歩行補助用の杖を使いながら、俺は街外れにある家に向かっていた。歳を取った上に足を怪我すると歩くのも一苦労だった。
俺は目的地の二軒並んだ小さな平屋の前に着くと、良く手入れされた庭をまじまじと見てしまった。家主が綺麗好きなのだろう。
庭では子供が2人遊んでいた。家主の子供はもう成人してたハズだが。
「思ったよりも早かったですね」
その声に振り返るとイシュメルがそこにいた。生意気にも俺よりかなり背が高い。歳を感じさせない若々しさだった。前見た時より目尻に皺が出来ていた。
「あぁ、中年の男性には楽しみが少なくて楽しみでもう来てしまった」
俺は嫌見たらしく言うとイシュメルは笑った。
「好き好んでトラブルに頭を突っ込んで退屈はしないでしょ」
その通りだった。この足も3人と不倫をしていた港湾労働者にへし折られた。ソイツには色々なケジメをつけさせた。
俺は庭で遊んでいる子供を見て言った。
「あの子供は?」
イシュメルは楽しそうに言った。
「あぁ、カリーナが面倒見てる近所の子供ですよ」
「そうか、カリーナは今でも教会に?」
イシュメルが歩き出し、俺は後に着いていった。
「えぇ、読み書きを教えてます。子供の仕事の面倒まで見始めました。休む暇も無いみたいで」
「まぁ、騎士団いるよりか幸せそうだ」
平屋からマリーが出て来た。イシュメルの嫁さんだ。前見た時より白髪が多くなっていた。
「あなたが教会に口利きを出来て良かった。お陰で居場所も出来た」
「あぁ、騎士団にブチ込んだ祈祷師が俺にも責任があると詰め寄って来たからな。二人で転げ回ったよ…あれは最悪だった。冬の海に放り込まれたからな」
確かあの祈祷師は今は教会で司教をやってるんだったか。
イシュメルに家の前の机と椅子に座るように促された。座るとマリーがクッキーとお茶を出していた。
「息子はどうしたんだ?」
「大学で薬草学を教えてます」
「へぇ、出世したな…婚約破棄どうたらの男の事を覚えてるか?彼は薬師だったな」
「懐かしいですね…」
「カミラの葬式には来てたよな?」
イシュメルは軽く笑った。お互いに引きずり過ぎたろと思ったのだろう。
マリーが焼いたクッキーを口に放り込んだ。甘いが堅かった。
「娘の方は?かなりヤンチャしてたが」
「落ち着いて港の市場で働いてますよ。男勝りな性格が合った様で」
「甘やかした過ぎたんじゃないか?」
子供たちが泥遊びを切り上げて、帰って来た女の方に駆け寄った。その女はカリーナだった。
「僕じゃありませんよ、姉のカリーナがね」
「そうだったよな、お前の姉はかなり溺愛してたな、自分の子供じゃないのにな」
「ま、子供の面倒を見る事が生き甲斐になったんでしょうね」
ついた泥を気にせずカリーナは子供を抱き上げた。
「荒れてたよな、一時期」
「子供を産めない身体になった上、騎士団を辞めさせられたんじゃ、誰でも荒れますよ」
「カリーナを助けられて良かった。恩を返せた」
「にしても因果なモンだよな。騎士団に誘った方が辞めて、誘われた方が残ってるなんてな」
「騎士団長と魔術師範ですからね」
カリーナはこちらに気が付くと子供抱いたまま、軽く手を振った。
「名馬を買ってあげる事は出来ませんでしたが、ここに家と土地を買ってあげる事は出来た。小さいですが」
「元を辿ればあなたのお陰です」
「褒めても何も出ないからな」
俺はクッキーをお茶に浸した。
「ま、ここに呼んだのは事情がありましてね」
「簡単な人探しです。従業員が旦那が居なくなったから探して欲しいって言ってましてね」
「そういうのは簡単だった試しが無いんだよ」
俺は軽くため息をついた。