母港100隻提督奮闘記   作:あかさた改二

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第2話:ファーストコンタクト

 艦砲射撃を終えた俺たちは、硫黄島泊地へ入港した。

朝日が海面に淡く差し込み、まばゆい光が水面と停泊した艦隊を照らす。

 

 目の前に広がる光景は、教科書で見た硫黄島とはまるで異なっていた。

島の西岸には大きな入り江が形成され、そこに整然と並ぶ桟橋、ドック、燃料タンク、弾薬庫、整備用クレーン。

長年ここに存在していたかのように、無駄のない配置で据えられている。

史実の硫黄島に存在するはずのない、い大艦隊運用を前提とした巨大な軍港だ。

 

「この泊地の現状について知りたい。現在この泊地が保有する施設・装備についてまとめた資料はあるか」

 

「こちらに資料があります。所属艦の一覧、および各種生産設備について」

 

 赤城が一冊の資料を差し出した。

表紙には『艦船・生産設備図鑑』『各種資源産出量』と記されている。

 

「ありがとう。下船作業が終わるまでに覚えきる」

 

 俺はページを開き、黙って読み進めた。

所属艦のリストは、ゲームで見慣れた名前が並んでいる。

 

 問題は生産設備だ。

艦これの「建造」「装備の開発」が、現実ではどのような形で機能しているのか。

ここを押さえなければ、長期戦は成立しない。

 

 しばらくして資料を閉じる。

 

「……概ね把握した。ここを拠点に日本軍と連携すれば、アメリカ軍に勝てる可能性はある」

 

 赤城が驚いたようにこちらを見る。

 

「提督は覚えが早いのですね。素晴らしいです」

 

「所属艦については知っていたからな。それに……赤城がうまくまとめてくれたおかげだ。助かった」

 

「提督の旗艦として当然のことです。日本軍との連携もお手伝いさせていただきます」

赤城は胸に手を当てると、誇らしげに微笑む。

 

 

 赤城とともに船を降り、硫黄島に上陸した。

潮と火山灰の臭いを含んだ風が肌を打つ。

 

 噂をすればというやつだろうか、砂煙を上げながら一台の日本軍車両が停まった。

若く体格のいい青年が飛び降り、駆け足でこちらへ近づいてくる。

 

「陸軍硫黄島守備隊・偵察中隊長、柴谷大尉であります!

 連合艦隊による硫黄島救援、守備隊を代表してお礼申し上げます!」

 

 柴谷大尉はきれいな敬礼をすると、真剣な声色で続ける。

 

「失礼ですが、名前と階級をお聞かせください」

 

「名前は田中孝明。階級は大将だ」

 

 胸元の階級章に目をやって答える。

俺の服装はいつの間にか海軍服に代わっていた。

海戦の興奮で気づかなかったが、タイムスリップした際に服も変わっていたようだ。

 

「現在の状況について正確に伝えたい。少し時間をくれないか」

俺は柴谷大尉に呼びかける。

 

「い、いえ……小官は大尉にすぎません。大将閣下と直接お話しするには力不足です。一度本軍へ戻り、司令官をお連れしたいと考えます」

柴谷大尉は恐縮している。

大尉にとって大将は7つも上の階級であり、直接関わることはあり得ないのだ。

 

「わかった。指揮官を連れてきてくれ。これから一緒に戦う仲間と情報を共有したい」

「かしこまりました!」

 

柴谷大尉はもう一度敬礼すると、軍用車に飛び乗り走り出した。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

【硫黄島泊地 提督室】

 

 俺は赤城とともに旧日本軍指揮官とのファーストコンタクトに望んでいた。対面には柴谷大尉が連れてきた指揮官たちが座っている。

 

右に、陸軍第109師団師団長・栗林中将。

左に、海軍陸戦隊指揮官・市丸少将。

硫黄島の陸と海、それぞれの指揮官だ。

 

「陸軍中将、栗林忠道です。連合艦隊の米海軍排除及び、米海兵隊への艦砲射撃に誠に感謝いたします」

 栗林中将が深々と頭を下げる。

 

 俺は首を横に振ると、本題に入った。

 

「単刀直入に言わせてもらいます。私たちは連合艦隊ではありません」

 

「では、どちらの艦隊なのですか」

 栗林中将の眉が困惑したようにわずかに動いた。

 

「未来において日本海軍の戦いを模したゲームをプレイしていました。その中で指揮していた艦隊ごと、1945年の世界に転移したのです。言葉を選ばず話せば、時空漂流艦隊ということになります」

 

「そちらの女性は遊び仲間ということですか」

 

 市丸少将が、俺の隣の赤城へ視線を滑らせた。

赤城は表情を変えず、ただ凛として座っている。

 

「いえ、彼女は艦娘――軍艦の魂を具体化した存在です」

 

「艦娘……」

 

 栗林中将は短く復唱し、思案するように目を閉じた。

 

「栗林中将閣下、にわかには信じられませんぞ。空間転移……そんな空想科学小説のようなことが起きるなど」

 

 市丸少将が啞然(あぜん)とした様子で呟く。

 

「しかし現実に艦隊は存在し、米軍を打倒した。市丸少将、君も存在するはずのない空母『赤城』、『飛龍』を見たんだろう。難しく考える必要はない。例えるなら――『将棋をしていたら、将棋盤の世界に転移した』ということだろう」

 

 栗林中将は、落ち着いた声で言葉を返す。

 

「ですがあまりにも荒唐無稽にすぎます。私が幻覚を見ているのではないかと思ってしまいます」

 

「市丸少将の気持ちもわかりますが、少なくともここに私たちが存在することは現実です。認めていただくためにもこの泊地の施設を案内させていただきます」

 

 俺ははっきり告げると、日本軍の面々を提督室から連れ出した。

 

 

「これほどのものを一晩で作れるはずがない……やはり田中提督の言っていることは本当のようだ」

 栗林中将は息を呑んだまま、建造ドックの巨大な船台群を仰ぎ見ていた。

 

 施設案内の効果は抜群だった。

市丸少将は興奮した様子で、作業員に建造ドックの性能を聞くなど質問攻めにしている。

 

俺自身も胸の奥が熱くなるのを感じていた。

ゲーム画面の中でしか見れなかった光景が、ここには現実として存在している。

 

新たな軍艦を生み出す“建造”ドック。

大和型戦艦さえ建造可能な巨大な船台が連なった姿は圧巻だ。

 

“開発工場”はもはや万能工場と言っていい。

航空機、軍艦の機銃・砲はもちろん、電探、ソナー、バルジ……

艦これで『開発』できた装備は、すべて現実の素材と工程で生産可能となっている。

ここは、太平洋戦争を逆転しうる力そのものだ。

 

 続いて基地航空隊の滑走路へ案内を移そうとしたそのとき、警報音が鳴り響いた。

 

「対空電探に感あり!米軍の偵察機と思われます」

 

 赤城が立ち止まって報告する。

栗林中将の表情が一変した。

 

「田中提督、硫黄島守備隊は航空戦力をもっていない!この大工場が米軍に見つかれば、空襲されてしまうぞ!」

 

 戦場を知るからこその危機感。

事態は一刻を争う!

 

「赤城、戦闘機発艦の連絡を頼む!空母の艦載機と、泊地の基地航空隊で迎撃する!」

 

 俺は即座に指示を出すと、上空を睨みつけた。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

【硫黄島上空:高度6000】

 

「……来やがったな。叩き落としてやる」

 

 空母赤城所属の戦闘機パイロット、篠目少尉は新型戦闘機“烈風”のスロットルを押し込み、空へと飛び出した。

 

 先行していた基地航空隊の零戦tがすでに交戦中だ。

だが米軍の偵察機は脚が速い。零戦隊はじりじりと振り切られかけていた。

 

「絶対に逃がさん!」

 

 烈風が蒼天を裂く。零戦では追いつけぬ速度差を、一気に詰める。

 

 敵機の六時が開いた。

 

「捕まえた」

 

 引き金を引く。翼下の20ミリ機銃が吠え、敵機に火花が走る。

米軍偵察機はもがくように進路を変えるも、遅かった。

黒煙を引きながら、海面めがけて落ちていく。

 

「1機撃墜!俺の目の黒いうちは、島に寄せ付けん!」

 

篠目少尉は叫ぶと、再び警戒空域へと戻った。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「敵偵察機はすべて撃墜しました」

 

 工場に響いた赤城の報告に皆が頬を緩めた。

 

「ありがとう。航空隊によくやったと伝えてくれ」

 

 俺は安堵とともに軽く笑みを浮かべて答える。

 

「見事な空戦でした。田中提督傘下の航空パイロットは腕がいいですね」

 

 栗林中将が目を細めて称賛した。

だが、勝利の余韻は長くは続かなかった。市丸少将が悔しげに唇を噛み、視線を工場群へ向ける。

 

「確かに素晴らしい戦いだった。しかし、殴り込んでくる米軍機の数が増えれば防ぎきれないでしょう。せっかくこれほどの生産設備があるのに……」

 

 俺は黙って前方の風景を見つめた。

鉄と煙の臭い、生産の鼓動がそこにある。硫黄島泊地の工業が集中する場所。

絶対に守る必要がある。

 

「問題は資源地帯・工業地帯であるこの硫黄島泊地が、最前線、敵の航空機が進出できる場所にあることだ」

 

俺は周囲を見渡し、一息に言い切る。

 

「対処法は一つ。米空母機動部隊を殲滅(せんめつ)、米海軍を硫黄島周辺から叩き出す!」




主人公の階級(大将)は艦これ内のプレイヤー称号と同じです。
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