TS聖女は男装がバレたくない!   作:門邪

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猛者

 視界の良い開けた平原。

 そこに集められたヴィリア達生徒の中心には、ダビッド先生と、もう一人……

 

 「ギゼル=バーク。こいつが今日丸一日うちのクラスの指導を担当することになった」

 

 ダビッド先生の隣にいるギゼルという男。

 身長は優に百九十はあるだろう。

 白髪混じりの黒髪をした強面だ。

 服越しにも筋骨隆々なその身体が伺える。

 だが……左の袖は固く結ばれており、左腕を無くしているらしい。

 一目で歴戦の猛者だと分かる風貌である。

 いいな……

 羨望。

 それ以外の何物でもない感情が胸に渦巻く。

 あれだけの体躯をしていれば、武における更なる高みへ臨めるに違いない。

 

「ギゼル=バークって……本物じゃねえか」

 

 横のアンバーが戦慄したように言葉を漏らしている。

 気づけば周りの生徒達も同じように騒ぎ立てていた。

 

「誰だ?」

「聖エルデ教会所属の使徒だぞ、知らねえのか?」

 

 聖エルデ教会……大陸三教会の一つだ。

 なるほど、確かに大物らしい。

 

「それじゃ、みっちりしごいてもらえ」

 

 そう言葉を残し、ダビッド先生は大木の生えている場所まで行くと幹を背に眠り始めた。

 

「あー、まぁ、そういうわけらしい。指導内容としちゃ、そうだな。全員まとめてかかってこい」

 

 ギゼルは背中の鞘から大剣を引き抜く。

 

「ガキの相手なんざ欠伸が出るが……このクラスにゃ勇者がいるらしいな?……お前だろ」

 

 ギゼルは片手に携えた大剣の切っ先をアレクへ向けた。

 

「え?はい、そうで――ぐッ!?」

 

 アレクの脳天へと圧倒的な重みが降る。

 ギゼルの大剣を間一髪で防御するアレクだが、重みに耐えることで顔を歪ませている。

 地面に出来上がったひび割れが、ギゼルの放つ破壊力を裏付けていた。

 なんとか捌き、アレクは距離を取る。

 

「いきなり――ッ!」

 

 瞬く間にアレクの目の前へ迫ったギゼルは連撃を繰り出す。

 一つ一つアレクが防いでいく度に鳴り響く轟音が、ギゼルの桁違いの膂力を物語っている。

 

「ほら、打ってこい!」

 

 反撃をしようにも、アレクは防御で手一杯の様子。

 降ってくる大剣にばかり意識を向けていたアレクの腹……そこへギゼルの回し蹴りが直撃した。

 

「ぐはッ」

 

 吹き飛んだアレクは大樹へ衝突し、土埃で姿が見えなくなった。

 

「拍子抜けだな。勇者がいるっつうから渋々引き受けたんだが……」

「はァッ!」

 

 ギゼルの後頭部へネネの拳が迫る。

 直前、ギゼルの頭が傾いたことでその拳は空を切った。

 

「あえっ!?」

 

 隙だらけとなったネネの身体へ大剣が振り下ろされる。

 小さな身体に、余りに惨い一撃。

 それは美しい太刀筋を描いた剣によって弾かれた。

 

「……ほぉ」

 

 剣を構えるレイナへ、ギゼルは感心したような笑みを向ける。

 

「お前、中々……」

 

 言い終わる前に、一斉にネネとレイナはギゼルから距離を取った。

 

――『ケラウノス・バグア』!

 

 ギゼルの周囲に魔法陣が浮かび上がる。

 閉じ込めるように現れた魔法陣はビリビリと帯電しだし、高圧の電撃がギゼルの身体に直撃した。

 魔法陣が消え、一身に電撃を喰らったギゼルの姿が浮かび上がる。

 肌は焼け焦げ、服も所々破けている。

 カルミアのサポートまで利用したキルシェの攻撃力はアレクをも上回り得る。

 そんな魔法を浴びて尚……ギゼルの口は愉快そうに歪んだ。

 

「良い痺れだ。この火力の正体は……お前だな」

 

 両手を握り、祈りを捧げ支援に徹していたカルミアへギゼルの大剣が迫る。

 助けに入るべきか……いや、いらないな。

 

「カルミア、下がっててくれ」

 

 ギゼルの大剣はアレクの剣によって弾かれていた。

 今度こそ、アレクはギゼルへ攻撃を仕掛けていく。

 繰り広げられる攻防……多くの者の目には互角に見えることだろう。

 だがやはり、僅かにアレクが押されている。

 

「やはり、期待はずれだな。お前、自分の力を扱いきれてないだろ」

「っ」

「お前ら、突っ立ってんじゃねえよ。まとめて来いっつったろ」

 

 アレクとの剣戟中にも関わらず、やはり余裕があるらしいギゼルは声を上げる。

 これ程の猛者、中々相まみえることはない。

 こちらとしても、是非とも手合わせ願いたいところだ。

 

「来ねえなら、こっちから行くぞ」

「ぐ、ッ!!」

 

 昂るヴィリアへ、アレクの身体が吹き飛んできた。

 

「なっ!」

 

 アレクに押し倒される体勢となった。

 アレクの顔はヴィリアの胸に埋まっている。

 

「ん、なんだこれ、柔らかい」

「ン゛!!」

 

 アレクの左手がヴィリアの胸を鷲掴みし、感触を確かめるように揉み始めた。

 ……殺す!!

 

「うお!?」

 

 脚でアレクの身体を持ち上げ、後転する勢いでアレクを後方へ投げ飛ばした。

 

「私のヴィリアに何して――ッ!」

 

 とてつもない殺意をアレクへ向けるシグレへ、ギゼルの大剣が伸びる。

 

「良い反応だ」

 

 刀にて受け止めるシグレだが、今にも押し負けそうだ。

 なんとか捌いたシグレへ、直後、横薙ぎの大剣が襲う。

 間一髪で防ぐが、勢いのままシグレは吹き飛ばされた。

 

「骨のある奴らはこれくらい――っ」

 

 ヴィリアの拳がギゼルの頬を掠めた。

 擦り傷が浮かぶ。

 ようやく出番らしい。

 この巨躯にこの拳がどれだけ通用するか、楽しみだ。

 

「……なんだ、結構面白れぇじゃねえか」

「手合わせ願……ん?」

 

 どこか、違和感を覚える。

 胸の締め付けが緩くなっているような……

 

「ッ!!」

 

 咄嗟に腕で胸を隠す。

 まずい、さらしが解けかけている……。

 あの時……アレクのせいだな……!!

 そうこうしている間に、ギゼルの容赦ない斬撃が飛んでくる。

 ようやくやってきた出番。

 しかし解けかけのさらしが邪魔をして思うように動けないのだった。

 

 

 

 

 

 日が暮れ、闇に差し掛かる頃。

 大木に背を預け、煙管をふかす。

 横目に、同様に大木に背を預けるダビッドを眺める。

 今日の指導は終わり、生徒達は草臥れ果てた様子で旅館へ帰っていった。

 

「思ったよりしごきがいがある奴がいたな。つまらなくなかったぜ、ダビッド()()?」

「……」

 

 相変わらず目を瞑って眠っているようだが、いつものようないびきはかいていない。

 

「最近、邪教徒の動きが活発化しているらしい。まだ手に負える範疇だが、奴らがいつ事を起こすか分かったもんじゃねえ」

 

 ギゼルは失った自身の左腕に目を落とす。

 

「おいダビッド、お前ほどのもんがなんで教師なんざやってる?」

「……」

 

 黙ったまま眠り続けるダビッド。

 その口が、そっと開いた。

 

「……元々、柄じゃねえんだよ。使徒ってのが」

 

 寝不足そうな目を開いたダビッドは大木から背を離し、歩き始めた。

 

「旅館に帰るぞ。あっちの方が寝心地が良い」

 

――ガサガサ

 

 草木を揺らすような物音に、ダビッドの足が止まる。

 

「おいギゼル、そいつ貸せ」

「あ?ちょ、おい」

 

 返事を待たずしてダビッドはギゼルの手から煙管を奪い取ると、それを矢のようにして音のした場所へ放った。

 飛ばした煙管のところへ向かう。

 そこには……煙管が身体に突き刺さったリスの死骸が。

 

「なにしやがんだてめぇ、俺の煙管だぞ。仮にも教師が無意味な殺生か……ん?」

 

 リスの死骸……だが、ただのリスじゃないらしい。

 顔には一つ目が描かれた面布が貼り付けられていた。

 そしてその死骸は不可解に、蒸発するようにして消えていくのだった。

 

 

 

 

 

「ふ……」

 

 やはりここの湯は格別だ。

 あらゆる疲れを癒してくれる。

 周りからの胸への視線が凄いが、昨日のように触られるよりはマシだ。

 そう、昨日のようなことは二度とごめんなので、今日はカルミア達が入浴を済ませたのを確認した後に入ることにしたのだ。

 シグレからも身を隠し続け、やっと邪魔のいない温泉を愉しむことができる。

 にしても、今日はもったいないことをした。

 折角の猛者を前に、さらしが解けかけていたが故にまともに戦えなかったのだ。

 それも、あのアレク=ウルスラグナのせいだ。

 奴の痴漢行為は留まるところがないらしい。

 いつか大義名分ができた頃には再起不能になるまで叩きのめしてやろう。

 アレクへの怒りを張り巡らせていると随分身体が癒されたので、上がることにした。

 身体を洗い、着替えへ向かう。

 

「……」

 

 なぜ、制服がなくなっているのだ。

 その代わりに浴衣があるのも。

 

「シグレめ……!!」

 

 シグレの仕業に違いない。

 とりあえず何も着ない訳にはいかないので致し方なく浴衣をきて、シグレから制服を取り返すことにした。

 シグレの部屋は確か……

 旅館の廊下を歩く。

 すれ違う男子生徒達が「あんな子いたか……?」「でか……」などとさざめき合っているが無視だ。

 次の曲がり角から見知った顔の男が出てきた。

 アンバーだ。

 

「…………マイ……ハニー……」

 

 目が合った途端、アンバーは唇を突き出して抱きしめに来ようとしてきたので顔面に拳をめり込ませてそこら辺に捨てといた。

 最悪だ。

 手に少しあいつの唇が付いてしまった。

 それよりシグレはどこに……ん?

 

「へ」

 

 浴衣がはだけ始めていた。

 気づけば右肩が露出している。

 

「あ、ちょ……っ!」

 

 適当に着たのが仇となったか……!仕方ないだろう、浴衣の着方など知らないのだから!!

 抑えようとしてもどんどんはだけていってしまう。

 両肩は既に晒されている。

 ここは廊下。

 疎らに生徒がいる。

 男子生徒は皆鼻息を荒くしてこちらを見ている。

 

「あ、ぁぁあ」

 

 見、見るな……!!

 はだけにはだけた浴衣はヴィリアの爆発的谷間まで無防備なものとしていた。

 今にもその聖域たる頂上が晒されようとしている。

 あともう一息、というところで周囲の男子生徒らが生唾を飲み込んだとき、近くのドアが開かれ何者かの手が伸び、ヴィリアを中へと迎え入れた。

 

「なにしてるんだ、こんなところで」

 

 目の置き場に困るといったようにアレクは聞いてくる。

 

「浴衣がはだけてしまって……見、見るな!!」

「わ、悪い!俺はあっち向いてるから、落ち着いて着直してくれ」

 

 背を向けるアレク。

 助かった……

 今までの行いを許す訳ではないが、確かに助けられた。

 こいつの痴漢行為には擁護しようがないが、悪いところばかりでもないらしい。

 

「うぉっ!?」

 

 足を滑らせたアレクがこちらに倒れかかってきた。

 アレクに下敷きにされ、アレクの胸板がヴィリアの胸を潰している。

 

「…………」

「す、すまん!!今すぐ――ぐほぇぁ!!」

 

 やはり悪だ。

 悪そのものだ。

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