地獄行きすれすれ男の異世界善行記録   作:ただのジョンソン

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第30話:家族は見捨てられない

衛兵隊長の執務室を追い出され、俺はアリアとミルナー、その部下2人と大通りで立ち尽くしていた。

 

夕暮れ前の大通りは相変わらず賑やかで、馬車の車輪の音と商人の叫び声が混じっている。俺たちだけが沈んだ空気をまとっていた。

 

俺はこの空気を変えたくて言った。

 

「イシュメルが消えてから何日だ?」

 

ミルナーはどんよりした顔をしたまま答えた。

 

「昨日だ」

 

「なら良かった」

 

言ったそばからミルナーがぶるりと肩を震わせた。

 

「……どういう意味だ?」

 

「日が浅いほど足取りは分かりやすい。人間はどこに転がっていくか分からんからな」

 

ミルナーは緊張を紛らわせるためか、一転して語り始めた。

そうでもしないと気持ちが持たないのだろう。気持ちはよく分かる。

 

「『騎士様』はイシュメルを気絶させて……どこかに行った。乗って来た馬はまだ街にいた。だからそんな遠くには行ってないはずなんだ」

 

ミルナーはカリーナを嫌見たらしく『騎士様』と呼んだが顔には恐怖の色が浮かんでいた。どんな暴れ方をしたのだか。

 

アリアが腕組みをしながら呟く。

 

「どうしてすぐに街を出なかったのかしら」

 

アリアはため息をつきながら続けて言った。

 

「痕跡探しに犬を使えないの?」

 

アリアの問いにミルナーが頷いた。

 

「そうするか。ま、見つかるとは思えないが」

 

ミルナーがそう言うと犬を連れて来た。動物とはかわいいもので、犬が来たら場の雰囲気が和やかになった気がした。

 

犬を追って行くとあっさりと町はずれの宿屋についた。犬を連れて大人数で宿屋に入ると、宿の主人が目を丸くした。事情を説明するとカリーナがいる部屋を案内してくれた。

 

「いいな開けるぞ?」

 

俺は皆に目配せをして扉を蹴り開けた。喜ばしい事に開けた瞬間、ブチ殺されるという事は無かった。

 

部屋を確認すると、イシュメルはベッドに寝かされていて、その上に布団が丁寧に掛けられていた。

 

カリーナは居なかった。

 

アリアはベッドに近づき、イシュメルの額に触れた。

 

「睡眠薬を飲んでるのかしら?ちょっと痣はあるけど、無理矢理連れて行った割に綺麗な物ね」

 

「手加減で仲間の衛兵を伸ばしたのか?」

 

「優先度が違うのよ。イシュメルの身は傷つけない。でも、他はどうでもいい」

 

嫌な感じだった。カリーナの行動はあまりに無計画で、無鉄砲だった。正常な判断力を失っている。現に犬一匹ですぐに見つけられた。

 

「正常な判断力を失っている。あまりに稚拙で、狂ってるとしか思えない」

 

アリアは頷いた。ミルナーが寝ているイシュメルを担いだ。ミルナーは「まぁ、見つかって良かったじゃないか」と言った後首を傾げた。

 

「アホだと思うが…そんな言うか?」

 

「『犯罪』をした後だったら、街の外に逃げるだろ?家にも帰らず、何で宿屋に泊まってるんだ?」

 

部屋の荷物は少ない。おそらく日帰りで帰るつもりだったのだろう。泊まりの為に、買い物でもしに行ったのか?無計画な狂人過ぎる。今すぐ帰りたい。

 

「家には帰りたくないのよ」

 

アリアは気まずそうな顔をしていた。

 

「あの子は…」

 

俺はアリアを止めた。同情を誘い俺を巻き込もうとするのは辞めて欲しかったからだ。

 

「聞きたくないな」

 

「誰にでも事情はあるでしょう?」

 

「衛兵宿舎を襲撃する理由はそんなに無いと思うが?」

 

アリアはムッとした顔をしたが、無視して俺は咳払いをした。

 

「生贄作戦だな」

 

俺がそう言うとアリアとミルナーは首を傾げた。

 

「この中の誰かがイシュメルを『街の連中に見せつける様に』連れ帰って、騎士団長様にぶん殴られる。一網打尽よりはマシだろ?」

 

本来なら地元のヤカラ共から追われてる時に、『依頼品』を誰が持つか決める為にこの呼び方をしていた。

 

これじゃ本物の『生贄』作戦だ。

 

ミルナーは淡々と言った。

 

「それじゃ、クジだな」 

 

ミルナーは即席でクジを3本作り、『当たり』のクジを俺とアリアに見せた。

 

ミルナーは背中にクジを隠しシャッフルした。

 

クジが目の前に差し出される。俺が一番先にクジを持った。

 

3人同時にくじを引く。

 

星が巡るように俺は『当たり』を引いた。神様は俺を苦しめるのが好きらしい。

 

俺はイシュメルを背負いながら街を歩いていた。当然だ。ここで抗議をするほど俺は女々しい奴じゃない。

 

「…ごめん」

 

イシュメルのか細い声が聞こえた。

 

「謝る事じゃないさ、俺が『当たり』を引いただけたがらな」

 

「ねーちゃんを……どうすれば……」

 

俺は静かに言った。

 

「分からないな。こういうのは正解は無い」

 

こういう時は、もう刑務所にブチ込む様に動き回った。それをイシュメルは望むだろうか?

 

「まぁ、一つだけ聞こう。昔似たような仕事をした事がある。その時は犯人を牢屋に入れるように動いた」

 

背中越しでイシュメルが返事をした様な気がした。

 

「君はそれを望むか?」

 

長い沈黙があった。酔っぱらいの笑い声が聞こえた。俺も酒を飲みたくなってきた。

 

「…嫌かな」

 

俺は溜息をついた。家族とは面倒な物だ。俺だったら刑務所にブチ込んでいる。

 

「分かった。最善を尽くそう」

 

ふと、兄の事を思い出した。雪の振る日、深酒をした後、道端で眠り死んだ。

 

イシュメルが小さく「ありがとう」と言った。

 

俺は窓を開け、街の喧騒に耳を傾けた。

騎士団長が暴れている街の空気ではなかった。

平和そのものだ。

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