ちょっとカッコつけたいTS女子、思った以上に周囲の脳を焼く 作:つけしい
今でこそアセリアの街で死影様とか呼ばれて崇拝されているけれど、異世界に転生した私の人生は、あまりいい始まりではなかった。
そもそも、私は魔族の血をうっすらだけど引いている……らしい。
この銀髪が、その証。
アセリアでは今更私が迫害されることはないけれど、見知らぬ土地で私がリシェアだと知らない人間を前にすれば、私はそこそこ嫌な顔をされることもあるだろう。
最初の記憶は、スラム街の薄汚れた一角で見上げた、灰色の空だった。
孤児で魔族の血を引いている私は、周囲からのけ者にされ、攻撃されてしまう。
容姿がいいことも相まって、娼館に売り払おうとする輩もいたっけ。
ただまぁ本当に幸いなことに、私には特別な才能があったから、そういった脅威のことごとくをはねのけることができた。
どころか、襲ってくる大人たちを撃退していれば勝手に財布が手に入るし、それを使えば比較的裕福な生活を送ることもできる。
商店の人は薄汚れた子供の私にいい顔はしなかったし、警備の兵士には私がスリだと疑われたけど。
それでもまぁ、致命的に失敗することはなく、幼少期を送れたのは僥倖だっただろう。
ただまぁそうなると、今の環境が好ましくない状況なのは事実。
前世との落差に正直うんざりしていた、というのもある。
冒険者になろうにも、冒険者になれるのは十歳から。
それにはまだ数年の猶予があって、その間、私はどうするか迷ってしまったのだ。
私の周囲には敵しかおらず、安心して眠れる時間は限られている。
だったら、どうすればいい?
どうすれば私は、この世界で生きていける?
私はどんな、人生を送りたい?
そう考えたとき、ふと思ったのだ。
生まれ変わって、前世と違う人生を歩むことになるのなら、少しくらいは格好をつけて生きていきたい、と。
前世の私には何もなかった。
仕事で心を疲弊させ、休日はスマホを片手にずっと家に引きこもっているような人生。
あんな、何もない人生はもう御免だ。
このままただ周りに流されるように生きていたら、どれだけ力と容姿に恵まれてもその二の舞だろう。
だったら、自分に恥じない生き方をしたい。
せっかく転生者という特別な存在になったのだ。
多少、カッコつけてもいいじゃないか。
そうして私は、少しだけカッコつけて生きることにした。
自分をカッコつけて見せようと思ったとき、気になったのは同年代の子供たちだ。
私には力があるから、脅威をはねのけることができる。
だけど彼らは違う。
無論、周囲から常に狙われる私に比べたら、まだ彼らはマシな生活を送っているかもしれないけれど。
彼らみたいな存在を”見て見ぬふりをする”のは、カッコよくないんじゃないかとおもったのだ。
そうして、私は彼らを助けるようになったのである。
最初のうちは警戒されたり、施しなんていらないと拒絶されたりもした。
何より彼らを助けたことで、色々と面倒も発生した。
でも、気にすることなく私は彼らを助けたのだ。
私にも彼らを襲う連中を撃退して強さを誇示できるというメリットがあったし、そもそもこれは自己満足。
私が私をかっこいいと思えれば、それでいい。
そんなエゴで、私は格好をつけ続けた。
そうしていると、やがては彼らも私を頼ってくれるようになって。
私を「かっこいい」と言ってくれるようになった。
それが……気恥ずかしくて、うれしかったんだ。
最終的に、彼らも私も冒険者になって、今はそれぞれの道を歩いているけれど。
それが、私の始まり。
リシェアがこの世界で生きるための、最初の一歩だった。
◇
私には日課がある。
といっても、週に一回――この世界の暦は前世とそこまで変わらない――程度の日課だけど。
何をするかと言えば、とても単純。
「――こんにちは」
「あ、リシェア様!」
「リシェア様だ!」
私が昼頃にそこを訪れると、多くの子供達がパッと駆け寄ってきてくれた。
ここは孤児院、アセリアの街の孤児が集められる場所。
お察しの通り、私の日課は……まぁ、慰問というやつだ。
「元気そうでよかった」
「はい! リシェア様、私、魔力を操作を前より上手にできるようになりました!」
「僕は計算ができるようになりました!」
「よくできたね」
私の言葉に、子供達が嬉しそうに自分の成果を教えてくれる。
対する私は腰をおろして、視線を彼らに合わせると一人ひとり褒めながら頭を撫でていく。
そうすると子供達は顔を輝かせて、孤児院の施設の方へと駆けていくのだ。
多分、孤児院の先生を呼びに行っているのだろう。
そうして子供達を褒めていると、孤児院を纏めている先生がやってきた。
穏やかな二十代のシスターで、いつも笑顔の優しい人だ。
名前はルル、私とは――同郷。
私より三つか四つくらい年上である。
「リシェア、こんにちは。いつもありがとうございます」
「私は何もしていない、ルルが頑張っている」
「そんなことないですよ、リシェアがいつも孤児院に援助をしてくれるから、子供達はこうして健やかに暮らせているんです」
そう、私が孤児院に関わる理由はとても単純で、ここに結構な額を寄付しているからだ。
正直な話、Aランク冒険者ってのはとても稼ぎが良い、自分一人で生きていくだけなら大量にお金が余ってしまう。
だったらそれをカッコつけてつかってしまおう、というのがこの寄付。
孤児である私にとって、孤児の子供達に安らげる家があることがどれほど幸福なことか、想像するまでもなく解ってしまうからだ。
ただまぁ――
「自己満足だよ」
私にとって、それは単なる自己満足。
お金を出すのも、それを孤児院の寄付に使うのも、単なる偽善。
別にこの世界のすべての孤児を救おう、なんて考えてない。
アセリアの街の孤児院にしか寄付はしてないし、しようとも思っていない。
故郷は……あそこに寄付なんてしても絶対に孤児には届かないし。
まぁ、する必要がない、というのもあるけど。
「でも、こうして週に一度はここに来てくれます」
「私にとっても、これが安らげる時間になっているだけだよ」
これはまぁ、本当。
でも俗な意味もあって、単純に私は孤児院への慰問の日を”仕事をした感を出しつつ休む日”にしているからだ。
この世界で生きていくのは結構大変で、冒険者の場合週に休む日なんて二日がせいぜい。
中には一日しか休めない人もいる。
大して私は二日休みつつ、孤児院への慰問で更に一日休んでいるんだ。
前世の社畜生活で仕事をすることに嫌気がしているから、カッコつけつつ休めるなら喜んで休んでしまうのが私だ。
まぁ、単純にあんまり私が仕事をしすぎると他の人の仕事を奪ってしまう、というのもあるけどね。
「それに、ここの子は皆いい子だから」
それと、子供達との交流が心安らぐのも本当。
だって私、人付き合いは苦手だけど、子どもとの付き合いは苦にならないから。
これは幼い頃、同じ孤児の皆と仲良くなるために苦心した結果だ。
私は転生者で、他の子どもよりは物の見方が大人だったから、自然と面倒をみるような立ち振舞が増えて、子どもとの付き合い方も覚えてしまった。
おかげで、コミュ障の私が気兼ねなく話せる唯一の存在が、子どもなのである。
もしくは、アンナやルルのような顔見知り。
「……ふふ、リシェアらしいですね」
「そう?」
そんな私を、ルルは微笑ましそうに笑った。
その笑顔はなんだか幸せそうで、こっちまで嬉しくなってしまう。
と、そんな時。
一人の少年が、私に声をかけてきた。
「あ、あの……リシェア様!」
「どうしたの?」
その子は、とても真剣な顔でこちらを見ている。
ああこれは……なんとなく次の言葉が読めてしまうな。
「す、好きです! 付き合ってください!」
告白。
孤児院の子供達から、こうして愛の告白を受けることがある。
最近は私が年を取ってきたから減ってきたけれど、もしかしたら大人になったら「リシェア様と結婚する!」になるのかな。
それはそれで、少し楽しみだ。
「お、俺……冒険者になって……! Fランクになりました!」
「それはすごい、精進してるね」
「いつかきっと、リシェア様と同じAランクになってみせます、だから!」
少年は、真剣に私を見てくる。
私もまた、少年の視線から目をそらすことなく、向かい合った。
そしてこの子の名前を思い出し、呼びかける。
「……トーソン、私はAランク冒険者」
「……う、うん」
「時には、命の危険に関わる冒険にも挑む」
基本的にはアセリアでちょっとカッコつけて生きている私だけど、時にはAランク相応の危険な事件に巻き込まれることもある。
ときには世界の存亡すら左右しかねない事件の中で、私が私を守れているのは……強いからだ。
「今の君を、守れる保証は……どこにもない」
「それは……」
私は、私一人なら絶対にどんな事件でも生き残れる保証がある。
でも、隣りにいる誰かまでを守れるとは限らない。
実際……人を見送ったこともある。
トーソンに限らず、孤児院の子には……そうなってほしくない。
「……俺、まだリシェア様に守られてるだけだ」
すると、トーソンは顔を上げてそういった。
「そうだよね、リシェア様に好きって言うなら……リシェア様を守れるくらいにならなくちゃ!」
私に告白する子は――男女問わず――私の強さに憧れるものらしい。
だから私が「君を守れないかもしれない」と伝えると、自然と気付いてくれるのだ。
対等の関係にならないと、私と横に立つことはできない、って。
そうやって顔を上げて、少しだけ晴れやかな顔をする彼らは――少し眩しい。
「……期待してるよ」
だから私は視線を合わせたまま、彼らの頭に手を乗せる。
そうして、できうる限りの笑みを零すのだ。
この体は、魔族の血を引いているからかわからないけど、表情変化に乏しい。
お陰で元一般人の私が、カッコつけられているとも言えるけど。
だから、人に笑みを向けることは稀。
でも、誰かを祝福する時は、叶う限りの笑みを向けているのだ。
そうするとトーソンは顔を伏せ、ぽつりと――
「は、はい!」
そう、口にする。
告白を断られてしまって、泣いているのだろうか。
こういう時の顔を、私が見るべきではない。
だから目を細めて閉じて、そのまま頭を撫で続けるのだった。
TS女子は子どもの脳を灼かなければいけないと聖書にも書かれています