地獄行きすれすれ男の異世界善行記録   作:ただのジョンソン

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第24話:天使が言うならゴロツキと戦ってもいい

馬車の外から見える人々はほろ酔いになっていた。夕方だがもう人が酒を飲む時間になっている様だった。

 

夕日を浴びると焦りが強くなる。こんな事なら初日に帰ってきてない段階で探しに行くべきだった。いや、30過ぎの女が失恋で戻って来ないという事は想定できないだろう…

 

思い出の場所は10個ほどあったが俺はその中から居そうな場所からアテを付けることにした。

 

一つ目は「オイスタ市港湾の堤防」、純粋だとアリアは言っていた。人は傷心した時は海に行きたくなるだろう。

 

オイスタ市港湾は夕日に照らされてきれいだった。確かにカップルはデートに行きそうだ。実際の所カップルが何組か歩いていた。

 

周りの人間に聞いたがカミラらしい人間は見ていない様だった。

一番最悪なのは真夜中に堤防で酒を飲んで、海へ入水自殺だ。

その考えを振り払い次の場所、『カウン酒場』へ向かった。ミラーと初めて二人で食事をした場所と書いていたからだ。

 

酒場は薄暗い裏通りにあったが、2階にテラス席もあり、観葉植物やパラソルで装飾されており、それなりにオシャレだった。

 

俺が扉を開けるとすべての人間が動きを止めた。比喩ではなく凍った様に動きを止めた。俺が死んだときと同じだ。死んだのか?

 

「厄介事に首を突っ込んでいるみたいね」

 

後ろを振り返ると天使のセラフィーがいた。

 

「お陰様でな。で、俺はもう死んだのか?」

「いや、ちょっと頼み事をしようと思ってね」

「頼み事は間に合ってる」

 

セラフィーはそれを聞くと何も言わずに話始めた。

 

「あそこに若い男と女の子がいるでしょう…?男の子の方が転生者なのよ、あなたみたいなカスの救済対象者とは違うわよ…」

 

一言余計だと思ったが、まじまじと『前世で善行を積んだ』転生者を見た。身なりの良い善良そうな子供だ。

 

「詳しいことは省くけど彼は街で薬を売ってる人間を捕まえようと思っていてね」

 

俺は「詳しいことがだいたい重要なんだが…」とボヤいたが無視された。

 

「あのカウンタバーの店員が売人、後ろでご飯を食べている6人組が元締め…聞いた瞬間に2人は蜂の巣になっちゃうわ、バーテンダーごとね」

 

「神のご加護でなんとかなるんじゃ?」

「愚かな人間から蜂の巣にされる事からは守れないわ」

「なんでそんな事を…」

「力もあるし、正義感もあるのよ貴方と違って」

「助けてあげて、天使は直接助けることは出来ないの」

 

セラフィーが指を鳴らした瞬間に世界が動き出した。

 

俺は店に入った瞬間にイシュメルに耳打ちをした。

 

「あの…6人組、恐らくロクデナシだから見張っておいてくれ」

「え?知り合い?」

「ロクデナシには詳しいんだよ」

 

俺は大声でカウンターにいる店員に言った。店員はおどおどした態度で言った。

 

「ワインを!一番安い物で!!」

「あぁ、すぐ持ってくるよ…」

 

俺は転生者の隣に行き、カミラの似顔絵を見せた。

 

「突然申し訳ありません。この方を知りませんか?私の同僚でして…」

 

転生者と女は首を振った。

 

俺はワインを持って来た店員にも写真を見せた。

 

「昨日来たよ…」

 

店員がそう言った瞬間に女が口を挟んだ。

 

「その人にも薬を売ったんですか?」

 

俺は女に向かって言った。

 

「そういう話は衛兵とした方がイイんじゃないか?この店は裏通りだし治安も悪そうだ…つまり、黙って店から出た方が良いって事だ」

 

女は冷たい眼差しを俺に向けた。転生者が店員の目を見て、小瓶を指さし言った。

 

「瓶からあなたの魔力残滓が出ています」

 

横目で6人組を見ると何か動き出していた。

 

「バカタレが…」

 

俺はイシュメルがカウンターに飛び込むのを確認すると、俺は2人を掴みながらカウンターに飛び込んだ。何かが自分を掠めた様な気がした。

 

俺は店員のベルトを掴み座らせると言った。

 

「ツキがあるな!!生きたいか?出口は!!」

「な、ない!」

 

割れた酒瓶から酒が降ってくる。

 

イシュメルが叫んだ。

 

「どうする!!」

「知らねぇ!!とにかく殺さない方向で!!」

 

隣を見ると少女がカウンターに何らかの魔法をかけていた。カウンターが淡く光っている。少女が俺に向けて叫んだ。

 

「あなたは!?」

「神のお告げだよ!!何とかしてくれ!!」

「1分くらい時間を稼いで!!」

 

転生者がそう言うと何かの呪文を唱え始めた。

 

「ジョン!!どうすんだよ!!」

「なんか武器あるだろう!!出せ!!」

 

酒場の亭主はテーブルから二連式のショットガンを出して俺に渡した。

 

「お前も戦え!!」

 

店員にそう叫んだが、首を振った。

 

舌打ちをしてカウンターから頭を出してショットガンを撃った。

 

初めて散弾銃を撃ったがアドレナリンの影響か大した反動は感じなかった。

 

6人はその場から動かず、魔法を撃ったり銃を撃ったりしていた

 

その中のひとりの右腕に弾が当たった様だった。

 

上を見るとシャンデリアが2つあった。俺はそれを指さしてイシュメルに合図をした。

 

イシュメルは投げナイフでシャンデリアの金具を切断し、俺はショットガンでシャンデリアの金具を撃った。

 

シャンデリアが落ちる音と共に攻撃が止んだので、俺は銃を撃ちまくり、イシュメルはナイフを投げ続けた。再びカウンターの下に隠れ俺はイシュメルに叫んだ。

 

「当たってないじゃないか!!」

「ジョンよりは当たってる!!」

 

痛みが右腕に走った。右腕から血が出ていた。

 

「畜生!!当たってる!!」

 

そう言った瞬間に辺りが真っ白に光り始めた。

 

光が止まり、カウンターから顔を上げると男たちが口から泡を吹いて倒れていた。転生者の男が何かをしたようだった。

 

「もっと早く出来なかったのか?」

「無差別で人を巻き込めないから、範囲内の人の魔力分析して、出力機関をショートさせる必要があったから…」

 

俺は何も分からなかったから「そうか」と頷いた。

 

「助かりました。ありがとうございます」

「大丈夫だ、一緒に蜂の巣になりたくなかっただけ」

 

俺はジャケットを脱ぎ傷跡を見た。掠っただけではあるが、かなり肉が抉れていてグロかった。女がそれを見て言った。

 

「治療しましょうか?」

「え?出来るのか」

 

何かの言語を唱えると女の手が光り出し、傷口にかざすと、時間が巻き戻るように傷が塞がり始めた。かなり神秘的な光景でこれを見れた事に関して、神に感謝するしかなかった。

 

イシュメルが小声で「お〜」と感心した声を出した。

 

頭が猛烈に痛み出し、口から「ギッ!」と間抜けな声が出た。地面が顔面に近づいてきた。腕は痙攣して動かなかった。

---

目の前にフレンチトーストとレモンのたっぷり入った紅茶があり、俺の対面には元依頼者の女がいた。この女はテラス席で気ままにティータイムをしている俺を偶然見つけたのだろう。

 

「 私の息子は… 」

「 知ってますよ…渡した名刺の所には行きましたか?」

 

俺はこの女がアルコール依存症を克服するためのセミナーや禁酒外来に息子を連れて行ってないことを承知で言った。女の口はピクピクと動いていた。

 

「皆があなたなら私の息子を救えたと…」

 

事実その通りだ。この女のバカ息子が『反省』するまでに寺の蔵にブチ込んで、自分の人生がいかに恵まれているか滾々と説いてやれば何とかなっただろう。しかし、俺はその為に刑務所に入りそうな犯罪を5個以上犯す必要がありそうだった。

 

世間体を気にして公の治療に取り組めない家族に俺の人生をかけたくなかった。俺はそこまでのお人よしじゃない。

 

「私を責める前にあなたは自分がするべきことをやりましたか?」

 

女の顔が無表情になった。紅茶が中に舞い、女が俺に飛び掛ってきた。ケーキ用の小さなフォークが俺の胸に刺さった。

---

「あぁ、クソ!!!」

 

俺はそう叫び飛び起きた。背中に地面の冷たさご残っていた。周りの人間が俺を見る。鼻に鈍い痛みを感じた。鼻から血が出ていた。

 

転生者の連れの女は地面に座っている俺に近づいてきて言った。

 

「その…貴方と回復魔法の相性は良くなかったみたいで…」

 

俺は女を見上げながら言った。

 

「良いんだ。こういう理不尽な事は慣れてる」

 

イシュメルは俺に近づいてきて言った。

 

「ひどい目にあったね」

「あぁ、そうだな…どのくらい寝てた?」

「10分くらい?」

 

俺は立ちあがり回復魔法をかけてくれた女に「あなたの善意に感謝します。私は大丈夫ですから」と言って踵を返した。

 

するといつの間にか来ていた衛兵がいそいそと俺に近づいてきた。

 

「領主の娘になんて口の利き方をするんだ!?」

「は、そうなのか?」

「テオドラ女公…領主の子供だよ…」

 

イシュメルが割と大きめの驚嘆の声を出した。

 

「え!……領主の子供が何してんの?」

「さぁ…たまにこういう世直しをしてるのさ」

「ちょっと『不敬な』口の利き方をしたから、早いトコここから消えたいな」

 

衛兵は何も言わずに頷いた。

 

茫然自失の店員が転生者に連れられて店から出て来た。衛兵が敬礼をした。この転生者もまたかなり身分の高い人間の様だ。

 

店員はカミラがやってきて「一杯飲んだ後、酒と気付け薬を買った」と俺に告げた。命を助けてやった礼だろうか。イシュメルが薬の色を聞くと「まずいかも」と言った。

 

「何がマズいんだ」

「カミラが買った気付け薬と酒は良くないんだ。ダメな人間セットというか」

「駄目になるだけか?」

「飲みすぎると泡拭いて死ぬんだ」

 

俺は口をつぐんで何も言えなかった。後ろから声が聞こえた。振り返ると転生者がいた。

 

「ありがとうございました。人探しの件ですが、お力になれるかも知れません」

 

転生者は俺とイシュメルの手を掴むと目をつぶった。目を開けると「北の方角にいると思います」と言った。

 

すげぇな、何の魔法だよ。イシュメルもかなり驚いた顔をしている。

 

北にいると分かっただけでもかなり行き先は絞れる。撃たれた甲斐あって、早くカミラは見つかりそうだ。

 

女が明るい顔で俺達の方に近づいてきた。

 

「ありがとうございました。何かお礼でも」

 

転生者も女も、高貴な人間がお忍びで来ているからか名乗らなかった。

 

俺は首を振り言った。

 

「ありがとうございます。予定がありますので、お気持ちだけで…」

 

そそくさと女に踵を返した。

 

少し歩きイシュメルが小声で俺に言った。

 

「何かもらえただろ?」

「あの手の人間は関わるとロクな事にならない。トラブルメーカーって奴」

「にしてもあの魔法は『奇跡』だね」

「奇跡?」

「魔術理論から逸脱した魔法の事。たまに使える人がいるんだ」

 

へぇ、善行を積むとそういう風な『贈り物』があるのか?死んだら天使に聞いて見よう。

 

トボトボと馬車に戻ってきた俺に御者がハゲた頭を撫でながら言った。

 

「アンタはトラブルに巻き込まれる才能があるよ、2時間もしないうちにそのザマだ」

 

俺は何も言わずに頷いた。概ねそのとおりだった。

 

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