非常に疲れた。俺はアリアとカリーナのバカ3人組で謝罪をして回った。一生分くらいは頭を下げたのかも知れない。
案の定、馬は金を押しつけて無理やり乗ったものであった。農家は優しい人で全額返金すると申し入れたので、代わりに『ギルド長が一回タダで依頼を受けます券』を提案した。
とりあえず、謝罪と貴族の威光によって公的に糾弾される様なことは無いだろうが、かなり厳しい目で見られることは必至だろう。
気の所為かも知れないが、カリーナが顔が引き締まった様な気がした。この世には頭を下げる度に強くなる人間と、気が狂っていく人間がいる。彼女は前者なのかも知れない。
俺は休憩に入ったレストランで炭酸水を飲みながら言った。酒を飲む気分にはなれなかった。
「あぁ、カリーナの冒険者仲間を騎士団に入れる事にしたよ。二人でよく話したんだ…彼らと話す必要はあるけどな」
アリアは目を丸くして言った。
「はぁ?」
「何か変な事言ったか?」
俺はわざとらしく首を傾げてカリーナを見た。カリーナは気まずそうに下を見た。
「A級冒険者が3人抜けるのよ???」
「そうだなぁ…労働者が辞めることを禁止する法律ってここにあったか?あぁ、心配はいらない、その内の誰かに金を貸してるとかなら、カリーナが立て替えて払うよ」
俺は「なんせ貴族は金持ちだし」とさらにまくし立てた。
アリアは口をパクパクさせた後、ゆっくりと言った。
「私が困るの、優秀な、冒険者に辞められると」
俺は頷いた。炭酸水に口を付けた。良い気分だ。
「あぁ、そうだな。あんたは困る。だから先に行っておこうと思ってさ」
カリーナは小さな声で「すみません」と言った。
アリアは「いいのよ」と優しく言うと俺にレストランの外に出る様に促した。
外に出ると下を向いて言った。
「私への嫌がらせ?」
俺は首を振った。
「助けたいんだろ?彼女を?」
アリアは喉に何かを詰まらせたように「でもね」と言った。
「彼女の為を思うなら尻ぬぐいなんてするべきじゃなかった。やりかけた事は最後までやらないとな」
アリアは長く息を吐いた後、頷いた。「覚えてろよ」と言った気がした。
アリアは席に戻るとカリーナに言った。
「ま、大丈夫よ。仲間への説得の方は自分の言葉で言うのよ…彼の言葉じゃなくてね」
俺はさらに付け加えた。
「そうだ。カリーナの父上に一筆書いてほしいな。修行で預かるくらいには交流はあるんでしょう?」
アリアはにっこり笑った。
「ん~、『所属している冒険者がさらなる活躍の場を求めている』とか良い感じの事を書いてくれると助かるな」
俺はもうかなり気分が良いので、嫌味も付け加えた。
「なにぶん、この件とイシュメル、カミラの件で、3か月分くらいの金しか貰ってないんだ。このくらいはしてくれてもいいでしょう?」
爽快な気分だった。俺は笑みを浮かべる。アリアもまた社交的な笑みを浮かべていた。
---
俺はカリーナと組んでいた3人の冒険者身辺調査書を見ていた。書かれている剣やら魔法やら、祈祷やらの凄さや、達成した依頼の凄さは俺には想像できなかった。
概ね大事そうな情報を俺は紙に書き出した。
・リゼット・ファルケー
女、25歳
職業:魔術師
前科:なし
借金:なし
業務上過失:なし
備考:テオドラ公領魔術学院卒業
・ダン・ブラウン
男、29歳
職業:戦士
前科:なし
借金:なし
業務上過失:あり
・ミリアム・ロウレ
男、32歳
職業:祈祷師
前科:なし
借金:なし
業務上過失:なし
備考:オイスタ市教会在中。そこでの勤務実績はなし。
「綺麗な経歴だな」
俺がしみじみ言うと、アリアはジトッとした目でこちらを見た。
「ダン・ブラウンの業務上過失は?」
「カッとなって他のパーティーの人間を殴った…よくある事よ?過失として処理した」
「カッとなって人を殴る奴は一人で十分かな」
俺がそう言うとアリアは無視した。まぁ、人助けをしたら自分とこの優秀な冒険者が消えると思ってなかったから不機嫌なんだろう。
「まぁ、いいや、本人に話を聞く」
「何様のつもりで行くつもり?」
「善意の第三者。カリーナの家に提出する書類を作成してるとでも言うさ」
アリア一瞬考えて言った。
「待って、あなたが聞いちゃカリーナの為にならないでしょ」
「彼女が上手くやれると?」
アリアは頷いた後、言った。
「あなたが教えれば…大丈夫よ。汚い大人のやり方をね」
俺もまた頷いた。謎の沈黙があった。心地悪い沈黙では無かった。
「で、何でまた…ただ働きをしようと思ったの?」
俺は下唇を噛んで、少し考えた。美少女が涙を流したからだろうか?それとも見どころのある子どもが大変な目にあっているからだろうか。
思い出すのは兄の事だ。
「向いてない事するのは大変だよな…彼女の事を考えるなら、騒ぎを大きくして家から追い出されて…冒険者でもさせりゃ良かったんだ」
「清廉潔白で融通が利かないから、冒険者にも向いてないわ」
酷い言い方だと思ったが、アリアが言うなら事実そうなんだろう。
「それで…?元仲間が彼女を支えてくれると思ったワケね。どこかの騎士道物語みたいに…」
「さぁ?5年くらいは支えてくれるんじゃないか?」
「5年だけ?」
アリアは不満ありげに眉をつりあげた。かわいい冒険者をだして5年という短い歳月を出した事に腹をたてているのだろう。
「向いてない仕事を5年も続けるのは難しいでしょう?」
「その後は?」
「イシュメルがなんとかするんじゃないか?5年もすればかなりの男伊達になるさ」
アリアは小さな声で「そうね」と呟いた。
俺は兄を助ける事をしなかったが、イシュメルは絶対に助けるだろう。