ペルソナxPERSONA~Minds that Cross Time~   作:比例文

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「P3Pのキャラ」といえば彼女ですよね


悪意の影

 時は少し遡り、ネオ・デヴァ・システム起動の少し前。湊は夢の中にいた。

「ここは……」

 見渡す限り黒で埋め尽くされた、何もない部屋。天井こそ高いが、それだけだ。壁に触れると、泥のような感触が伝わってきた。

『ようこそ』

 虚空から声が聞こえる。聞き覚えのある声だったが、どこで聞いたのか思い出せない。

『生に答えはあったかな?』

 今の言葉で思い出した。生き返る直前に聞いた、二つの声の片割れだ。

「……フィレモンだかニャルラトホテプだか知らないけど、姿くらい見せたら?」

 達哉から事情は聞いていた。人の無意識のポジティブの面を具現化したフィレモンとネガティブな面の具現化であるニャルラトホテプ。曰く、ベクトルが違うだけでどちらもロクでもない奴らとのことだったが。

『大した度胸だな』

「こっちは一度死んでるんだ。なんてことない」

 周囲の空間が愉快そうに揺らめいたような気がした。

『なるほど、道理だな。よかろう、フィレモンと混同されるのも本意ではない』

 周囲の泥が集まって、人の形をとる。最初は泥人形のような不気味な姿だったが、次第に色がつきディティールもはっきりしていく。明るい茶色の髪を後ろにまとめ、月光館の制服を着た女生徒の姿へと。

「え……!?」

 知っている。自分は"この人"を知っている。

『これで満足かね?』

 自分と同程度の年齢に成長こそしていたものの。本能的な感覚なのか、それともニャルラトホテプが何かしたのかはわからない。だが理解した。理解してしまった。

「おねえ……ちゃん……!?」

 十年前の事故で亡くなった自分の双子の姉。その姿をとったナニカが、金色の瞳を爛々と輝かせ、邪悪な笑みを浮かべていた。

『お前に一つ伝えるべきことがあったのでね。こうして招いた次第だ』

「伝えること……?」

 中身がなんであれ、慕っていた姉と話している。その事実が、湊の判断能力を鈍らせる。

『お前が目覚めた後……ニュクスと呼ばれるものの封印がどうなっているか、興味はないかね?』

「…………」

『その沈黙は肯定と受け取ろう。結論から言えば、封印に問題はない。代わりの人柱を用意したからだ』

「代わり……?」

「彼女だよ」

 ニャルラトホテプが指を鳴らすと、虚空に磔にされ、死んだように眠る女性が現れた。湊はこの女性も知っていた。

「エリザベス!?」

『ククク……健気だよ。お前の代わりに自ら封印されることを望んだ。喜べ、これでお前は自由の身だ』

 姉の姿をとった邪悪が笑った。

「ふざけるな!」

『なぜ怒る。彼女は望みを叶え、お前は解放された。それでいいではないか』

「良くない……」

『矛盾だな。お前は良くて、他人はだめなのか?』

「…………」

『まあ、全てはこれを使えば済む話……』

 俯く湊をよそに、ニャルラトホテプは話を続ける。エリザベスの姿が闇に消え、今度は血管のような管が付いた奇妙な形の盃が現れる。

「それは……」

『これは聖杯。願いを集めるため、偽神の残骸をもとに作られた器だ』

「その聖杯がなんだって言うんだ」

『世界のリセットについて周防達哉から聞いているか? この世は一度滅びリセットされた世界。

 聖杯にこの世を否定する願いが満ちた時、リセットされる前の世界へと世界は巻き戻される』

「どうでもいい。俺は興味ない」

『どうでもいい……か。お前が真に望んだ生き方ができるのだぞ?』

 "いつも暗くて無気力で全然懐きもしない! こんな子供、なんで引き取ったのよ!?"

 "し、仕方ないだろ。兄さんの子で……それに、この子は家族を一度に亡くしたんだ……"

 "だったらアンタが世話してよ! 私はもう、こんな不気味な子供の相手なんてまっぴら!"

 "はぁ……なんでこうなるんだ。せめて奏ちゃんだったら、あいつも……"

 仲間達と出会ってから忘却の彼方へと葬り去っていた、"名義上の保護者"の声。

 それに続くように、幼い少年の声が響く。

 "おねえちゃん……なんで、死んじゃったの?"

 "なんで……僕だけ生きてるの?"

 "おねえちゃん……独りはやだよ……いっしょがいいよ……"

 "僕じゃなくて、おねえちゃんが……"

 背筋が凍りつくような怖気が走り、湊は頭を振った。

「やめろ!」

 声を荒げる湊を、ニャルラトホテプは冷徹に見据える。

『影を拒絶するのか? 愚かな男だ。ワイルドであろうと影からは逃れられん。それが運命だ。――そろそろ覚醒の時間だな。また会える時を愉しみにしているぞ、有里湊』

 影の哄笑が聞こえる。それがどんどん遠ざかっていき、湊の意識は現実へと戻っていった。

 

 湊が目を覚ました時、大きな揺れがベルベットルームを襲っていた。

「なに……?」

「わからない。地震か?」

「いいえ。精神の領域であるベルベットルームが外界の影響を受けることなどあり得ません。有り得るとすれば……」

「ヤツが動いたか……!」

 イゴールの言葉を受け、達哉は刀を握る手に力を込めると同時に、湊を見やる。

「随分とうなされていたようだったが、大丈夫か?」

「……ちょっと夢見が悪くて」

 それだけ伝えた。エリザベスのこと、姉のこと、そして聖杯。言うべきことは山ほどあったのに、伝える気が起きなかった。どこか様子のおかしい湊に達哉は訝しげな目を向けたが、それを問う前に部屋に変化が訪れる。

「な……」

「おや、君は。随分と久しぶりじゃないか」

「その声……ナナシか?」

 今までどこに居たのか。ホール部分が拡張されて、多くの人が自分たちの背後に現れた。達哉はこのうちの何人かと面識があったらしい。しかし本来ここに居るべきはずのエリザベスはいない。

「……取り戻さなきゃ」

 まずはエリザベスだ。ニャルラトホテプを倒してこの騒動を片付ければ、封印も本来のカタチに戻せるはず。

「イゴール、他に何か変化は」

「どうやら、閉じられていた最上段の扉が開いたようですな……」

「事態が動いたな……湊?」

「ごめん、急ぐ理由ができた。ちょっと外を見てくる」

 湊は駆け出して──達哉に腕を掴まれた。

「急にどうしたんだ。夢で何があったか、聞かせてもらうぞ」

「く……!」

 仕方ない。あまり話したくない部分をぼかし、湊は達哉に事情を話した。

「そうか」

 そう言うと、達哉は刀を手に取り立ち上がった。

「俺も行く。いいな?」

 有無を言わせぬ執念の籠った声。頷きあうと、二人は外へと駆け出した。

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