「バカしか居ないのか!チクショウ!痛ぇ!どいつもこいつも!」
もうどうにでもなれといった感じで、俺は社会不適合すぎる行為について責め立てた。もうそうする事でしか気持ちが収まらなかった。
「弟連れて帰りてぇんならもっとやり方あったろ!何でこんなやり方しか出来ねぇんだよ!」
「机も壊して宿屋の主人怒らして!何がしたいんだお前は!」
「お前みたいな揉め事起こす奴が人を幸せにできるわけねぇだろ!」
「もっと殴りゃいいさ。お前みたいな奴は殴る位しか問題解決の方法を知らねぇんだろ?」
あらゆる思いをぶちまけると俺はスッキリした。スッキリしたのは良いがカリーナがブチ切れていた。
カリーナがこちらに歩き出した瞬間に、今にも泣きだしそうなイシュメルがカリーナに抱き着いて止めた。
カリーナの目は真っ赤になっていた。
「落ち着いて!落ち着いて!座ろうよ。座ろ?ね?ね?」
願いが通じたのかカリーナは机の上に腰を掛けた。イシュメルはカリーナが動かないように腕をしっかり押さえていた。
俺もクールダウンしたのか、気持ちを落ち着かせた。そして、再びゆっくりと話し出した。
「取り敢えず想像してみてくれよ、頼むから…。イシュメルの仕事が上手く行って、そのうち…結婚相手を見つけるんだ。この街で家を買って…クソ痛ぇ……家を買って嫁と暮らす」
イシュメルとカリーナを見た。話は聞いているようだったが、2人とも泣いており、伝わってるのかどうか読み取る事は出来なかった。
「月に一度かの手紙で来年子供が出来るって書かれた手紙がアンタのトコに送られてくる」
「それでアンタはイシュメルの家で生まれた子供を見に行く」
俺は手ぶりを使いながら「落ち着いて想像してくれ」と再び言った。
「騎士団にいたらそんな事は出来ない…一人前の大人になるように見守ってやれ」
後ろから声がした。ギルド長のアリアだった。
「私もそう思うわ」
アリアがそっとカリーナを抱きしめた。
緊張の糸がほどけた様にカリーナはアリアの胸元で泣き出した。
人を抱きしめるという行為は一定の効果があるようだった。
俺がやっても効果は無かっただろう。
俺はすすり泣くカリーナとそれを慰める何人かを見ていた。昔の仲間だろうか?そこにはリズボンもいた。
アリアはイシュメルと別室で話していた。
アリアがどういう手品を使ってリズボンの怒りを収めたのか分からない。リズボンは机を壊されて怒っていた筈だった。まぁ、彼女は悲壮感たっぷりですすり泣く女に弱いだけなのかも知れない。
カリーナの中で色々と限界だったのだろう。
かと言って人間に向けて刃物を突き立てたり、机や棚に向かって叩きつけるのは、いかがなもかと思うが。
それについてギャーギャー言うほど、俺は繊細でも無いし、プライドも無かった。それに彼女たちから謝罪の言葉を貰っていた。
机や棚に叩きつけられた傷はアリアが連れて来た魔術師に治療魔法をかけて貰った。痛みは残っていたが、傷口は塞がっている。そして頭が痛い。
すすり泣くカリーナを見ながらふと思った。
こんなにも上手く生きられない奴がいたのかと。
自分の要求を通す為に自分にどんな手札が揃っているかもよく理解しておらず、にっちもさっちも行かなくなって暴力を振るってしまう。そして、感情の制御も出来ない。
俺が彼女だったら色々と上手くやれただろうか?
アリアが恭しい顔でこちらに向かって歩いてきた。
「色んな奴がいるもんだな」
俺はアリアに言った。正確には誰かにこの現状について文句を言いたかった。冒険者にさんざんにシバかれた後、食堂の隅っこに一人で座り込んでいる現状に。ついでにビールを飲んでいる。
昔からそうだった。いつもいつも誰も俺の事を心配なんてしない。死にかけるピンチ以外には。
「それってどういう意味かしら」
アリアは恭しい顔で座り込んでビールを飲む俺を見下ろしていた。俺は彼女を見上げて言った。
「前の国じゃ、周りにはもっと上手く生きている奴しかいなかった」
アリアは笑いもせず、ため息をついた。
「まだ20歳よ?」
「もう20歳だろ?」
淡々とビールを飲みながらアリアに吐き捨てた。俺が20歳の時はもっと分別があったからだ。
「罪って何だと思う?」
いつか天使に言われた様なセリフだった。
「犯罪を犯さない事だろ」
アリアは俺の隣に座り込むと言った。
「違うわ…そうね…持って生まれた能力や才能を他人の為に使わない事よ」
「誰の言葉だ?」
「昔いた冒険者が言ってた。色々世話になった人でね」
ますます断罪されているような気分になった。ちなみに俺には才能と呼べるような値打ちのあるものは俺には無かった。現に、ギルドの魔法使いと剣士に才能が無いと言われているからお墨付きだ。
「俺には才能は無い」
アリアは大げさな身振りで呆れたような口調で言った。
「大抵の人はマシな選択を選べないのよ。クソの中のクソを選んで破滅する。あなたは別、クソの中でもマシな選択肢を選べる事が才能」
そんなもんは才能とは呼びたく無かった。大抵の人間は身に着けている物だからだ。
「それを才能と呼ぶか?」
アリアは何も言わずに笑った。
「なんだよそりゃ」
俺がそうぼやいて残ったビールを一気飲みした。イシュメルが宿の部屋の方から出て来た。カリーナの方に向かおうとしたが、躊躇してこちらの方に来た。
アリアはイシュメルに隣へ座る様に頷いた。イシュメルが座るとアリアは言った。
「さて、湿っぽい空気だけど。やることがあるわ」
これ以上何が?
「カリーナの尻ぬぐい」
俺は首を傾げ呆れる様に笑った。イシュメルを見た。イシュメルとした約束を思い出した。