TS聖女は男装がバレたくない!   作:門邪

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ゆめうつつ

 身体が熱い。

 下腹部辺りから身体全体に熱が広がっていくような感覚。

 つい身をよじってしまう程の熱……だが不思議と不快感はなく、むしろじんわりと心地良さに包まれている。

 意識が覚醒し始める。

 うっすらと目を開くと、こちらを覗き込む女が視界に映った。

 

「ヴィリアと言ったかの。目を覚ましたか?」

「……?…………!!」

 

 はっきりしない意識が鮮明になっていく。

 そうだ……この女に眠らされて……

 

「心地よいだろう?よい、そのまま浸っておれ」

「何を、している……!!」

 

 睨みつけようとするが、上手く目に力が入らない。

 ここはどこかの地下だろうか。

 ベッドに寝かされているらしい。

 両手両脚が拘束具で固定されており、上着は脱がされYシャツとスラックスが汗で身体中にへばりついている。

 それにこの開放感……さらしは外されているようだ。

 さっきから息が乱れ、激しく胸が上下している。

 この正体不明の熱に耐えるべく、意図せず内股になりよじってしまったりと身体中が落ち着かない。

 拘束されているせいもあり悶々としたもどかしさが逃げ場なく身体の中に閉じ込められていた。

 

「やはり妾の審美眼に狂いはなかった。いやそれどころか……ヴィリアよ、これ程とは思わなんだ」

 

 女の手がヴィリアの頬に触れる。

 

「この美しさと色気を至極の釣り合いで両立した花の(かんばせ)……そしてこの健康的で暴力的な肢体……」

 

 ヴィリアの曲線美を女の手がなぞる。

 

「……ふ……ッ…………」

「美を誰より理解する耽美主義の妾だからこそ分かる……いや分かってしまう…………お主は妾よりも美しい」

 

 途端、女の顔が冷酷に染まる。

 

「これはあってはならないことじゃ。何百年と美を積み重ねてきた妾が、生まれて10年とそこらの小娘に劣るなど……」

 

 女の手がヴィリアの下腹部を撫でる。

 

「よってヴィリア、お主は何としても妾の眷属となってもらう。妾の眷属が美しいほど妾は美しくなるのじゃ」

 

 熱が生まれる中心……ヴィリアの下腹部には、薄紅色のハート型をした紋様が刻まれていた。

 ズボンもシャツもはだけさせられ、そこだけ露出している。

 

「淫紋が完成するのもまもなくじゃ……仕上げといこうかの」

 

 女の手がヴィリアの頭を包み、吸い込まれそうな勢いを感じさせる瞳がヴィリアの目を覗く。

 

「そのままでよい。妾に全て委ねるのじゃ――なッ!」

 

 至近距離で見つめてくる女へ思い切り頭突きを食らわす。

 

「同じ手は喰らわん」

「な、なぜ効かぬ……!?なッ!?淫紋が……!!」

 

 ヴィリアの下腹部に刻まれた紋様が薄れていく。

 そして消えてなくなると、身体中を渦巻いていた熱も急激に冷めていった。

 力づくで拘束から脱して身体を起こし、女へ蹴りを見舞うが女は霧散し気づけば距離を取られていた。

 

「ありえぬ……既に刻まれた淫紋を拒絶するなど……まさかお主、聖女か!?存在したのか……この時代に……だとしたら、歯車が動き出すぞ……」

「認めたくないことにな。そういうお前、魔人だろ。何者だ」

 

 ベッドから降り女と向かい合わせで立つ。

 

「邪教大司教が一人、ダチュラ=ジャヒー。今、お主が妾の眷属となる運命はしかと定まった」

 

 

 

 

 

――『渦雷影縫(からいかげぬい)

――『狂い咲き』

 

 余りの速さに、刀が何百と増えたかのような錯覚に陥る。

 刀と刀の、鋼のぶつかり合う音が聖堂内に絶え間なく鳴り響く。

 

――『冽雷(さむらい)

 

 上段から降ってくる(いかづち)のような刀を斜めに構えた刀で受け流す。

 

――『鬼突(ほおづ)き』

 

 カウンターとして渾身の突きを放つが身体を翻すことで躱される。

 互いに距離を取ると、ゲンヤは刀を鞘に収め、居合の構えを取った。

 来る。

 

――『紫電 邪夜薙(じゃやなぎ)

――『花影(かえい) 斑裂(むらさ)き』

 

 二つの閃光がぶつかり合い、激しい轟音を放った。

 

「くッ……」

 

 捌くことはできたが、刀を持つ手が酷く痺れる。

 力が抜けて刀を落としそうになるが気合いで握力に力を込める。

 技のぶつけ合いをし始めてどれくらい経っただろうか。

 永劫のように永かった気もすれば、刹那だった気もする。

 ただ分かるのは、渡り合えているということ。

 しかしこの男の抜刀術が厄介すぎる。

 洗練され抜いた一閃に雷鳴のような力が加わることで異常なまでの剣速を得ている。

 

「渡り合えとる、なんて思っとらんよな?」

 

 ゲンヤが冷めた目で見下ろしてくる。

 

「疲れたやろ?そろそろ休みぃや、冥土で」

 

 息を切らすシグレに対し、ゲンヤは涼しい顔で立っていた。

 

「ヴィリアを取り返すまで、休むつもりはないわ」

「ヴィリアちゃんなぁ……そういや大分前、こないな感じでお前と殺し()うたときあったな。思い出すなぁ、カナエちゃんのこと」

「ッ……!!!!」

 

 全身の毛が逆立つほどに激情が湧く。

 頭の血管が切れそうだ。

 

「あの人の名を……口にするな……ッ!!」

 

 カナエ姉さん……シグレが愛してやまなかった人だ。

 幼い頃、慎みを覚えろと言う周りの大人に逆らい刀を振り続けていたシグレに、味方は誰一人いなかった。

 そんなときに出会ったのが彼女だ。

 強かな人だった。

 強いわけでもないのに、どんな相手でも臆することなく意見できる、そんな人だった。

 シグレは憧れた。

 カナエ姉さんのようになると心に誓いながら、刀を振り続けた。

 そんなある日、彼女は目撃してしまったのだ。

 兄、ゲンヤがカナエ姉さんを強姦しているところを。

 その日からカナエ姉さんは以前までの逞しかった影をなくし、男性恐怖症を患い引きこもるようになり、シグレの前に姿を見せることはなくなった。

 幼かったシグレは、怒りのままにゲンヤへ刀を振り、大差で敗北した。

 それからのシグレはいつかこの男を殺すと誓って一層己を研磨してきたのだ。

 

「そろそろ終わりにしよか。あんときみたく無様に、死に晒せや」

 

――天稟『鳴神(なるかみ)

 

 ゲンヤの刀が激しい稲妻に包まれ、帯電する。

 バチバチと音を立てながら刀身を鞘に収め、再び居合の構えを取った。

 この時、この瞬間のために磨き上げてきた技……シグレも刀に渾身の力を込める。

 

――天稟『徒花(あだばな)

 

 ゲンヤの土俵である居合に自ら乗る。

 そしてそっと、刀を鞘に仕舞う。

 お互い聖印は『侍』。

 技量のみが勝敗を分ける。

 集中力を高め、極限に達した瞬間……それは必然か否か、重なる。

 

――『(うわなり)

――『開花』

 

 閃光が交差し、静寂が訪れる。

 

「…………」

 

 暫しの沈黙の後、裂けるような痛みと共に血飛沫が舞った。

 

「女がイキるからこうなるんやで」

 

 床の冷たい感触が頬に伝わる。

 周囲には、自身の鮮血が飛び散っている。

 

「さてと、ヴィリアちゃ……ん?…………う、そやろ」

 

 ピシリ、音を立ててゲンヤの刀がひび割れたと思えば、ゲンヤの脚と胴体がズレ始める。やがてゲンヤの身体は綺麗に真っ二つとなり、倒れた。

 ヴィリア……どうか……無事でいて……

 失われゆく意識の中で、ただ、ヴィリアを想うのだった。

 

 

 

 

 ――『夢幻泡影(むげんほうよう)

 ――『夢騒がし』

 ――『夢の手枕(たまくら)

 

 ダチュラはヴィリアへあらゆる技を際限なく浴びせていた。

 だが……

 

「なぜ効かぬのだ!」

 

 ヴィリアはいくら技を受けようが何の変化もないのだった。

 

「種さえわかれば、もうお前の技が効くことはない」

 

 ヴィリアはダチュラの目の前へ一瞬で迫る。

 拳を見舞うと今度は霧散することなく、鋼でできているであろう扇子を盾にし防御した。

 

「なぜこの位置が……!?」

「お前の能力、幻覚といったところだろう。今まで拳が当たらなかったのは幻覚を相手に殴らされていたというわけだな。いつどのタイミングで催眠状態にされているのかはわからないが、常に回復していれば問題ない」

 

 ダチュラの横っ腹へ蹴りを入れる。

 それにより防御が崩れ、その綻びを見逃すことなく絶え間ない攻撃を浴びせる。

 この魔人の能力は極めて厄介だ。

 だが、戦闘自体は得意ではないらしい。

 幻覚能力さえ攻略してしまえばこっちのものだ。

 

「運が悪いな。俺とお前、相性最悪だ」

 

 トドメの一撃として放ったヴィリアの腕がダチュラの胸を貫く。

 

「……?」

 

 どこか違和感が走る。

 思い返してみれば、今までの打撃の一つも手応えがなかったような……

 致命を免れない一撃を胸に食らいながら、ダチュラの口が動く。

 

――戒術『逆夢』

 

 一つ、瞬きした。

 それを境に、景色が一変した。

 ダチュラの胸を突き刺していたはずの右腕は肩からだらりと垂れている。

 気づけばヴィリアは呆然と突っ立っていた。

 それにどういうわけか、裸だ。

 いつの間に催眠状態に……!?おかしい、さっきから自身を浄化し続けていたはずだ。

 催眠にかかるはずは……

 身体に力が入らず、バランスを崩して前へ倒れそうになったところをダチュラに支えられる。

 なぜか同じく裸のダチュラへ無防備に寄りかかる形となった。

 互いの大きな胸が潰し合う。

 

「この禁じ手を使わされるとはの。聖女の浄化能力といえど、妾の戒術には敵わん」

 

――ドクン

 

 突如心臓が激しく脈打つ。

 それを皮切りに、再びあの熱が身体中を支配し始める。

 先程よりも熱が強く、意図せずダチュラの背中に腕を回し強くしがみついてしまう。

 ヴィリアの下腹部には消したはずの淫紋がさらに色を濃くして刻まれていた。

 

「辛いだろう?もどかしいだろう?藻掻くがよい。これを乗り越えた先で、お主は生まれ変わる」

 

 ダチュラの腕がヴィリアの頭を包む。

 もどかしさと多幸感が身体中を駆け巡っていく。

 そして、何かがせり上がってくるような感覚……行き場のないこの苦悶の終着点のようなものが見えた気がした。

 そこへ辿り着けば、途方もない開放感と弾けるような快感が待ち受けているのがわかる。

 今すぐにでもそこへ行きたい……そんな思いに支配されそうになるが、ヴィリアの中の直感が警鐘を鳴らしていた。

 僅かに残る理性で、なんとか思考を繋ぎ止める。

 取り返しがつかなくなる前に脱さなければ。

 淫紋を浄化しようにも、力が上手く練れない。

 あれを使う他、ない。

 

――天稟『魔滅(まぼろ)し』

 

「!?」

 

 途端、一帯が眩い光に包まれた。

 ヴィリアの身体から聖なる力が放出される寸前、ダチュラは危機を感じ距離を取ったようだが広範囲に渡るこの光に逃れようはない。

 光が晴れ、ヴィリアの目に映ったのは……

 

「ぁぁア!あああアアアアアア!!」

 

 身体全体に酸を浴びたかのように身体が崩壊していくダチュラ……のようなナニカだった。

 美しかった美貌は見る影もなく、しわだらけの醜い老婆のような見てくれに変貌している。

 溶けゆく自身の身体を見て、ダチュラは悲痛の叫びを上げる。

 

「妾の積み上げてきた美が……!!許さん……!この際眷属などどうでもいい!猊下の逆鱗に触れるのは間違いないが、また幾百年と待てば良いもの!!」

 

 ヴィリアの淫紋は消えていなかった。

 ダチュラの腕の中から脱したことで多少楽にはなったが、苦悶は残るばかり。

 秘部を腕で隠しながら、息を乱して立っている。

 そんなヴィリアへ、ダチュラの身体から触手が伸びる。

 

――『聖断』

 

 勢いよく伸びて来ていた触手は動きを止めた。

 ダチュラは、剣を象った無数の光に串刺しにされている。

 ヴィリアの天稟『魔滅(まぼろ)し』は、単に聖なる光を放つだけのものではない。

 光を浴びた者に対し、技を不可避のものとするのだ。

 

「ア……ァ……」

 

 ダチュラの身体が、蒸発するように消えてゆく。

 やがて消えてなくなると、ヴィリアの淫紋もまた同時に消えた。

 腕で秘部を隠したまま、ヴィリアはその場にへたり込むのだった。

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