ペルソナxPERSONA~Minds that Cross Time~ 作:比例文
目覚めた先で~佐倉双葉の場合
あたし、佐倉双葉は今モーレツに混乱している。
状況を整理しよう。あの地震で気を失って、そんで気付いたらなぜか学校みたいな場所にいて。わけわかんないうちにシャドウが出てきたので逃げてたらこのメガネたちに助けてもらって。
で、今は色々質問を受けている。ホールドアップって奴だ。総攻撃チャンスだ。敵は総崩れだ。私の精神も総崩れだ。やばい胃が破裂して死にそう。そーじろー、暁、モナ、もう誰でもいいから助けて!
「……おい。聞いているのかいないのか、はっきりしろ」
「南条先輩、もうちょっと優しく話しかけられねえんスか? 怯えてますよ」
保健室らしい場所に居るのはあたしを除いて四人。全員、見たことのない制服を着ている。問い詰めてくるオールバックのメガネと、そいつと同じ制服を着た茶髪のチャラそーなヤツに、メガネを宥めてくれてる金髪のヤンキーみたいなヤツ。
そしてあたしたちから少し距離を取る形でやり取りを見つめてる赤髪の美人。
「同感! 南条はもーちょっとオレ様を見習って愛想良くしろって! な、みつるん先輩!」
「み、みつるんせんぱい?」
茶髪のチャラそうな奴がはやし立てる。話を振られた赤髪の美人は、いきなり付けられたらしいあだ名に困惑してるらしい。
「お前も深呼吸でもして落ち着け……つっても、この先輩たちの前じゃ難しいか」
おお。このヤンキー、よく見りゃリュージと似てる気がする。そうだ、落ち着くんだ佐倉双葉。そうだこいつらはみんな知り合いだ。知り合いってことにしよう。そーじろーの悪人ヅラを思い出すんだ。
「ナ、何かゴ用ディスカ?」
よしゃ、言えた!
「……口がきけない、というわけではないようだな」
「は、はひっ! く、クチきけます! さー!」
「しかし意思疎通は困難……どうしたものか」
顎に手を当て考えるオールバック。せっかく勇気出したのにそれかよ!
「すげぇキンチョーしてますよ」
「しょーがねーなぁ! 見てろよ、オレさまの泣く子も黙る鉄板爆笑ネタで和ませてやるぜ!」
途端にイキリだした茶髪に、あたし含む全員が注目する。泣く子も黙る?
「ふーっふっふっふっふっふっふっふっふっふ! 『ふ』が十個でェ、とぉぉぉふぅぅぅ! 笑えよ!」
場の空気が凍った。
「上杉、ジョークで人を黙らせてどうするんだ?」
みつるん先輩(仮)が突っ込む。この空気で平然と、しかも今そこに突っ込むとか勇者か!
「あ、ソコ突っ込んじゃいます?」
「気にするだけ無駄だ桐条……こいつは底抜けのバカなだけだ」
「お、俺はおもしれーと……おもしろ……」
「無理しなくていいぜカンちゃん……ちくしょー、マジメくんばっかりなのが悪いんだ! なおりんやマキちゃんなら大笑いしてくれるのに!」
「あれは愛想笑いというんだ」
けど、なんとなくコイツらのキャラはわかってきた。……ような気がした。
「……表情が少し柔らかくなったな」
「やっぱオレ様のギャグが効いたってことだな!」
「……ふむ。少しは落ち着いたか。では俺が質問するからイエスかノーで答えろ。頷くか、首を横に振るだけでもいい」
ドヤ顔の茶髪を華麗にスルーしてメガネが聞いてきた。こくこくと首を縦に振る。情けない話だが、やはりまだ見知らぬ人は怖かった。
「よし。まず一つ目の質問だ。お前はペルソナ使いだな?」
ペルソナを知ってる? 何者だ、こいつ。
「…………」
「……質問の意味はわかっているか?」
「…………」
「答えたくないのなら首を縦に、質問の意味がわからなければ首を横に動かせ。動かさなければ答えたくないとみなす」
ノーコメント不可能か! ならシラを切る! 首を横に振った。
「南条先輩、知ってるのにわざわざ聞く必要あるんですか?」
え。なにそれこわい。
「こいつのペルソナに対する認識がわかる。どうやら、あまり大っぴらに明かすものではないとの認識はあるようだ」
「な、なんで知って……!?」
「微弱だが、俺とお前のペルソナが共鳴している」
「きょ、きょーめー!?」
そんなん知らねー! ペルソナ使ってもいないのにわかるってチートじゃん!
「お前も共鳴現象を知らないのか?」
「やっぱ先輩特有のモンじゃないんですか?」
「俺の仲間は全員できる。むしろ上杉に出来るのにお前たちが出来ない理由がわからん」
「なんじょーくん、それってどーゆーイミ?」
「教えなければわからんと言うなら教えてやるが」
「エンリョしとく……」
肩を落としている茶髪。あいつもできるのか。
「つっても、わかんねえもんはわかんねえしな……」
「ふん。ん?」
聞こえてきたのは人間の足音。しっかりとした足取りで近づいてくる。
「なんすか。また誰か……」
そうして入ってきたのは、見るからに怪しいド派手なスーツにロン毛とサングラスのおっさんだった。
「おいおい……懐かしい感じがすると思えばお前かよ、南条」
「あなたは……」
「忘れたのか? パオフゥだよ、パオフゥ」
「パオ……? 失礼ですが、どこかでお会いしましたか?」
「勘弁してくれよ、マジで忘れたってのか。つーかお前、ちょっと見ないうちに雰囲気変わって……
いや、その前になんでエルミンの制服なんて着てるんだ?」
「エルミンの生徒がエルミンの制服を着ているのは当たり前でしょう」
「…………まさか。お前、今いくつだ?」
「17ですが……」
「マジかよ……」
「?」
「そんで、そのパオフゥが何の用だよ」
「用も何も、共鳴を追ってきたらここに辿りついたってだけなんだが……」
って、あれ? この声は。よく聞かなくてもわかる。わかるぞ! ああ、間違いない! この声! このヘンクツそうな態度! こいつは!
「そうじろう!」
「あ?誰だ、そりゃ」
「やっぱりその声、そうじろうだ!」
ウキウキになって抱き着く。なんかタバコ臭いけど気にしない!
「……っておい、抱き着くな!」
「彼女の知り合いですか?」
「違う! 誰かと間違えてんだろ! おい、離れろ!」
「寂しかったぞおおおお! ここ知り合い居ないし! グラサンとカツラで隠したって声でわかるんだからなそうじろう!」
何年同居してると思ってんだ! フタバイヤーは声優の声も聴き分けられるんだぞ!
「つまりパオフゥは偽名か」
「ええと……ソージローさん?」
「見た目ハデなのに意外とシブい名前なんすね」
「人違いだっつってんだろうが!」
事実を指摘され(?)真っ赤になって怒るそーじろー。うんうん、追い込まれるとそうやってキレるところも実にそーじろーだ。
「確かに日本人だけどな! 俺はソージローなんて名前じゃねえ!」
「つれないこと言うなよそーじろー!」
「黙ってろお前は!」
● ● ●
数分後。あたしたちは揃って正座させられ、ゲンコツを食らっていた。
「落ち着いたか、ガキども?」
「拳骨……初めての経験だが、なかなか痛いな……」
「山岡にやられて以来だ……」
「なんで俺たちまで……」
「いたい……」
「いいか。俺はパオフゥで、ソージローなんて名前じゃねえ。わかったな?」
「でも、声……」
「わ・かっ・た・な!?」
「……うー」
声は絶対そーじろーなのに……
「ところで、悪魔だらけの中で随分とのんびり寛いでるようだが、ここは安全なのか?」
「はい。そこの鉢植えにアガスティアの木がありますので」
オールバックが近くにある植木鉢を指さした。ピンク色のやたら派手な木が植わっている。
「アガスティアの木?」
「この木の近くには、何故か悪魔が寄ってこないんですよ。ご存知ありませんでしたか?」
「知らねえな……こんな木にそんな力があるのってのか」
「まずは自己紹介をしませんか。お互い名前も知らないのではやり辛いでしょう」
「……そうだな」
「では、俺から。名前は南条圭。聖エルミン学園の生徒です」
「オレは上杉秀彦。南条と同じくエルミン生だ! 親愛を込めてブラウンって呼んでちょーだいな!」
「次は俺かね。本名は嵯峨薫……断じてソージローじゃねえ。いろいろ事情があるんでパオフゥと呼べ。今は人探しなんぞやってる」
「私は桐条美鶴。つい先日まで月光館学園に通っていた」
「……あ、俺? 俺は巽完二。八十神高校の一年ッス」
「さ、最後は……わ、私か? さ、佐倉双葉。今年の春から、秀尽学園に通う……予定」
「ふむ、こんなものか……さて。まず聞きたいことは……パオフゥさん、それに佐倉と巽。あなた方がどの時代から来た人間か、ということです」
「ふぇ?」
唐突な質問に、つい間抜けな声が出た。
「なんだ、気付いてやがったのか」
「桐条が居ましたから」
「なるほどな。分家なんだから気付いてもおかしくねえか」
「あなたが俺の名前を知っていたのも、未来の俺と接点があったからではありませんか?」
「正解だよ。俺が居たのは2000年。お前さんには、ある厄介ごとの縁で協力してもらった」
「あのー、話が読めねえんですけど」
「そこのカレンダーを見ろ。特に年代のところだ」
言われるままに、カンジと一緒にカレンダーを見てみる。
「平成8年……1996年!?」
せんきゅーひゃくきゅーじゅーろく!? 20年前じゃん!
「この世界……俺と上杉の世界の年号だ。おそらく、お前たちは別々の時代からここにやってきている」
「私の知る南条圭はとうに成人し、南条グループの総帥となっている。だが、ここにいる南条圭はまだ学生で、肩書きも次期総帥だという」
「俺の知る桐条美鶴は桐条グループの次期総帥の娘である幼い少女だ。しかし桐条の家にこの年ごろの女子がいるという話は聞いたことがない」
「だから、お互いが違う時代からここにやってきた……って解釈したわけだ」
「……しかし、未来人が来たってのにセンパイ達は全然驚かないんスね……」
「非常識なコトにはもう慣れちまったからなぁ」
「とはいえ、信じ難い事態であるというのも事実。どんな存在が動いているのか……」
「おおかた、フィレモン達が懲りずに何か企んでるんだろ」
「フィレモンが?」
夢に出てきた肩幅!
「知らないのか?」
「おいおい、あいつに会わずにどうやってペルソナ発現させるんだよ」
「いや、俺も知らねえッスけど」
「私もです」
カンジときりじょーセンパイの答えに、ブラウンが首を傾げる。
「えええ。だってキミたち……ペルソナ様遊びやったんでしょ?」
「ペルソナ様遊び?」
「そういや昔、そんなのが流行ったってお袋が言ってたっけ……でも、だいぶ昔の話ッスよ」
「…………」
「ムカシ……ね。オレ様ちょっとフクザツだぜ……」
「時の流れで廃れた……ということでしょうか?」
なんじょーに聞かれたパオじろーは自嘲するように笑って肩をすくめた。
「あ、あたしは知ってる……今朝、夢に出てきた。蝶の仮面つけた肩幅スーツ……」
「肩幅スーツ?」
「でひゃひゃひゃ! たしかに、あいつめっちゃ肩幅でけーもんな!」
眉をひそめるなんじょー。でもブラウンには大ウケだった。
「ま、まぁ間違っちゃいねえな……! で、夢に出たって……?」
「噂が現実になるとか、どーとか……」
そこまで言うと、パオじろーの目の色が変わった。
「噂が現実になる……本当にそう言われたのか?」
「う、うん。それで仲間と作戦会議してたら、こんなことに……」
「何か、気掛かりなことでも?」
「いや。まだ情報が足りねェ。……全員、これまでの事情を確認させてくれねえか」
「長くなりますが。よろしいですか」
「お、俺はうまく説明できるかわかんねースけど」
「あたしも同じく……」
「……せっかくなので、あなた方からも説明を頂きたい。何があったのか」
「口外しないってんなら、構わねえ。いちおう機密事項なんでね」
「同じくだ。下手を打てば厄介な事態になるからな」
「もちろん」
● ● ●
「デヴァ・システムによる街の異界化、噂の現実化、影時間、テレビの中、認知の世界……」
「見事にバラバラだな」
「……だが、共通点はある」
「人の意思……無意識、アクマとシャドウ……そして異変を打倒する力、ペルソナか」
「俺たちの時もたいがいだったけど、ほかの奴らもぶっ飛んでんな。……佐倉?」
頭の中に様々な言葉が躍る。デヴァ・システム。異界化。セベク・スキャンダル。そして……
──『ねえ、おかあさん。この写真に写ってる人たち、だれ?』
──『ニコライ博士に、神取支社長。双葉が生まれるずっと前に、お母さんの研究のきっかけを作ってくれた人達よ』
「おい、大丈夫かよ。顔色悪いぞ」
「うぇ、あ、ああ……うん……」
気分が悪い。頭がガンガンして、吐き気もする。
「……何か、心当たりでもあるのか?」
「い、いや……気のせいだ。気のせいの……はずなんだ」
「…………」
「何か思い出したら話してみてくれ。私でなくとも、パオフゥさんや巽でもいい」
「なんで俺と巽だ?」
「どうやら、あなた方に懐いているようですから」
「話を戻すが……目下のところ最新の異変は、佐倉の言ってた噂の現実化現象だ」
「パオフゥさんの時の異変と同じですね」
「この事態になった原因も、そこにあると?」
「俺はそう睨んでる。……ともかく、のんびりしてる時間はなさそうだ。とっととここを出ようぜ」
パオじろーの言葉に、なんじょーとブラウンが表情を曇らせた。
「そう簡単に行けば良いのですが……」
「何かあるのか?」
「いや、オレたちも最初は出ようとしたんだよ。でも、昇降口に明らかにヤバいのが居座ってて出られねえの」
「今の装備で戦うには手に余りそうだったので、探索をしていたのですが……」
「さすがにガッコじゃあロクな武器も防具もなくてさ。困ってたところで共鳴にアンタたちが引っかかったワケ」
「ここ、やっぱり学校なんだ」
「おう。説明してなかったっけか? 御影町の聖エルミン学園。オレ様と南条の母校ってヤツだな!」
「……このレイピアも部活用のものだものな。たしかに、実戦で使うには些か頼りない」
手元のレイピアをいじりながら、きりじょーセンパイが呟く。使ってる人が違うとニセモノでも本物みたいに見えるんだな……
「俺は鈍器なら何でも……」
「鈍器……パイプ椅子や机ならあるけどなぁ」
「あ、あたしはナビゲーション専門で、戦うのは……」
「でもこの人数なら、数で叩けば余裕じゃないッスか?」
「叩ければなー」
「どういう意味だ?」
「見ればわかる。ついて来い」
果たして、何が居るというのか。あたしを含めたその場の全員がなんじょーの後を追い、昇降口へ向かった。