――ガタンゴトン、ガタンゴトン
物凄いスピードで移り変わっていく窓の景色。
列車でありながら内装は煌びやかな装飾に覆われ、豪華絢爛なソファがそこかしこに置かれている。
「すっげぇ……」
クラスメイト達は、この贅沢な非日常に目を輝かせている者と、慣れた様子でソファに腰を下ろす者とで分かれていた。
今日から林間合宿が始まる。
今は、これから三泊四日を共にする宿泊施設へ向かっている道中である。
「おいヴィリア!あれじゃねぇか?俺らが泊まるとこ!」
興奮冷めやらぬ様子でアンバーは窓の外を指差した。
一面緑一色の山々の中、一際大きく聳え立つ山の頂上に風情溢れる旅館が一つ。
この学園、資金力なら無尽蔵なようなので宿泊場所のクオリティには期待できそうである。
「俺この学園入れて良かったぜ……楽しい楽しい青春が俺を待っていやがる!!」
「俺この学園来なきゃよかったわ……」
列車内でのテンションはどこへやら、アンバーはげんなりと背中を丸めている。
「降ろすにももっと近いとこで降ろせやあ!!」
周りを見渡せば、木、木、木……。
ヴィリア達生徒は、列車から降ろされたと思えば山林の中へと放り出されていた。
今日は他クラスの生徒もおり、大勢の生徒が森の中で右往左往している。
また森と言っても、獰猛な魔物が跋扈する魔境。
この地獄を駆け抜けて、後は自力で山の頂上にある旅館へ辿り着け、とのことだった。
「……面白い」
「面白くねえよ!!」
――ブモアアアア!!
「ひえっ!」
突如木の陰から飛び出してきた熊型の魔物に情けない悲鳴を上げるアンバー。
拳に力を入れようとしたが、必要ないと判断し拳を下ろした。
「ヴィリア!危ない!!」
襲いかかってくる魔物の胴体が突然斜めに崩れ、美しい断面を晒した。
倒れる魔物の背後に現れたシグレはそのまま何者かから庇うようにヴィリアの前へ立った。
対峙するアンバーへ刀を構える。
「汚らわしいものが伝染る」
「いや俺ぇ!?」
そんな茶番をしている間にも、クラスメイト達は続々と現れる魔物に苦戦を強いられていた。
アレクがなるべく助太刀に入るようにしているが、一学年全員分の人数を一度に護るのは流石に無理があるらしい。
皆聖印を保持しているとはいえ、まだまだ戦闘経験の浅い者ばかり。
彼らの恐怖が伝染するように広がり、空気は重苦しいものへと変わっている。
――『ホーリーアクセル』
そんな空気は、一人の少女によって掻き消された。
カルミア=ローデルシア。
『神官』の聖印を持つ彼女が祈るように両手を握ると、クラスメイト達の身体は活気に満ち溢れたオーラに包まれた。
「こんなもので良ければ、皆さんの力にならせてください!」
「おぉ……!すごい、これなら……!!」
「カルミアさんマジ天使……」
「俺達がカルミアさんを護るぞ!!」
押されていた生徒達が瞬く間に形勢を覆していく。
カルミアの手によって、絶望は希望へと早変わりするのだった。
「やっぱこの学園最高だぜ……」
極太の蟹を頬張るアンバーは頬を綻ばせている。
なんとか森を抜け旅館に辿り着いた生徒達が通された場所は豪華な食事の席だった。
全体的に和を感じさせる料理の数々。
くたくたとなった身体に染み渡るというように、生徒達は次々に料理を口に運んでいる。
中でも尋常ならざる速さで料理を平らげていく生徒が一人。
ヴィリアである。
ヴィリアの異常な暴食ぶりにアンバーはもう慣れたようだ。
「食いもんだけじゃねぇ……浴衣っつったか?こいつぁいいな……」
食事の席は男女で分かれている。
アンバーは女子のいる方へ嫌らしい目を向ける。
その目の先には、上品な浴衣に身を包み、食事を楽しむ女子達の姿があった。
「露出が多いわけでもないのに、なんか……いいな」
鼻の下を伸ばすアンバーだが、こいつもまた浅葱色の甚平を着ている。
この旅館は『和』をモチーフとしているらしく、東洋の文化を存分に取り入れているようだ。
「せっかくだってのに、お前は相変わらずその制服なんだな」
皆浴衣や甚平を肌着としている中、ヴィリアだけは変わらず制服に身を包んでいた。
悪いが今お前と会話する暇などない。
食事を楽しむので忙しいのだ。
普段襟元で隠されている口周り。
食事時でもその異常なペースの食べ方が故に目視は不可である。
「ここ、温泉がすげえ良いらしいぞ。なんかの間違いで女湯入れねえかなあ」
温泉。
その一言で食事の手が止まる。
この調子ならば、ここの温泉のクオリティは間違いないだろう。
是非とも極上の湯で身を清めたい。
だが、一つ問題がある。
女湯か男湯、どちらに入るか。
女湯に入ったところで、さしたる問題もないだろう。
疚しい思いなど微塵たりともない。
この身体を毎日見ているのだ。
女体への興味などとうに失せている。
ただ
できることならば男湯に入りたい。
だがこの女体を隠しながらの入浴など不可能そのもの。
どうしたものか……
「あぁ〜」
苔がかった岩々。
花緑青の湯に、立ち上る湯けむり。
温泉独特の馥郁たる香りが鼻腔を優しく刺激し、安らぎを与えてくれる。
全身を包み込む湯は柔らかすぎるようにも思えた。
見上げれば、夜空に浮かぶ星々が目に入る。
ここが極楽浄土か……。
岩に背を預け、ヴィリアは心地良さに浸るように、目を瞑った。
「これはいいわね……」
横からシグレの声が聞こえた。
シグレもまたこの湯がお気に召したらしい。
結局、ヴィリアは女湯に来ているのだった。
というのも、シグレに引きずり込まれて致し方なく、だ。
決して自ら入ったのではない。
つまり不可抗力。
これは不可抗力に他ならない。
所定の入浴時間よりも早めに入ったおかげで他に入浴客はおらず、今はヴィリアとシグレの貸切状態。
人工的なものを一切感じない、大自然の泉を堪能できるこの時間は極楽そのものだった。
――ガラガラッ
「おぉ……すごいですね!」
「綺麗……」
「風情がありますわね」
「すごお!早く入ろ!!」
賑やかな声が耳に入り目を開くと、タオルを纏った四人の女子達……カルミア、レイナ、キルシェ、ネネが目を輝かせて立っていた。
「だめですよネネさん、まずは身体を軽く流してから……あら、そちらの方は……」
四人が一斉にこちらを見る。
「シグレさんと……リアさん?」
「リア?久しぶりですわね……って、どうしましたの、ネネ?」
どういうわけか、ネネは岩の陰に隠れガクガクと身体を震わせていた。
そして精一杯ヴィリアを睨んでいる。
その様はまるで子犬がライオンを相手に苦し紛れの威嚇をしているかのよう。
「ガルルルルル……」
普段ヴィリアに対し向ける目と同じもの。
だが今のヴィリアはヴィリアではなく、リア。
同一人物だとは気づいていないが、同じものを感じ取った、というところだろうか。
やはりこの少女の感覚の鋭さには目を見張るものがあるな。
カルミア達は軽く身体を洗い流すと、ヴィリアとシグレの傍の湯へ浸かりに来た。
ネネはヴィリアから距離を取るようにして湯に浸かり、こちらを睨んでいる。
「ネネさん、どうしたのでしょう……」
「まぁ様子のおかしいネネは置いといて、この湯の心地に浸るべきですわ」
少々騒がしくなったが、再び目を瞑り温泉に浸る。
「……」
だがなんだ、居心地が悪い。
それも、物凄い視線を感じるのだ。
主に胸へ。
「……やっぱり、とんでもないサイズですわね……」
薄らと目を開いてみると、食い入るようにヴィリアの胸を眺めるキルシェ、カルミア、レイナの三人がいた。
「どんな生活をしていたらそんな大きさになりますの……?」
「……私も、気になる」
「キルシェさん、レイナさん、大きさだけじゃありませんよ……このサイズにして垂れている様子は一切なし。上向きでハリがあり、左右差もなくバランスもバッチリ。並大抵の努力ではこんな出来栄えにはなりません……」
「丁寧に解説しないで……」
そんなまじまじと見られて懇切丁寧に解説まで付けられると、妙に恥ずかしさが込み上げてくる。
逃げ出したい……
「ふふ、そうでしょう?」
「シグレはどうして自慢げなんだ」
――むにゅ
「ンっ!?」
「それにこの吸い付くような肌質……百点では到底足りませんね……」
カルミアの手がヴィリアの胸を持ち上げるように揉みあげていた。
「私にも触らせてくださいまし……」
「私もちょっとだけ……」
伸びてくるレイナとカルミアの手。
ヴィリアには、どんな名高い武人の拳よりも恐ろしく見えた。
なんか文字数少なくなってしまった