なるべく最低でも週一ペースで投稿したいのですがまとまった時間が取れず久々の投稿となってしまいました。牛歩も牛歩ですが、長い目で読んでくださると助かります。
度々行っている改稿に関しては、読み返したときに描写が不十分だなと感じた箇所に加筆修正していまして内容に変更はないよう努めていますので読み返す必要はないです。
アレクが薬草採取の依頼を熟しギルドへ成果を持ってきたとき、そこに冒険者は誰一人いなかった。
受付嬢から聞いた話だが、緊急事態により街の全冒険者は東門に招集されているらしい。
大分出遅れてしまったが東門へ向かって足を進める。
人々で賑わうこの街では中々全速力を出すことはできない。
聞けば、かなりの緊急事態らしい。
行き交う人々の笑顔は今身を粉にして奮闘している冒険者の存在故なのだろう。
急がなければ……
そんな時、どこかで見たような顔をした無精髭の男が驚いた顔でこちらを見ているのに気づいた。
「あ?」
こいつは昨日の酒場にいた……確か潰れたヴィリアの介抱をしたとかいう……
「なんでお前、ここにいやがる」
招集がかかっているのに未だ街中にいることについてだろうか。
そんなこと言ったら……
「そんなこと言ったらあんただってなんで東門へ向かってないんだ」
「ん?あー……そもそも俺冒険者じゃねえし。ところでお前、勇者だろ」
「そうだが、今はこんなところで道草を食っている暇はない」
「やっぱりそうだよな。ちと誤算だがまぁ、ロドスの尻拭いでもしてやるか」
なにか独り言を呟く男の横を通り過ぎ去ろうとしたところ、脇腹に突き刺さるような痛みが広がった。
いや、実際突き刺さっている……ナイフが。
「……なに、して…………」
刃を引かれないよう、ナイフを握る男の手を強く掴む。
そして剣の柄に手を置き、抜き放った刃を男の首へ振ると男は後ろへ飛び回避した。
味覚を支配する鉛の味。
腹に突き刺さったナイフを引き抜き、地面に捨てる。
賑わいを見せていたはずの街中は突如殺伐たる風景へと変貌し、人々は悲鳴を上げて逃げ惑い始めた。
「流石に不意打ちだけじゃ仕留めきれねぇか。まぁロドスが仕留め損なったくらいだしな」
男はどこからかまたナイフを取り出すと、こちらへ投げつけると思いきや別方向へナイフを飛ばす。
その矛先は逃げ惑う市民の背中へ向いている。
「ッ!」
咄嗟の反応で駆け、矛先が市民へ届くより先にナイフを剣で弾く。
そうやってできた隙は致命的だった。
男はアレクの背後からナイフの切っ先を突き刺しにかかる。
アレクは間一髪で体勢を低くして躱し、距離を取った。
無理に躱したせいで関節が痛む。
「……汚い戦い方だな」
「使えるもんは全部使うのが俺のやり方だ」
気づけば男の目に白目はなく、黒く染まっていた。
「……!魔人だったのか」
今この街に実力者はいない。
この侵入者の相手ができるのはアレクただ一人だった。
冒険者は主に魔物の処理を生業としており、ある程度の経験を積んだ者なら、各魔物の急所や警戒すべき攻撃など知り尽くしている。
対魔物に関していえば、紛うことなきプロフェッショナルだ。
そんな彼らが、謎の面布をつけた魔物の大群に抵抗する術もなく蹂躙されている。
戦場は地に伏した冒険者らの骸で埋め尽くされ、血の海が絶えない。
戦況は決して優勢とは呼べなかった。
レディシュ達使徒がいるからこそ均衡を保てているだけであり、彼らの誰か一人でも欠ければ、その瞬間に瓦解しかねない危うさを孕んでいる。
彼らの奮闘により少しずつだが、数は減っていっている。
この調子なら……ん?あれは……レディシュ=エーデルワイス?
血飛沫が舞う戦場の只中で、一人だけ時間が止まったように立ち尽くす紅蓮の髪があった。
レディシュ=エーデルワイス。
剣は握っている。
だがその切っ先は地を向き、長い前髪が表情を隠している。
彼女ほどの強者が、なにか不調だろうか。
そんな無防備にしていては当然魔物が黙ってはいない。
抉れた腹部から臓器を垂らしたオークが棍棒を振り上げ彼女へ迫ってきていた。
助け……は、いらないか。
青髪の青年――使徒だろう――が棍棒を弾き、そのままオークを一刀に伏す。
「レディシュさんが隙を晒すなんて珍し……ぇ……?」
青年の振り返ろうとする動きが止まる。
困惑と驚愕に見開かれた目の先が自身の左胸へ落ち……そこには胸を貫く鮮血を着た白刃の切っ先が。
彼の背後にいるのはやはり……
「レディシュ……さん……?」
やがて青年は意識を失い、地へ身体を叩きつけ倒れる。
どういうことだ……彼女は味方のはずでは……
予想もしない出来事に唖然としていると、戦場を駆ける足音が近づいてきていた。
その紅髪を見た瞬間、ヴィリアの思考が止まる。
そこにいるはずのない人物が、魔物の群れを割って現れたからだ。
レディシュ=エーデルワイス……?いや、それなら今味方を刺した
レディシュは剣を構え、レディシュへ剣を振る。
だがその直前、三体ほどの魔物が肉の盾の如く彼女の前へ現れる。
レディシュが三体をまとめて切り裂くが、倒れた魔物の向こうではもう一人のレディシュが距離を取って剣を避けていた。
「スタンピードはなんの引き金もなしに起こり得ない。貴様が引き起こしたのだな?」
鏡写しを前にしたようにレディシュが問いかけると、彼女の姿をしたなにかは愉快そうに口を歪める。
「いえいえ、とんでもありません。彼らは私から勝手に逃げただけですよ。……まぁ利用させて貰いましたが」
戦場を駆け回っていた使徒達は今、ここに集結していた。
取り囲むようにして、レディシュ含め五人の使徒とヴィリアが彼女の写しへ睨みを利かせて臨戦態勢に入っている。
空気が張り詰める。
こいつがこの厄災の元凶に違いない。
一人一人が極めて手練れである使徒らに包囲され、逃げ場もなくただ死を待つことしかできないように思われたが……
その僅かな挙動に皆警戒を強めた。
女は自らの顔へ静かに手を添える。
そこには何もない。
——そう見えていた。
指先が何かを摘み上げ、そのままゆっくりと引き剥がした瞬間、それまで誰一人として認識できていなかった面布が現れる。
贋物が面布を引き剥がしていくにつれ、レディシュそっくりだった姿が変貌していく。
誰一人として認識できていなかった面布の下から現れたのは、息を呑むほど整った女の顔だった。
雪のように白い肌に、血を溶かしたような唇。
整いすぎた顔立ちは人形のようで、目だけが底なしの黒で塗りつぶされている。
「やはり魔人……それも
その美貌は美しくありながら、果てしない悍ましさを孕んでいる。
「この生きた屍共も、貴様の仕業というわけだな。貴様が死ねば、こいつらも動かなくなるのか?」
「さあ?どうでしょうね」
「そうか。まあ物は試しだ」
レディシュの足が踏み込まれた瞬間、その場にいる誰もが理解する。
攻撃の合図だと。
一斉に女魔人へ襲いかかる拳や刃先……
「「「「「ッ!」」」」」
だがそれが魔人へ届く直前、彼らは咄嗟にその場を退いた。
刹那、女魔人を中心に巨大な拳がそこへ墜落する。
あれは……レディシュが仕留めたはずのタイタン。
あったはずの断面は縫い目を浮かべて結合されており、やはり顔には面布が貼られている。
退いていなかったら皆あの拳に潰されていたことだろう。
――『炎天』
レディシュの炎を纏った横薙ぎの剣が再びタイタンの身体を裂くとその身体は大きな衝撃と共に崩れ落ちる。
墜落した拳により舞い上がっていた土煙がタイタンが崩壊することで更に一層のものとなった。
暫く視界の制限された時間が続き……ようやく土煙が晴れる。
するとそこに女魔人の姿はない。
「どこに……」
砂煙が晴れるが、そこに魔人はいない。
……いや。
レディシュの眉が僅かに動く。
「待て」
五人。
ここにいるはずの使徒は全員で、五人。
そのはずだ……だが。
見当たる使徒を数えてみる。
一、二、三、四、五——
……六。
生き写しの使徒が一人、ここにいる。
「てめぇ、次は俺に擬態か!!」
「は!?お前が擬態してんだろうが!本物ぶってんじゃねぇぞ!!」
緑髪の男だ。
互いに剣を構え対峙している。
「おい待て!俺じゃねぇ!!」
「おいおいギース、偽モンはあっちだぜ!?」
四人の使徒がそれぞれ二人ずつ男の首へ刃を突きつけるが、どっちが本物か検討がつかなかった。
「ニブイチか。ならどっちも斬りゃいい」
大太刀を手にする使徒、ソウイチは刀を振り抜く構えをとる。
「おいてめぇ!ざけんなよ!!」
「待てソウイチ!魔物の相手もいる。戦力は減らしたくない」
「あぁ、ノアの言う通りだ。それに大事な仲間だ」
今にも刀を振ろうとするソウイチをノアという男とレディシュが制止した。
上手く撹乱させられたな。
使徒が魔人の相手をしている限り、魔物による冒険者達の犠牲は増えていっている。
苦戦しつつも彼らが足止めしてくれているおかげでこの魔人に専念できているのだ。
この掻き乱された状態で奴ら魔物まで相手するとなれば敗色濃厚。
一刻も早くこの魔人を仕留めなければならない。
だがこの状況……どうしたものか……
「ガイア!!」
ギースと呼ばれた男が声を上げる。
緑髪のこの男はガイアと言うのか。
「昨日の風俗で指名した子の名前は!!」
「!……ッアリサちゃん!!」
二人いる男のうち、ギースの目前にいる方の男が逡巡を挟んだ後声を上げた。
「ッチ」
声を上げなかった方の男は魔物の群れの中へ逃げ出す。
逃げながら男が面布を剥がすと、その後ろ姿はやはり女魔人のものへと変貌した。
「逃がすな!!」
魔物で溢れ返っている戦場は視界が優れない。
魔人の姿が魔物の影に隠れては現れ、隠れては現れ……邪魔極まりない魔物達を避けつつ、使徒の彼らは魔人を追う。
彼らの脚力は並大抵のものではない。
それに対し女魔人は能力の厄介さと引替えに身体能力はそれほどであるのか、まもなくレディシュは魔人の背中を捉える。
そして魔人の前には回り込んだ三人の使徒が現れ……レディシュの剣が魔人の背中を突き刺すのと同時に、他三つの刃が魔人の身体を串刺しにした。
白目を剥き、吐血する魔人。
そして四つの刃がいっぺんに引き抜かれると魔人は膝をつき、力なく倒れた。
「ふー……ギースてめぇ!恥かかせやがって」
「仕方ないだろ、ああするしかなかった」
「他にもなんかあったろ!!いっそ刺し違えられた方がマシだったわ!!」
トドメの瞬間、ヴィリアは魔物に足止めを受けていた。
遅れてやってきたヴィリアは倒れた魔人の元へしゃがみ込み……どこか不自然なものにいち早く気づく。
「……まだだ」
ヴィリアは地面に伏す魔人の顔へ手をやり、虚空を掴み、剥がす。
「「「「!!」」」」
女の輪郭が溶けるように崩れ、ミルクティーベージュの長い髪が短くなり、白い肌は日に焼けた男の肌へ変わっていく。
そこへ倒れていたのは使徒ノアの姿だった。
「ノア!?」
「アイツ、こんな芸当まで……」
「それでは本物はどこに……ッ!!」
レディシュの一言で皆なにかに気づいたように目を見開き、咄嗟に互いから距離を取る。
「魔人は……」
「あぁ……この中だな」
四名の使徒とヴィリアは互いを牽制しながら、構えを取っている。
この場にいる者はソウイチ、ギース、ガイア、レディシュ、そしてヴィリアの五人。
誰もがこの中に魔人がいることを直感していた。