俺はサマンサ宿裏手に設けられた仮設の小屋に座っていた。隙間風が入ってきて少し肌寒かった。
その小屋の表札には『オイスタ市移民組合出張所』と書かれていた。
俺の目の前には涙目を浮かべた老婆が座っていた。どうやら新しく来た移民が家賃を払わないらしい。
そんなこと俺に言われても困る。と思ったが口には出さなかった。
老婆は座り心地が悪そうに何度も椅子に座り直した。あんまり長居されても嫌なので、とびきり固くて座り心地の悪い椅子を用意している。
俺にホスピタリティは無い。金を多少積まれたらクッション位なら用意してやらんでもない。
この前は妻が移民と不倫をしてるからなんとかしてくれと男が駆け込んできた。その男にはダイエットを勧めておいた。
カミラやカリーナの件以降、アリアは俺が『トラブル好き』だという評価を移民組合長のビスに伝えた様だった。やり手の冒険者を奪った仕返しだったのだろう。
ビスはその評価を聞くと素早い手際で移民組合の仮設小屋を作り、事務書類を木箱に詰めて俺の元にやってきた。
ビスはその小屋を見た俺に向かって笑顔で言った。
「トラブルが好きなんだって?」
「嫌いですよ。好きな人はいないでしょう?」
「そうか、好きだと聞いてたんだけどな」
ビスはもったいぶった様な表情で「まぁ」と呟いた。
「君の手腕は鮮やかな物だったと」
「誰が?」
「アリア・スティルウェルが」
溜息をつくと、ビスは書類を置いて「よろしくね」と言って立ち去った。
権力者によくある仕事の押し付け方に国境も性別も世界も関係無いらしい。
こうして俺は低賃金で移民組合の『移民組合サマンサ宿出張所』で働く事になった。
烈火の如くキレ散らかして断っても良かったが、不思議な事にあまり断る気にはなれなかった。異世界に来て俺も変わったのだろう。
1ヶ月ここにいて恭しく話を聞いて分かった事だが、やる事は前世と変わらない。泣き面を浮かべた連中のお悩みを解決してやるだけだ。
イシュメルは順調に衛兵の仕事を進めていた。いつか姉を救う日が来るのだろう。その時は、俺が手を貸すことになる。
カミラともたまに会う。元から無駄遣いをするタイプでは無かったので、それなりに生活は出来ている様だった。
きっとコレは神様からの思し召しなのだ。
「お前の能力で人を助けろ」と。
違うとしてもそう思わないとやってられない。
悪い気分じゃないな、善行を行うのも。
そう思った時、天使のセラフィーと開いたドア越しに目が会った。
彼女は微笑んでいた。