TS聖女は男装がバレたくない!   作:門邪

7 / 23
邪教

「ヴィリア?彼ならそこに……」

「彼?んー……」

 

 レイナの指先の方向へゲンヤは目を向ける。

 

「……どの子や?」

「あの変わった制服を着てる……」

 

 目が合った。

 ゲンヤはヴィリアの目の前にやって来ると自分の顎に手を当てヴィリアの身体の隅々を観察するように眺め始める。

 

「……」

「んー?ほぉ……うーん…………へぇ」

 

 するとゲンヤは納得したように嫌な笑みを浮かべた。

 

「ちょいとこの子借りてくで」

 

 腕を掴まれどこかへ連れて行かれる。

 クラスメイト達から離れ、陰となっている場所まで来るとゲンヤは足を止めた。

 背中が壁に当たる。

 

「学園じゃそないな格好してはるんやな、ヴィリアちゃん」

「……誰と勘違いしてるんですか」

「誤魔化しても無駄やで」

 

 右腕を壁に押さえつけられ、勝手に髪の毛を手先で弄られる。

 

「探したで?ヴィリアちゃん」

「気安く触れるな」

 

 やはりこの男は気持ち悪い。

 不快感と嫌悪感を込めて睨みつける。

 

「やっぱヴィリアちゃん、ほんまタイプやわ。俺その目ェ大好きやねん。でもええん?」

 

 ヴィリアの股の間を通してゲンヤの膝が壁を突く。

 

「抵抗したらあの子らに言ってまうで?ヴィリアちゃんの秘密」

 

 言いながらゲンヤはヴィリアのコートのような制服のボタンを外していく。

 

「おぉおぉ窮屈そうで可哀想やなぁ」

 

 ヴィリアの大きすぎる胸はさらし程度では隠しきれない。

 限界まで潰したところを身体のラインを見せない上着で隠しているのだ。

 そんな上着から、秘められた身体が顔を出した。

 くびれから腰にかけてのラインは酷く艶めかしく、露になった白のYシャツは今にもはち切れそうである。

 隠されていたその身体は熟成されたかの如く芳醇な色香を放った。

 

「ドエロい身体付きしよって、恥ずかしくないん?」

「……下衆が」

 

 胸を隠そうと動かした左腕は掴まれ、両腕をまとめてゲンヤの片手に拘束される。

 脇を開き、普段見せることのない胸を無防備に晒している現状はヴィリアにどうしようもないやるせなさと屈辱を与えた。

 

「使徒ともあろう者が脅しのつもり……ぐっ……!」

 

 ゲンヤの膝が動き、グリグリとヴィリアの股を擦るように刺激してくる。

 

「どしたん?足ガックガクやで?」

 

 自然とつま先立ちになり、刺激に耐えるように脚をくねらせてしまう。

 

「いい加減……に……!!」

「ちと黙りぃや」

 

 顎を持ち上げられ、ゲンヤの顔が近づいてくる。

 顔を引いて避けようとするが固定されているせいで逃げ場がない。

 互いの唇がもう少しで触れるというとき。

 

「あ、いた!」

 

 現れたのはクラスの女生徒。

 ゲンヤを見つけると顔を輝かせた。

 ヴィリアは女生徒に背を向け、胸元が開いたままの上着を手繰り寄せ胸を隠している。

 肩は上下に動き、息切れしていた。

 

「私、ファンです!サインください!」

 

 女生徒はゲンヤへメモ帳とペンを持って頭を下げた。

 

「……えぇけど、はよどっか行きぃや」

 

 ゲンヤが慣れた手つきでサインを書くと女生徒は「ありがとうございます!」と言いそそくさと帰っていった。

 

「……場所移そか。ついてき」

 

 邪魔が入ったことでゲンヤは少しイラついた顔をする。

 ゲンヤに連れられ、山を下っていく。

 こちらに背を向けて歩くゲンヤを見て何度も考えた。

 殺すか……?

 だが相手は大物の使徒。

 大事にするべきではない。

 とはいえ、これ以上辱めを受けるくらいならばやむを得ないかもしれない。

 ゲンヤから与えられた屈辱はヴィリアにとって殺意にさえ形を変えていた。

 

「どうや、ええ場所やろ」

 

 辿り着いたのは、街に数ある聖堂の中でも一際大きい大聖堂だった。

 中はとても広く、美しいステンドグラスが太陽光の色を変えて七色に室内を照らしている。

 広さの割に人一人見当たらず、静けさが閉じ込められていた。

 

「ここで何をするつもりだ」

「そんなん決まっとうやろ、さっきの続きや……って言いたいとこやけど」

 

 ゲンヤはこの聖堂内に響くように声を上げた。

 

「なに隠れとんのや。出てこんかい」

 

 ヴィリアとゲンヤのみと思われた聖堂内だが、ゲンヤがそう言うと柱の影から一人、見るからに頑強な男が出てきた。

 

「これはこれは、ゲンヤ殿ではありませんか。私、第四騎士団団長を務めておりますカルロス=ヴェルグドアと申します」

 

 髭を蓄えたカルロスと名乗る男は甲冑を身に纏っており確かに騎士そのものの風貌をしている。

 

「現在、我々騎士団はかの犯罪組織『業火』を追っているのですが、この聖堂に奴らの息がかかっているという容疑がかけられておりまして、調査中という次第であります」

 

 『業火』というと人攫い、麻薬、強姦となんでもやるという巨大犯罪組織だ。

 

「これはちょうどいい。ゲンヤ殿のお力添え頂けますと幸いです。是非騎士団領へ同行願います」

「こちとら忙しいねん勝手にやっとれや。それに、まだおるやろ」

「……流石の洞察力で」

 

 すると柱の影から剣を構えた騎士がぞろぞろと現れ始める。

 気づけば取り囲まれていた。

 

「同行頂けないのであれば、こちらで処分する他ありません。犯罪組織『業火』が幹部、ゲンヤ=クロウゴード殿」

 

 カルロスは剣を抜き、構えるとゲンヤへ踏み出そうとする。

 だが何が起こったのか、その剣にはヒビが入り、カルロスは吐血し膝をついた。

 

「ゴハァッ」

「団長!!」

 

 騎士達が一斉にゲンヤへ襲いかかる。

 だがまたしても、理解よりも先に騎士達は血飛沫を上げて倒れた。

 神々しさすら感じる美しさを誇った聖堂内は血に塗れ、瞬く間に惨憺たる惨状へと一変したのだった。

 

「バレてもうたかぁ。大方、最近死んだ幹部のアホから情報漏れとったんやろ。ま、死んどき」

 

 膝をつくカルロスへゲンヤの刀が襲う。

 だがその刃がカルロスに届くことはなかった。

 

「気持ち悪い男だとは思っていたが、正真正銘の悪党だったとはな。おかげで殺す理由ができた」

 

 ヴィリアはカルロスを抱えてゲンヤの間合いから脱していた。

 しかし、様態を見ようとカルロスの方へ顔を落とすと、そこには……

 

「ッ!」

 

 助けたはずのカルロスの首から上がなくなっていた。

 おかしい。

 ゲンヤの刀からは確実に避けたはずだ。

 

「――ほぉ、男のような風貌で身を隠しておるが、妾にはわかるぞ。こやつ、上質な女子(おなご)であろう?」

「!?」

 

 背後から突如声が聞こえ、驚いて振り返ればそこにはヴィリアを食い入るように見る女がいた。

 女性的な身体に、狐のような美貌。

 白髪を腰まで伸ばしたその女は、妖艶という言葉がそのまま人の形をしたような女だった。

 その手には鋭利な扇子と……カルロスの首が。

 ヴィリアは急いで女から距離を取る。

 女とゲンヤに挟まれる形となった。

 この女のただならぬ気配……まさか……魔人か?

 

「おったんかワレ」

「ゲンヤ、珍しく妾へ貢ぐつもりになったか?」

「ちゃうわボケ。ヴィリアちゃんは渡さへんで。俺のもんや」

「ふむ。お主らの組織がここまで拡大できたのは誰のおかげか分かっておるのか?それにここのところ貢物が極端に少なくての。この女子(おなご)を献上するのなら許してやろうと思ったが……そうでないなら契約破棄と見なすぞ」

「……チッ、いっぺん貸すだけや。終わったら返せや」

「終わったらの」

 

 ヴィリアを挟んで会話するゲンヤと女。

 どうやら話が終わったらしい。

 女が近づいてくる。

 

「そんな目するでない。妾にお主を傷つけるつもりはないぞ」

 

 ヴィリアの頬へ女の手が伸びる。

 その手が頬に届く前に女の腹へ拳を振るう。

 直撃したかと思えば、女は霧散するように姿を消した。

 

「落ち着くのじゃ。大人しく妾の腕に抱かれておれ」

「ッ!?」

 

 気づけば女は背後からヴィリアを抱きしめていた。

 腕を振り女へ肘打ちを見舞う。

 すると女は再び霧散し姿を消した。

 

「妾の目を見るのじゃ」

 

 女の両手がヴィリアの頭を包んでいる。

 全てを見透かすような瞳。

 その瞳を見ていると目が離せなくなり、思考力が削がれていく。

 

「そうじゃ、それでよい」

 

 身体が脱力していき、女の胸に倒れ込む。

 まずい、意識が……

 

 

 

 

 

「ふざけるな……!ヴィリアを抱きしめる権利は私だけのものだ!!」

 

 ヴィリアを抱き抱える女へシグレは刀を振り下ろす。

 だがそれはゲンヤの刀によって弾かれた。

 

「シグレちゃんやないか。なにしとるん?」

「それは私の台詞よ。ヴィリアになにをするつもりかしら……!!」

 

 シグレは山修行をしていた。

 ひたすら修行に打ち込んでいた彼女の視界の端に映ったのは山を下るヴィリアとゲンヤの姿。

 殺意のままにシグレは後を追い、ゲンヤの隙を探っていた。

 しかし、この状況は一体……

 

「これはまた上質な女子(おなご)よの。でも妾は今こやつに夢中でな。ゲンヤ、足止めするのじゃ」

「指図すんなや。約束は守るんやぞ」

「構わぬ」

 

 女とヴィリアは霧散するように姿を消していった。

 

「待ちなさ……ッ!」

 

 女の元へ駆けるがまたしてもゲンヤに阻まれる。

 そうしているうちに女とヴィリアは完全にいなくなってしまった。

 今すぐヴィリアの捜索に向かわなくては。

 ただそうするにはこの男を倒す他ないらしい。

 

「さっきの女、魔人でしょう。呆れたわね。犯罪に手を染めていた上に邪教の手先になっていたなんて」

 

 邪教……魔人が実権を握っていると言われている宗教。

 使徒が滅するべき対象。

 

「嫌な言い方せんといてや。元々あった俺ら『業火』を乗っ取ったのがあいつや。組織の奴らは皆あいつの術中にハマって鼻の下伸ばしとるが俺はちゃう」

「大人しく命令を聞いてるあたり、どっちにしろ一緒じゃない」

「あぁ?」

 

 ゲンヤの額に青筋が浮かび、脈打った。

 

「俺が女に従っとるとでも言いたいんか?」

 

 この男は昔から女を心底舐め腐っている。

 聞いた感じ、あの魔人の能力は魅了。

 こいつはその執念とも言える性根が故に能力が効いていないのかもしれない。

 

「そうよ」

「ちゃうわブス。あの女はな、可愛ええ女を好んで眷属にしたがるんや。そんで頼めば眷属の女とヤらせてくれるんやわ。せやから、一旦ヴィリアちゃんをあいつに貸して眷属になってもろてから……」

 

 耐えきれずゲンヤへ袈裟斬りを繰り出す。

 だが綺麗に受け流され、距離を取られた。

 

「それ以上喋るな。殺す」

「アホか?女は男に勝てへんで。お前と俺なら尚更や」

 

 互いに刀を構え、睨み合う。

 待ってて、ヴィリア……

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。