TS聖女は男装がバレたくない!   作:門邪

21 / 23
冒険者

 驕っていたのかもしれない。

 勇者として称えられ長くが経ち、特に壁に当たることなく歩んできた。

 それ故に、経験がなかった……()()というものに。

 先日の魔人との戦い……あれ程完膚なきまでの敗北を喫したのは初めてだ。

 幸いにもカルミアの救出には成功し、無事皆生きてはいるが、ギゼルさんは元々無くしていた左腕に加え右腕を失くし使徒を引退。

 あのときのことはあまりよく覚えていない。

 ただ確かなのは、今この身体が五体満足に揃っていることの奇跡と……なにか、聖印の極みに触れたという感覚を覚えている。

 身体の芯から力が溢れ出し、想像を超えた動きを可能にする……そんな感覚。

 あの戦いで学んだことは二つある。

 一つは、まだまだアレク=ウルスラグナは弱いということ。

 二つ目は、あのときの感覚を掴むことが強さへの躍進に繋がるということだ。

 よってアレクは、とある地へ足を踏み入れていた。

 ()の都市、サピエンティア。

 ここには世界最大を誇る書庫……聖ソフィア大書庫が存在し、この世の全てが記されているという。

 そこに行けば、あのときの感覚について情報が得られるかもしれない。

 

「こちら、指定の教会に所属されている使徒の方もしくは二級以上の冒険者の方を除いて立ち入りはお断りしております」

「え」

 

 ようやく辿り着けたと思えばそんなことを言われ門前払いを食らった。

 使徒になるには学園を卒業しなければならないため数年はかかる。

 その間にあのような強力な魔人が現れれば太刀打ちできない。

 今すぐあの感覚の情報を得たいのだ。

 そのためには……冒険者になってちゃっちゃと二級に上がるしかない……か。

 近くの冒険者ギルドは……あった。

 扉の前へ足を進め、スイングドアに手をかけようとしたところ……

 

「「あ」」

 

 横から同時に伸ばされた手が現れ、顔を上げるとそこには……ヴィリアがいた。

 

「……」

「……」

 

 なんでこいつがここに……

 暫く無言の見つめ合いが続いた後、スイングドアの左右それぞれを同時に押して中に入った。

 そして広がった光景は……世界が変わったようだった。

 漏れ聞こえていた賑やかさはアレクとヴィリアが中に入った途端潜め、テーブルに腰を下ろしたゴロツキ達の目が一斉にこちらを向く。

 重苦しい沈黙が広がっていた。

 寄せ付けない雰囲気を感じるが、無視して受付へ向かう。

 

「冒険者の登録で宜しいですか?」

「はい」

 

 ヴィリアも他の受付に行っている。

 やっぱり奴も冒険者になるのか……まさか同じ目的か?

 牽制するようにヴィリアの様子を観察しながら、登録作業はトントン拍子で進んでいった。

 

「冒険者ランクは五級から一級までとなっておりまして、アレクさんは五級からのスタートになりますね。ご依頼を達成されていくに連れて昇級できるシステムとなっております」

 

 五級か……さっさと三級分昇格するとしよう。

 ……ヴィリアより先に。

 

「これで登録は以上となります。ご依頼はあちらの掲示板からご覧下さい」

 

 あっさりと登録は終わり、昇級の狙えそうな依頼を探すべく掲示板の方へ向かう。

 孤児院の手伝い……薬草の採取……下水道の掃除……

 録な仕事がないな……ん?ベアウルフの討伐……これだ。

 確か受けたい依頼があったら張り紙を受付に持っていくんだったな。

 そうして張り紙へ手を伸ばしたとき……またしても何者かの手が現れる。

 

「……」

「……」

 

 やはりヴィリアだった。

 

「……俺の方が早かった」

「いや俺だ。なんなら受付を受けてる時点で俺は目をつけていた」

 

 睨み合いが続く。

 昇級を狙うならこの依頼だ。

 こいつに取られては残った雑務で五級のまま立ち往生してしまう上にこいつに出し抜かれてしまう。

 なんとしても譲ることはできない。

 

「おいお前ら、そいつぁ五級の見習いにゃ受けられねえよ。受けれたとしても早死にするだけだ」

 

 振り返れば、背後には背の高い強面が立っていた。

 強面は愉快そうな笑みを浮かべ、急に肩に手を回してくる。

 横のヴィリアも同様に肩を組まれている。

 

「それよりよ新入りィ、ちとツラ貸せや」

 

 これが所謂初心者狩りというやつだろうか。

 こんな奴らに構っている暇なんてないんだが、こういう輩は舐めている限りだる絡みを止めないものだ。

 一度痛い思いをしてもらう必要がある。

 

「いいぞ。乗る」

「お?ノリ良いじゃねえか……っておい」

 

 ヴィリアは興味無いというように男の手を払い、他の適当な依頼書を取って受付へ歩き出した。

 

「待てって。あっちの兄ちゃんと違って随分と玉無しじゃねぇか……って、ほんとに女みてぇな目してんな」

 

 顔を覗き込むようにして後を追う男の言葉にヴィリアの足が止まった。

 

「……会場を案内しろ」

「いいねいいねぇ、こっちだ」

 

 そうして連れてかれた先……テーブル席?

 

「おめぇらァ!!新しい仲間の歓迎会だア!!!ぶっ倒れるまで飲み倒せエエ!!!!」

「「「「おおおお!!!」」」」

 

 ……なんだこれは。

 屈強な男達が屈託のない笑みで麦酒や火酒を片手に木製のジョッキをぶつけ合っている。

 

「おらお前らも飲め飲め!」

 

 問答無用で差し出されたジョッキに酒が注がれていく。

 酒はあまり飲まないんだが……

 

「お前らはなんで冒険者になりに来たんだ?」

 

 酒を煽りながら強面の男は聞いてくる。

 まぁ、言っても問題ないか。

 

「「聖ソフィア大書庫に入るためだ」」

 

 横のヴィリアと声が重なる。

 こいつ……やっぱりか。

 

「そんなところだと思ったぜ。だが二級になるにゃ中々骨が折れるぜ?俺も最近二級になったとこだ。でも運が良かったなお前ら。俺ぁ良い雇い主を知ってる。早く昇級したいってんなら紹介してやってもいい」

「ほんとか!」

「あぁ……だが、条件がある」

 

 すると男は悪辣な笑みを浮かべる。

 

「俺と飲み比べして勝ったら、だ」

 

 一瞬、やはり脅しでもしてくるタイプだったかと思ったが拍子抜けだ。

 しかし飲み比べか……酒の限界は知らないんだよな……

 

「受けて立つ」

「コートの兄ちゃんやるねえ」

 

 ヴィリアこいつ、即答したがもしかして酒強いのか?

 躊躇いなくジョッキを煽り始めやがった。

 襟のせいで口元が見づらいが実は飲んでないとかじゃないよな。

 

――ガタッ

 

「は?」

 

 自信満々に飲み始めたと思えば卒倒したように額をテーブルに打ちつけて動かなくなった。

 こいつ……

 

「ぶぁははははは!!まだ半分も飲み切ってねぇぞ!!」

 

 弱すぎだろ。

 もう耳まで真っ赤になっている。

 だがそうだな、せっかくのチャンスだ。

 賭けに出るとしよう。

 

「お?いい飲みっぷりだ」

「エールをもう三本くれ」

 

 目の前の一杯を飲み干し、ゲームを開始した。

 幾度となく一気飲みを繰り返していく。

 流石に、温まってくるな……

 

「おいおい、気持ちいい飲みっぷりじゃねぇか」

 

 急に肩を組んできた男のせいで持っていたジョッキから少し酒が溢れた。

 横を見てみると、無精髭を生やした気の良さそうな茶髪のイケおじが立っている。

 流石は冒険者というべきか、良い身体だ。

 っと……視界がぐらぐらする……これ、やばいやつだ……

 

――ガタッ

 

 額に衝撃が襲う。

 限界だ……意識が……

 

 

 

 

 

「二人仲良く潰れてやがる」

 

 耳にぼやけた笑い声が木霊する。

 今何をして……そうだ、冒険者ギルドに来たらアレクと鉢合わせてなぜか一緒に飲むことになって……だめだ、頭が回らない。

 身体が火照る……胸が苦しい……

 

「この赤髪の兄ちゃんも強かったが、流石のバロックには……っんな!?」

 

 ヴィリアは無意識にコートのボタンを外し、脱ぎ始めていた。

 ヴィリアの横に座っていた男がいち早くその異次元の曲線美に気づき声を上げる。

 

「こいつ女だったんか!?……ッロすぎんだろ」

 

 襟元から露わになった唇は酷く艶々しく、魔力さえ感じさせる。

 酔いが回り、熱気の籠った息遣いはその場の男衆を瞬く間に魅了した。

 

「熱い……」

「「「おぉ……」」」

 

 背もたれにもたれかかり、強調されたヴィリアの胸部に男達は歓声を上げる。

 

「……ちょっとだけ、な?無言は肯定ってことで……」

 

 我慢ならないというように男達はその魅惑の身体へ手を伸ばす。

 

「うっひょ――ガ」

 

 四方からやってくる掌……その指先が僅かにでも触れた瞬間、脊髄反射で反応したヴィリアの拳が漏れなく男達に襲いかかり、鼻血を垂れ流して気絶した。

 

「……敵か」

 

 ヴィリアは椅子から立ち上がると、焦点の合っていない目のまま構えを取り出す。

 すると周囲の男共へ無差別に襲い始めた。

 

「ちょまッ!」

「ぐほぇッ」

「く、くるなあああああ」

 

 暴走するヴィリアの拳……誰にも止められないかと思われたが、ある男の手がそれを止めた。

 

「そこまでだ。落ち着け」

 

 無精髭を生やした茶髪の男だった。

 酔いが回った頭に男の声が響く。

 するとヴィリアは満足したように、身体の力を抜いて男に体重を預けた。

 

「この美女は俺が介抱しとくから、飲んでていいぜ」

「ん?あぁ、助かる」

 

 男に肩を抱かれ、どこかへ連れてかれているのがわかる。

 

「色んな意味でとんでもねぇ美女だったな……つか、あの髭面誰だ?冒険者じゃねえよな」

「最近噂の、ここらの酒場にふらっと現れては野郎共と酒飲んで終いにゃ女持ち帰ってくって奴のことじゃねえか?」

 

 喧騒が穏やかになり、少し冷静になった男達の声が遠くから聞こえるがよく聞き取れなかった。

 外気に触れ、外に出たのがわかる。

 さっきから随分と歩かされているのはわかるが、どこへ連れてかれているのか分からない。

 風が肌を撫でる感覚がなくなった……室内に入った?

 だんだん意識が鮮明になってきた……楽な体勢……背中に感触がある……横になっている……?

 うっすらと目を開いてみると、知らない天井がぼやけている。

 やはりベッドに寝かされているらしい。

 ここは宿か……?

 顔を横に倒してみると、ぼやけた人影が蠢いている。

 

「お、目覚めたか」

 

 だんだん輪郭が帯びてくると、上裸となり引き締まった肉体を晒した男がズボンを脱いでいるのがわかった。

 ん?ズボンを脱いでいる?

 

「今日は飲みだけのつもりだったんだがな。とんでもねぇ収穫だ」

 

 パンツ一丁となった男がこちらを覗いている。

 ……貞操の危機というやつか?




れたれたす もくもっと
様方!10評価ありがとうございます!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。