ペルソナxPERSONA~Minds that Cross Time~ 作:比例文
風花が昇降口を抜けると、ちょうど集結していたペルソナ使いたちの姿が見えた。
「みんなーっ!」
学校を走り抜けた風花は、見慣れた仲間達の姿のもとへ駆け寄る。
「風花!」
「風花さん!」
「山岸、無事か!」
「私は大丈夫……でもみんなが危険なんです! 助けてください!」
S.E.E.Sの仲間達の言葉に、息を切らしながら風花が答える。それを聞いて、その場の全員が顔を見合わせて頷いた。
「く……う……!」
『無駄な抵抗だったな、マリオネッテ。しかし命をかけ無力の仲間を逃したその姿勢は評価してやらんでもない。一撃で楽にしてやる』
「させない! 行くぞ<ヴィシュヌ>!」
【天驚地爆断】!
倒れ伏す麻希にとどめを刺そうとするロンギヌス12を、ペルソナの一撃が両断した。聞き覚えのある、今もっとも求めていた人の声を聞いて麻希が安堵の表情を浮かべた。
『貴様は……だが、これで……ククク……』
「あれは尚也くんのペルソナ……!」
「園村、助けに来たぞ!」
「麻希ちゃん!」
藤堂尚也と、エルミン学園の仲間達を含むペルソナ使い達を引き連れた風花が、麻希に駆け寄る。
「風花ちゃんも無事で良かった……早く、2階のみんなのところに……」
その瞬間。ガラスの割れる音と共に重い落下音が鳴り響いた。
「今の音は……!」
「校庭の方だ!」
教室にいた暁たちは困惑していた。突然二人の少年が戦闘に介入し、ロンギヌスたちを窓と壁をぶち破って中庭に叩き落としたのだ。
「た、達哉……!?」
その乱入者に声をかけようとした淳だが、彼は振り返ることなく自ら開けた大穴から校庭に飛び降りていく。
「オイ、ここ2階だぞ!?」
「ペルソナの力をうまく制御できれば、あれくらいできる……らしいけど。俺にはできない。俺たちも行こう。歩いてね」
驚くモルガナに同調するようにもう一人の少年が言って、暁たちを急かしつつ校庭へと駆けていった。
──校庭。
暁たちが辿り着いた時には、すでに多くのペルソナ使いがロンギヌス3体を相手に戦っていた。
「まるで戦場だな……」
モルガナの呟きが聞こえたのか、数人のペルソナ使いが暁たちに気付いて駆け寄ってきた。
「暁、無事だったか!」
「無事といえば無事だけど、ボロボロだな……」
「相棒! それにクマも居たか!」
「陽介! みんなも居るんだな!」
「ああ!」
「そういえば、フーカチャンはどーしたクマ?」
「そうだ、風花は……」
風花の姿を探すと、すぐに見つかった。こちらを──湊を見て涙を流していた。
「うそ……リーダー……?」
「あー、えっと……ただいま、かな。風花」
居心地が悪そうに湊が頭を掻くが、すぐに意識を戦闘に向けた。
「細かい説明は後だ。まずはあいつらを倒す」
「──はい!」
● ● ●
「<アメン・ラー>!」
【ガルダイン】!
「<アポロ>!」
【アギダイン】!
「<タナトス>!」
【ブレイブザッパー】!
「<イザナギ>!」
【ジオダイン】!
「<アルセーヌ>!」
【エイガオン】!
元々少なくないダメージを受けていたところに熟練のペルソナ使いたちの猛攻を受け、ロンギヌスたちは間もなく沈黙した。
『後悔するぞ……』
『不公平という言葉を心に刻め……』
『過去はお前を逃がさない……』
それぞれ、不気味な言葉を言い残して。
一戦を終え、軽い休憩と自己紹介を済ませた後。
「えっと、あなた……“向こう側”の達哉クンだよね?」
「湊も、一体なにがあったの!?」
「…………」
「私が教えてあげるよ」
舞耶とゆかりに聞かれ苦い顔で俯く二人の代わりに、少女の声が答える。その声の主を見て、湊が目を見開いた。
「え……」
以前、湊の夢でニャルラトホテプが化けていたものと全く同じ、月光館の制服を着た明るい茶髪の少女。
「誰、あなた……」
ゆかりが問う前に、呆然とした様子の湊が口を開いた。
「かなで……おねえちゃん……?」
「え?」
「はいはーい、あなたの奏お姉ちゃんだよー」
少女──奏は人懐っこく笑って手を振った。
「なぜ……なぜここに!?」
「おい美鶴、彼女は……」
「資料で見たことがある。有里奏……湊の、双子の姉の名前だ」
動揺する湊にただならぬ物を感じた明彦の問いに美鶴が答える。
「ちょっ!」
「湊のお姉さん?」
「しかし有里奏は十年前の事故で両親とともに亡くなったはず……」
「……ヤツの手先か?」
美鶴の言葉を受けて、達哉が日本刀を構えた。他のメンバーもそれに倣う。
「やだなー、みんな怖い顔しちゃって。私は湊に貸したものを返しに来てもらっただけだよ」
「貸したもの、だと?」
「うん、貸したもの」
奏は笑顔のまま、奏は硬直したままの湊に近づく。
「湊、元気にしてた?」
「うん……」
「よかった。じゃあ私が貸していた命、返してもらうわね。来て、<リバース・タナトス>」
言葉と共に現れたのは、色調の反転した湊と同じペルソナ。
「湊と同じペルソナ!?」
「でも色が違う!」
「<カエサル>!」
【ジオダイン】!
攻撃の気配を察した明彦のペルソナが雷を放つが、奏は後ろに跳んで回避する。
「わあ、こわい。真田センパイ、邪魔しないでくださいよ」
おどけたように言う奏に、明彦が問う。
「なぜ俺の名を知って……」
「それはヒミツです、真田センパイ。そこの日本刀クンの言う通り今の私は運命の教団に協力してる。目的は、不出来な弟の命をもらうこと」
「なぜ有里の姉が有里の命を狙う!?」
「運命の教団……一体なんなんだ、それは!」
口元に指を立てて明彦に答える奏。続けて美鶴と暁にも問われるが、奏は美鶴を睨み返した。
「なんで私と両親を殺した桐条の人間に教えてあげなきゃいけないんですか。教団については、本人に直接聞けばいいでしょ。ねえ、JOKER様?」
奏の言葉に呼応するように。黒いプラズマが発生して空間が歪み、その中からヴェールを被った女性とその側に控える男が現れる。
「私はJOKER。運命を操る者。運命に悩む者すべての者の"切り札"であり、"最後のカード"である……」
男はフードを目深に被っていて顔が伺えないが、暁は女性の顔に見覚えがあった。
「ち、千早……?」
ヤルダバオトの騒動の際に暁を助けてくれた者の一人、御船千早だった。
「え?」
「知ってるのか?」
「チハヤ……アキラの知り合いの占い師だ」
呆然としている暁を、教祖JOKER──千早が冷徹な目で見つめる
「運命を破壊する愚か者たちよ。私はお前たちを許さない」
「千早、お前に一体なにが」
「馴れ馴れしく話しかけるな、運命の破壊者め!」
憎悪に満ちた表情で暁の言葉を切り捨て、JOKER──千早は、そばに控えるフードの男に声をかける。
「あとは任せましたよ、暁さん」
「わかったよ、JOKER様……いや、チハヤ」
「アキ……!?」
「ま、待て!」
「させねえよ?」
千早を引き止めようとする暁の前に、千早の側に控えていたフードの男が立ち塞がる。それを見届け、千早はまた空間を歪ませて去っていった。
「さて、楽しい対話の時間だな?」
「お前は一体……」
「俺? 俺は」
男がフードを外すと、それを見た一同が驚愕した。
「俺はお前だよ、来栖暁」
フードの下には、両目が金色に染まった暁の顔があった。
「まさか、暁のシャドウ……」
「シャドウがアキラのフリして活動してたってのか!?」
「フリとは失礼だな。そこの無責任な男の代わりを務めてやったんだから感謝して欲しいくらいだ」
「俺の代わり?」
嘲笑しながら、フードの男──偽暁は暁を指さす。
「お前は彼女に希望を植え付けた。運命は変えられると。でも、それきりお前は彼女の前に現れなくなった」
その言葉に、暁が口ごもった。当時の暁は怪盗団の活動などもあってとても多忙で、千早に会う時間がなかった。もちろん暁も気にしてはいたのだが、すべてが終わった後に探しに出ても彼女はどこにも見つからなかったのだ。
「だから、お前の代わりに"続き"をしてやったんだ。彼女の望む最高のパートナーとしてな」
「違う……仕方なかった、仕方なかったんだ!」
「違う? 仕方ない? 言い訳だな! お前が焚き付けて行動して失敗した千早の姿、無惨なものだったぜ! 希望を囁いておいて、最後まで責任を取ることなく消える! お前たちの言う腐った大人どもの行いと何が違うんだ!?」
「だが、千早にあんな力を与えて、教団まで作らせる必要は……!」
気圧されつつも暁は言い返したが、偽暁は呆れた様子で口を開いた。
「彼女が運命を変える力を欲したから与えてやったんだ。教団を作ったのも、周囲の人間どもだ。俺はみんなの願いを叶えてやったに過ぎない。そもそも、お前が最後まで付いていてやれば良かったんだ。お前の無責任と怠慢が彼女をJOKERに変えたんだよ!」
この混乱の大元が自分であると突き付けられて愕然とする暁を見て、偽暁が嘲笑する。
「まあ、今回は顔見せだ。次はこうはいかない。千早という過去から目を逸らしたお前の『罪』は、影の下す大いなる『罰』によって贖ってもらう。……忘れるな、来栖暁。お前に逃げ道はない」
「腑抜けちゃった湊を殺しても面白くないし、私も今回は見逃してあげる。でも桐条センパイ……いや、桐条美鶴! 私はみんなを不幸にした桐条の人間を絶対に許さないから!」
憎しみに歪んだ顔でそう言い残すと、奏と偽暁に時空をゆがめ、何処かへと消えていく。
「千早……俺のせいで」
「お姉ちゃん……」
「有里の姉……桐条の罪……か」
打ちのめされた3人は、それを呆然と見送ることしかできなかった。