なるべく最低でも週一ペースで投稿したいのですがまとまった時間が取れず久々の投稿となってしまいました。牛歩も牛歩ですが、長い目で読んでくださると助かります。
度々行っている改稿に関しては、読み返したときに描写が不十分だなと感じた箇所に加筆修正していまして内容に変更はないよう努めていますので読み返す必要はないです。
冒険者は主に魔物の処理を生業としており、ある程度の経験を積んだ者なら、各魔物の急所や警戒すべき攻撃など知り尽くしている。
対魔物に関していえば、紛うことなきプロフェッショナルだ。
そんな彼らが、謎の面布をつけた魔物の大群に抵抗する術もなく蹂躙されている。
戦場は地に伏した冒険者らの骸で埋め尽くされ、血の海が絶えない。
使徒の彼らでさえ、息を切らし始めている。
雑魚のはずの魔物でさえ強さは一級冒険者並み。
そんなのが際限なくうじゃうじゃと。
……最初からフルスロットルでかからなければ足を掬われるだろう。
――『
地を蹴った瞬間、轟音が爆ぜる。
ヴィリアの音速を超えた速度は空を切り裂き、遅れて爆風の音が戦場を轟かす。
蹂躙する側のはずだった魔物達は、ヴィリアの手によって瞬く間に葬られていった。
返り血が自身を汚していくのを厭わないまま、ヴィリアは駆ける。
駆けて、駆けて、駆け抜け……返り血がヴィリアを染め上げた頃、戦場の魔物は半分ほどに数を減らしていた。
「……ッはァ……!」
激しすぎる心臓の鼓動に思わず右手で自身の左胸を握りしめる。
「流石に……ッ疲れるな……」
絶え間なく流れる血流。
活性化した身体の全細胞。
漲る全身の筋肉。
極限まで研ぎ澄まされた五感や神経。
それらを一度に知覚しているのだ。
この能力の過度な使用は、流石のヴィリアといえど聖女の力が肉体そのものを削っているのを自覚せざるをえなかった。
一息ついたものの、まだ魔物の半数が使徒らを手こずらせている。
少しずつだが、数は減っていっている。
この調子なら……ん?あれは……レディシュ=エーデルワイス?
戦場の中、紅蓮の髪をした使徒が俯いて突っ立っている。
剣を力なく持ち、顔に影を落としているが……彼女ほどの強者が、なにか不調だろうか。
そんな無防備にしていては当然魔物が黙ってはいない。
抉れた腹部から臓器を垂らしたオークが棍棒を振り上げ彼女へ迫ってきていた。
助け……は、いらないか。
青髪の青年――使徒だろう――が棍棒を弾き、そのままオークを一刀に伏す。
「レディシュさんが隙を晒すなんて珍し……ぇ……?」
青年の振り返ろうとする動きが止まる。
困惑と驚愕に見開かれた目の先が自身の左胸へ落ち……そこには胸を貫く鮮血を着た白刃の切っ先が。
彼の背後にいるのはやはり……
「レディシュ……さん……?」
やがて青年は意識を失い、地へ身体を叩きつけ倒れる。
どういうことだ……彼女は味方のはずでは……
予想もしない出来事に唖然としていると、戦場を駆ける足音が近づいてきていた。
その紅髪を見た瞬間、ヴィリアの思考が止まる。
そこにいるはずのない人物が、魔物の群れを割って現れたからだ。
レディシュ=エーデルワイス……?いや、それなら今味方を刺した
レディシュは剣を構え、レディシュへ剣を振る。
だがその直前、三体ほどの魔物が肉の盾の如く彼女の前へ現れる。
レディシュが三体をまとめて切り裂くが、倒れた魔物の向こうではもう一人のレディシュが距離を取って剣を避けていた。
「スタンピードはなんの引き金もなしに起こり得ない。貴様が引き起こしたのだな?」
「いえいえ、とんでもありません。彼らは私から勝手に逃げただけですよ。……まぁ利用させて貰いましたが」
鏡写しを前にしたように会話するレディシュ。
戦場を駆け回っていた使徒達は今、ここに集結していた。
取り囲むようにして、レディシュ含め五人の使徒とヴィリアが彼女の写しへ睨みを利かせて臨戦態勢に入っている。
空気が張り詰める。
こいつがこの厄災の元凶に違いない。
一人一人が極めて手練れである使徒らに包囲され、逃げ場もなくただ死を待つことしかできないように思われたが……
その僅かな挙動に皆警戒を強めた。
掌は顔の前で何もない
すると、先程までなにもなかった――いや認識できていなかったのか?――はずの贋物の顔に面布が貼り付けられていたのがわかった。
贋物が面布を引き剥がしていくにつれ、レディシュそっくりだった姿が変貌していく。
誰一人として認識できていなかった面布の下から現れたのは、息を呑むほど整った女の顔だった。
雪のように白い肌に、血を溶かしたような唇。
整いすぎた顔立ちは人形のようで、目だけが底なしの黒で塗りつぶされていた。
「やはり魔人……それも
その美貌は美しくありながら、果てしない悍ましさを孕んでいる。
「この生きた屍共も、貴様の仕業というわけだな。貴様が死ねば、こいつらも動かなくなるのか?」
「さあ?どうでしょうね」
「そうか。まあ物は試しだ」
レディシュの足が踏み込まれた瞬間、その場にいる誰もが理解する。
攻撃の合図だと。
一斉に女魔人へ襲いかかる拳や刃先……だがそれが魔人へ届く直前、彼らは咄嗟にその場を退いた。
刹那、女魔人を中心に巨大な拳がそこへ墜落する。
あれは……レディシュが仕留めたはずのタイタン。
あったはずの断面は縫い目を浮かべて結合されており、やはり顔には面布が貼られている。
退いていなかったら皆あの拳に潰されていたことだろう。
――『炎天』
レディシュの炎を纏った横薙ぎの剣が再びタイタンの身体を裂くとその身体は大きな衝撃と共に崩れ落ちる。
墜落した拳により舞い上がっていた砂埃がタイタンが崩壊することで更に一層のものとなった。
暫く視界の制限された時間が続き……ようやく砂埃が晴れる。
するとそこに女魔人の姿はない。
「どこに……!ん?」
レディシュと同時にヴィリアにも違和感が走る。
その場にいた使徒の数は五名だった。
だが今見当たる使徒の数は六名……
そして一人、生き写しの使徒がここにいる。
「てめぇ、次は俺に擬態か!!」
「は!?お前が擬態してんだろうが!本物ぶってんじゃねぇぞ!!」
緑髪の男だ。
互いに剣を構え対峙している。
「おい待て!俺じゃねぇ!!」
「おいおいギース、偽モンはあっちだぜ!?」
四人の使徒がそれぞれ二人ずつ男の首へ刃を突きつけるが、どっちが本物か検討がつかなかった。
「必要な犠牲だ。どっちも殺しゃいい」
「おいてめぇ!ざけんなよ!!」
「待てソウイチ!魔物の相手もいる。戦力は減らしたくない」
「あぁ、ノアの言う通りだ。それに、大事な仲間だ」
無慈悲に刀を振ろうとする男……ソウイチをノアという男とレディシュが制止する。
上手く撹乱させられたな。
使徒が魔人の相手をしている限り、魔物による冒険者達の犠牲は増えていっている。
苦戦しつつも彼らが足止めしてくれているおかげでこの魔人に専念できているのだ。
この掻き乱された状態で奴ら魔物まで相手するとなれば敗色濃厚。
一刻も早くこの魔人を仕留めなければならない。
だがこの状況……どうしたものか……
「ガイア!!」
ギースと呼ばれた男が声を上げる。
緑髪のこの男はガイアと言うのか。
「昨日の風俗で指名した子の名前は!!」
「!……ッアリサちゃん!!」
二人いるうち、ギースの目前にいる方の男が逡巡を挟んだ後声を上げた。
「ッチ」
声を上げなかった方の男は魔物の群れの中へ逃げ出す。
逃げながら男が面布を剥がすと、その後ろ姿はやはり女魔人のものへと変貌した。
「逃がすな!!」
魔物で溢れ返っている戦場は視界が優れない。
魔人の姿が魔物の影に隠れては現れ、隠れては現れ……邪魔極まりない魔物達を避けつつ、使徒の彼らは魔人を追う。
彼らの脚力は並大抵のものではない。
それに対し女魔人は能力の厄介さと引替えに身体能力はそれほどであるのか、まもなくレディシュは魔人の背中を捉える。
そして魔人の前には回り込んだ三人の使徒が現れ……レディシュの剣が魔人の背中を突き刺すのと同時に、他三つの刃が魔人の身体を串刺しにした。
白目を剥き、吐血する魔人。
そして四つの刃がいっぺんに引き抜かれると魔人は膝をつき、力なく倒れた。
「ふー……ギースてめぇ!恥かかせやがって」
「仕方ないだろ、ああするしかなかった」
「他にもなんかあったろ!!いっそ刺し違えられた方がマシだったわ!!」
トドメの瞬間、ヴィリアはいなかった。
遅れてやってきたヴィリアは倒れた魔人の元へしゃがみ込み……どこか不自然なものにいち早く気づく。
「……まだだ」
ヴィリアは地面に伏す魔人の顔へ手をやり、なにかを掴み、剥がす。
「「「「!!」」」」
すると女魔人の姿は変貌していき……そこに倒れていたのは一人の使徒だった。
「ノア!?……こんな芸当までできるとは……」
「俺達は仲間を手にかけたってのか……チッ、胸糞わりぃ」
「それでは本物はどこに……ッ!!」
レディシュの一言で皆なにかに気づいたように目を見開き、咄嗟に互いから距離を取る。
「魔人は……」
「あぁ……この中だな」
四名の使徒とヴィリアは互いを牽制しながら、構えを取っている。
この場にいる者はソウイチ、ギース、ガイア、レディシュ、そしてヴィリアの五人。
誰もがこの中に魔人がいることを直感していた。