地獄行きすれすれ男の異世界善行記録   作:ただのジョンソン

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第32話:神を信じるか?

俺は嫌な事を思い出しながら、目を開けた。

 

「何やってんだい!アンタ!これは先代から使ってる机!バカなのかい!いい加減に…」

 

うっすらとリズボンが怒鳴り散らかす声が聞こえて来た。まず、机より叩きつけられた俺のことを心配してほしかった。

 

カリーナがリズボンに向けて魔法を唱えるととリズボンの動きが止まった。なるほど、キレてる奴は魔法を使って黙らせる事が出来るのか。

 

「手加減はしました。イシュメルがここに居る事も、あなたがあの子に変な事を教えている事も知っています」

 

俺は2つに割れた机の上で、仰向けになっていた。

 

俺はカリーナに勝てない。カリーナは正気ではない。彼女は俺らがイシュメルを誑かしたと思っている。

 

クソみたいな状況を整理しながら俺は立ち上がった。悲しい事に人間は立てる限りは起き上がって戦わなければならなかった。

 

騒音に気が付いたのか、イシュメルが深刻そうな表情を浮かべやって来た。今は来てほしくなかったが、死ぬかも知れなかったから助かった。

 

「何やってんだよ!ねーちゃん!」

 

カリーナは安心した表情を浮かべるとイシュメルの右手首を掴み言った。

 

「行きましょうイシュメル?」

 

「貴方は、変な大人に騙されてるだけよ。これからアリアさんに事情を話すからね」

 

意味のわからない発言にイシュメルは手を振りほどこうとしたが、それは叶わなかった。

 

もうこれはどうにもならない。頼れる味方アリア・スティルウェル。無敵のギルド長を呼ぶしかない。無敵であってくれ。

 

「まだ、ギルド長のアリアとは話して無いのか?」

 

「何かあなたに関係ありますか?」

 

彼女の拳を握りしめる音がした。俺はそんなもんには臆さない。なにせ一度死んでいる。

 

「2ヶ月ちょいだが、同僚だった。俺も彼の力になりたい」

 

こういったときは騒ぎまくって関係者を増やすのが良い。

 

「アリアさんをここに呼んで話をつけるのはどうだ?」

 

テメーも巻き込んでやるよ、アリア・スティルウェル。覚悟しとけ。

 

「呼んでくれるなら助かります。私もあの人に聞きたいことがあります」

 

魔法が解けるとリズボンが話し出した。頭が冷えたのか口調がクールダウンしていた。

 

「ジョン、早いとこ呼びに行ってくれ。アタシはお高く止まった貴族のバカ女をぶん殴らないと気がすまないからね」

 

これ以上事態をややこしくするのは良くないのでリズボンに行ってもらう方が良いだろう。

 

「待て待て待て、あんたが呼びに行ってくれ。アリアとこの件について話しながらな。な、そうしてくれ?」

 

リズボンのこめかみには青筋が立っていた。

 

「アタシがあのバカ女に勝てないって?」

 

勝てないだろどう考えても。

 

「そうじゃなくてだな、殴るのはまた後で出来るから、取り敢えずここは落ち着いて事を進めよう」

 

俺はぶつくさ言うリズボンを見送ると、カリーナとイシュメルを改めて見た。背伸びをしすると背中がパキパキと鳴った。

 

カリーナは弟のイシュメルの右手首を掴んだまま離さなかった。

 

イシュメルは「離してよ」と小さな声で言ったが、その声をカリーナは無視していた。

 

---

 

アリアが来るまでの間、イシュメルのトイレにまでついて行くのだから、相当キテる事が伺えた。

 

「イシュメルを連れてどうするつもりだ?」

 

「騎士団に入れて、もう一年冒険者として修行をするわ」

 

悪手過ぎた、悪手中の悪手だった。妾の子供が騎士団に入ってどうするつもりなのだろうか。

 

「事実確認だが、あんたは強くて俺は弱い。あんたは何時でも俺を殺せる」

 

「どうしたんですか?急に」

 

殺されない事を祈りながら俺は話を続けた。

 

「その事を踏まえた上で言うが…イシュメルが騎士団に入ったらメチャクチャ苦労するし、良い方向に進むとは思えない」

 

「そうだよ、俺は屋敷のメイドと当主様の子供だし…」

 

迷いなくカリーナは言った。

 

「関係ないわ、私がそんなことさせない」

 

気ぃ狂ってんか?この女。誰か助けてくれ。

 

話の通じなさに腹が立ったのか、イシュメルは語気を荒立ってて言った。

 

「もう良いって、大丈夫だから…ねーちゃんと俺は身分違うんだから俺に構わないでよ。無理だよ俺に騎士なんて」

 

イシュメルは悲しそうな顔をした。

 

「どうしてそんな事言うの?」

 

「俺は俺で何とかするからっ!」

 

カリーナは悲しみと怒りが混ざった様な顔をして叫んだ。

 

「黙って言う事を聞きなさい!」

 

イシュメルも感情がメチャクチャになった顔でカリーナを手を振り解こうとしたが、それは叶わなかった。

 

「俺はもう子供じゃない!うるさい!」

 

何処に行くのか分からないが、カリーナはイシュメルの腕を引っ張ってどこかに行こうとした。

 

「いいから!」

 

俺は手をカリーナの手を掴んだ。この場に自分がいる意味を考えると、こうする事が正解だと思えたからだ。

 

「神を信じるか?」

 

唐突な俺の発言にカリーナはぽかんとした。

 

「…何ですか?急に?」

 

この世には神がいる事は確実で、この場に俺がいる理由はこの場にいる人間に妥当な選択をさせる為だと、直感で俺は感じた。

 

「今のこの状況、神は君を試してるんだ」

 

俺は深呼吸をして、ゆっくりと話し始めた。

 

「君の弟、イシュメルは器量もあって、物分かり良く素直で、ガッツもある。世の中で成功するのに重要な才能が彼にはあると思う」

 

俺はゆっくりと語り掛ける様に言った。

 

「騎士団で彼に妾の子と後ろ指差させながら暮らさせるのか?君の自己満足の為に?」

 

カリーナが俺の言葉が癪に障ったのか、俺の首をつかみ壁に押し付けた。この女のどこにそんな怪力があるのか分からなかった。

 

「自己満足?」

 

首を絞める力がどんどん強くなってきた。

 

自己満足、なんてもんじゃない。お前は自分が救われる為にイシュメルを破滅させようとしてるんじゃ無いか?と言おうと思ったが俺も命が惜しかった。

 

「想像してみてくれ、君の弟は…首絞めるなバカ!」

 

気が飛びそうになったので、右の拳を思い切りカリーナに叩きつけた。

 

カリーナは俺の首から手を離すと、食堂にあるグラスやジョッキを置いてる棚に向かって俺を押し出した。

 

食器棚に激突しグラスが俺に降り注いだ。ガラスの割れる音がした。

 

片付けが面倒だ。グラスやジョッキは今朝洗ったばかりだった。

 

ガラスで手を深く切った。頭に血が上ってくるのを感じた。

 

 

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