地獄行きすれすれ男の異世界善行記録   作:ただのジョンソン

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第25話:女の為に転げまわる。

ゴタゴタしているうちに馬車から見える空はもう暗くなっていた。イシュメルが光る石が入ったランタンを取り出し、光量を調整しながら言った。

 

「次は廃教会に行くの?」

 

そこはミラーから貰ったリストの候補で、一番遠くて北の方角にある場所だった。遠い場所から探して、戻りながら近場を探す方針を取ったのと、センチな人間が一人になれそうな場所にうってつけだと考えそこから探すことにした。

 

「一人きりになれそうだからな」

「そこに居なかったら?」

「戻りながら候補をあたって何処にもいなかったら…ヤケを起こして犯罪を起こしてるかも。そっから先は俺一人でやる。アリアの所に戻ってくれ」

「俺も行く、俺も出来る」

「アリアが嫌がる。お前の問題じゃない」

 

イシュメルは納得しない顔をした。

 

「お前に何かあれば、俺がこの街に住みづらくなる」

「自分のため?なんだよそれ」

「弱い奴は色々と気を使わないといけない。特に俺みたいな移民は」

 

俺はイシュメルを見れずに、ただ正面をまっすぐに見て言った。

 

「お前は誰かに愛されていて、気を使われてるって事だ…思いを汲んでくれ」

 

イシュメルは何も言わなかった。

 

街を抜けて、小さな山を馬車が登り出す。

月明かりに照らされて教会の様な建物が山の頂上に見えた。

 

馬車が教会についた。教会は半壊しており、月明かりが教会を照らしていて幻想的な雰囲気だった。 

 

なるほど、カップルが二人きりになるにはいい場所だ。

 

うっすらと酒の匂いがした。たぶんビンゴだろう。

 

カミラは街は教会の外で街を見下ろせる場所に座り込んでいた。足元には2,3本空いた酒瓶が転がっていた。

 

俺はカミラの隣に座った。経験上そうするのが良い事は分かっていた。

 

「良い場所だな」

 

酒と汗の匂いがして、目は虚ろだった。ノンストップで飲み続けたか、変な薬物をやっているかのどちらかだ。

 

「さ、帰ろう」

 

カミラは虚ろな顔をしたまま言う。

 

「ほっといてよ…」

「君の…気持ちは…」

 

俺は気持ちは分かると言おうとした。俺にはセンチになって死ぬ寸前まで、酒を飲む人間の事は分からない。

 

「君のことを心配している人がいる。知っているだろう」

 

ここで目覚めるより、きれいな病院とかのベッドで目覚めた方が良いだろう。

 

「アリアが君に会いたいと」

 

俺はゆっくりと酒瓶をカミラの手から取り上げ、水を飲ませた。カミラは暴れることも無く、大人しくしていた。

 

俺は彼女の隣に座ったまま、小さな葉巻に火をつけた。1時間ほど暇を潰したのだろうか、葉巻が3本も無くなった。

 

彼女が眠った事を確認すると、俺はイシュメルを呼んだ。

 

2人で馬車まで彼女を運び、カミラを見つめた。イシュメルは言った。

 

「見つかって良かったね…思ったより…ヤケクソじゃないみたい」

 

俺はヤケクソだったら今頃死んでいた。と付け加えようとしたが、やめた。

 

「カミラはなんて?」

「ほっといてくれと、アリアに言われた以上放っておかないが」

 

俺はカミラのポケットと荷物の中身を探った。どす黒い液体の入った瓶が2本見つかった。

 

俺は馬車の窓を開けてその薬瓶を投げ捨てた。夜風が気持ち良い。馬車がギシギシと音を立てていた。御者が窓が開いたのに気が付いたのか、「見つかって良かったねぇ」と叫んだ。

 

ギルドの前に着くと馬車の音で気がついたのか、アリアは寝間着姿のままギルドの入口に現れた。

 

ひどい状態のカミラを見てアリアが言った。

 

「お酒を抜かないと、リズボンには頼めないし…あそこには設備も無い」

「ギルドでいいだろう」

「ギルドは嫌よ」

 

この女は相変わらず変なこだわりがある。アリアはため息をついた。

 

「こんな事は続けられませんよ」

「分かってるわよ…分かってる」

「死んでないって事は大丈夫だよ、悪いこともしてない。多分」

 

俺はゆっくり眠っているカミラを見た。眠ってはいたが、口から泡を吹いていた。

 

……マズイな。

 

イシュメルが馬車に飛び乗って、彼女の呼吸を確認した。息はしているようで俺も続いて飛び乗った。

 

「薬は捨てた!何だ!何のせいだ…」

 

俺は彼女の荷物とポケットの中を探った。

 

小さな袋に入った光る錠剤のような何かが右手に握られていた。イシュメルそれを指差し叫んだ。

 

「多分それ!」

 

カミラが少し痙攣して口から泡を吐き始める。

 

アリアがギルドから薬をいくつか持ってきて、カミラにそれを飲ますと痙攣が落ち着いた。

 

「ビス・ヴィドー…」

 

俺はアリアに「彼がどうしたんだ」と聞いた。

 

「この街の教会と仲が良いわ…彼は私のこと好きじゃないけど、行くしか無いわ」

 

ビスと協会が何の役に立つのかは理解できなかった。

アリアが気まずそうに言った。

 

「断られたら…頼むわよ。知り合いだって聞いたわ…」

「もう少し人に好かれる努力をした方が良いんじゃないのか?」

 

暗い街中を馬車で疾走した。ビスの家は食堂の真向かいにあった。扉を叩くとビスが眠そうな目をこすりながら出てきた。

 

「なんだい?こんな夜更けに」

 

ビスは開いた馬車の窓から見えたカミラを見るとため息をついて、頷いた。

 

「説明しなくても分かるよ、救護院だろう。アル中を押し込む事のできる」

 

俺はビスに言った。

 

「例の冒険者だよ。飲んだ時話してたたろう?」

 

アリアが気不味そうに俺に続けた。

 

「婚約者と色々あって…」

 

俺はアリアの話を妨害するような形で話した。

 

「誰にだって、道を踏み外す時期が有るだろう?」

 

ビスは長い沈黙の後言った。

 

「一度だけ、一度だけだよ…」

 

ビスは行先を御者に伝え、馬車に乗ると不機嫌そうに腕を組んだ。

 

馬車が教会の前に着き、ビスが馬車じゃら飛び降りると教会のドアを勢いよく叩いた。

 

「クラレンスさん!!!」

 

ビスが3階ほどドアを叩くと修道女が出て来た。

 

「ビス!なんですかこんな時間に!非常識ですよ!!」

「あぁ、シスター言わんとしてる事は分かるよ、でも急ぎで頼れるのはあなたしかいなくて」

 

ビスは修道女の右頬に軽くキスをした。修道女は顔を少し赤くし、ため息をついてカミラを見て言った。

 

「彼女ですか?どうしたんですか?」

「失恋と婚約破棄の痛みでね」

「分かりました…こちらへ」

 

カミラを診療所のような場所に連れて行った。修道女はぶっきらぼうに「聖堂で待っていてください」と告げた。俺は今すぐ帰りたかったが、しぶしぶ聖堂へと向かった。

 

聖堂に入ると五大元素の精霊がそれを統べる神をたたえるステンドグラスが月明かりで輝いていた。魔法か何かで月光が増幅されているのだろうか。

 

何にせよ、帰るわけにはいかないため、聖堂の中で待った。

 

ビスは寄付皿の中に結構な額の金を入れた。寝ようとしたイシュメルがその音で軽く目を開けた。

 

ビスは椅子の埃を払い腰を下ろし、こちらをゆっくり見て言った。

 

「私の知り合いが脅迫に悩んでると相談に来た」

 

アリアが小さく唸ったあと、ビスに向かって言った。

 

「ヴィドーさん…貴方には頼み事をしましたが…」

 

ビスは気にせず話を続けた。

 

「その人は前科のある冒険者を街から追い出して欲しいと誰かに依頼した。標的は旦那の元婚約者…請負人から依頼した事を旦那にバラすと脅されている。噂のミラーの事だろう?」

 

ミラーのセラーナがあのモヒカン冒険者のアントンにカミラを街から追い出す様に依頼した。上手く行かなかった事に加えて、アントンはセラーナを悪事をバラすと脅迫している。

 

あまりにしょうもない内容すぎて拍子抜けだ。そりゃ、あんなに激しい女ならそれ位はするだろう。するか?

 

「いいじゃないか。旦那に謝れば」

 

俺は当たり前のことを淡々と言ったが、ビスは首を振った。

 

「分かるだろう、彼女は良く世話になっている人だ」

「いくら払えと?」

 

ビスは表情を変えずに言った。

 

「300万レーニ」

「法外だ。ソイツは素人だ。その内容でそんな金額はフッかっけない」

 

そんな暇な人間が一年中飲んだくれて生活できるような額を一気に強請るやつがいるか。俺が思ったままのことを言うとビスはため息をついて重々しく言った。

 

「そいつと話を付けてほしい」

 

アリアは「次から次へと」と小声で言った。その意見については賛成だ。

 

「多分アントンね。私の方で話をするけど…彼は脅迫をするタイプじゃないわ」

 

マヌケな強請屋と旦那に謝れない女。登場人物が増えたな。

 

「その内容なら普通に旦那に謝る事だな」

「その通りだ。でも、誰にでも秘密にしておきたい事はあるだろう?」

 

アリアとビスは俺を見た。俺は何も言わずに頷いた。どうせ解決するのは俺だ。

 

次から次へと…乗りかけた船だ最後まで付き合ってやるさ。なに馬鹿同士のトラブル、すぐに片付く。

 

 

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