地獄行きすれすれ男の異世界善行記録   作:ただのジョンソン

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第34話:泣き落とし

俺は高い焼き肉を食べながら兄の話を聞いていた。この焼肉は兄の奢りだ。最年少で課長になったから奢ってくれるらしい。

 

相変わらず深酒をする男だ。昔は酒を飲む両親と俺をバカにしていたのだが。

 

アル中になるほど自制心が弱い訳では無いが、酒関係でトラブルに巻き込まれるのは確実だろう。

 

「金が溜まったら、辞めた方がいいんじゃないか?少し楽な仕事をするとか。結婚もする気ないんだろ?」

 

兄はワインを飲みながら、俺を睨みつけた。

 

「嫉妬か?」

 

「明らかに仕事がストレスになっている」

 

兄は吐き捨てる様に言った。

 

「お前みたいな警察も出来ない根性無しと一緒にするな」

 

一緒に酒を飲んでくれる人間は俺しか居ないんだろうな。俺は思った。このプライドの高さと性格のキツさじゃ職場の友達は少ないだろう。

 

俺は兄の言葉を無視した。概ねその通りだったからだ。

 

「ちょうどいいって事が無いよな、俺は根性無しだが、お前はプライドが高くて神経質過ぎる」

 

兄は何も言わずに手元にあるワイングラスを見つめた。

 

「俺は普通だ」

 

兄が小さな声で呟いた。

 

「どこがだ?昇進祝いに来たのは俺だけだろ?」

 

兄は机を叩いた。

 

「黙れ、帰れよ」

 

俺はお前が呼んだんだろと思ったが、何も言わなかった。どうして俺の両親からこんな気難しく神経質でプライドの高い男が生まれたんだ?

 

「分かった帰るよ。この辺のキャバクラはサービスの割に高いから行かない方がいいぞ」

 

俺としても神経質な男と話すより、きわどい衣装を着た女を見ながら酒を飲む方がマシだった。

 

俺は高いワインをテーブルからひったくると俺は店を後にした。

 

一瞬だけ、兄が悲しそうな顔をしたような気がした。

 

---

俺は目を開けた。そこは宿屋の自室だった。治療魔法のおかげで、体調が悪くなり椅子に座って仮眠を取っていた。

 

アリアとイシュメル、ミルナーが俺の部屋いた。俺が寝てる間、今後の対応を相談してくれていた。空間のマヌケ濃度はかなり高いだろう。

 

「凄い歯ぎしりだったわよ?」

「あぁ、説教臭いババアが夢に出て来てな…結構寝てたか?」

 

アリアが眉をひそめたが俺は気にせず言った。

 

「…10分くらいよ」

「それで、どこまで決まった?」

 

アリアは淡々と告げた。

 

「丸く収めるって事まで、私はヤリ手の冒険者5人雇う位のお金は出す」

 

俺が1年遊んで暮らせるくらいの金だろう。どういう意図があってこんな事をするのやら。

 

「権力者で金持ちがいると嬉しいね」

 

ミルナーが首を振りながら言った。

 

「これは金じゃどうにもならないだろ?」

 

俺は頷いた。その通りだった。町中で衛兵がたった一人の女に負けた事は噂になってたし、他にカリーナがどんなことをしたのかも調査出来て無かった。

 

「だろうな、町中で噂になってるだろうし」

 

イシュメルは気まずそうに俺に言った。

 

「俺は『丸く収めたい』んだ、誰も罰を受けない様な…都合のいい話だけど」

 

「かなり大変だと思うぞ…かなりの人数に頭を下げなきゃならんと思うが」

 

イシュメルは頷いた。

 

純粋だなと思った。俺にそんな時はあっただろうか?俺は家族に対してすら、人肌脱ごうと思った事は無かった。

 

ミルナーが恐る恐る口を開いた。

 

「衛兵隊長はどうするんだ…?彼が訴えるか決めるし…」

 

俺は机をたたき割った衛兵隊長を思い出した。こいつに謝罪した瞬間に首の骨が折れる様な気もした。考える時間が欲しかったので、俺は話題を変えることにした。

 

「実際のトコ、何であんな事をしたんだ」

 

アリアは言った。

 

「彼女はあの年で騎士団長よ?」

 

「すごいじゃないか?それが何の関係だ」

 

「世襲よ、カリーナの領家は血縁でしか騎士団長になれない。一族の中で誰もやりたがらなかったから…彼女が」

 

ミルナーは皮肉たっぷりに言った。

 

「高貴な人間の政治の話は聞きたくないな」

 

アリアは俺を見つめた。

 

「20の小娘の言う事を、脂ぎったオッサンの騎士たちが聞くと思う?」

 

良くある話だ。男気のあるキャリアウーマンが年下の若手女を応援したくなるという事だろう。

 

「同情か?」

 

アリアは悪びれもせず頷いた。

 

「そう、私も苦労した」

「気を許せるのはイシュメルしかいなかった」

 

ふと、寂しそうな顔をした兄の事を思い出した。センチな気分を振り払い俺は言った。

 

「こうなることは予想出来たんじゃないのか?」

 

アリアはムッとした顔で語気を強めた。

 

「出来ないわよ!」

 

「それであんなことをしたと?好き放題人を殴って?」

 

ふと、イシュメルを見ると下を向いて今にも泣きそうな顔をしていた。俺はそれ以上何も言わなかった。

 

「彼女は私の様に強くは無いのよ」

 

「大した自信だ」

 

もう一言皮肉を言ってやろうと思ったが、代わりに俺はベットの下から酒瓶を取り飲んだ。

 

「でも…カリーナが謝って何とかなるとも思えないわ」

 

経験則だが、あれだけキレ散らかす人間は泣き落としに弱い。アリアは俺から酒瓶を取りあげ飲んだ。

 

「衛兵隊長はどんな奴だ?」

 

ミルナーは若干誇らしげに言った。

 

「ヤリ手だ。若くしてこの街の衛兵隊長だ」

 

「そうか、カリーナと自分の境遇を重ねて同情したりするか?」

 

ミルナーは微妙そうに頷き、言った。

 

「取り敢えず、誠実に話すしかないな」

 

「何を話して、何を話さないか、決めましょう?」

 

「カリーナについて詳しく聞かせてくれ」

 

イシュメルは複雑そうな顔でカリーナの事を話した。端的に言えば、無関心な両親がいて、繊細な娘が血縁から来る仕事とそのプレッシャーに耐え切れずぶち壊れていくという悲劇的な話だった。

 

何処にでもありそうな悲劇だ。

 

イシュメルは妾の子である自分に優しくし、様々な訓練を施してくれた事に恩を感じていた様だった。

 

まぁ、自分が救われるためにカリーナはイシュメルを鍛えたのだろう。

 

気分が悪くなる話だった。人の不幸をバカにするほど落ちぶれてもいなかった。

 

「俺が話そう」

 

「どうして?」

 

「あんたはギルド長として汚れ過ぎてるし、ミルナーは身内だ。当たりが厳しくなる。つまり、謎の男である俺が一番中立に見える」

 

アリアは目を瞬かせ、ゆっくり頷いた。

 

「不思議だけど…こういう時の適任はあなたなんでしょうね」

 

不思議か、そうじゃなくて俺がそうする様に星が巡っているんだろう。俺は頷いた。

 

「さて、衛兵隊長に俺が殺されない事を祈ってくれ」

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