ペルソナxPERSONA~Minds that Cross Time~   作:比例文

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2.5部本編はこれで終了。第三部開始まではちょこちょこ小話を落としていこうと思います。今回もおまけ小話(台本形式)つきです。


永遠の罰と新たな噂

 パオフゥたちの外出中。眠るペルソナ使いたちの意識はフィレモンのもとに招かれていた。

 

『ようこそ。この場においては、私を知らない者の方が多いだろう。私はフィレモン。意識と無意識の狭間に住む者』

「彼がフィレモン……」

「おお……フィレモン様……!」

 フィレモンに対しモルガナは敬愛の視線を、初対面である者たちは興味深そうに見る一方で、達哉と湊は疑惑の目を向けていた。

『さて。そうのんびり話している時間もない。まずはこれを見て欲しい』

 そう言ってフィレモンが見せたのは、血管のようなコードがあちらこちらに伸びた、奇妙な形の盃。湊はそれに見覚えがあった。

「何これ。気味悪いけど……トロフィー?」

「“聖杯”だ」

 ゆかりの問いに、湊が答えた。

『そう、これは"聖杯"。ある偽神の残骸から作られた、願いを集める器だ』

「偽神って、まさかヤルダバオト?」

「俺たちが倒したはずだ」

『その通りだ。しかしその残骸はある者により普遍的無意識の海から引き上げられ、作り変えられた』

 暁と祐介の言葉を受けて答えるフィレモンに、湊は訝しげな視線を向ける。

『諸君、<向こう側>のことは聞いているかな?』

 フィレモンの問いに、全員が頷く。各々の時代で起きた事件の詳細は(ある程度ぼかしながらも)全員に共有されていた。それを聞いて、フィレモンは満足げに頷いた。

『結構だ。この聖杯が<こちら側>の世界を否定する願いで満たされた時、この世界は消滅する』

「は!?」

『正確には、時が<向こう側>が破滅する前の時間に巻き戻される。元々、君たちの生きる世界は<向こう側>の世界の惨状と悲劇を受け入れることができなかった者達が作り上げた世界だ。破滅の前へと時間が巻き戻ってしまえば、<こちら側>が生まれることはない』

「じゃあ、俺たちはどうなるんだよ?」

『<こちら側>の影響を受けた全ての存在は消滅し、また違った可能性の世界を歩むことになるだろう』

「それって、俺たちの人生ほとんどリセットってことだろ? 冗談じゃねえ!」

「あのコードを切れば、聖杯は願いを集められなくなるはず。聖杯はどこにあるの?」

憤る竜司を抑えながら、真が聞く。

『この世界の再生を望むものの手にある。奴はこの世界で様々な手を駆使して、願いを集めるために動くだろう』

「俺たちに、それを止めろと?」

『敵は多くの悪魔やシャドウを従えた、強大な存在だ。普通人では太刀打ちできない』

「あんた自身は動かないのか」

『私は強く現実に干渉できない。補助することはできるが、それ以上のことは難しい』

 玲司の問いに、無力を滲ませるフィレモン。それを達哉は冷たい顔で見つめている横で、さらに淳が聞いた。

「リセットといえば、僕たち全員の記憶が戻っているのになぜリセットが取り消されていないんだ?」

『思い出していない人間が一人居るからだ。彼は絶対に思い出すことはないから、この世界は維持できている』

「俺に、たっちゃんに、ギンコに、淳に、舞耶姉。全員思い出してるぞ」

「……<こちら側>の俺か」

 栄吉の言葉を受けて、達哉が苦々しく呟いた。

「情人、それってどういうこと?」

「俺は<向こう側>の人間だ。<こちら側>の俺は別にいる……」

 その言葉の意味を理解し、驚愕に目を見開く栄吉たちを見ながら、フィレモンが口を開いた。

『さあ、時間だ。目を覚ましたまえ……』

 

 翌日の早朝。戻ってきた大人たちを、少年と少女たちが出迎えた。各チームのブレーン的な存在とリーダーたちだった。

「おかえりなさい」

「お疲れ様です」

「コーヒーを淹れておきました。ゆっくり休んでください」

「てめえら、さては起きてやがったな? 寝ろって言われただろうが」

 暁から差し出されたコーヒーを受け取りながら、パオフゥが渋面を作った。

「ありがと、暁クン。でも休んでる時間はなさそうなの」

「何かあったんですか?」

「おい、たっちゃん! あれはどういうことなんだよ!?」

 栄吉たちが達哉を詰問しているところを見て、克也も何かがあったことを察した。

「こちらでも何かあったのか? 厄介な噂が流れていたから、急いで集まってほしかったんだが……」

「それが……」

 今朝見た夢について暁が大人たちに話すと、一様に頭を抱えた。

「そういうことか……」

 

 ● ● ●

 

「一人だけ<向こう側>に帰ったって……本当なのかよ、たっちゃん!」

「情人……私、情人がいない世界なんて嫌だよ……!」

「二人とも、やめてくれ。俺はこれでいいんだ……!」

 栄吉とリサの言葉を受けて、達哉の表情が歪む。お互いに悲壮そのものの表情をしていた。

「達哉」

「淳、お前も同じか……?」

「僕は<こちら側>に残るよ」

「なんでだよ、淳! たっちゃんだって、それで良いのかよ?」

「俺はいいんだ。それが俺の罰だ……」

「罰って……お前って奴はなんでもかんでも一人で背負いやがって!」

「そ、それなら私も<向こう側>に行く!」

「俺もだ! フィレモンに頼めば、それくらい……!」

「やめろ。やめてくれ……お願いだから……!」

「二人とも、もうそこまでにしよう」

 なおも拒否する達哉に詰め寄る二人を、淳が制止した。

「淳……」

「僕と約束をした達哉は<こちら側>にはいない。なら、僕が舞耶姉さんを守ってみせる。たとえ全てを忘れたとしても、それだけは果たしてみせる。それが僕が僕に課した罰だ」

「そ、そんなこと言われたら俺も残るしかないだろうが……」

 この状況を生み出してしまったことへの罪と、忘れないと言いながら忘れてしまっていた罪。栄吉にとってはどちらも同じ重さだった。ならば同じ罰を受けるのが道理というものだ。

「リサ、頼む……<向こう側>は俺がどうにかする。だから<こちら側>で、舞耶姉さんやみんなを守ってくれ」

「わかった……ごめんね、情人……ありがとう」

 涙ながらに懇願する達哉に、リサもついに折れたのだった。その様子を遠目で眺めていた大人たちと、一部の少年たちはほっと胸をなでおろす。

「とりあえずは、ひと安心といったところか。奴め、趣味の悪いことをする……」

「相変わらず、ムカつく奴! フィレモンも次会ったらぶん殴ってやるわ!」

「天野、お前さんはどうする気だ?」

「私も<こちら側>に残るわ。それが達哉クンの一番の望みだから。……ちょっとだけ、寂しいけどね」

「マーヤ……」

 寂しそうに笑う親友を、うららはそっと抱きしめた。

 

 ● ● ●

 

 予想外のトラブルもあったが、その後はペルソナ使いたち全員が克也たちの招集に応じて集まっていた。

 

「さて……さっそく噂の共有といきたいが、まずは諸君が見た夢について話そうか」

「"聖杯"……」

 

『心の怪盗団は運命の教団を支持している』

『心の怪盗団は誰にも与しない正義の怪盗団』

『運命の教団に所属すればミフネの力で新世界に旅立てる』

 

 メンバー全員を(一部は無理やり)起こした後、こう書かれたホワイトボードを背にして克也が口を開いた。

「これが、僕らの集めた噂だ」

 

「なんじゃこりゃ!」

「正反対の噂が流れてるのはどういうこと?」

「噂に反発した奴が流したんだろう」

「二つ目の噂流したの、絶対に三島だろ」

「あいつは……」

 感謝すべきなのかどうなのか。複雑な表情で竜司と暁が顔を見合わせた。

「似た例は<向こう側>でもあった。俺たちがテロリストという噂を打ち消すために、正反対の噂を流したんだ」

「どうなったの?」

「俺たちとは別に、俺たちのシャドウがテロリストとして出現した」

 真の問いに答えた達哉の言葉に竜司が反応する。

「ってことは、俺たちのシャドウが出てくるってことか!?」

「でも、メジエドと同じで私たちの存在はまだ怪盗団と紐付けられてないんじゃ……」

「そこも調べたぜ。お前ら、政府の高官や公安に顔割れてるだろ」

「あっ……」

「あとは公衆の面前で黒幕と戦ったのも原因だろうな。確証はなくとも、友人や親類なら気付いてもおかしくない」

「ど、どーやって調べて……」

 パオフゥと克也の指摘に蒼白となる怪盗団一同。

「元検察舐めんな。それに、大人だからこそ使える手もあるんだよ」

「パオフゥさんって検察官だったんだ……」

「とてもそうは見えないけどね」

 双葉の問いに対し意味深に笑うパオフゥを見て、信じられないといった風に呟く真にうららが頷く。

「周防刑事……」

「心苦しくはあるが、非常事態だ……」

 直斗の言葉を苦々しい顔で受け止める克也だが、すぐに切り替えて三つ目の噂を指した。

「そして、最後。これが一番重要だ」

「ミフネって、なんですかそれ?」

「これを読んで」

 疑問を呈する学生たちに、舞耶が鞄から一冊の雑誌を取り出してテーブルに置いた。

「『メー』? オカルト雑誌じゃない」

「なになに……『運命の教団の教祖に特別取材! 教祖、教団の最終目的を語る』!?」

「僭越ながら僕が要点を音読しよう。『“自分がどれほど運命を正してもこの世の悲劇は消えず、この世界はもはや救えない。ミフネを起動する時が来た”と教祖は語った。運命の教団の教祖、占い師JOKERの姓は御船と言う。ノアの方舟が世界中に存在する事実は本誌を愛読する読者諸兄もすでにご存じだろうと思う。ミフネとは、日本におけるノアの方舟の名前なのだ』」

 音読を始める克也。時間が経つごとに胡散臭さを増していく内容に、一同の顔がげんなりとしていく。

「『御船家は代々ミフネを守護する使命を持った一族であり、世界が混沌と絶望に包まれ破滅へと向かう時、その当主はミフネを起動し、絶望に満ちた古い世界から選ばれし人間を希望に満ちた新世界へと導く役割を担っている。そして、この事態は五年前にとある都市に現れた殺人鬼が予言していたのである。それだけでなく、ノストラダムスはこう予言しており』云々……読んでいて頭が痛くなってきた。要点は言ったから気になる人は自分で読んでくれ」

 克也はそう言って締め、絶妙な沈黙が場を支配する。その中で最初に声を上げたのは竜司だった。

「うっさんくせえな! なんだよコレ!」

「まあ、『メー』ってそういうものだし」

「Naoya、この文末に書いてあるインタビュアー兼執筆者兼編集長の名前……」

「黒瓜って書いてあるな」

「知り合い?」

「オカルト好きの友達なんだけど、エリーとは反りが合わないんだ」

「随分とQualityが落ちていると思ったら、相変わらずデタラメを並べ立てているようですわね! 許せません!」

「あれ、エリー先輩ってオカルト好きなんじゃ」

「問題はスタンス! オカルトとデタラメは違うのよ!」

 憤慨するエリーにりせが指摘したが、エリーの怒りは収まるどころか口調すら崩れている。

「こんなのが噂になってるなんて……」

「こんなもん、いったい誰が信じるんだ?」

「『メー』単体なら笑い飛ばされてたでしょうけど、今まで謎の存在だった占い師JOKERが関わっているせいね。見出しにこんなのが載ってれば、みんなこぞって読みたがる……」

 竜司の疑問に答える真に対して、克也が頷いた。

「その通りだ。そのせいで『占い師JOKERを取り扱った記事や書籍は必ず売れる』という噂まで流れている」

「その手の人間しか読まないようなオカルト雑誌がバカ売れすればそうなるよな……」

「いや他人事じゃないぞ、金のためだったら捏造でも何でもする連中だっているんだ」

「教祖が奇跡を起こし続けてきたから、デタラメでも信じる人間が増えているんだ」

 双葉と達哉の言葉に緊張する一同。

「噂が広まるまでにはまだ余裕があるはずだけど、これはちょっと急ぐ必要がありそうね……みんな、行くわよ!」

 舞耶が号令し、一同は思い思いに駆け出した。




おまけ小話『24時間戦えますか?』
ゆかり「舞耶さんたち、寝てないって聞きましたけど……大丈夫なんですか?」
克也「大丈夫さ。仮眠はとったからね」
舞耶「そうそう! 仮眠もできないようなもっと酷い日もあるし! 四日前の修羅場に比べれば!」
湊「(あ、地雷踏んだな……)」
舞耶「カニ缶! カフェイン錠! 栄養ドリンク! これがあれば締め切り間際に原稿真っ白でも怖くない!」
克也「天野くん……」
美鶴「これが噂に聞く企業戦士というものか……」
うらら「アレはダメな例。美鶴ちゃんも偉くなったら部下の健康は大事にしてやんなさい」
順平「大人も大変なんスね……」
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