ペルソナxPERSONA~Minds that Cross Time~ 作:比例文
天野舞耶は迷っていた。
「……どこかしら、ここ」
見たところ学校の教室のように見えるが、春日山高校とも七姉妹学園とも違う。
「昨日は何してたんだっけ……?」
さて、こんな状況になるようなことをしただろうか。寝る前のことを思い出す。昨日は仕事して普通に家に帰り、普通に寝た。それだけのはずだ。
逆に、こんな状況になりえることは何か。うらら達とお酒飲んだ? 違う、うららはマンサーチャーの仕事で家にいなかった。
カフェイン錠や栄養ドリンクの飲みすぎ? たぶん違う。──修羅場だった三日前ならともかく。
夢遊病? でも、ここどこ? あの事件で町中走り回って、だいたいの建物に出入りしたけど、こんなところは知らない。
「ともあれ、レッツ・ポジティブ・シンキング! 良いネタになりそうだわ!」
少なくとも三日前よりずっと健康だ。
「でも原因は気になるわよね……」
イッツシンキングタイム。脳内で木魚を連打して──閃いた。
「やっぱり、食あたりかしら……!」
昨日食べたカニ缶、賞味期限切れてたかも。やはり毒消し代わりにハチミツを入れたのがまずかったか。
それとも酔っ払った克也さんに貰った極彩色の生クリームとの相乗効果……?
ああでもないこうでもないと呟きながら歩いていると、落ち着かない様子でキョロキョロと周囲を見ている少女が見えた。
金髪で、どこかリサに似ている気がした
「チャオ! あなた、ここの人?」
「ひ、人……?」
「ええ! 私は天野舞耶! 頭のテッペンからからつま先まで100パーセント人間よ!」
「た、助かったぁ……目が覚めたらこんなところにいて、本当に心細くて……!」
「よしよし、怖かったわよね。でも、こういう時こそレッツ・ポジティブ・シンキング!」
「ポジティブに……そうだよね、頑張らないと! ところで、ここはどこなんですか?」
「んー……それが、私にもよくわからないのよね……寝てて、地震だーって思ったらここに。あなたは?」
「私も地震があって、気づいたら……」
「そっか。じゃあその地震が怪し……ん?」
ぞわり、と。背筋に悪寒が走った。懐かしい気配。悪魔だ。
顔をたくさん貼り付けた、地面から手を伸ばしてくる小さな黒い影。
見たことはない──が、憎たらしいあいつに似ていた。
「あれは……」
「悪魔?」「シャドウ?」
「「え?」」
同時に口を開き、同時に向き合う。
「……色々聞きたいけど、時間無いから細かいことは後ね! あなたの名前だけ教えてくれる?」
「杏。高巻杏です」
「杏ちゃんね。さ……ちょっと下がってて、後は私がやる……なんてね!」
"向こう側"へと帰っていったあの少年の姿を思い浮かべながら、舞耶はペルソナを召喚した。
「さあ、私はここよ……<アルテミス>!」
【ブフーラ】!
冷気の魔法の一撃で、悪魔は簡単に倒れ消え去った。
「一体撃破。こいつは大したことなさそうね!」
「それ、ペルソナ?」
「あなた、ペルソナを知ってるの?」
「なんだかわからないけど……ここ認知の世界なの? だったら──踊れ、<カルメン>!」
【アギダイン】!
「で、出た……!」
「ナイス! やるわね、杏ちゃん」
「舞耶さんこそ!」
熱気と冷気で敵を一掃し一息ついたところで、舞耶が口を開いた。
「どうやら面倒ごとに巻き込まれちゃったようだけど……言ったって仕方ないわね。行きましょう、杏ちゃん」
「行くってどこに……」
立ち上がった舞耶に尋ねると、舞耶は笑顔でこう返した。
「レッツ・ポジティブ! 建物なんだし出口は絶対どこかにあるわ! こんなところ、とっととオサラバしましょ!」
「……そうですね、行きましょう!」
舞耶の勢いに乗るように、杏もまた歩き出した。
● ● ●
同時刻。
岳羽ゆかりとアイギスもまた迷っていた。
「ねえアイギス……ここ月光館だよね?」
迷路のようになってしまっているが、装飾などはそのまま。
自分たちの知っている学校にそっくりだ。アイギスは首肯する。
「はい、おそらくは」
「……なんだか気味悪いなぁ」
なんとなく、タルタロスを想起させるような雰囲気だった。
歩かねば始まらないということで歩いているが、完全に迷路のようになっている。
本当に出られるのか不安になってきたところに、2つの人影を見つけた。
「アイギス」
「警戒しましょう」
緊張に息を呑む。美鶴のボディガードも兼ねていて武器も内蔵しているアイギスはともかく
ゆかりの武器は用具入れから持ってきたモップだけだ。
「杏ちゃん!見つけたわよ、人!」
「やったね、舞耶さん!」
それは杞憂であり、二人が非常に友好的であると知ったのはすぐ後の話である。
「あ、あの…どちら様ですか?」
「チャオ! 私、クーレストの記者をしてる天野舞耶! 貴女達、ここがどこか知らない?」
「私は秀尽学園の高巻杏。よろしく」
「ちゃーおー、であります。私はアイギスです」
二人の挨拶に、無表情で手を挙げアイギスが返す。
「挨拶しちゃっていいの?」
「(ゆかりさん、彼女達はペルソナ使いです。それに……)」
「(それに?)」
「(何でもありません。敵意は感じませんし、ここは協力した方が良いかと)」
「あ、ああ……えっと、私は岳羽ゆかり。月光館学園の生徒で、ここがその月光館だと思うんですけど……」
「迷路のようになっていて困っているのです」
ゆかりの言葉に、アイギスが続ける。
「あ、やっぱり異界化してるのね」
「イカイカ」
どこからか焼きイカを二つ取り出すアイギス。
「そのイカ二つどっから出したの?」
「私も似たような体験をしたことがあるの! 任せて!」
胸を叩く舞耶に、ゆかりは怪訝な視線を向け、小声でアイギスに囁いた。
「(大人ってペルソナ使いになれないんじゃなかったの?)」
「(美鶴さんはそう言っていましたが、ペルソナの反応があります。
彼女は特別なのかもしれません……彼のように)」
「彼……」
ゆかりがこの世を去った少年を想っていると、突然アイギスが警戒に入った。
「アイギス?」
「また足音です。こちらに来ます」
「あれ、この感覚は……」
勢いよく扉が開いて、二人分の人影が現れる。
そのうちの片方が、こう言い放った。
「警察だ! 全員動くな!」
「周防刑事、何度も言いますけどここでそういう事をする必要は……」
もう一人がツッコミを入れるが、聞いていないようだ。
「やっぱり、克也さん!」
「天野くん?なぜここに」
彼は周防克也、舞耶の戦友である。
「貴方は……舞耶さんの知り合いではない感じ?」
「……白鐘直斗です。周防刑事とは道中で知り合いました」
ゆかりに尋ねられ、ちょっとだけ拗ねた様子で直斗が名乗った。
その後、互いに害意がないことと、克也と舞耶が知り合いということでスムーズに合流を果たし、一行はダンジョンを進んでいく。
「……えー、つまり、舞耶さんのカレシ? の周防克也刑事と」
「元探偵王子の白鐘直斗!? ……にしては、ちっちゃいような……」
「ちっちゃいって、誰と比較してるんですか。それに元って……」
「カレ……!? 私と天野くんはまだそういう関係では……!」
「え、違うの?」
「天野くん! 乗っかるのはやめて──」
「待ってください。あの扉の向こうに何かいます」
話をしながら進む一行を、アイギスが引き留めた。
「また仲間かな?」
「いえ、これは……戦闘音です!」
一同の雰囲気が一変する。
「みんな、急ぎましょう!」
舞耶の声に応えるように、一行は駆け出した。