【1945年3月1日 硫黄島泊地 基地航空隊指揮所】
滑走路近くの巨大格納庫には、翼の列が果てしなく連なっていた。
薄闇の中で整備灯が照らすのは、かつて覇者であった零戦、銀色に反射する艦爆、重々しい艦攻――それぞれが数百機規模で並び、今にも飛び立たんと静かに息を潜めている。整備兵たちが最後の点検に走り回り、補給車両が絶え間なく燃料と弾薬を運び込んでいた。
突然指揮所の警報灯が点滅する。
「栗林中将、彩雲より緊急入電!――座標○○付近にて敵艦隊を発見。空母10隻以上、戦艦・巡洋艦も多数の大部隊です」
報告を受けた栗林は、静かに頷く。
「田中提督の艦隊に無線を送れ。『偵察機が米空母機動部隊を捉えた。敵の攻撃は近い』と伝えよ」
通信兵たちが慌ただしく送信作業を開始する。
その最中、島の南方にエンジン音を響かせて数機の輸送機が着陸した。機体から降ろされた装備を見た将兵たちがざわめく。
栗林はわずかに目を細めると再び通信兵を呼び出した。
「追加で無線を送れ。大本営から援軍は来なかったが、いくつかの“戦略物資”が支給されたと伝えよ」
◆◇◆◇◆◇◆◇
【硫黄島南方海域 米軍第58任務部隊】
硫黄島の南方数百マイル。大海原の境界を断ち割るように、その艦隊は北へ向けて整然と進撃していた。
そこにあるのは、現代に蘇った無敵艦隊――第58任務部隊(TF58)である。4つの任務群にわかれたその主力には、合計15隻の航空母艦が堂々たる艦容を連ね、翼に星を掲げる艦載機は実に1100機に達する。
さらに8隻の戦艦、17隻の巡洋艦を含む100隻以上の護衛艦艇が取り巻き、鋼鉄で編まれた巨大な盾のように外周を固めていた。
百を超す航跡が海上に白い筋を引き、その規模は水平線の彼方まで波紋のように広がっていく。
その中心、航空母艦「バンカーヒル」の艦橋から、ミッチャー中将は静かに前方の海を
「敵の空母機動部隊が発見されたそうだな」
「はい、長距離索敵機によると硫黄島北方に空母8隻以上を主力とした機動部隊が遊弋しています」
「艦砲射撃部隊をやったのはこいつらか……いったいなぜこれほどの艦隊を見逃していたのだ。そのせいで多くの部下を失ってしまった」
ここ数日の米軍の損害は目を覆うばかりの惨状だ。
硫黄島上陸の支援にあたっていた旧式戦艦5隻、巡洋艦8隻を中核とした52任務群はナガトタイプと思われる戦艦の砲撃、および謎の空母による航空攻撃で壊滅。指揮官のブランディー少将を始めとした多くの将兵が海底に引きずり込まれ、助からなかった。
硫黄島で戦っていた海兵数万人との連絡もつかないままだ。
その上、状況確認に飛ばした偵察機もかなりの数が落とされ、ミッチャーは胸中に悲しみと日本軍への怒りを募らせていた。
「中将、いま最も重要なことは、敵空母がこちらの攻撃圏内に存在することです」
参謀長のバーク大佐が、作戦図を指さす。
日本艦隊は硫黄島を盾にするように遊弋していた。
「報告では空母8隻のうち、半数は軽空母と思われます。我々は正規空母だけでも10隻を揃えている。戦力で見れば、主導権はこちらにあります」
ミッチャーは短く息を吐いた。戦意をみなぎらせ、低い声で言う。
「ならば――先手を取る。こちらから叩くべきだな」
「はい。敵が何者であれ、ここで殲滅すべきです。硫黄島の海兵隊を救うためにも」
ミッチャーは静かに頷き、再び前方の海へ目を向けた。
「よし。全任務群に通達だ。これより敵機動部隊を撃滅する、夜明けとともに攻撃隊を発艦せよ」
すぐさま命令が全空母に伝達され、甲板で待機していた航空隊が一斉に動き始める。
ミッチャーは第1次攻撃隊として戦闘機230機、爆撃機・雷撃機をそれぞれ110機、計450機を送り出した。
続けて50分後、第2次攻撃隊としてさらに450機が放たれる。
圧倒的な航空兵力、それでもミッチャーは油断しなかった。
「護衛艦艇に警戒を厳とするよう伝えろ。思わぬ方角から敵が来る可能性がある」
日本軍は機動部隊を完璧に隠していた。
どこかに更なる艦隊を残したうえで、奇襲をかけてくる可能性がある。
もし58任務部隊が打撃を受ければ、戦争の行方は一気に不透明になる。
ミッチャーにとって、慢心は最も危険な敵だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
【第1艦隊 空母赤城 艦橋】
「硫黄島泊地の電探に感あり!敵機と思われる航空機多数、南より接近中。数は400機以上」
報告員の声が艦橋を震わせる。
艦橋にいた全員の表情が引き締まった。
「……来たな。朝早くからご苦労なことだ」
胸奥に緊張が走るが、恐れはない。
俺は即座に命じた。
「第1艦隊・第2艦隊直掩機は航空無線に従い、迎撃に向かえ。基地航空隊と連携し、米軍機を1機も通すな!」
「戦闘機隊、順次発艦してください!」
赤城の号令を受け、甲板の烈風が次々と滑走を始める。
空母機動部隊から飛び立つ艦載機は総勢150機。すべて新鋭戦闘機烈風および紫電改で構成された、純粋な空戦部隊だ。
「敵は第1次攻撃だけで400機以上……田中提督、防ぎきれるでしょうか」
隣で赤城が小さく息をのむ。
俺は肩をすくめ、口元に笑みを浮かべた。
「心配するな。こっちの戦闘機は500機以上だ。
――デイリーミッションをサボらず続けて、本当に良かったぜ」
ゲーム「艦隊これくしょん」では、基地航空隊に配置できるのは十二個中隊まで。
しかし、今はゲームの枠を超えた現実で配置上限が存在しない。
俺がゲーム時代に、毎日生産した航空機たち。
その全力が、いま硫黄島上空に展開している。
戦闘機30個中隊、総数540機。
零戦から紫電まで多様な機体で構成された制空部隊だ。
空母機動部隊の出撃機と合わせ600機を超える戦闘機が、硫黄島上空で米軍機に襲い掛かった。
蒼天の下、空を埋め尽くす日本軍機が米軍の編隊を追い立てる。
その一翼を担う烈風の1機に、赤城の飛行甲板から飛び立った篠目少尉が乗りこんでいた。エンジンの重い振動が背中に伝わり、操縦桿を握る右手に自然と力がこもる。
視界の先では、必死に爆撃機を守らんとする米戦闘機、F6Fヘルキャットが日本軍機へと食い下がっていた。
「いい腕だ。仕留めがいがある」
篠目は機体をわずかに傾け、高度優位を活かして敵機の背後へ回り込む。米パイロットは別の烈風に食いついているため、篠目の接近に気付くのが遅れた。
一気に距離を詰める。
ヘルキャットは急旋回で逃れようとしたが、烈風の旋回力には及ばない。敵の尾翼が視界で大きく膨らんだ瞬間、篠目は照準環を重ねて引き金を絞った。
機銃弾が敵機を貫き、機体後部から黒煙が噴き上がる。尾翼をもがれた米軍機は、制御を失い海面へ落ちていった。
「1機、撃墜!」
篠目は短く息を吐き、すぐに次の獲物を求めて機首をわずかに上げた。周囲へ視線を走らせると、護衛を失った米爆撃機、ヘルダイヴァーの編隊が視界の端に捉えられる。
篠目は烈風を滑らかに旋回させ、その集団へ一気に飛び込んだ。
照準器の環をヘルダイヴァーの腹部へ重ねる。引き金を絞り、弾丸を右翼付け根に叩き込む。たちまち敵機から金属片が飛び散り、黒煙が噴き出した。
燃料漏れを起こしたヘルダイヴァーは、慌てて爆弾を投棄しながら編隊を外れ、必死に逃走を始める。
基地航空隊と空母機動部隊の戦闘機隊で連携して米軍編隊を削る作戦は、この時点でほぼ完璧に機能していた。
とはいえ、いかに航空戦で圧倒しても、400機を超える大編隊の一部は防空網をすり抜ける。
高度を落とした数機が雲間から突如姿を現し、第1艦隊へと向かって来た。編隊はすでになく、ほとんどが単機での必死の突入である。
「対空戦闘用意! ありったけの高角砲を撃ち込んでやれ!」
俺の号令と同時に、赤城を中心とする第1艦隊の艦影が一斉に砲火を放った。
戦艦、重巡、軽巡、駆逐、空母を合わせた44隻――その搭載する高角砲は200門を優に超える。
各艦の砲塔が一斉に旋回し、射撃装置の指示に従って天空へ火線を描いた。
敵の爆撃機2機、雷撃機2機が、弾幕の中心へ迷い込む。複雑に交差する弾は逃げ場を与えず、次々と機体を貫いて翼を折り、炎を噴き上げさせた。
単機突入では、この密度の対空網を突破することは不可能だ。
数十秒後、突入してきた4機はすべて大海原へ没し、艦隊への被害はゼロ。
米軍第1次攻撃隊の断末魔だけを空に残し、艦隊は静寂を取り戻していた。
2025/12/4 米艦隊の空母数を16→15に訂正(数え間違えていました、大変申し訳ない)