TS聖女は男装がバレたくない!   作:門邪

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兄妹

 暗闇の中、人の形をした影が強く光を放っている。

 それがかけがえのないもののような気がして、手を伸ばす。

 だが届かない。

 光は更に遠くなっていき、次第に姿が見えなくなっていった。

 

「……リア!!」

 

 微睡みから目を覚まし、アレクは体を起こした。

 ここは……保健室か。

 

「びっくりさせないでくださいまし!」

 

 周りにはキルシェ、レイナ、カルミアの三人が驚いた顔をしてこっちを見ている。

 突然起きたから驚かせてしまったらしい。

 そういえば、気を失ったのだと思い出す。

 

「リアは……リアはどこに!?」

「リアさんなら、シグレさんに連れられて学校を出ましたよ」

「シグレ……?」

 

 シグレ=クロウゴード……彼女とリアは知り合いだったのか。

 しかしせっかくまた会えたのに、何を寝ているんだ……

 

 

 

 

 

「ヴィリア、今日はどこへ行こうかしら」

「寮」

「そうね、好きに街を歩きましょ」

 

 シグレに連れられ、学園を出て再びエストレヤの街へ来ていた。

 やはりこの姿は慣れない……股下はスースーするし、この胸部の巨大な物体のせいで足元はまともに見れない。

 周りからは絶えず気色の悪い視線を感じる。

 今すぐ寮へ帰りたいところだが、シグレに男子制服を人質に取られているのだった。

 

「すごい人集りだな」

「あれは……ッ」

 

 街を歩いていると、何かに群がるように大衆が出来上がっていた。

 それも全員が女性。

 人々の隙間からなんとか見えたその中心には紫髪の男が立っている。

 あの服は……使徒か。

 著名な使徒なのだろう。

 興味をなくし人集りを後にしようとしたとき、その男と目が合った。

 すると男は人の波をかきわけこっちに向かってくる。

 

「あんさん、名前なんていうん?」

「は?」

 

 目の前にやってきた男はヴィリアの顎に手を置く。

 訛りを感じさせる喋り方。

 突然馴れ馴れしく聞いてくる男に思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

「俺はゲンヤ。ゲンヤ=クロウゴードっちゅうで」

 

 切れ長な目に、整った顔立ち。

 近くで見ると女性ファンがいるのも納得な顔だ。

 

「ほぉん……こない俺のタイプな子おらんて」

 

 ゲンヤはヴィリアの頭のてっぺんからつま先に至るまで舐めるような目を向けてくる。

 悪寒で鳥肌が立ちそうだ。

 

「ヴィリアから離れなさい」

 

 シグレは今にも殺しにかかりそうな顔でゲンヤの後頭部に刀の切っ先を向けた。

 

「ん?シグレちゃんやんか!元気しとった?」

 

 後ろに目をやり、シグレを見つけるとゲンヤは驚いた顔をする。

 知り合いか?

 

「ますます綺麗になりよって……でも、兄に向かってその態度……図ぅ高いわ」

 

 シグレの手から刀が飛んで行った。

 ゲンヤが目にも留まらぬ抜刀で弾き飛ばしたのだ。

 シグレの刀が壁に当たり、音を立てて落ちる。

 あのシグレが、瞬く間に無力化されている……

 急な殺伐とした空気に、周りの人々は逃げていった。

 

「お前が家出て行って、親父も困り果てとったで?大人しくガキこさえとればええっちゅうに」

「あそこに帰るつもりはないわ。それよりそのみっともない喋り方、恥ずかしいからやめてもらえる?」

「こちとらこっち来て短いねん。勘弁したってや。それより」

 

 こちらに向き直り、近づいてくる。

 

「ヴィリアちゃんっちゅうねんな?こない怖い女置いて俺とデートしようや」

「離れなさいと言ってるのよ!!」

 

 刀を失ったシグレはゲンヤの背後から顔へ蹴りを飛ばす。

 

「くっどい。いっぺんしねや」

 

 左腕でそれを防御したゲンヤは腰の鞘に収まっている刀の柄に手を置く。

 そして振り向きざまに抜刀した。

 恐ろしく速い一閃がシグレを襲う。

 

「……やるやん、ヴィリアちゃん」

 

 黒手袋を着けた手でシグレの脇腹へ迫る刃を食い止めた。

 

「ヴィリア……」

「さっきから目つきが気色悪い。消えろ」

「あら嫌われてもうた?悲しいなぁ――」

 

――ブー、ブー

 

 対峙していると、ゲンヤのポケットからバイブ音が鳴った。

 

「チッ……タイミングどうにかせぇや。そんじゃヴィリアちゃん、またな」

 

 ゲンヤは踵を返し、電話機を耳に当て誰かと会話しながらどこかへ去って行った。

 

「……冷めたわね。帰りましょう」

 

 その日、寮に帰っても珍しくシグレの悪魔っぷりは顔を見せないのだった。

 

 

 

 

 

「――ふッ!」

 

 一心不乱に刀を振るう。

 日が昇って日が沈むまで、何度も何度も。

 私の実家は男尊女卑を地で行くような家だった。

 女は男を支えるために存在する。

 そんな教育を当たり前のように施してくる。

 反吐が出そうだった。

 だから家出した。

 一人で異国を生き、強くなった。

 そう思っていた。

 あの日、私は兄、ゲンヤに手も足も出なかった。

 挙句にはヴィリアに守られる始末。

 守られる立場の人間が対等に人を愛せるはずがない。

 忸怩たる思いが溢れ出し、歯ぎしりをする。

 その度に刀を振った。

 

「ハァ……ハァ…………」

 

 ただ力を求めて――

 

 

 

 

 

 賑やかな教室の中、空席となっている席を眺める。

 あの日以来、シグレは学園を休んでいる。

 兄に会ったことが関係しているのだろうか。

 ヴィリアとしては、鬱陶しい思いをすることがなくなったので楽ではあるのだが。

 

「ぐへ……ぐへへ……」

 

 最近アンバーの様子もおかしい。

 しょっちゅう鼻の下を伸ばして妄想に耽っているような顔をするのだ。

 

「おい、最近ただでさえ気持ち悪い顔が更に気持ち悪いぞ」

「いや泣くぞ」

「なんかあったのか?」

「それを聞いちまうかぁ?」

 

 するとアンバーは待ってましたと言わんばかりの顔をした。

 

「あれは水泳部の着替えを覗き見しようとしているときだった」

「導入から気持ち悪いな」

「俺は恋に落ちたんだ。更衣室から飛び出てきたタイツの女の子に」

 

 ……嫌な予感がしてきた。

 

「……どんな子なんだ」

「身体付きから美貌までとにかくえげつない子だった……髪は黒髪で、そうだな、ちょうどヴィリアくらいの長さだったな」

 

 間違いない。

 ヴィリアだ。

 急にアンバーはじーっとこちらを見つめてくる。

 まさかバレたか……?

 

「見れば見るほど一緒の髪だな……だがなんだ、美しさが違う。あの子の髪はもっとこう、輝いてた」

 

 節穴で助かった。

 

「ここんとこ俺の頭はあの子でいっぱいでよ、何回あの子の妄想で抜いたか分かんねえよ」

 

 ヴィリアの身体が固まる。

 

「まずキスだろ?舌を絡めて発情させたらもう濡れ濡れでよ、密着したり互いの手を握り合いながら愛し合ったり、赤ちゃんプレイもしたな。もちろんSMプレイも。やべ勃ってきた……ってなに震えてんだ?」

 

 違う、実際の話じゃない。

 全てこいつの妄想だ。

 なのに……とんでもない辱めを受けた気分になるのはなぜだ……

 

「そんなことするわけないだろ……ッ!お前なんかに……!!」

「あ、あぁ、なに怒ってんだ?」

 

――ガラガラッ

 

「ネネ、ふっかーつ!!」

 

 突如勢いよく教室のドアが開かれたと思えば、ネネが元気いっぱいに入ってきた。

 

「こらネネさん、乱暴に開けたらだめですよ?」

「いいのいいの!ずっとこうしようと思ってたんだも……ん……」

 

 ふとネネと目が合った。

 するとすぐにカルミアの背後に隠れ、小動物のように威嚇してくる。

 

「ガルルルルル!」

 

 随分怖がられてしまったようだ。

 

 

 

 

 

「アレクー!見て見て!!」

 

 ネネは自身の何十倍もの大きさの魔物の死体を両手に掲げてアレクに見せる。

 今日は課外活動らしい。

 魔物が跋扈する山へやって来ていた。

 

「いやいやおかしいだろあいつらが異常なだけで俺ら一般生徒にはスパルタが過ぎるだろうが!」

 

 アンバーはヴィリアの腕にしがみつきながらガクガク震えている。

 この山は通称魔の山。

 普通は立ち入り禁止区域とされている場所だ。

 

「みんな!俺たちから離れないでまとまっててくれ!」

 

 クラスメイトはアレク達の後ろに隠れながら進んでいた。

 戦闘経験の浅い者では到底太刀打ちできないこの場所で、彼らはいとも容易く魔物を蹴散らしている。

 ヴィリアも魔物相手に拳を振りたいのだが、この腕にしがみつかれているせいで自由に動けなかった。

 

「邪魔だ」

「そんなこというなよヴィリアぁ」

 

 振りほどこうと腕を振るがアンバーは頑なに離そうとしない。

 

――ゴロゴロ……

 

「なんだ!?」

 

 突如地響きが鳴り響き、山が揺れた。

 

「みんな!掴まれるものに掴まれ!」

 

 激しい揺れに、クラスメイトは皆樹や根っこにしがみつく。

 アンバーは相変わらずヴィリアの腕にしがみついている。

 いや、これは……

 

「うああああなんだこれ!?」

 

 突如地面から無数の木の幹が生える。

 クラスメイト達は身体中を木の幹に覆われ、拘束されてしまった。

 アレク、レイナ、ネネの三人は咄嗟の反応で回避できたようだが、限りなく飛んでくる木の攻撃に苦戦を強いられている。

 ヴィリアはというと、アンバーが足でまといとなり回避できたはずの拘束に囚われていた。

 

「これは山に擬態した魔物だな……」

「それってこの地面自体魔物ってことか!?うええ気持ち悪!!」

 

 余裕があるのは今のうちだけらしい。

 だんだん拘束の締め付けが強くなってきた。

 クラスメイトは皆助けを求め声を上げている。

 

「みんな!今助け……ぐッ!」

 

 アレクが助けに向かおうとするが地面から飛び出てくる鋭い木の攻撃に足止めを食らっている。

 まずい、このままでは圧死を免れないな……

 そのとき、上空から人の影が降ってきた。

 刀を逆手に持ったその男は、落下速度のままに山へ刃を突き刺す。

 

――『迅雷』

 

 突き刺した箇所からひび割れが広がるように、一瞬、閃光が走った。

 すると山を象った魔物は不愉快な断末魔を上げ、生えていた木々は力なく枯れていった。

 

「おっしゃ、任務完了やな」

 

 男は、ゲンヤ=クロウゴード……奴だった。

 一瞬の困惑がクラスメイトに走るが、現れた男の姿に気づくと、主に女生徒が「本物……」「かっこいい……」などと黄色い歓声を上げ出す。

 

「お?エラい別嬪はんばっかやなあ」

 

 ゲンヤはレイナ達の姿を見つけると彼女達へ近づいていった。

 

「聖シエロ教会のゲンヤ=クロウゴードさんですよね?助けて頂いてありがとうございます。どうしてここに?」

 

 使徒は教会という名の事務所に所属して活動する。

 聖シエロ教会というと大陸三教会と言われる教会のうちの一つだ。

 レイナの問いかけで知ったが、あの男、かなり大物らしいな。

 

「この山に異常個体が出たっちゅう話で成長し切る前に討伐せいゆう任務が下ったんよ。てかその制服……」

 

 レイナの制服を見て、ゲンヤはなにか思い出したような顔をする。

 

「あの子もそんなん着てはったな。なぁ、ヴィリアって子知っとう?」

 

 嫌な予感がする。

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