ペルソナxPERSONA~Minds that Cross Time~ 作:比例文
あたしたちは、壁の影から昇降口に居座る何かをこっそりと観察していた。
「あれです」
なんじょーが指さした先には、人型をした鉄の塊が重い金属音と駆動音を響かせ闊歩していた。
手にはそのメカメカしいボディには不釣り合いな古めかしい刀が備え付けられている。
「ろ、ロボット……!?」
「X-1……!? なんだってここに……」
「ご存じなのですか?」
きりじょーセンパイの質問に答える前に、パオじろーは慎重に元来た道に引き返し始めた。
「とりあえず、一時撤収だ。奴に気付かれる前に戻るぞ」
● ● ●
保健室に戻ったあたしたちは、再び作戦会議を開いていた。
パオじろーが早速、口を開く。
「あれは対ペルソナ使い用兵器X-1。俺たちの時代に作られたシロモノだ」
「対ペルソナ使いって、ンな限定的な……」
「ペルソナ使いに特に効くってだけで、実質人型の戦車みてえなもんだ。
完全装備の軍人でもサシでの対処は難しいだろうよ」
カンジの言葉に、パオじろーが渋面を作って答えた。
「X-1、Xシリーズ……まさか、アイギス……」
きりじょーセンパイが何やら俯いて考え込んでいる。あいぎす?
「少なくとも、モップや部活用の剣じゃ話にならねえ」
「ペルソナは?」
「電撃系の攻撃は効果があったと思うが、今はまともな防具もないって事も忘れんなよ」
「む……」
つまり、あいつを倒して脱出するのは不可能ということだ。
「そういや、パオフゥさんの武器って何なんです?」
「あ? あー、見せてなかったか。──ま……見せるだけならこれでいいか」
カンジに問われて、パオじろーがポケットから取り出してみせたのは十円玉。それを握り込むと、指で勢いよく弾き飛ばした!
弾き飛ばされた十円玉は音を立てて壁に激突し、小さな跡を残した。
「こいつが俺の得物でね。弾が良けりゃ、もっと威力が出るんだが……十円玉じゃこの程度か」
そう言って自分の手を見せるパオじろー。
弾き飛ばされた十円玉を見ると、ひしゃげたように潰れていた。
「どっちにしろ、今の俺たちじゃ勝ち目は無い。うまくかわして逃げるしかねえ」
「あいつに見つからずに出るのは無理じゃ……」
「俺が指弾であいつの気を引く。その間にここから逃げろ。そうしたらお前らがペルソナで時間稼ぎだ。その隙に俺も逃げる」
「あ、危なくないっすか!?」
「ヤバくなったら引っ込むさ。それに、ここにいる飛び道具持ちは俺だけだ。最悪、お前らだけでも外に出て装備を整えろ」
「……わかりました」
「だが、この十円玉で奴の気を引けるかは正直、微妙だ。あいつにとっちゃ小石みてえなもんだろうからな。指で飛ばせるモンなら何でも良いんだが、誰かもっと威力ありそうなもん持ってねえか?」
「ふむ……」
「こういう時、鳴上先輩なら何か持ってんだけど……!」
「南条、なんか持ってねーの?」
唸る一同。その中で、ブラウンがなんじょーに話を振った。
「表と裏が逆の十円玉ならあるが」
「そういうんじゃなくて! 普段あんなに一番一番言ってんだし、メダルとかコインとか!」
「バカか貴様は」
「無茶言ってんのはわかってるんだって……そうストレートに言わなくてもいいじゃんよー……」
ブラウンの無茶振りを、なんじょーが流し……て、ない? 何やら懐を探っている。
「常備しているに決まっているだろう。一番メダルと一番コイン」
「は?」
なんじょーは当然のように、ポケットに入っていた金色のコインと青色のメダルを差し出した。ご丁寧に全部<1>の文字が入っている。いやそんなことはどうでもよくて。
「「「マジで!?」」」
数分の沈黙ののち、本人除く一同が同時に突っ込んだ。
「いやマジかよ南条くん! さっすがオンゾーシ何考えてんのかわかんねー!!」
「……なんか、先輩が一層わかんなくなりました」
「のちの南条の総帥が……意外なところがあるものだ」
三者三様に混乱しているが、さすがパオじろーはタバコを咥えて動じない姿勢……いやめっちゃ動じてるわタバコの向き逆だ!
「……たしかに。なぜ俺はこんなものを持っているんだ?」
周囲の疑問を受けて、なんじょーが自分が信じられないかのように両手を見る。
「へ?」
「そもそも何のコインとメダルなんだ、これは。まったく覚えがないぞ」
「…………」
「まさか、噂か……?」
「しかし、こんなピンポイントな噂を誰が……」
「あ」
考える一同の中で声を上げたのは、やっぱりブラウンだった。
「『あ』!?」
「上杉、貴様……!」
「あばばば! 待って待って南条! 色々理由があったの! 悪気があったわけじゃないのよ!」
「悪意があればとうに殴っているわ大馬鹿ものが!」
怒ってブラウンの襟元を引っ掴む南条をきりじょーセンパイが抑えた。
「落ち着け総帥。必要なものが手に入ったんだ。パオフゥさん、行けますか」
「充分だ。きっちり時間を稼いでやる」
きりじょーセンパイの問いに、一番コインと一番メダルを握ったパオじろーが不敵に笑う。握ってるものがまともならもっとカッコよかったのに。あ、カンジもそう思ってるっぽい。
まあそれはそれとして! 作戦決行だ!
● ● ●
パオじろーの立てた作戦は単純なものだ。まず昇降口の左右に先行脱出組とパオじろーで分かれて、メカがパオじろーに気を取られた隙にあたしたちが脱出。
なんじょー、きりじょー、ブラウンの三人は外に出た後にペルソナでパオじろーの脱出を援護。ちなみに戦えない上に体力のないあたしは、ペルソナ召喚の自信が無いというカンジに担がれて逃げるというちょっと情けない役回りだ。
……ダイジョブかなぁ、みんな……
「さあ、行くぞ!」
ロボがこちらを向いた。
やべっ、タイミングがズレた! 先にパオじろーが見つかる手はずだったのに──
「指弾だッ!」
「……!」
銃口を向けられた瞬間パオじろーの指弾が良い音を立ててロボに命中し、ロボの装甲が少し凹んだ。スゲーなあのメダル……
「よそ見すんなよポンコツが……てめぇの相手は俺だ!」
よろめいたロボットを、さらにパオじろーが挑発する。なんだか妙に感情がこもっていた。パオじろーの計画通り、あたしたちは昇降口を抜けエルミン学園の校門まで走り抜けた。
「よし、全員出たな。佐倉と巽はもう少し離れておけ。……連絡はどうする?」
ここは1996年の世界。基地局の問題なのかなんなのか。あたしのスマホやカンジのケータイは通話もメールも通じなかった。そんなあたしたちに、ブラウンがケータイを渡してきた。
「オレ様のケータイ預ける。こいつなら通じるだろ。……完二、ちゃんと双葉ちゃん守れよ」
「任せてください!」
珍しく真面目な声色で、ブラウンがカンジに言い聞かせ、二人がぐっと握手を交わす。カンジだってブラウンだって、みんな怖いはずなのに。くそう、無力なこの身が憎い……
「あ、でも余計な電話とかやめてくれな! 電話代バカになんねーから!」
そう思った瞬間、バカ笑いを始めるブラウン。こいつにシリアスは五分と保たないらしかった。
「……てか、先輩達のところ行かなくて良いんスか」
気付けばなんじょーたちの姿がない。そんなこんなしてるうちに、パオじろーの援護に向かったようだった。
「え!? オレ様置いてかれてる!? 待ってよなんじょーくん! みつるんせんぱぁい!」
● ● ●
その頃。パオフゥはというと。
「…………」
【ムラマサコピー】
ペルソナ封じの妖刀の一撃を、なんとか避ける。
「やっぱ一人じゃキツいか……」
舌打ちしながらも、パオフゥは致命的な一撃を紙一重で避け続けていた。
しかし、完全な回避などできるはずもなく。防具がないのも同然とあって、パオフゥのダメージも大きかった。
「だが……」
子供たちは送り出せたのだ。目的は果たせている。しかし、あの少女──双葉と言ったか。誰かに似ているような……そこまで考え、X-1の銃口がこちらを向いていることに気づいた。
「俺もヤキが回ったかね……?」
自嘲するパオフゥ。それでも手の“弾丸”は捨てない。そんな時だった。
「<アルテミシア>!」
【ブフダイン】!
「よろしくゥ、<ティール>!」
【ザンダイン】!
「!!」
冷気と衝撃の魔法がX-1に直撃し、煙を巻き上げた。
「やっと来たか……!」
救援だ。そして誰かが土煙に紛れてパオフゥに近づき、肩を貸した。南条だ。
「パオフゥさん、大丈夫……ではなさそうですね。急いで脱出しましょう!」
「これくらいなんともねえが、急ぐのは賛成だ。あの程度じゃ時間稼ぎがせいぜいだ……」
煙が晴れた先に、立ち上がろうとするX-1の影を見てブラウンが驚愕する。
「うっそぉ……まるで効いてねえでやんの……!」
「総帥、パオフゥさんは!」
「確保した! 逃げるぞ!」
「オマケだ……とっとと来な、<プロメテウス>!」
【雷の洗礼】!
苦手な雷を食らった機械は再び倒れこみ、一行はエルミン学園からの脱出に成功したのだった。