母港100隻提督奮闘記   作:あかさた改二

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第8話:勝利の使い道

【1945年3月2日 硫黄島泊地】

 

「万歳! 大日本帝国万歳!」

 

「帰還した友軍に、総員敬礼!」

 

 割れんばかりの歓声が、海風に乗って艦橋まで届いてくる。

 

 硫黄島の海岸線には、無数の人影があった。 陸軍の兵士たちだ。

 

 小笠原沖大海戦から1日、俺たちの艦隊は硫黄島泊地へと帰投していた。

 

 港に降りると栗林中将と市丸少将がやってくる。

 

「大本営から、田中提督の功績を称える電報が届いております。そして……これは私個人としてだが、心から礼を言わせていただきたい。本当に感謝いたします」

 

 栗林中将が深々と頭を下げる。

 

「いえ、こちらこそ硫黄島の防空要塞化ありがとうございました。我々が米軍に勝利できたのは基地航空隊の戦力があってこそですから」

 

 小笠原沖大海戦は俺たちの圧倒的な勝利に終わった。

 

 物量に優れるアメリカ軍といえども、空母13隻の損失は大きい。今後数ヶ月、積極的な作戦行動は控えるだろう。

 

 太平洋戦争の主導権はミッドウェー海戦以来3年ぶりに、日本側に移ったと考えていい。

 

「しかし、勝利を喜んでばかりはいられません。米軍が今回の損害から回復する前に、次の手を打つ必要があります」

 

 俺の言葉に軍人2人の表情が引き締まる。

 

 市丸少将が一歩進み出て口を開いた。

 

「それについてですが、大本営が今回の海戦の詳細を直接伺いたいとのことです。田中提督には、一度東京まで出向いていただきたいと」

 

 やはり来たか、と胸の奥で思う。

 

 次の作戦では、この時代の日本海軍の実働戦力と連携するつもりだった。

 

 そのためには、正式に軍の中枢と話をつける場が必要不可欠。大本営から呼ばれるというのは、まさに渡りに船だった。

 

「了解の返事をお願いします。『艦隊の補給作業が済み次第、軍艦で向かう』と大本営に伝えてください」

 

 そう告げると、栗林中将と市丸少将は一礼して去っていく。

 

 

「提督、どうして船で向かうのですか?飛行機で行けば数時間で東京に着きますが」

 

 話を聞いていた赤城が首をかしげながら問いかけてきた。もっともな疑問だ。

 

「大本営に俺の意見を通すための布石だ。次の作戦はもう始まっている」

 

 歴史知識があるため、この時代の日本軍よりも効果的な作戦を立てられる自信はある。

 

 しかし、どんな組織でも、突然現れた外部の人間に戦略を丸ごと委ねたりはしない。

 

 まして、命がけで戦う軍隊なら尚更だ。

 

「武力を示して従わせる、ということでしょうか?」

 

 赤城が恐る恐る尋ねる。

 

 俺はゆっくりと首を横に振った。

 

「いや、力づくじゃない。軍人が喜ぶ土産を持っていくんだ」

 

「土産……?」

 

「天然資源だよ。ゲーム時代から備蓄している大量の燃料と弾薬、それに鋼材やボーキサイトがある。それを艦に積んで東京へ持ち込む」

 

「艦これ」の泊地は天然資源の宝庫だ。現実化した硫黄島泊地でも資源の産出量は維持されている。

 

 軍が最も欲しがっている天然資源を提供すれば、大本営は俺たちの話を無視できない。さらに、資源を得た日本軍の戦闘能力も向上する。一石二鳥というわけだ。

 

 説明を聞いた赤城は、ようやく合点がいったように微笑んだ。

 

「なるほど……提督のお考え、理解しました」

 

 俺は軽くうなずき、視線を艦の側面へ向ける。

 

 そこでは水兵たちが補給作業に励んでいて、積み上げられた燃料ドラムや弾薬箱が朝日に照らされていた。

 

 作業が終わるまでには、まだ時間がかかりそうだ。

 

 補給作業を待つ間、俺は損傷した艦娘たちの様子を確認するため、ドックへ向かうことにした。

 

 

 硫黄島泊地には3種類のドックがある。

 

 船を建造する「建造ドック」。

 

 船を近代化して強化する「改装ドック」。

 

 そして、船の損傷を修理する「入渠ドック」。今俺が到着した場所だ。

 

 黒髪を後ろでまとめた、小柄ではつらつとした少女が立っていた。

 

 小笠原沖大海戦で唯一中破した防空駆逐艦、秋月だ。

 

 損害を受けた原因は彼女の戦闘力が劣っていたからではない。

 

 むしろ強烈な対空砲火を展開し、敵機から真っ先に“脅威”として狙われた結果だった。

 

 彼女の奮戦がなければ、艦隊は大きな損害を受けていた。

 

 視線が合うと、彼女はそっと微笑む。

 

「すまない、俺の指揮のせいで怪我をさせてしまった」

 

「気にされることはありません。艦隊防空は私の役目です。赤城さんや加賀さんたち、空母の皆さんを守れたことは私の誇りです」

 

 秋月は首を横に振り、胸を張って答えた。

 

「体は大丈夫か」

 

「問題ありません。半月ほど入渠すれば艦隊に復帰できます」

 

 迷いのない声だった。

 

 そのとき、足音が近づき、曙と漣がドックの通路を駆けてきた。

 

 小破だった彼女たちは、1週間での復帰らしい。

 

 ゲームと違い、実際に船体がある以上修理にはどうしても時間がかかるようだ。今後の作戦には、修理期間の長さも計算に入れなければならない。

 

 思考を巡らせていると秋月が続けた。

 

「私は合衆国軍との戦いでは勝ちに恵まれませんでした。提督の指揮で、これからも勝たせていただきたいです」

 

「わかった、ありがとう。今回はよく戦ってくれた。またよろしく頼む」

 

 そう告げると、秋月たちは大きくうなずいた。

 

 3人とも傷を負いながらも、戦意は少しも衰えていない。

 

 戦いは勝ったあとが重要だ。

 

 小笠原沖大海戦で得た大勝利――その勝利の使い道を誤ってはならない。

 

 彼女たちの思いに応えるためにも、次の作戦を的確に定める必要がある。

 

 彼女たちに恥じぬ戦略を、大本営での会議で必ず示す。

 

 そう胸に刻み、俺は静かに決意を固めた。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

【1945年3月3日 硫黄島泊地】

 

 翌朝、補給と準備を終えた俺たちは東京へ向けて出港した。

 

 朝日が海面を照らし、艦隊の影が長く伸びる。

 

 旗艦「赤城」を先頭に、「鳳翔」「暁」「響」「雷」「電」の6隻が静かに錨を上げ、硫黄島泊地を離れていく。

 

「提督が大本営に提案される戦略はどんなものなのですか?」

 

 艦橋に立った赤城が問いかけた。

 

 俺はしばし海を見つめ、考えを整理してから答える。

 

「大きく分けて2つある。1つ目は、日本軍全体の戦力を底上げすること。2つ目は、B-29の発進基地になっているマリアナ諸島の奪還だ」

 

 

 俺の言葉に、赤城は静かにうなずいた。

 

 東京へ向かう艦隊は、整然と朝の海を進んでいく。

 

 次なる戦いは、すでに幕を開けていた。




第1章「硫黄島戦役編」、完結です。
次回から第2章「マリアナ奪還編」に突入します。
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