ちょっとカッコつけたいTS女子、思った以上に周囲の脳を焼く   作:つけしい

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1 想像以上にかっこいい

 転生者は特別な存在だ。

 生まれながらに他者とは違う存在で、多くの場合は特別な力だって持っている。

 そんな存在に生まれ変わったなら、多少格好つけても様になるのではないか。

 特にそれが美少女だったら。

 

 生まれ変わって、自分の姿を見た私はそう考えた。

 女の子に生まれ変わってしまったことには、少し面食らってしまったけど。

 それ以上に、どこか周囲を引き付ける美貌に自分自身すらやられてしまったのだろう。

 

 だから私は、理想の自分を演じることにした。

 とはいえ無茶はしない。

 前世は何の面白みもない、ただのオタクだったのだから。

 ほんのちょっと、かっこつけるだけ。

 言葉遣いを少し堅くしたり、戦い方に美学を求めたり。

 基本的には、今の私にできる最低限の”かっこつけ”で十分。

 

 幸い私には才能が有って、それを活かして冒険者になることができた。

 そうなる過程には少し厄介事もあったけど。

 少なくとも今は、悠々自適に冒険者をすることができている。

 

 ただ、少し困ったことがあった。

 理想の自分の演技に失敗した……わけではない。

 むしろ、逆。

 

 成功しすぎてしまったんだ。

 

 転生者、リシェア。

 無口で無骨で、容姿端麗。

 戦い方はスマートで、無駄がない。

 そんな”ちょっと”かっこいいだけのつもりだった私はいつの間にか――

 

 死影(しかげ)の踊子なんて、物騒な二つ名すらつけられている。

 

 

 ◇

 

 

 ――ダンジョンの暗闇を、一筋の影が躍る。

 そこは凸凹とした石壁でできたダンジョンの、少し開けた一角。

 中央にはエルドオークと呼ばれる、通常のオークよりも数倍はでかい魔物が堂々と仁王立ちしている。

 その威容たるや、普段から魔物との戦いに慣れている異世界の人間すら萎縮させてしまうだろう。

 しかし私は動じない。

 

 オークの周囲を、音と影だけが躍動していた。

 それが私だ。

 オークは視線を激しく周囲に動かし、私の影を追っている。

 だが、遅い。

 必死に私を追いかけて、なんとか食らいつこうとしてはいるものの、少しずつ私を追えなくなっていた。

 ゆえに、どこかで視線はあらぬ方向を向く。

 

「――そこ」

 

 その瞬間を私は見逃さない。

 一瞬にして背後からオークの首元へと迫り、

 

 ――一閃。

 

 どこか怪しく煌めくような闇の光を伴って、私は一振りで、オークの首を掻き切った。

 鮮血が舞い、オークは倒れる。

 私は短剣を振りぬいたまま地面に着地、その瞬間に探知のために魔力を回し、オークの気配を確かめた。

 死んでいる。

 問題なく、私は戦闘に勝利した。

 

 ふう、と一つ息を吐き、くるくると短剣を回しながら鞘に納める。

 この短剣を収める動作が肝心なのだ。

 昔、一か月くらいかけて傷だらけになりながら練習し、今では完全に染みついた自分の所作にほれぼれする。

 そのまま視線を、今回助けた少女に向けた。

 

「――大丈夫」

「あ――」

 

 少女は、呆けたままこちらを見上げている。

 先ほどまでエルドオークという、本来ならこんな場所に現れるはずのない魔物に命を狙われていたから……ではないんだろうな。

 

「大丈夫そうなら、いい」

 

 私はそう言って背を向ける。

 いや、だって。

 明らかにこっちを見つめる視線が熱っぽくて、気恥ずかしかったから。

 無口系のキャラづくりは、こういう時ぼろが出にくくていい。

 そのまま歩き出し、オークのほうへと向かう。

 倒れたオークがいた場所には、いくつかの素材が落ちていて、それを回収した。

 私はそうして、その場から離れる。

 

 ああ、なんというか――また変に脳を焼いてしまったかなぁ、と考えながら。

 

 

 ◇

 

 

 ギルドに戻ると、視線が一斉にこちらへ向けられる。

 なんというか、慣れた光景だ。

 しかし今回は、普段以上に視線が多い。

 いつもなら、視線だけはこちらに向けながらも、会話を続けているものが多いのだけど。

 今回ばかりは、視線を集めてしまうのも仕方のないことだろう。

 私が”何か”をやらかしたときは、だいたいいつもこんな感じになる。

 務めて冷静に、私はギルドの受付へと向かった。

 その間、否応なく冒険者たちの会話は私の耳へと届いてくる。

 

「――死影様だ」

「リシェア様、()()大活躍だったんですって」

「エルドオークを倒したとか、それも一撃で」

「エルドオーク、ダンジョンのボス級の魔物じゃないか……!?」

 

 話題は完全に私一色。

 理由はまぁ、聞いての通りなのだけど。

 でも、たぶん、普通の冒険者が倒しただけなら、ここまで話題になることはなかったはずだ。

 私が”死影の踊子”リシェアだから、そうなるのだろう。

 

 そもそも、否応なく目についてしまう容姿にも問題がある。

 透き通るような銀の髪は腰のあたりまで癖一つなく伸びていて、衣服は黒一色。

 腰とかへそとか、一部だけはなぜか出ているうえに半分くらいタイツみたいな材質なんだけど。

 それがなんというか、踊子っぽいと言われればそんな気がする。

 個人的には、アサシンのイメージなんだけど。

 背丈は小柄だけど出るところは出ていて、全体的に”美しい”という印象が勝る。

 そんな少女が、そこにいたら。

 私だって、視線を向けてしまうだろう。

 

「いらっしゃいませ、リシェアさん。今日はどのようなご用件でしょうか」

「――換金を」

「かしこまりました」

 

 ギルドの受付に移動すると、端的に依頼する。

 相手はよく私の応対をしてくれる受付嬢のアンナ。

 黒髪の落ち着いた二十歳くらいの美人さん。

 友人のいない私にとって、数少ない話し相手の一人でもある。

 

 基本的に、私は口数を減らすよう努めていた。

 もともと人付き合いが苦手だから、これくらいのほうが自然と雰囲気が出るのだ。

 

「では、換金するアイテムをお出ししていただいてもよろしいでしょうか」

 

 その言葉に、私は無言でスキルのアイテムボックスを使用する。

 異世界ならたまに見かける便利スキル、私はこの取り出し方を少し工夫していた。

 手を異空間に突っ込んで取り出すのは、なんとなく様にならない。

 だから取り出したいものを思い描いて、取り出したい場所を意識することで取り出せるようにしていた。

 結果、何もないギルドの受付テーブルに、黒い閃きのようなものが走ったかと思うとアイテムが取り出される。

 そんな形で光景は出力される。

 

「……本当にエルドオークの討伐素材だ」

「やっぱり死影様はすごいな……」

 

 口々に冒険者が私の様子をみてこぼす。

 そんな様子を見てか、アンナはこちらに笑みを向けた。

 

「聞きましたよ、エルドオーク討伐。さすがですね、リシェアさん」

「……そう」

 

 換金するアイテムの売却額は、魔道具が自動で算出してくれる。

 それを待っている間、アンナが私に話しかけてきた。

 私は口数すくなく、それにこたえる。

 人と話すのはいまだに苦手なままだけど、アンナは友人なので無下にはしたくない。

 

「ところで、助けられた冒険者さんはすぐに帰還されましたけど、リシェアさんは今の時間まで何をなさっていたのですか?」

 

 ああ、すでにエルドオークを討伐してから数時間が経過しているからな。

 疑問は最もだろう。

 

「見回っていた。あれ以外にもイレギュラーが発生していても、困る」

「……!」

 

 実際は、すぐに帰るとあの冒険者が興奮した様子で私のことを話している場に出くわして、今以上に空気が強張ると思ったから時間を置いただけなのだけど。

 見回っていたというのも、イレギュラーが発生していて困るというのも本当。

 あの場でイレギュラーが二件発生して、一件は私が助けたのにもう一件は見過ごした、とかなったら一番格好がつかない。

 とはいえ、アンナは少し驚いた様子で沈黙してしまった。

 そんなに意外だっただろうか。

 

「……アンナ、換金が終わったようだけど」

「あ、は、はい。今お持ちしますね」

 

 ちょっと気まずいので、自分からアンナに呼びかける。

 無口ロールはあくまで雰囲気なので、別にいつも無口で受動的なわけではない。

 それはそれとして――

 

「ああ、リシェア様……」

「やはり死影様こそが……」

 

 なにやら、周囲の反応が信仰染みたものになっている。

 なんというか、やっぱり気恥ずかしいんだよなぁ、こういうの。

 でも、これがある意味で私のやりたかったことでもある。

 

 ――そう、私は無口のかっこつけが、成功しすぎてしまっていた。

 周囲は私のことを死影様とか、リシェア様とか、様付けで呼ぶし。

 なんだか神聖視するものすらいる始末。

 どうしたものかな、と思うものの、今のところ不利益はない。

 そう考えたとき、こうやって評価されることを喜ばしく思ってしまう自分もいるのだ。

 

 かくして、今日も私は二つの相反する感情を抱きながら、カッコつけて生きていく。

 

 

 ◇

 

 

 ”死影の踊子”リシェア。

 美しい容姿と、アセリアの街唯一のAランク冒険者ということもあって、絶大な人気を有する。

 その人気の理由は、彼女が”かっこいい”から。

 そもそも異世界において、リシェアのような気取ったカッコよさは劇薬だった。

 文化が成熟しておらず、ヒーローなんて概念が存在しない時代。

 魔物との戦いは命がけで、格好つける余裕なんてほとんどない時代。

 リシェアのそれは、あまりに多くの人の脳を焼いた。

 

 だが、根本的にリシェアが人の脳を焼く要因はそこだけではない。

 リシェアが()()()からだ。

 そもそも格好をつけるだけなら、他者を助ける必要なんてない。

 ましてや、そのあとのことを気にして見回りをする必要もない。

 リシェアにとっては、そういうヒーロー的な精神こそ”かっこいい”ということなのだけど。

 本人はそのことに自覚がなく、そして自覚がないからこそ、より多くの人の目にそれが焼き付くのだ。

 

 かくして、リシェアは今日も想像以上に周囲の脳を焼いている。

 焼け焦げて、燃え尽きて、跡形もなく消え失せるまで。

 これは、そんなリシェアのカッコつけな異世界での日常を描く物語――

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