しかいない。

 

「あぁ、同僚だよ」

「どうも」

「冒険者か?見えないが」

 

俺は「いや」と首を振った。お前は冒険者にしか見えないなと付け加えようとしたが、その前にカミラが言った。

 

「冒険は辞めたんだ、二人で宿屋で働いてる」

 

刺青の男はカミラの義手と義足をちらりと見た。

 

「ま~、そりゃそうか…俺も今は港の倉庫番やってる。来るか?」

「考えとく」

「そ、ま、気が変わったらな」

 

ガラの悪い人間特有の配慮があるかないかよく分からない会話を聞きながら、頼んでもないエールが来たので、それを手に取り乾杯をした。

 

話しかけて来た刺青の男はふらふらとどこかの席に行ってしまった。

 

「さっきの男は?」

「2,3回パーティを組んだだけ、C級で大した事なかったけどね」

 

いちいち人を値踏みする発言をするなと思ったが俺は何も言わず頷いた。

 

「ここは多いのか冒険者?」

「いや、港の人間がほとんど」

「珍しいな、冒険者行きつけの店かと思った」

「昔の知り合いが…その、好きでさ」

 

俺はカミラの含みのありそうな言い方を見て「そうか」と淡々と言った。過去に何かあったんだろうが、重い話は聞きたくなかった。

 

暫く他愛の無い会話をしていると、ガタイの良い禿げ爺が現れた。その男は勢いよく俺の隣に座った。微妙な顔をした俺を気に留めず彼は話し始めた。

 

「牢で死んだと思ってた!カミラ!それでコイツは!?」

「同僚だよ、宿屋の」

「ジョンだ。ガサツなオッサンは好きだよ。よろしくな」

 

男は息が詰まった様な笑い声を上げた。

 

「ウィンディだ!今日の為に3日は飲んでない!飲むぞ!!」

 

地元の終わり散らかしてる飲み会を思い出した。来なければ良かったという思いが強くなった。終わり散らかしてる飲み会は好きだが、よく知らん土地で酒に酔って前後不覚になるのは避けたい。

 

「しかし、A級冒険者が宿屋ってのは本当みたいだな!!」

「うるさいよ」

 

カミラがウィンディの脇腹を小突いた。

暫く、二人の近況を聞きながら、俺は酒を飲み続けた。他愛のない話だった。子供ができたこと、牢獄では看守を張り倒した事、新しく雇った船員がオークであること、牢獄では牢屋主であったこと、税金の申請を忘れて組合長に半殺しにされたこと。

 

全体的にウィンディの人生の方が前に進んでいる感じはした。前にも後ろにも進むのが人生か。俺は適切な相槌を挟みながら酒を飲み続けた。

 

ここの酒は結構上手い。店主に聞いた話だが、ここの港の人間は、味に煩く気を遣っているらしい。

 

そして、俺はカミラの連れにダルがらみをされている。

 

「この女の身元保証人をやっているものだ。いわゆるオイスタ市からの要請で…面倒ごとはごめんだ」

「関係ねぇだろ!拳闘は楽しいぞ!」

「いいじゃん!やってやれって!漁師の爺は一瞬よ!」

 

カミラも俺を煽る。周りの人間も煽り、円を作り始めた。

 

「おい!!掛け金を集めろ!!!」

「やれ!ココの伝統だ!!」

 

掛け金がみるみる集まりだしだ。俺はここで引く様なノリの悪い奴ではない。

 

「一回だけだぞ」

 

カミラの連れの男が剃った頭を撫でながら言った。

 

「また過重決闘罪でぶち込まれるのは御免だ。殴られた回数だけ芋酒を飲むのどうだ?」

 

周囲から「それいい!」「面白れぇ!」と歓声が飛ぶ。酔っぱらいどもは面白ければ何でもいいらしい。

 

俺はボクシングを習っていた時の事を思いだした。こちとら高校生県大会一位のボクサーだ、なめんなよ。

 

ウィンディが「兄ちゃんなんかやってたな」と言うと突っ込んできた。

 

俺は胸を軽く叩き、拳を構えた。フリッカージャブでもやってみようか?いや、顔面を素手で殴りたくないな。

 

「俺は県大会で優勝したボクサーだぞ。なめんなよ」

 

「なんだよそれ」とウィンディが笑ったが、もう勝負は始まっていた。

 

狭い酒場、集まった酔客たちが円を描く中、俺とそいつは向き合った。

 

「いくぞ!」と叫ぶと、そいつが突っ込んできた。

 

一発、軽くかわす。二発目は肩に受けた。三発目、ボディが入った。酒が逆流しそうになる。

 

「くっ……!」

 

俺も一発返した。顎にジャブが入ったが、そいつは笑いながら殴り返してきた。

 

「いいぞ!芋酒3杯確定!」

 

「あと2発で終わりだな!」

 

「おい、誰が酒の数をカウントしてるんだ!」

 

拳を交えながらも俺は叫んだ、酔いのせいでフラフラだ。床の油で滑り転んだ。

 

異世界でもやる事は変わらない。仕事して、酔って、酔って、めちゃくちゃになる。

 

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