ペルソナxPERSONA~Minds that Cross Time~ 作:比例文
招かれた者たち
達哉が目覚めた先はベルベットルームだった。
それに気付いたか、椅子に座っていた老人──イゴールが振り向いて声をかけてきた。
「お目覚めですかな、お客人」
「……イゴールか」
「3度目の邂逅、嬉しく思うと同時に悲しくも感じます。運命は徹底的にあなたに辛くあたるようだ……」
“運命”。その言葉を聞いて、打ちのめされそうになった自分に激励を飛ばしてくれた三人の大人を思い出す。
「運命なんてのは、後出しの予言と何も変わらない」
「……そうでしたな」
イゴールがしみじみと頷いた。
「それにしても、随分と広くなったな」
まるで映画館や劇場のホールのよう。達哉たちはホールの部分に立っていて、空の座席がよく見渡せた。
「ええ。今回は特別の事態。万全の状態であたるよう、フィレモン様から仰せつかっておりますゆえ」
「ここはどこに通じてるんだ?」
イゴールは頷いて、客席の中央にある階段を指差した。
「あの階段を降りた先の扉が、東京の四軒茶屋に通じております」
それを聞いて、達哉は最上段の四つの扉を指差した。
「あの四つの扉も同じか?」
「あの扉は今は開かぬようになっています。いずれ開く時が来ましょう」
「礼を言う。四軒茶屋……東京か」
行ったことはないが、どうとでもなるだろう。噂を追わなければ。幸い、武器も所持品もペルソナもそのままだ。体力も問題ない。
「ちょっと待って」
駆け出そうとする達哉を、また別の声が呼び止めた。見たことのない学校の制服を着た、どこか影のある雰囲気の少年だった。達哉は気付かなかったが、イゴールの椅子と正反対の位置に用意されたソファに座っていたようだ。
「……誰だ?」
「こっちの台詞でもあるんだけど。……俺は有里湊。さっきまで死んでて、君より先に起きたペルソナ使い。君は?」
達哉の問いに、少年──湊が答える。
「あ、ああ……俺は周防達哉。お前もペルソナ使い……なのか? それにさっきまで死んでたって」
「そうだよ。死んでたんだけど何故か生き返っちゃった」
「何故か……?」
「生き返っちゃいけないはずなんだけどね……それはともかく。達哉、行くアテはあるの?」
小声でぼそりと呟いた後、達哉に問う。
「ない。だが、噂を辿っていけば……」
そんな達哉を見て、湊が嘆息する。
「……イゴール。説明してなかったでしょ」
「説明する前に、あなたがお引き止めなさったので」
「…………どういうことだ?」
「君は西暦何年の世界から来たの?」
「何を……」
「いいから。ここに来る前は西暦何年だった?」
「……2000年」
心の中で、『本来なら』と付け加える。口に出す意義を感じなかったので黙っていたが。
「そう。俺は2010年の世界から来たんだ。君の十年後輩ってことだね」
「は?」
突然の告白に耳を疑う。どう見ても自分と同じ年頃の少年にしか見えないからだ。
「で、外は西暦何年かと言うと……2017年の春。君にとっては約十七年、俺にとっては約七年先の未来の世界だ」
「未来の世界……本当なのか?」
次々と並べ立てられる言葉に、達哉はイゴールに確認する。
「その通りです。補足を入れるなら、あなたのいらっしゃった時代から三度、試練が行われました」
「それだけ時代が進んでいる以上、外に出たところで僕らの常識はほとんど通じない。闇雲に出て行かない方が良いと思うよ」
「しかし……」
「イゴールの話だと、この時代にもペルソナ使いがいるらしい。異変が起これば彼らも必ず動くはず。俺たちが動くのはそれからでも良いんじゃない?」
「しかし……」
奴の特性を考えれば、異変が表出する前に動かなければ手遅れになる危険があった。しかし、自分の常識が通じない未来の世界を行く宛もなく歩くのが無謀であることも事実だ。トレースされるだけだった以前と同じようにはいかない。
「まずは俺たちの敵について、情報交換をしておかないか? 俺も達哉の時代に何があったか興味がある」
「……そうだな。俺もお前の話を聞いておきたい」
湊にも、奴の特性を説明しておいた方がいいだろう。逸る気持ちをどうにか抑えながら、彼の提案に乗る形で達哉は新世代のペルソナ使い達の動きを待つことにした。