母港100隻提督奮闘記   作:あかさた改二

6 / 11
第5話:航空決戦!小笠原沖大海戦②

【硫黄島泊地上空 アメリカ軍 第2次攻撃隊】

 

「ゼロの編隊に後ろを取られた、助けてくれ!」

「第2中隊指揮機、被弾! 後退する!」

「敵の新型戦闘機に突破された! 爆撃機を守れない!」

 

 航空無線は、もはや戦況報告と呼べぬ悲鳴と怒号で満ちていた。

 

「クソッ、なんて数だよ……!」

 

 F6Fヘルキャットを操るヘルマー中尉は、歯噛みしながら機体を揺らした。

 つい先ほどまで背後を飛んでいたはずの僚機の姿は、もうどこにもない。

 

 マリアナ沖海戦・レイテ沖海戦で、空を支配していたのはアメリカ軍だった。

 それが今や、視界のどこを見ても零戦が渦を巻くように押し寄せてくる。

 これまでの戦況を逆転したような光景だ。

 

 不意に、上方から日本軍機が鋭い角度で急降下してきた。

 シルエットは零戦よりひと回り大きい。明らかに新型機だ。

 

 ヘルマーは咄嗟(とっさ)に操縦桿を倒し、機体をひねって弾幕から逃れる。

 

「数だけじゃなく、新型までいるのかよ!」

 

 脳裏に、作戦前に聞かされたブリーフィングがよみがえる。

 

(『日本軍機は数が少なく、性能も高くない。時々まぎれているエースパイロットにだけ気をつけろ』なんて言ったバカ野郎、ぶん殴ってやる!)

 

 脳内で情報将校を罵倒している最中、爆撃隊長の声が無線に割って入った。

 

「敵艦隊までたどり着けない! 目標を硫黄島の飛行場に変更する。全機、進路を修正しろ!」

 

 妥当な判断だった。

 この迎撃の激しさでは、馬鹿正直に敵艦隊へ突っ込んでも攻撃機が敵空母まで届くはずがない。

 眼下の硫黄島に爆弾を落とすことで妥協するしかなかった。

 

 ヘルマーは日本軍の新型機を振り切ると、爆撃機の護衛に向かう。

爆撃隊に近づいたゼロ戦に近距離射撃を敢行、牽制する。

 

 次の瞬間、曳光弾が機体を掠めた。

 硫黄島が爆発したと錯覚するほどの対空砲火が、島の至るところから噴き上がる。

 

「くそ、対空ハリネズミかよ」

 

 飛行場周辺に撃ち上がる火線は見たことがない密度だ。

 

 ヘルマーが護衛した爆撃小隊は投弾に向かう途中で2機が脱落。

 残る2機は機体を揺さぶられながらも飛行場上空に進入し、滑走路へと爆弾を投下した。

 

 ヘルマーが戦果を確かめようと振り返った、その瞬間だった。

 

 対空砲弾が彼のF6Fヘルキャットをかすめ、翼端の一部が吹き飛ぶ。

 機体は黒煙を上げ、操縦席全体が不吉な振動に包まれた。

 

 機体はもはや満身創痍。

 それでもヘルマーは、必死にスロットルを押し込み、煙を引きながら南へと逃れる。

 多くの仲間を失い、得られた戦果はごくわずか。

 

(——この屈辱、必ず返してやる)

 

 胸の奥で燃えるような怒りを抱きながら、ヘルマーは母艦「バンカーヒル」へと針路を取った。

 

 

 ヘルマー中尉が護衛した米爆撃機の攻撃は成功していた。

 硫黄島の滑走路には数発の爆弾が着弾し、黒煙が立ち上っている。

 ところどころで舗装が剝げて土砂が散乱し、戦闘機の発着に支障が出る状態だ。

 

 しかし守備隊は動じなかった。復旧班がすでに地下壕から飛び出し、消火器・工具を手に滑走路へ走り込んでいたからだ。

 

 その先頭に立つのは、硫黄島守備隊長・栗林忠道中将である。

彼は着弾地点をひとつひとつ確認しながら部下を力強く叱咤した。

 

「飛行場の迅速な復旧こそが防空力につながる! 一刻も早く、滑走路を修繕し上空の味方を助けよ!」

 

 通常なら指揮官は地下壕にこもるところ、栗林中将が敢えて地上に姿を見せたことで、将兵たちの士気は大いに高まった。栗林が指示を飛ばす姿を目にした復旧班は、疲労も恐怖も忘れて砕けた舗装を均し、応急のアスファルトを敷き始める。

 

 

 さらに、復旧作業が滞りなく進められている理由のひとつが、海軍の市丸少将の存在であった。

 かつて第3期航空術学生として学び、パイロット資格まで取得した彼は、日本軍将校の中で稀に見る航空戦に精通した指揮官だった。

 

 上空に現れる米軍機の動きを鋭く観察し、敵爆撃隊が攻撃に移るタイミング、味方戦闘機の防空状況、——そのすべてを瞬時に読み取る。そして安全な時間を見極めると、的確な命令を飛ばす。

 

「今だ、復旧班は作業にかかれ! 機銃隊、敵第2波に備えよ!」

 

 彼の判断がなければ、復旧班は無駄な被害を受け、滑走路は稼働状態を維持できなかっただろう。

 

「硫黄島をめぐる大航空戦……まさに血沸き肉躍る光景だな」

 

 基地航空隊と米軍機の激しい空戦を見上げ、市丸少将は興奮気味に呟いた。

 

 その後も散発的に米軍機が現れたが、硫黄島の滑走路が機能を喪失するには程遠かった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

【第1艦隊 空母赤城 艦橋】

 

 油の匂いと金属の軋みが混ざる艦橋へ、報告員が駆け込んできた。

 手には厚く束ねられた戦果記録。彼は息を弾ませながら声を張る。

 

「提督、戦果まとまりました!米軍航空機——八百以上撃墜です!」

 

 その場の空気が一瞬だけ静まり、次いで歓声が湧く。

 報告員が読み上げていく数字は、驚嘆に値した。

 

 戦果:米航空機800機撃墜(内訳:戦闘機300、艦爆250、艦攻250)

 損害:戦闘機60機喪失、40機要修理。艦艇損害なし、「第1艦隊」「第2艦隊」ともに健在。

 

 航空戦の戦果確認は難しく過大報告はつきもの。実際は半分の400機撃墜ぐらいだろう。

 それでもこちらの被害が100機程度なことを考えれば、日本軍の勝利、そう言って差し支えない数字だ。

 

 米海軍の攻撃隊を基地航空隊と航空母艦の戦闘機隊で封じる作戦は完璧に機能していた。

 

「みんな、よく頑張ってくれた。米軍は大損害だ」

 

 視線を上げ、艦橋の顔ぶれを見回す。

達成感と高揚感が入り混じった面々、その中心で赤城が佇んでいる。

 

「900機以上の敵機に殴り込まれ、私たちが無傷でいられたのは提督の指揮のおかげです。この航空決戦は日本軍の勝利です」

 

 ずっと戦果を待ち続けていたのだろう。

赤城の瞳はわずかに潤み、抑えきれない喜びが滲んでいた。

 

 艦橋に再び静寂が訪れる。

誰もが勝利の快感を感じていた。

 

「確かに勝利だ。今日の空は俺たちが制した。だが、1つ間違いがある」

 

 ゆっくりと息を吸い込むと、次の言葉に力を込める。

 

「まだ海戦は終わっていない。勝利を『大勝利』にしよう。――これより米空母機動艦隊への反撃に移る!」

 

 短く鋭い命令は、瞬く間に艦隊全体へ浸透した。

 

 まず硫黄島基地航空隊より流星一個中隊が先行して出撃。

 海面を切り裂くような低空を飛行し、敵機動部隊との距離を詰める。

 

 続いて赤城をはじめとする各空母の飛行甲板で、攻撃隊の発艦が開始された。

 次々と機体が空へ飛び立ち、基地航空隊と合流して米空母群へ向け突き進む。

 

 反撃の火蓋が、いま切って落とされた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。