地獄行きすれすれ男の異世界善行記録   作:ただのジョンソン

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第38話:帰る前に

兄がいつもより深酒をしていた。両親に心配だから見てきて欲しいと頼まれたのだ。

 

こういう事が月に1回か2回程あった。アル中ではないが、こういう事は勘弁して欲しかった。

 

どうやら子会社に出向という事になったらしい。役職も1段階あがり、地元にも戻って来れた。それが栄転の類なんじゃないかと思ったが、そうじゃない様だ。

 

「そんな荒れなくてもいいだろ?」

 

兄は何時もの様に吐き捨てる様に言った。

 

「お前に何がわかんだよ…何のために俺が努力してきたと?」

 

俺は首を傾げた。そのセリフも深夜の路上で酒でグデングデンになってなければ様になっただろう。

 

「さぁ、生きる為だろ?」

 

兄は「お前とは…」と言いかけて辞めた。

 

「何も残ってないんだぞ?全部おしまいだ」

 

何でコイツはいつもいつも極端なんだと思った。俺は少し雪が積もり始めた地面を見た。

 

「まだ生きてるだろ?」

 

「死んだも同じだ」

 

「生きてるだろ」

 

兄は電柱を殴りつけた。

 

「お前にはワカんねぇよ!!」

 

俺は溜息をついた。俺は兄の事なんて理解できないし、正直する気も無かった。

 

「じゃあもう死ぬしか無いだろ。10回は同じ話を聞いてる。もううんざりだ」

 

一生、兄の愚痴を聞かされるような気がして、腹も立ってきた。

 

「そうやって固執しまくるの辞めた方が良いと思うぞ?」

 

俺は兄を置いて早足で歩き去った。

 

翌日、兄は雪の中で眠り死んでいた。

---

俺は身体を揺さぶられ、目を開けた。

イシュメルが覗き込んでいて、ここが衛兵詰所だと気づく。

 

別に犯罪を犯したわけではない。

カリーナとイシュメルに夕食へ誘われており、その帰りを詰所で待っていただけだ。

 

「すげぇ歯ぎしりしてたけど?」

 

「あぁ、昔からの癖でな」

 

この世界に来てからの方が酷い、眠るたびに過去を掘り起こされるからだ。

 

詰所を出るとすぐに、イシュメルが言った。本人に聞けばよいだろうとも思うが、センシティブだから聞きたく無いのだろう。

 

「それで、ねーちゃんは?」

 

俺は3人の説得が出来て、父親の説得も出来たと若干誇らしげに言ってきたカリーナの事を思い出した。こういう風に成功体験を重ねて、人の成長していくのかも知れない。

 

「三人とも騎士団に入ると」 

 

父親の事は言わなかった。イシュメルはその父親とメイドの間に出来た子供だったからだ。

 

「へぇ、意外だね。そういう風に見えない人たちだったから」

 

「そうなのか?」

 

「あんまり人付き合いもしなかったし、お金より自由を求める感じだったからね」

 

こいつ、人を見る目があるなぁ、と感心したが口には出さなかった。調子に乗るからだ。

 

「ま、説得するために色々調べたし、アリアも立ち会ったらしいからな」

 

「ジョンが調べたの?」

 

「一緒にな」

 

イシュメルは気まずそうに言った。

 

「自分が言うのもなんだけど……殺されかけた人と調べ物って……」

 

俺は肩をすくめた。

 

「君の姉上は隠れて人を調べるのは嫌いだ」

 

調査の中で、何度かカリーナとは喧嘩をした。「人を揺さぶるような発言は良くない」、「人の感情を操ろうとするのは感心できない」や、「でっち上げの書類を作成するな」や「賄賂を渡すな」とか様々だ。

 

その全てを「君も組織の長としてやらなきゃならんかも知れんだろ」 でシャットアウトした。

 

「あぁ、言いそうだね」

 

イシュメルは頷いた後言った。

 

「なんで仲間を騎士団に入れようと思ったの?」

 

「昔の仲間なら、彼女を支えてやれるさ」 

 

俺は心の中でずっとは支えられないと思うが、と付け加えた。

 

「本当に?」

 

そんな表情を見たのかイシュメルは聞いた。

 

「さぁ……五年は上手くいくだろ」 

 

俺は隠す必要も無いと思ったので正直に言

 

「その後は?」

 

「……君が助けてやれ」

 

沈黙が続いた。

俺の口がそれを言うのか、と自分でも思った。

 

「俺は兄を見捨てて殺した」

 

イシュメルがこちらを見たが、俺は歩きながら続けた。

 

「向いてない仕事に固執して、勝手に荒れて、それを止めるのも面倒でな」

 

俺は「面倒な性格をしてる奴でな」と付け加えた。

 

「出世も潰れて、また荒れた。もう兄の愚痴に付き合うのがうんざりでな」

 

この後を言うべきかどうか迷った。俺は息を吐いた後言った。

 

「雪の夜だった。深酒した兄を置いて帰って…次の日には凍死してた」

 

イシュメルが「そう…なんだ」と小さな声で言った。唐突にヘビーな話が来るとは思ってなかったのだろう。

 

「助けてやるべきだった…が、もっと早い段階で手遅れになってたのかも知れない」

 

少し息をつきたくなって、言葉を区切った。

 

「昔から、兄に理解を示すということを一切しなかったからな…」

 

俺は兄の繊細さに理解を示す事もしなかったし、それを馬鹿だとも思っていた。

 

「たぶん君の姉は…上手くはやれない。色々とな…」

 

イシュメルは怒らなかった。変わりに悲しそうな顔をした。

 

「…そうかな?」

 

「上手く世渡りが出来ない人間もいる。どんな魔法や剣術やらを持っていても、これが出来ないと人生は辛い」

 

俺は「君は世渡りが上手そうだ」と付け加えた。

 

「五年。その間に考えればいい。姉を救う方法をな」

 

イシュメルは何も言わなかった。ただ、黙って歩き続けていた。

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