自分の部屋に戻る。
部屋の真ん中には、ソビエト軍も使用した軍用スノーモービル──私のお昼寝用ベッドが置かれていた。
星柄の枕をそこに放り投げ、私は横になった。
「…眠たくなってきちゃった」
そう呟く。
いつもはノンナが子守唄を歌ってくれて、眠るのだけれど、今日はもう睡魔が襲ってきている。
色々とあったからだ。本当に、色々。
心身ともに疲れていて、少し眠りたい気分になっていた。
そしてそのまま、私は夢の世界へと旅立つことにした。
『札幌の大演習場に、大学選抜チームが来るらしいぞ!!』
ある日の記憶。
何年前だろうか、小学生くらいの男の子が、慣れた様子で部屋にやってきた。
これはトロイカだ。昔のトロイカ。
この頃からもう既に、背丈は私よりずっと高くて、顔つきも大人びていた。
『そうなんだ……』
私は小さな声で答えた。
『カチューシャも行かねーか? 行くよな! いろんな戦車が来るらしいぞ。パーシング、チャーフィー、チャーチル、それにKV-2も来るんだってよ! 好きだったろ、旧ソ連の──』
『いかない……』
また小さな声で、その誘いを断った。
この通り、小さい頃の私は、引っ込み思案な女の子だった。
自分の感情をうまく表に出せず、声も小さく、いつも部屋の中で過ごしていた。そんな子供だった。
『どうして?』
トロイカが首をかしげる。
『いかない……さむいし』
『見たいって言ってたじゃん』
『カチューシャはいかないの! いかないったら、いかないの!』
思わず声を荒げてしまう。
トロイカとは幼馴染で、気心が知れているからこそ、本当の性格を出せた。こうして大きな声も出せた。
けれど、やっぱり他の子と喋ると言葉に詰まり、会話にならず、相手にされなかった。一人ぼっちのままだった。それが余計に人見知りに拍車をかけた。
『…おっけー。じゃあお前抜きで見に行くかんな』
そう言い残すと、トロイカは部屋を出ていった。ドアの閉まる音がして、静寂が部屋を包み込む。
私はまた一人になった。
薄暗くて、冷たい空気の漂う部屋の中。
私はくまのぬいぐるみを抱きしめた。
赤いリボンをつけた、お気に入りのぬいぐるみ。
ふわふわの毛並みに顔を埋めながら、寂しさと不安をごまかすように、ぎゅっと抱きしめる。
一人でも平気。
一人でだって、生きていける。
──だって、カチューシャは強いから
そう心の中で呟いた、そのとき。
『なーんちゃって!! 俺がすぐに帰ると思ったかー!?』
勢いよく扉が開き、またトロイカが飛び込んできた。
『なんで…』
『カチュの性格は、よく知ってるぜ! 素直じゃねーこともな。だから無理やりだ!』
彼は私の手を強引につかむと、言い分も何も聞かず、そのまま外へと引っぱり出した。
『ちょ、ちょっと……!』
外は、息が白くなるほど寒かった。
ごおっと風が吹きつけ、積もった雪が舞い上がり、身体中を刺す。
私は身体が小さいから、余計に雪がかかってしまうのだ。
『俺の後ろにいてろ』
そう言って、前方を歩くトロイカ。
──いつだってそうだった。
彼の大きな背中を見上げていた。
ぬいぐるみを片手に抱きしめ、手を引かれながら、いつも背中を仰ぎ見ていた。
吹雪の吹きすさぶなか、景色が何もかも白に溶けていっても、幼馴染の姿だけが、それはもう明瞭に映し出されていた。
地吹雪の幼馴染。
そんな思い出ばかりが、私の心を占めていた。
──
結局、あまり眠れなかった…。
寝起きは最悪。疲れも取れなかった。
どうして、私はあんな夢を。
「カチューシャ?」
ノックの音と同時に、聞き慣れた女の声が。
それはノンナだった。
「いいですか?」
「い、今は入ってこないで!」
強い物言いで、ノンナを拒絶してしまった。
何故か、今は部屋に入ってこないで欲しかった。
「そうですか…」
ノンナのくぐもった声が、扉越しに聞こえてきて、なんだか申し訳ない気持ちになった。
「そ、それでどうしたの、ノンナ?」
「トロイカさんがもう帰られます。整備が終わったらしいので。だからカチューシャに連絡しておこうかと」
彼女の口から、トロイカという言葉を聞くと、胸の奥がちくりとした。
私はそれを振り払うように、強い口調で返した。
「ふん! だからなによ!」
「見送りに行かないんですか?」
「行かないわよ!」
違う。
「どうして、カチューシャがあんな奴の見送りに行かなければならないの!? 意味が分からないわ!」
意図しない言葉だ。
「──っ行きたいなら、ノンナだけでも行きなさい。カチューシャはもう寝るから」
「しかし…」
「じゃあね!」
一方的に言葉を切り、会話を無理やり終わらせた。
しばらく扉前に立ち尽くしているノンナの気配がした。困惑したような小さな息づかいが聞こえてきた。だがやがて彼女は去り、靴音だけが薄く遠ざかっていった。
静寂が落ちた部屋で、私はそっと息を吐く。
『──あと、他の子が見たらしいですけど、ノンナさんの部屋にも入っていったみたいですよ。二人っきりで』
さっきの生徒の言葉が、頭のどこかに棘のように刺さったままだった。
引っかかって、じんじんと痛くて、忘れようとしてもまた浮かんでくる。
私の知らないところで、二人だけの時間があった。その光景を想像するたび、胸の奥がざわついて、私はどんどん遠くに置き去りにされたみたいな気持ちになっていた。
もやもやする。
もやもやする。
もやもやする。
「──むかつく」
枕をぽこぽこと殴る。
どうして、こんなにカチューシャが心を乱されなければいけないの!
なんかだんだんムカついてきた。
「そもそもカチューシャをのけ者にするなんて!」
許せない!
溜まりに溜まった感情が、どかんと爆ぜた。ついに火山が噴火した。
心のもやもやは怒りへと姿を変えて、気づいたときにはもう立ち上がっていた。
そして、そのままの勢いで部屋から出ていくと、二人の元へ駆け出していた。
──
私は走っていた。
長い廊下を。学園艦内を。
他の生徒たちの視線を受けながら。
外はすごく寒かった。
厚手のコートを着忘れたせいで、身体はずっと冬そのものだった。
呼吸をするたび鼻がつーんと痛み、出そうとしてないのに、鼻水がこぼれ落ちそうになる。
みっともない。情けない。カッコ悪い。
なのに、足を止めることなどしなかった。できなかった。
心に住み着いた感情たちが、それを許そうとしない。
ただ真っ直ぐ、彼の元へ突き進むだけだった。
見えた。
雪景色の中、吹き荒れる風の向こうに、巨大なヘリがプロペラを回している。
機体に張られている黒い馬のエンブレム。あれはトロイカのマーク。トロイカの持つヘリコプターを意味している。
あいつは、あのヘリでプラウダまで来たのだ。
そしてそこに工具箱を抱えたトロイカと、すぐそばにノンナが悠然と立っていた。
「トロイカ! ノンナ!」
思わず口から出ていた。
私の声に反応してか、二人は同時に振り向き、目を見開いて此方を見た。
「来たのですか、カチューシャ」
ノンナが吹き荒れる雪を背にして、そう言った。
「来たわよ」
「俺のために~?」
急にトロイカがカットインしてくる。
「あんたのためとかじゃない!」
「え~? 見送りに来てくれたんじゃないの~?」
トロイカがにやけながら、私を茶化すように言った。
本当にこの男は腹が立つ。一発殴ってやりたいわ。
「トロイカには言っておくことがあったのよ。そのために来ただけよ」
「えー、告白でもされちゃうのかなー?」
「ちゃんと聞きなさいよ!」
「!」
「真面目に聞いてよ」
「…分かった。しょうがねぇな」
トロイカはふぅと息を吐くと、私の目を真っ直ぐと見つめ、真剣な表情になる。
私も唇をキュッと結び、深呼吸をし、覚悟を決めた。
「ノンナは渡さないわ!!」
トロイカの胸元に指を突き付け、勢いそのままに言い放った。
いきなりのことで、二人は理由が分からないといった表情を浮かべ、ポカンと口を開けていた。
けれど私は構わず続ける。
「ノンナはカチューシャの大事な副隊長よ! 誰よりも大切な娘。とっても良い娘。あんたなんかには勿体無い!」
「え。すまん。ど、どういった類いの話だ?」
「察しが悪いわね! あんたたちの仲をカチューシャは許さないって言っているのよ。ノンナにも…トロイカにも…いやそもそも高校生には、そんなのまだ早いじゃない!」
溜まりに溜まった言葉が、洪水のように口から出ていた。
もう我慢など誰がするか。
トロイカたちには言いたいことを言う。
私はそう決めたのだ。
「えっと…」
言われている張本人は顔をポリポリとかき、困惑した表情を向けていた。ノンナも同じく、眉を寄せていた。
「同志カチューシャ、発言の意図が分かりません…」
二人とも、とぼけているのか?
「待ってくれ。ノンナさん、何か分かった気ぃする」
「はい?」
「こいつはたぶん勘違いしてんだ」
何が勘違いよ。
まだとぼけるつもりなのかと、私は更にイライラとモヤモヤが加速した。
「勘違いじゃないわよ! カチューシャは見たのよ! 部屋で楽しそうに喋ってる二人の姿を」
「あ」
「ほらな」
そう言うと、二人は額に汗を流しながらひそひそと言葉を交わしていた。こちらには届かない、ギリギリの声量で。
それが余計に癪に障る。
まだ隠し事をするつもりなのだろうか。
「二人とも、聞いているの!?」
私が声を張り上げると、二人はくるりと振り返り、観念したように肩をすくめた。
「分かったよ。話すよ。いいだろ、ノンナさん?」
「はい…。少し忍びないですが」
吹雪が吹き荒れる。
二人の声が聞き取りにくくなるが、なんとか耳を澄まして集中する。
「俺たちは取引をしていたんだよ」
「取引?」
私は聞き返した。
「──それは」
──
「トロイカさん、会いたかったですよ」
「俺もですよ、ノンナさん」
トロイカは、ノンナの部屋にいた。
窓は閉ざされ、外の冬風は入り込まないはずなのに、室内の空気だけは妙な雰囲気を漂わせている。
二人の浅い呼吸が、はっきりと聞こえてくる狭さ。
沈黙は決して長くない筈だが、妙に重く、艶かしさまでも発していた。
二人の鼓動も、誰にも聞こえない音量で、確かに騒いでいた。
年頃の男女。しかも誰もが振り返るような美男美女がこんな距離で、こんな時間に、二人きりでテーブルに向かい合って座っている。
することはもう、一つだけであった。
「「カチューシャコレクションの品評会だ!(です!)」」
二人はテーブルを強く叩いて、叫び合った。
急に始まる、謎の儀式。
「ふっ」
トロイカは懐から、マル秘と書かれたアルバムを取り出し、にやりと笑う。
だがしかし、それよりも早く動き出したのは前方の相手。
「まずは私のターンです」
先手を取ったのはノンナであった。
「ばっちこい!」
「こちらは、T-34/85に搭乗し、チーム全員に指揮しているカチューシャです」
彼女のアルバムから繰り出した写真には、戦車のハッチから身体を乗り出し、吹雪の中、腕を掲げ、誇り高い顔で仲間を導いているカチューシャの姿が映っていた。
とてもクールで、チャーミングな一品であった。
「なるほど…。同級生…しかも同じ戦車道チームだからこその利点だ」
納得するように、うんうんと頷くトロイカ。
「この手札には勝てませんよ」
「…だが甘い。ナポレオンケーキよりも甘いな」
「Что это!?(何ですって!?)」
トロイカは静かにテーブルに二枚の写真を並べた。
一枚目。
幼い頃のカチューシャが映っていた。口を大きく開け、笑っているカチューシャが、玩具の戦車片手に遊んでいる無邪気な姿。この写真を一度見れば、誰もが広角を自然と上げるであろう。そんな逸品。
二枚目。
七五三の写真だった。鮮やかな色の着物を着たカチューシャが、頬を紅く染めて、ぎこちなく笑っている。両手のうち片方でトロイカの袖をギュッとつかみ、精一杯の勇気で甘える姿が写っていた。背景には庭先の紅葉や千歳飴の袋がちらと見え、彼女を祝う空気が写真から伝わってくるようだった。
「ぶっ!」
ノンナは思わず鼻を押さえ、こらえようと試みた。だが指の隙間から赤い液体が滲んでいた。
「そ、それは反則でございます」
「これぞ幼馴染の特権だな」
「う。今よりも、小さく、愛くるしい姿。天使と形容するに相応しい」
トロイカの出した二枚の写真を興奮した様子で、交互に眺めるノンナ。
「交換するには、私の写真と等価とはいきませんね…」
「まあな」
「分かりました。カチューシャ観察日記の9月分を付けましょう」
「なっ!?」
カチューシャ観察日記。
ノンナがひそかに、文字通りカチューシャを観察して、その様子をつけている日記である。
9月分は、ぶら下がり健康機を熱心に使っているカチューシャ。子守唄を聞きながら眠っている、彼女の寝言の内容。最近、マイブームのジェスチャーをネットで検索している、カチューシャのこと等が記されている。
「おいおい……それじゃあ、俺が等価じゃなくなった。分かった。ならもっと秘蔵のものを──」
「私も、撮り止めたコレクションを──」
こうして二人は小さな一室で、自分たちの持つ宝物を見せ合い、戦いを繰り広げていくのであった──
──
「いや、" 繰り広げていくのであった " じゃないんだけど…!!?」
トロイカが話し終わった後、私は震え声で、そう叫んだ。
「ちょ、ちょっと、あんたたち! 部屋で喋ってたのは、私の写真を!? え!? どういうこと!?」
私は上手く喋れなかった。
二人の話を、自分で噛み砕けなかった。
何が起こっていたのか、脳内はとっ散らかっていて、まとめられなかった。
要するに混乱していたのだ。
「つまりそういう訳だ」
「はい。カチューシャが心配するようなことは何もしていません」
「いや、心配事が新たに増えたんだけど!!?」
私の個人情報を勝手に使い、しかもそれを取引しているなんて、恐怖しない訳がない。
「…あ、あんたらね」
私はこの場から逃げ出したくなって、一歩だけ後ろに下がる。
すると、どんと背中に何かと当たった。
「どうしました?」
背後にいたのはクラーラだった。
「クラーラ!」
思わず自分でも驚くくらい、明るい声を上げていた。丁度いい。助け船が来た。
「聞いて! あいつらが、カチューシャを!」
「え? ノンナさんと…この男の人が、どうかしたんですか?」
「そうよ!! この不届き者どもに、しゅくせーしてやりなさい!」
私は涙目になって、ビシリと二人を指差した。
だが、時すでに遅かった。
「Клара、это Тройка。Он друг детства Катюши(クラーラ、こちらはトロイカさんです。カチューシャの幼馴染なのです)」
「Э、Tо есть…?(え、それはつまり…?)」
ノンナがクラーラとロシア語で話していた。
日本語で喋りなさいよ、と言いたかった。
「Да, всё так。Это значит、что всё、что нужно Кларе、здесь(はい。それはつまり、クラーラの求めるものが、揃っているという意味になります)」
「Прекрасно…(素晴らしい)」
クラーラが両手で口を覆い、あぁと感嘆の声を漏らしていた。
その姿を見てか、トロイカが彼女の前に進み、手を差し伸べた。
「Клара、приятно познакомиться。И добро пожаловать на нашу сторону мира(クラーラさん、はじめまして。そしてようこそ、こちら側の世界へ)」
「Товарищ Тройка!(同士トロイカ!)」
その差し出された手をギュッと掴み、二人は笑いあった。ノンナもその光景を目を細めて眺めていた。
ここには、私の味方など誰もいなかったのだ。
「なんなのよ、一体!!!」
私は叫ぶしかなかった。
───そして
「じゃあそろそろ帰るわ」
トロイカが帰る時間になった。
「はいはい。さいなら」
もう私は疲れ切っていた。
今日は色々と振り回される一日であった。感情があっちにいったり、こっちにいったり忙しくて、本当に疲れた。早くもう一度眠りたい。
「そんじゃあ──」
ヘリに乗り込もうとトロイカが足をかけた時、身を返して、私の方まで走って来た。忘れ物でもあったのだろうか。
「どうしたのよ。さっさと帰りなさいよ」
「いや忘れ物…渡し忘れたものが」
そう言って、トロイカはリュックからぬいぐるみを出した。それは私が子供の頃によく抱いていたクマのぬいぐるみだった。
「これって」
「ああ。実家にあったのを取ってきた」
「どうして?」
「テレビの中継でお前を見てさ。なんだろうな、最近は不安そうな顔をよくしてたから。これがあれば安心するかなって思ってな。いつも抱いてただろ、このぬいぐるみ」
「──!」
喉がヒュッと鳴った。
私は最近、悩むことが多かった。
冬季大会、無限軌道杯がもうそこまで近付いていて、作戦をどうするか考えなければいけなかった。
来年はもう卒業が見えていることもあり、引き継ぎや進路のこと。しかもロシア語の勉強もあって、やるべきことが山積みだった。
だから珍しく疲れていた。
でも私は隊長だ。
プラウダ高校の隊長、地吹雪のカチューシャなのだ。
そんなことで弱音を見せてはいけない。疲れた顔なんて、チームのみんなにも、ノンナにも、見せてはいけないと思っていた。誰にも見せてはいなかった。
なのにこいつは───
「まあそんだけだ」
ニッと笑いながらトロイカは、ぬいぐるみを私に優しく手渡した。
「じゃあまたな」
そう言い残して、トロイカはヘリの方へ歩き出した。
プロペラの風圧で積雪が舞い、白く霞んだ世界を作り上げる。その中で彼の後ろ姿だけが、はっきりと私の視界に入ってきた。
幼い日に見た光景と、大きくなった彼の背中とが、胸の奥で静かに重なっていく。
気付けば、抱いているぬいぐるみを、ギュッと抱き締めていた。
そして瞬間、こう思った。
───ムカつく。
「トロイカ!!」
感情に導かれるまま、私は叫び、ぬいぐるみを彼めがけて放り投げる。
不意を突かれたように目を見開きつつも、トロイカはしっかりとそれを受け止めた。
「ノンナ!」
今度はノンナの名を呼ぶ。
私の言動に少し戸惑いを見せたが、ノンナはすぐに私の意図を理解したらしく静かに身をかがめる。
私はその肩に足を掛け、慣れた動作で肩車の姿勢へと上がった。
高い視点から、トロイカを見下ろす。
彼が顔を上げ、間抜けな顔をしているのがよく見えた。
「きゃははっ!」
チームのみんなにするように、いつものように高笑いを決めてやる。
胸を張って、心の赴くままに言葉を叩きつけた。
「私はカチューシャよ! プラウダ高校、戦車道チームの隊長! みんなの頼れる、同士カチューシャなんだから!」
トロイカは目を丸くしたまま、私をただじっと見上げていた。
「──だから、もうそれは必要ないわ」
ぬいぐるみを指差し、静かにそう告げると、彼は小さく息を吐きコクリと頷いた。
「──そうか」
ぬいぐるみを大事そうにリュックへ戻し、再び顔を上げて私を見つめる。
「大きくなったな、カチュ」
「当たり前よ!」
二人はお互いの目を見つめ合い、口角を上げた。
もうこれ以上、言葉を交わす必要はなかったのだ。
そしてトロイカはヘリにのり、プラウダ高校を離れていった。
遠ざかる機体を見送っていると、ちょうど雲の切れ目から太陽の光が差し込んだ。
地面に積もった雪がその光を受けてきらきらと輝き、私の周りを照らし出す。
胸の奥で凍りついていた、色々なものたちが、そっと溶けていくのを感じた。
さっきまで吹いていた風も嘘のように静まり返っている。
もう地吹雪はおさまっていたので、私はノンナと共に学校へ戻っていった。
以上です
ガルパンの5章楽しみです