ペルソナxPERSONA~Minds that Cross Time~ 作:比例文
東京の異変を受けたペルソナ使いたちは、拠点であるスマル・プリズンに集まっていた。情報交換もすでに終えて、悠たちが八十稲羽で起きたことの顛末を報告していたところだった。
「そうか、須藤が……」
「すまない、僕が付いていながら……」
「克也さんのせいじゃないわよ」
「そうそう。新しいJOKERが出てきて片方が殺される、なんて予想できるわけないんだしさ」
「……あの、佐倉が元気なさそうなんスけど、何かあったんですか?」
克也を慰める舞耶とうららを横目に、力なく俯く双葉を見て完二が聞いた。
「それは……」
「三人とも話したがらねえんだ。ま、本人たちが話す気になったら話せばいい。言いたくねえことの一つや二つ、誰にでもあるもんだ……」
答えに窮する暁に、パオフゥが割って入る。
「わお、パオフゥさんカッケェ! 俺様、ちょっと惚れちゃうかも!」
「やめろ気色悪い」
「トモダチの子供だからって甘やかしてんのかしらねー」
「うっせぇぞ、芹沢」
「……そういえば、お二人はルブランに行っていたんですよね。今朝、お姉ちゃんから『今日はルブランに行く』って連絡があったんですけど」
「お前さんの姉かはわからねえが、客に女が一人いたぜ。結構な美人だったな」
「多分その人です。お姉ちゃんたちは今どうしてるんですか?」
「ペルソナ使いでもない奴をここに連れてくるわけにもいかねえだろ。絶対出ないよう言いつけてルブランに置いてきた」
「護身用に色々アイテム置いてきたから大丈夫だと思うわよ」
「そうですか、よかった……」
パオフゥとうららに言われ、真は安堵の息をついた。
「結局、例の予言通りになったってことなんでしょうか」
「東京中が氷に閉ざされて外に出ることもできずネットも都内しか通じない……ライフラインだけは生きてるけど、完全にパニック状態だって」
「でも、なんで東京がこんなことに……」
「それについては、俺に心当たりがあるんだ。予言にあった三つの塔と呪われた仮面……それに須藤って奴が言っていたっていう『ネメシス』も」
暁の疑問に尚也が答えると、ゆきのが片手で額を押さえた。
「まさかと思ったけど、やっぱりか……」
「何の話?」
「エルミン学園でも同じようなことが起きたのさ。冴子先生……私たちの先生が、演劇部に伝わる呪いの仮面、雪の女王の仮面を被ったことが発端だった」
「その時も学園が凍り付いて外部と連絡が取れなくなって、三つの塔が現れたんだ。その塔の名前がそれぞれ『タナトスの塔』、『ネメシスの塔』、『ヒュプノスの塔』」
「じゃあ、『ネメシスで待ってる』っていうのは、ネメシスの塔で待ってるってことか」
悠の呟きに、尚也が頷いた。
「そして雪の女王の仮面の呪いの本体が夜の女王ニュクス」
「ニュクス!?」
「どうやって倒したの?」
「普通に戦って倒したよ。俺たちが戦ったのは有里たちが言っている月のニュクスとは無関係か、仮に関係があってもそこまで深いつながりのあるものじゃないと思う」
「せいぜい欠片が入り込んだ程度だろうな」
S.E.E.Sの面々からの質問に尚也が答えて、南条が補足を入れた。
「それで、どうやって解決したんだ?」
「悪魔の鏡を使って雪の女王の仮面から呪いの本体を追い出して、倒した」
「あくまのかがみ?」
『その通り』
一瞬の閃光が周囲を包み込むと、フィレモンが姿を現した。
「うわっ!?」
「フィレモン!」
「現実世界にも出てこれるのかよ、あんた……」
『悪魔の鏡はここにある』
驚く一同を気にすることなく、フィレモンは虚空から鏡の枠を取り出し、その場に置いた。
「用意が良いな。だが、肝心の鏡の部分がないのはどういうわけだ」
『残念だが、また失われてしまった』
「ちょっとぉ! あれだけ苦労して直したのにまた割れたってどーゆーこと? カンリタイセーどうなってんの!?」
「優香、気持ちはわかるけどここは抑えな」
皮肉を言う南条、掴みかかろうとするアヤセをゆきのが制して、話を続けさせる。
『今回の鏡の破片は三つ。それぞれの塔の守護者たちが持っている』
「そうかい。だがもう一つ、仮面に選ばれちまった女ごと仮面を叩き割るって選択もあるな」
「嵯峨、貴様はまたそういうことを!」
克也が窘めるが、パオフゥは涼しい顔のまま。
「尊い犠牲って奴だ……いつまでもこいつらの手のひらで踊らされるのはごめんだぜ」
『君達は塔の守護者たちと戦う宿命にある』
「宿命、だあ?」
『三つの塔の中心地、渋谷駅に行きたまえ。そこですべてがわかるだろう……』
そう言い残して、フィレモンは再び閃光とともに消えた。
「あの野郎、言うだけ言って消えやがって」
「丁寧に鏡の枠も置いて行ったな」
「まぁ、どっちにしても助ける以外の選択肢はないですから」
「それに、須藤とも決着をつける必要がある……」
日本刀を握りしめて、達哉が呟く。
「とにかく、渋谷に行ってみよう。少なくとも、ここで話してるよりは良いはずだ」
尚也の言葉に一同は頷き、渋谷へと向かった。
──2017年、渋谷駅前。そこを中心として、東西と北に三つの塔が出現していた。
「人っ子ひとり居ないな……」
「そりゃ、こんな異常事態で外に出てくる人なんていないっしょ」
周囲を見渡していると、杏が女性を模した氷の彫像のようなものが置かれていることに気付いた。
「ねえ、渋谷にこんな像あったっけ?」
「……それは人間だよ。よく見てみな、仮面を被ってんだろ?」
「うわ、ほんとだ!」
「じゃあ、この人が予言で言われてた選ばれし女王?」
杏が驚き飛びのいた後に、改めて雪子たちが近づいた。
「冴子先生の時もそうだったんだ。無理に仮面を剝がそうとすれば砕けちまう。だから下手に触んないようにね。特に男子、この人が動けないのをいいことにスケベ心出すんじゃないよ」
「人間とはいえ、さすがに氷の彫像に欲情はしないですって……なあクマ」
凄むゆきのの迫力に慄く男子たちの中、陽介が愛想笑いを浮かべる。
「なぜクマを名指し!?」
「日頃の行いだろ……」
「……ねえ、湊。この人、どこかで見たことある気がするんだけど」
コントを繰り広げる陽介たちをよそに、ゆかりが凍り付いた女性をじっと見つめながら湊に聞くと、彼もまた頷いた。
「俺もそう思った。服装といい、背丈といい……桐条先輩、ちょっとこの横に並んでもらっていいですか? できれば、同じ姿勢で」
ゆかりも首を縦に振る。ゆかりと湊の予想は同じだった。言われるがまま、美鶴が女性の隣に並んだ。
「同じだ!」
「うん、顔はわからないけど服も背丈も桐条先輩そっくり!」
「まさか、この人って……」
「そのまさかなんだなぁ」
千枝の呟きに反応するように、そう言いながら空間を割るようにして奏が現れる。
「奏……!?」
「やっほー、湊。今日はお姉ちゃんって呼んでくれないんだ? 寂しいなぁ」
以前と変わらぬ友好的な態度で、湊に向けて笑顔で手をぱたぱたと振る奏。
「そのまさかって、どういうことだ」
「この女は、特別に用意した桐条美鶴のシャドウ。当たり前だけどそっくりだよね。ホンモノよりスタイルが良いのはご愛敬ってことで!」
「まじまじ見るな、男ども!」
湊の問いに、少し得意げに話す奏。と、その発言を聞いて女性の体をじっと見つめる一部のメンバーに対してゆきのが一喝する。
「だが、それなら話は早い。パオフゥさんの言う通りこれを破壊してしまえば……」
「壊した瞬間あんたは廃人になっちゃうけど、それでも良いならご自由にどうぞ」
美鶴の発言を聞き、一転して冷徹な表情に変わった奏が冷たい声色で告げる。
「今、凍っているこの女の意識はない。自分のシャドウを一方的に壊したら、影を失った人間は廃人になる……知らなかったの?」
「なぜそれを俺たちに教える?」
「だって、自覚もなしに勝手に廃人になられたらつまんないじゃん。ゲームはフェアにやるのが私の流儀なの」
「人質を取っておいて、何がフェアだ!」
「それだけを言うために出てきたわけじゃないだろう。何を企んでる?」
憤る明彦を押しのけ、暁が聞いた。
「そうそう、来栖くん宛に明智くんからメッセージを貰ってるんだった」
「明智から……!?」
「やっぱりあいつ、教団についてやがったのか……」
「私にとっては神取さんのボディガードの印象しかないんだけどねぇ。『影の怪盗団とともにヒュプノスの塔で待ってる。今度こそ決着をつけよう』ってさ」
「やっぱり神取も生き返ったのか……おい、奴はどこに居る!?」
「ヒュプノスの塔じゃない? あの二人、仲いいし。──ま、言うことは言ったから私はこれで。タナトスの塔で待ってるからね、湊」
「待って!」
懐から鏡の破片を見せながら奏が湊に微笑みかけると、引き留めにも応じず黒いプラズマの中に消えた。
「藤堂、来栖……頼みがある」
「わかってるよ。ヒュプノスの塔に行きたいんだろ?」
「俺たちはその神取についてもよく知らないし、来てくれるのは助かるよ」
「南条と園村はどうする。奴にもう一度会うか?」
尚也の問いに対し、二人は少し考えた後に首を横に振った。
「俺はやめておく。聞きたいことがないと言えば嘘になるが、俺はほかに気になることがある」
「気になること?」
「ああ」
凍り付いているシャドウ美鶴を見て、南条。
「私も……なんとなく、今は会うべきじゃないような気がするんだ」
「そうか。でも、神取とも戦うとなると城戸だけじゃ戦力が足りないんじゃないか」
「俺も同行できれば良かったんだが……俺も決着をつけなきゃいけない奴がいる」
残念そうに顔を伏せた後に、達哉はネメシスの塔を睨みつけた。
「まーまー、メンバーは十分居るんだし! 怪盗団プラスアルファで行けばいいのよ!」
「各塔のメンバーの振り分けは重要になりそうだな」
「まだ予言の達成……永遠の夜は来ていないけど、時間は限られてる。タイムオーバーになる前に塔を攻略して呪いを解かないと」
一同は状況の確認を終えると、それぞれの塔に入るパーティの編成に入った。
タナトスの塔突入班
S.E.E.S、南条、ゆきの、栄吉
ヒュプノスの塔突入班
心の怪盗団、尚也、玲司、うらら、パオフゥ
ネメシスの塔突入班
達哉、舞耶、淳、克也、麻希、ブラウン、自称特別捜査隊(直斗以外)
中央待機
エリー、アヤセ、リサ、直斗
「……編成はこんなところか」
「ねえ、待機組って必要なの?」
「今は誰もいないとはいえ、パニックになった群衆が何をするかもわからん。シャドウの桐条を見張ってもらう役割も必要だろう」
「なるほど」
「タナトスの塔で待ってるのは奏だけだろうし、俺だけでも……」
「ダメだよ、何が居るかわからないんだし。それに露払いも必要だろ?」
「お前はあの塔の仕組みを知らんだろう。一人で乗り込むのは無茶だ」
「なーにが死の神タナトスでぃ! こちとら元死神番長ミッシェル様よ! 大船に乗った気でいてくんな!」
「でも、S.E.E.Sのみんなまで一緒に行く必要は……」
「有里、なぜそこまで他人を拒む?」
南条が、頑なな態度の湊に問いかけた。
「俺はこの騒ぎが終わったら、身代わりになってる人を解放して元の封印の礎に戻るつもりなんだ。他の、特にS.E.E.Sのみんなとまた一緒に居たら、辛さが増すだけだと思う。だから……」
そこまで湊が話すと。先ほどまで力なく俯いていただけだった双葉の目に光が灯り、湊に掴みかかった。
「ふざっけんなキタロー!」
「ふ、双葉……?」
「さっきから聞いてればお前……置いて行かれる方の気持ちわかってんの!?」
「それはわかって……」
「わかってない! わかってたら、ジコギセーなんて絶対選ばない! お前はそれで満足なんだろーけど、置いてかれた方はやり場のない悲しみと罪悪感だけがずっと残るんだぞ! 自分を大事にできない奴が命について語るな!」
「落ち着いて、双葉!」
怒りに任せ、嚙みつかんばかりの勢いの双葉を真が羽交い絞めにする。その言葉を聞き、暁と達哉の表情に影が差した。
「すまない、彼女にも事情があってな……」
「むがー! もがー!」
「双葉、いい加減にしなさい!」
「いや。佐倉の言うことはもっともだと思う。しかし、我々にそれを言う権利は……」
杏に口をふさがれ叱られる双葉に対し、美鶴は申し訳なさそうに俯く。しかし、そのやり取りを聞いていた舞耶が口を開いた。
「湊クンの気持ちもわかるけど、私の考えはちょっと違うかなぁ。別れを知ってるなら、なおさら一緒に居て、思い出を作るべきだと思う」
「え……」
「だって、会えないと思ってた人にせっかくまた会えたんでしょ? 思い出作らなきゃもったいないよ。変に気を遣うより、自分たちの気持ちに素直になったほうが良いと思う。……なんてね。あとは、あなたたちで話し合って決めたほうが良いわね」
少し寂し気に語る舞耶に対して、暁とS.E.E.Sの面々は彼女と達哉の境遇を思い出して互いを見つめた。
「ねえ、湊」
「一緒に戦わせてくれないか?」
「そうだそうだ! 舞耶姉さん良い事言うぜ! これまでもずっと一緒に戦ってきただろ? 今回だってそうだ!」
「お願いします、湊さん」
「我々を頼れとは言わない……だが、頼む。我々と一緒に戦ってくれ」
ゆかりから始まり、S.E.E.Sのメンバーたちが口々に湊に申し出る。
「ありがとう、みんな……短い間かもしれないけれど一緒に戦ってくれ」
ぐっ、と手(と前足)を合わせる。S.E.E.Sがさらなる絆を得た瞬間だった。
「ヒュプノスはこれだけで良いのか? ネメシス組から少し分けても……」
「これくらいがちょうど良いってことになったんだよ。シャドウなんて、できるなら他人に見せたくねぇしな」
パオフゥの言葉に、己のシャドウと向き合った者たちは静かに頷いた。
「……なるほど」
「そういうネメシスだって、これだけで足りるんですか?」
「標的は須藤だけだからな。X-1やロンギヌスが居るとしても過剰すぎるくらいだ」
「脅威は塔の守護者だけとも限らない。みんな、油断しないように。必要なら踊り場反復横跳びを欠かさないこと」
反復横跳びという尚也の言葉にエルミン組ほか、げんなりした一部メンバーを含めて鼓舞するように、最後は克也が号令をかける。
「時間は少ないが、まだ間に合う……頑張ろう、みんな!」
「「おう!」」
号令に応じ、鏡の欠片と因縁の決着、そして異変の解決を求めて各チームは塔へと向かっていった。
おまけ
湊「キタローって言われた……」
ゆかり「そっちでもショック受けるんだ……」
順平「目玉の親父と妖怪少年は未来でも健在なんだなー。『オイ、キタロー!(裏声)』」
ゆかり「無駄に上手い!」
湊「何ですか順平父さん」
乾「そこはノるんですか」