地獄行きすれすれ男の異世界善行記録   作:ただのジョンソン

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第26話:実家に顔を出せ。

カミラが起きるとアリアは彼女をそっと抱きしめた。俺は二人の時間を邪魔する気にはならなかった。が、一言嫌味をいう事にした。

 

「まだ捨てたもんじゃないだろ。君の為に大勢が転げまわってめちゃくちゃになった」

 

「……悪かった…みんなに迷惑かけた」

 

しおらしいカミラを見て、俺は「それじゃあ」と言って部屋から出ていった。

 

ビスは部屋の中でシスターと話していた。彼女はビスに恋をしている様だった。俺はビスに軽く会釈をして、教会の外に出た。

 

いい天気だった。イシュメルが教会の花壇の草を眺めていた。

 

「珍しいのか?その草は?」

 

「え、ま、そうだね。結構するよ」

 

イシュメルはそういうと何かの草から顔を上げた。中指位の葉巻を手にとったが、流石に教会の中ではマズイかと思い、ポケットの中に押し込んだ。

 

「カミラは大丈夫かなぁ」

 

「大丈夫だろう、勘だが」

 

「にしても、大変だったね」

 

「昔を思い出すよ、撃たれた事は無いが」

 

「昔?」

 

「思ったより人間はトラブルを抱えてるんだよ」

 

イシュメルはつまらなそうに「ふーん」と呟いた。

 

「あの杖は?」

 

「そうだなぁ…ま、いったん帰ろう」

 

そうだった。あの杖だ。アレを片付けないとこのゴタゴタは終わらない様な気もした。

 

『死ぬ前』だったら、とっとと売って自分のポケットに入れているだろう。それが悪い事なのかどうかは、裁きも下って無いし分からない。

 

俺とシュメルは宿に戻り、カミラを待った。水の入ったグラスを眺めながらイシュメルに言った。

 

「あの杖は…皆で売りに行くか」

 

イシュメルは「ふーん」と頷き言った。

 

「ソレってどうなの?良いコトなの?」

 

 

「分からん。が、金にはなるだろ?金は多いに越したことは無い」

 

俺は厨房にいるリスボンに言った。

 

「リズボン。カミラに金銭的な貸しはあるか?」

 

「無いよ!!あんたらが遊んでる間に仕事が溜まって…」

 

「人間イロイロあるんだよ」

 

俺は大きめの声で返事をして、リズボンの愚痴を聞かなかったことにした。

 

「お金?」

 

「念の為だ、借金の有無くらいは確認しときたい」

 

俺はイシュメルとジャガイモを剥きながらカミラを待った。ジャガイモを二人で50個ほど剥いたころだろうか、彼女は気まずそうな顔で宿屋に戻って来た。

 

「悪かった…迷惑かけて」

 

彼女は恥を感じてると言った顔で言った。アリアになんと言われたのだろうか

 

「いいさ、そういう時もある」

 

「コレきりにして欲しいけどね」

 

イシュメルがそう言うと俺は軽く頷いた。気まずい空間だった。これ以上カミラの気まずそうな顔は見ていられなかったので、俺は言った。

 

「君は素直で真面目な人間だと思う」

 

「…なんだよ急に」

 

「だから俺達は転げまわったんだ。そうだろ?イシュメル?」

 

「確かに…そうかも」

 

俺は「さて」とわざとらしく言った。話の切り出し方が分からなかった。

 

「皆で杖を売りに行くか?」

 

「皆で?」

 

「こういうコトは、大体は仲違いで終わる。皆で同じコトを見届けて大団円、滅多に無い事だ」

 

リズボンが俺ら向かって「仕事が残ってるよ!」 と言った。

 

「前は一人でやってたんでしょ?残す必要ないじゃん」

 

イシュメルがそう言うとリズボンはジャガイモの箱を黙って指差した。この後は三人で仲良くジャガイモを剥いた。

 

---

 

2日経過したあと、買い出しついでの昼休み、3人で質屋へ向かった。アリアが紹介すると名乗り出た店だ。先に質屋で待っているそうだ。彼女も顛末が気になるのだろう。

 

質屋の前には彼女の馬車が止まっていた。質屋の中に入ると優雅に茶を飲んでいた。店主がうんざりした顔で頬杖をついてアリアの後ろの壁を見ていた。

 

「遅かったじゃない」

 

「仕事があってね。貧乏暇無しだ」

 

金持ち向けというほどではないがそれなりに豪華な装飾が店には施されていた。

 

店主がカミラを眺める値踏みをする様に下から上まで素早く眺めた。

 

「ここは普通の質屋だ。冒険者向けのトコに行って欲しいモンだが…アリアさんの紹介だからな…詳細は聞いてるよ」

 

カミラは何も言わずに杖を渡した。店員はそれを手に取り、その杖をざっと見た。刻印を見つけると淡々と言った。

 

「あ~、刻印を消す費用を含めて…250万レーニだな」

 

「そうしてくれ」

 

「明日オイスタ都市銀行に来てくれ。大金は持ち歩きたくない」

 

「そこに口座は持ってる」

 

店主は意外そうな顔をして言った。

 

「……冒険者にしては珍しいな」

 

店主は光るペンを出して何かの書類を書きながらカミラに言った。

 

「それで?引退した後は何を?」

 

「さぁ…決めてない…」

 

「そう、意外だ」

 

カミラは不快そうな顔をした。アリアが彼女の肩に手をかけた。カミラは一瞬唇かんだ後、普通の顔に戻った。

 

「どういう意味だ」

 

「銀行口座持ってる冒険者が将来設計を考えて無いのは意外だな…と、普通は何か商売をするか。『計画的』に借金を返すかのどちらかだ」

 

店主は小切手をカミラに差し出すと「失くすなよ」と言った。皆で無事に終わったことを見届け、4人で馬車に乗った。4人も乗ると窮屈だった。

 

俺は馬車に乗ってしばらくするとカミラに言った。

 

「どうすんだ?この後?」

 

「……さぁ」 

 

「大体の人間はトラブルが起きた後、実家に戻ったよ」

 

カミラは下を向いた。いつも思うが彼女は心の機微が外に出やすい人間だ。

 

「今更…ね」

 

「大丈夫よ」

 

アリアがカミラの右手を握ったのを見て俺は言った。

 

「帰るならイイ感じの服を買っていけば良いんじゃないか?」

 

「何でよ?」

 

「心配するだろ。家族が、金を貰いに行くなら話は別だが」

 

カミラは一瞬だけ眉にシワを作り、黙った。俺は話を続けた。

 

「社会的地位のありそうな人間が引退後の面倒を見てくれてんだ。悪くはない一般的には」

 

俺は一緒に行ってやれよ。とアリアに目で言った。イシュメルが空気を読んだのか、窓の外を眺めながら言った。

 

「 俺も上手くいったら高い鎧と従者を連れて、執事長のキーンさんの所に行きたいかな」

 

そこは親の名前を出して欲しいな。もう生育環境がワケありとしかとしか思えない。

 

アリアは重い感じの空気を気にしていないようで、カミラに言った。

 

「最後に…みんなで家族に顔を出しましょう?」

 

カミラは「そうかも」と小声で言ってアリアの右手を握り返した。

 

何で皆なんだよ。俺はもう終わりで良いだろ。とも思った。

---

全ての事情を説明すると、リズボンはカミラと村の行く日に気を利かして俺に休みをくれた。有給では無いが。

 

カミラの住んでたマシュ村は辺鄙な所で、馬車で早朝に出て夕方に着く位遠かった。ま、俺のように酒と寝床さえあれば満足する人間しかいないだろう。

 

馬車から降りた。村の人間がちらちらとこちらを見ていた。

 

カミラは村にある小さな役場の方に向かった。この領地では村に訪れる旅行者は村役場へ挨拶と手続きする事が決まりらしい(代表者だけで良いようだ)。その背中を見ながら俺は言った。

 

「故郷に錦を飾るって知ってるか?俺の国の諺でさ」

 

「いや?」

 

「都会の肩書が良い人間が一緒に来たら、何となく安心するだろ?鼻高々って奴かね。」

 

「そう…いい言葉ね。」

 

アリアはそれとなく頷いた。カミラは役場からはすぐ出てきた。すぐに自分の実家の方向を指差した。

 

カミラが呼び鈴を鳴らすと男が出てきた。35歳くらいだろうか?男はぶっきらぼうに言った。

 

「何しに来た?」

 

「………悪かった」

 

すげぇ険悪な雰囲気だった。声に出して感想を言っても良いくらいだった。

 

「冒険者を辞めるからね。ここに戻るかは分からないけど、ケリって奴だよ」

 

空気を読んだのか、イシュメルは割と大きめの声で言った。

 

アリアは男に手を差し出しながら言った。

 

「冒険者ギルド『飛龍の爪』、ギルド長のアリア・スティルウェルです。今日はご挨拶にお伺いしました。概ねは彼が言った通りですが…」

 

「サムです。サム・ミストリア」

 

男はアリアと握手をすると俺とイシュメルを見て言った。

 

「後ろの方は?」

 

「彼女の同僚です。気にしなくて良いわ」

 

俺は愛想を浮かべ言った。

 

「カミラさんとは一緒に宿屋で芋を剥いてます」

 

男は「ハァ…」 と困惑の表情を浮かべた。

 

「それじゃ、俺らは何処かで遊んでるよ…」

 

アリアは「そうね」と頷いた。

 

「行かないの?」

 

「ん~。歓迎されてたら行ってたんだが、想像以上に険悪な感じだった。一番偉い人間だけの方が良い」

 

「そっか…」

 

「それに…家族の話だ。余所者はお断りだ」

 

「 アリアは?部外者?」

 

「さぁ?家族みたいなモンなんじゃないか?血も繋がってない人間にあそこまでするんだ…」

 

「ジョンは?」

 

「俺か?俺は部外者だ」

 

俺は村の酒場に入っていった。店主がテーブルではなく、カウンターに座るように促した。俺と話したいらしい。

 

「あぁ、どうも。お勧めは?」

 

「ないよ。エールな。そっちはリンゴジュースしかないな」

 

店主ほ「一応名産品だぞ?」とイシュメルに付け加えた。

 

エールとリンゴジュースが俺達の前で置かれた。

 

「それで…何でカミラとこの村に来た」

 

「故郷に錦を飾りに」

 

「…?」

 

「引退したんだ。その結果報告に、俺らはヒマだから着いてきた」

 

イシュメルは手のひらの上のコインを魔力で回転させる手遊びを始めていた。

 

「あぁ、そういう事、家に仕送りしてるから、もう戻って来ないかと」

 

「もうこの村にロクな仕事なんてないのさ」

 

「自虐的だな」

 

「彼女が好むような仕事はない…この村の水が合わないんだろうな」

 

「よくある話だ」

 

俺は頷いた。外から子供の声が聞こえた。店主はイシュメルに言った。

 

「そこの連中と遊んできたらどうだ?あいつらも暇だろうしな」

 

イシュメルは「そうする」といって、椅子から降りた。こいつは結構社交的な人間だ。

 

2杯目のエールに口をつけた。随分と遠くまで来た。こんな事やって何になるんだか。報酬と言えばアリアからの謝礼だ。スズメの涙ほどだ。

 

極端言ってしまえば、俺の手元には何も残ってなかった。報酬なし。少し、いや、かなり嫌な気分だった。昔の俺はこんな仕事しなかった。

 

エールを一気に飲み干した。

 

 

 

 

 

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