ペルソナxPERSONA~Minds that Cross Time~ 作:比例文
おまけ小話は明日投下予定の話に繋がる…はず。
大人の再会とメジエドからのメッセージ
昼下がりの喫茶ルブラン。
「美人が来るのは歓迎だが、せっかくの休みをこんな所で潰して良いのかい?」
「良いんです。暁くんや双葉さんから見た真の話にも興味がありますから」
今、店に来ている唯一の客──新島冴の言葉に、マスターの佐倉惣治郎は少しだけ嬉しそうに口の端を持ち上げた。
「こっちはバカガキどもが迷惑かけてないか、ヒヤヒヤしてるんだけどな」
その時、店の扉が開いて一組の男女が入ってきた。
「いらっしゃい」
「……パオ、あんた今喋った?」
「いいや。そこにいるマスターと俺の声が似てるだけだ」
入店してきた男──パオフゥの声を聞いて、惣治郎が目を見開いた。
「お、お前……嵯峨……!?」
まさか。ありえない。そう思いながら、惣治郎は死んだはずのその男の名を紡いだ。
「よう。久しぶりだな、ソウちゃん」
嵯峨薫──パオフゥが、苦笑交じりに手を挙げた。
その後。パオフゥから事情を聴いた惣治郎と冴は大きく息をついた。
「ってことは何か、お前は十年以上前の世界から飛ばされてきたってのか」
「そういうことだ。んで、聞きたいことが山ほどある。まずは双葉のことだ」
「あいつも絡んでんのか……懲りたと思ったのに、誰に似たんだか」
惣治郎から説明を受け、パオフゥが煙草を吹かせた。
「若葉の娘か。道理で似てるわけだ」
「ここは禁煙だ。吸うなら外で吸え」
「禁煙だぁ? まったく、未来ってのは意外と窮屈なもんだな」
惣治郎に睨まれ、パオフゥは肩をすくめて外へ出て行った。沈黙が周囲を支配し、耐えられなくなったうららが口を開く。
「その、若葉さん? は今何を……」
「消されたよ」
「消さ……!?」
「うるせェぞ芹沢」
驚くうららと、顔を伏せる冴に、ちょうど戻ってきたパオフゥが声をかける。
「お前は驚かないんだな」
「人のこと言えねえってのもあるが……あいつもそういう性格だったと思ってよ」
「過ぎたことだ。ただ、双葉の前では触れないでやってくれ」
「と、ところでさ! 二人ってどうやって知り合ったの?」
重くなってきた雰囲気を打ち消すべく、うららが新しい話題を出すとパオフゥと惣治郎が答えた。
「昔の飲み仲間だよ。一人で酒飲んでる時に、この佐倉と一緒にいた若葉……双葉の母親に声をかけられたのさ」
「若葉の奴が、俺とこいつの声が異常に似てるって騒いで、それからの縁さ」
二人の声は本当によく似ていて、目をふさいでいたらわからないほど。うららと冴がつい顔を見合わせた。
「最近、調子はどうだ?」
「ロクでもない事も多いが、それなりに元気にやってるよ。手のかかるガキどもも居るからな。お前はどうなんだ」
「似たようなもんだ。面倒も多いが、ちょっとは良い事もある……大人ってのは、そんなもんだろ?」
「違いない」
同じ声で穏やかに笑いあう二人を見て、うららと冴は微笑みを浮かべた。
● ● ●
一方で、暁と双葉、モルガナは『メジエドの創始者』について調べるために双葉の部屋にやってきていたのだが。
「メジエド関連のデータが全部消えてるって、どういうことだ!?」
パソコンの前で頭を抱えている双葉に代わって、モルガナが驚きの声を上げた。
「そんなのあたしが聞きたい! あたしのパソコンにそーじろーが触るわけないし、ウイルスだって踏んでない。なんでこんな……」
戸惑う双葉に、パソコンがメールの着信を伝えた。
「双葉、何かメッセージが来てるぞ?」
「なんだよ、こんな時に。件名は……『メジエドより佐倉双葉へ』!?」
三人が一斉に画面に注目する。
「ま、待て。いたずらやウイルスの可能性もある。きちんとウイルススキャンかけて……」
メールをスキャンさせると、画面には安全を示す画面が表示された。
「……よ、よし。開くぞ。準備いいな?」
「あ、ああ……」
緊張感に包まれながら、メールを開く。
「『我はメジエド。お前のメジエドとしての権限のすべては我が頂いた。しかしこれだけでは終わらない。お前は、お前とお前の母親の罪を贖わなければならないのだから』」
「奴らに先手を取られたか……でも、フタバと、フタバの母親の罪って一体何の──」
「違う!」
メールを読み上げた暁と顔を見合わせるモルガナの言葉を、双葉の悲鳴にも似た声が打ち消した。
「お母さんに罪なんかない……ないんだ! こんなのでまかせだ! 嘘だ!」
暁が、頭を抱え震える双葉の肩を抱いて落ち着かせる。
「大丈夫、大丈夫だ双葉。落ち着いて」
「違う……違うから……」
「そ、そうだ! そんなことより今のフタバはメジエドとして活動できないってことだよな?」
触れてはいけないものに触れてしまったことに気付いたモルガナが、すかさず話題を入れ替えた。
「う、うん……」
「でも、フタバの知恵や技術までなくなったわけじゃないんだろ?」
「それはまあ、たぶん……」
「フタバの知識と技術があれば問題ねーって!百人力だ!」
「メジエドについては相手のほうが一手早かっただけだ。これからどうするか、切り替えて考えよう」
「わかった……」
力なく頷く双葉を連れ出して、二人と一匹はルブランへと引き返した。
おまけ小話『勇者JOKER』
八十稲羽市で殺人鬼の噂が流れる数か月前。八十稲羽市の某精神病院にて──
『ミツオよ。我が声が聞こえるな』
「…………」
虚無の心の中に、昏い影が這い寄る。
『我はニャルラトホテプ。意識と無意識の狭間、その影に潜む者。影を受容も拒絶もしなかった者よ、お前に力を与える』
「……?」
影は人型へと形を変えると、右手に赤い光球を生み出して、こう告げた。
『これはJOKER。お前は選ばれた。これは間違ったこの世を救い、リセットするための力だ』
「僕は……選ばれた……この世は……間違ってる……?」
『そうだ。この世界は一度、ある者たちによって作り変えられた、間違った世界なのだ。JOKERの囁くままに暴れ、この世界のリセットボタンを押せ。勇者ミツオ』
その言葉を受けて、虚無の心の中に波紋が広がる。波紋はそのまま影となり、心を覆いつくした。
「僕は……勇者……勇者!!」
森本医師は憂鬱だった。須藤竜蔵に大金と汚職の証拠を餌に須藤の気狂いの息子の世話をさせられたその挙句、須藤が自分の病院を台無しにしやがったのだ。遺族の対応だの何だのに追われようやくこの田舎で一息つけると思った矢先、また妙な患者を押し付けられたのである。
「久保美津雄だったか? 何をしても反応がない犯罪者の世話なんぞ、なんで私が……」
「遺族の方の意向ですから……」
「これも仕事か……久保さーん、失礼しますよー」
病室に入った森本の悲鳴が聞こえたのは、それからすぐのことだった。
「も、森本先生!?」
警備員と共に看護師が駆け付けた時、部屋には森本の死体が転がり、その側には。
「久保さん!」
「ヒャ、ヒャーハハハ!! 聞こえる、聞こえるよォ、神様の声がァァァァ! 『この世界のリセットボタンを押せ』って! 『殺せ』って! そう、僕が、僕が勇者JOKERだぁ!」
狂ったように笑い、久保美津雄はその場から消えた。八十稲羽市に再び連続猟奇殺人が発生し、噂になるのはそれからすぐのことである。
『お前は勇者ジョーカー……殺せ……殺せ……』
影の囁くがまま、空虚の男は動く。光にも影にもよらない虚無の肯定とはすなわち光と影双方の否定と同義であり、その心は光のささない深淵の闇に染まっていた。