地獄行きすれすれ男の異世界善行記録   作:ただのジョンソン

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第19話:酔っ払いと色男

そんなこんなで経緯は覚えていないが、俺はカミラの連れの男、ウィンディと、酒場の外の石畳の道に並んでしゃがみ込んで、芋酒を交互に吐き戻していた。

さっきまで殴り合ってた連中の笑い声が、まだ酒場の中でこだましている。よく覚えていないが沢山の人間をブン殴った様な気がする。

カミラは入口の脇で座り込んで寝ていた。

 

ウィンディは吐き終えると、喉を鳴らして笑った。

 

「またなあ!!」

 

手を振って帰っていった。帰るというよりは、壁に肩を預けながらジグザグに揺れて消えていった。

 

俺は右肩でカミラを支え歩き始めた。

 

もう二度と酒なんか飲まねえ。そう思っていたのに、なぜかワインを口に運ぶ自分がいた。このワインは何処で手に入れた物だったか…

 

カミラは半分寝ているようで、俺の肩にかかる重さはほぼ俺にかかっていた。

世界が揺れているのは、酔いのせいか、それとも人生か。どっちでもよかった。

 

そのときだった。背後から、妙に整った声が聞こえた。

 

「……あの、その方は……」

 

振り返ると、顔の整った線の細い男が立っていた。

繊細な顔に、妙に緊張した目。視線の奥に、複雑な迷いがあった。彼も酒を飲んだ方が良さそうだ。

 

「あんだよ、この女の身元引き受け人だ。あんたいい面してるな」

 

酔っぱらっている俺の戯言を無視して男は俺に杖を差し出した。高そうだった。銀の飾りとルビーが華麗に施されていた。俺はワインで口をゆすいで地面に吐き出した。

 

「これは?高そうだな」

「彼女に返すと…預かっていて…」

「説明してくれ……最近、説明の足りないやつばかりで、俺はもうウンザリしてんだ……わかるか?」

 

男は俺の酒臭い息に顔をしかめて言った。

 

「その杖は……かつて彼女から貰った。今はもう、そのなんというか……」

「直接渡せばいいだろう?めんどくせぇな」

「……それは、できないんです。彼女が僕を見たら、きっと……受け取らない」

「あ~何か分からんけど、ついでに彼女の飲み代を立て替えた分も貰えると助かるよ」

 

俺が爆笑していると、杖に加えて金貨を俺に何枚か差し出した。

 

「マジでいいのかい?あんた顔と同じで似合わずいい男だ」

 

俺はそれを受け取らずにワインを飲み干した。

 

「あんた正気じゃないぞぉ、酒飲んだ人間に借りた杖や金を託すなんてなぁ」

「それで、これを彼女に…」

「あのなぁ、いま酔ってイイ気分だから俺が素面の時に来てくれるかぁ。サマンサ宿な」

 

男はオドオドしながら俺に向かって言った。

 

「私にはそうするしか……」

 

俺は何故か一回地面に座り込んで、立ち上がった。

 

「あのなぁ…お前みたいな美形モヤシ野郎の考えている事だ。俺の経験から当ててやる」

 

俺は男を指差して言った。

 

「元カノからのプレゼントだろ、それ。返したいけど会う勇気がねぇ、ってやつだ」

 

俺は一歩男に近づいて言った。

 

「厄介ごとを持ち込むぅ」

 

俺はさらに近づいた。

 

「意気地なしのぉ」

 

俺はもっと男に近づいた。

 

「玉無しのぉ」

 

俺は男の鼻先を指差し言った。

 

「自分で解決しろ、この馬…」

 

俺が「馬鹿」と言い終わる前に男の遠心力を利かせた平手打ちが顔面に飛んできた。

頬が痛い。夜空が見えて、背中に冷たい石畳の感触があった。

そこから先は、記憶が飛んでいる。

 

俺は『元』依頼人の女を押し出して扉を閉めた。

 

女が「息子をどうか」と叫んでいる声が扉を貫通してきた。扉を壊さんばかりに叩きまくっていた。

 

誰が20超えたアル中かヤク中の男を助けるかよ。いや、俺じゃ助けらんないね。

 

そう思いながら、俺は窓から飛び降りて夜の歓楽街に向かった。

 

後日、風の噂で彼が死んだ事を聞いた。夜の海に飛び込んだらしい。

 

「あのアル中、ワンチャン救えたかもな。おととい死んだってよ」

 

それを聞いた社長が能面の様な表情のまま言った。

 

「……我々の人生をかけて?かなり危うい橋を渡りますよ」

 

俺は新聞から顔を上げて言った。

 

社長の言う通り彼を要望通り『世間に隠した形』で救う絵図は出来ていたが、少々違法な連中の力を借りなければならなかった。

 

「まさか、バカ一人そこまでしたくない」

 

あの依頼者の女は渡した名刺の所に息子を連れて行ったのだろうか?

 

社長から張り込みを頼まれ事務所の扉を開けた。廊下の側溝に赤い何かが落ちていた。拾ってみるとあの依頼者の女の物だ。見覚えがあった。

 

俺は何となく気分が悪くなったので、事務所に戻り、社長に向けてソレを投げ渡した。

 

「あの依頼者の物でしょうね。事務所の外に落ちてましたよ」

「そうか、暫く来なかったら売っちまうか」

 

社長はソレをマジマジと眺めながら言った。ロクでなしで淡々としている男だ。そういう所が好きでもあった。

 

 

目が覚めると、ロビーの硬い床の上で、カミラと俺は雑魚寝状態だった。

外はまだ暗かった。

顔に何か冷たい布が貼られている。ぬるい水の臭いがする。

 

「おい、ジョン。起きろ。死んでないよな?」

 

誰かが俺の頬をペチペチ叩いていた。声の主はイシュメルだった。

 

「……生きてる」

「すげぇ酒くさい。しかも杖は何?」

 

イシュメルが俺のベルトを指差した。高級そうな杖が括り付けてあった。

 

「それは……その、顔のいい男から……たぶん貰った。そこは自信がある」

「酔っぱらって…人から杖?」

「いや、もらったっていうか……託されたというか……ぶん殴られた記憶もあるし、たぶん何かあったんだな」

 

イシュメルは呆れたように言った。

 

「ミイラ取りがミイラになるって奴?」

「こっちでもその諺があるんだな」

「……?で、カミラは?」

「生きてるよ」

 

俺は頭を抱えながら、立ち上がった。

杖の銀飾りが宿屋の灯りに反射して、妙にまぶしかった。

 

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