ちょっとカッコつけたいTS女子、思った以上に周囲の脳を焼く   作:つけしい

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 私の普段の生活は、適当に依頼を受けて適当にこなす、一般的な冒険者のそれだ。
 今更オタクに冒険者の説明は必要ないと思うけど、ギルドに所属して依頼をこなすのが冒険者。
 ランクがあって、魔物を倒したり、護衛依頼を受けたり、ダンジョンに潜ったり。
 まぁ、色々な仕事がある。
 総じてイメージは、よくある個人主義の荒事屋というそれを外してはいないだろう。

 そんな中で、私は一応Aランクの称号を持っている。
 下はGで上はA。
 Sランクなんてものもあるけれど、私はまだ”条件”を満たしていない。
 まぁ、満たす必要もないのでよっぽどのことがなければ私はこのままずっとAランクだ。

 んで、

 スキル、といっても色々種類がある。
 身体強化だったり、魔術だったり。
 この世界だとスキルは持っているだけじゃ使えない。
 持っていることで”使えるようになる”のがこの世界のスキルだ。
 たとえば火属性魔術のスキルや水属性魔術のスキルを持っていないと魔術は使えない。
 持っていても、使い方を学んで魔力を鍛えて、十全に扱えるようになって初めてスキルは役に立つスキルといえる。

 私の場合、持っているスキルは一つだけ。
 普通ならそういうことは殆どあり得ない。
 大抵の人間は、身体強化のスキルを持っているからだ。
 


4 いつも小さなかっこいい活動

 私が拠点にしているアセリアの街は、そこまで大きな冒険者の街ではない。

 ダンジョンがあるから冒険者で賑わってはいるものの、本場の冒険者街と比べたら静かな街だ。

 ただ私がこの街を拠点にするのは、単純に人々があまり私を魔族だと迫害しないからである。

 何が言いたいかと言えば、この街はそこまで大変な依頼はない。

 Aランク冒険者なんて、よっぽどのことがなければ必要ないのだ。

 

 だから私がやりたい依頼だけをこなしていると、他の冒険者の仕事がなくなってしまう。

 別に普通に依頼をこなしていれば、私が食うに困るようなことは起こらない。

 だったら、依頼はえり好みするべきだ。

 それが私の”かっこつけ”にもつながるはず。

 具体的には――その日依頼ボードに張ってある一番不人気そうな依頼を受ける。

 他者の嫌がることを率先してやる私、かっこいい。

 これがいつもの私の、小さなかっこいい活動というやつだった。

 

 

 ◇

 

 

「――はっ」

 

 私の投げた闇のナイフが、眼の前にいるネズミ型魔物の首に突き刺さる。

 魔物は声も上げられずに絶命し、私はそれを横目にレンガと水路でできた道を駆け抜けていく。

 ここはアセリアの街の地下水道。

 暗くてジメジメした場所には、定期的に魔物が発生するのだ。

 魔物は闇の眷属と呼ばれ、人の居ないところや人々が”畏れる”場所に勝手に湧いてくる。

 某サンドボックスゲーの光源がないと湧いてくるゾンビやスケルトンみたいな感じ。

 なもんで地下水道に湧いた魔物は、時折掃除をする必要があった。

 でも地下水道に湧く魔物は大した強さじゃない上に、地下水道にはダンジョンと違って宝箱がない。

 初心者向けなのに実入りが悪く、更に臭い地下水道を探索する必要もあって、死ぬほど不人気な依頼だ。

 

 ただそれは、新人がやった場合の話。

 地下水道の魔物を単独で纏めてどうにかするのは不可能だから、大量の新人を投入して魔物を駆逐するのだ。

 そうなると報酬は少ない報酬はさらに少なくなるし、全員に地下水道の魔物退治が嫌な依頼だというイメージが浸透する。

 

 けど、私が一人でやるなら話は別。

 一日地下水道を駆け回ればだいたい魔物は駆逐できるし、私一人が暮らすには十分すぎる報酬になるのだ。

 無論、ギルドから新人の講習に使うと言われたら依頼は受けないし、そこら辺はアンナが上手く調整してくれる。

 そこら辺は臨機応変、だな。

 

「次」

 

 そして魔物を、速攻でばったばったと切り捨てていく。

 私の戦闘スタイルは、一言でいうとアサシン。

 高速で駆け回って一撃で相手をアサシネイトするのだ。

 今も両手を後ろに流すような独特な走り方で、地下水道を進んでいた。

 

 魔物が現れたら、主な攻撃手段は短剣である。

 短剣を選んだ理由は、かっこいいから。

 私の短剣は私のスキルで生み出しているので、ぶっちゃけ得物に関しては短剣でなくともいい。

 でもやっぱりこのスタイルなら短剣だろうという理由で、私は短剣を愛用していた。

 まぁ、投げて使えるのは普通に便利というのもある。

 

 そうして魔物を切り捨てたり投げナイフで殺したり。

 道中倒した魔物の素材は、アイテムボックスの応用で回収する。

 どこでも好きにアイテムを出せるということは、どこでも好きにアイテムを回収できるということだからな。

 大した報酬にはならないけど、集めていけばそこそこの報酬にはなる。

 なんて、途中に昼休憩を挟みつつ一日かけて地下水道を掃除すると、なんとなく周囲から”嫌な気配”が消えた気がした。

 私のスキルが、魔物の駆逐完了を告げたのだろう。

 私は短剣を軽く弄んでから鞘に収め、鞘ごと短剣は闇に溶けるように消えていく。

 別に誰が見ているわけでもないのだからやる必要のない動作だが、見ていないところでもかっこつけるのが結構大事なのだと、私は個人的に考えている。

 

 

 ◇

 

 

 地下水道から出ると、嫌な匂いがたっぷり染み付いている。

 ギルドへ報告する前に一度ささっと宿にもどって、軽く匂いを取ることにした。

 入浴文化の存在する異世界に転生したことを感謝しつつギルドに向かうと、ちょうどそろそろ夕食時といった時間。

 当然ながら、ギルドは人で賑わっていた。

 

 今日は特に何かやらかしたわけではないから、視線はそこまで集まらない。

 というか、あんな私一色に話題が染まるほうが珍しいんだ。

 普段の私はむしろ、あまり目立たない存在である。

 いやギルドでは死ぬほど目立つけど、冒険の舞台では目立たないという話。

 

「お疲れ様です、リシェアさん」

「おつかれ、アンナ」

「今日は地下水道の掃除でしたっけ、大変ですよね、アレ」

「そうでもない、匂いを抑える方法があれば」

 

 地下水道が顕著だが、私は人が好まない依頼を重点的に受ける。

 人が好まないということは、人の視線が集まらないということ。

 

「……何だかもったいないですよね。こんなにリシェアさんは頑張ってるのに、それを知る人が殆どいないなんて」

「あまり目立ちすぎても、よくない」

 

 ただでさえ、目立ちすぎるほど目立ちすぎているのに、普段から目立ってしまったら日常が先日の光景になってしまう。

 私だって、ギルドで食事をしたいのだ。

 あんな空気の中で食事をする勇気はない。

 

「あ、換金終わりましたよ」

「ありがとう」

「この後は夕食ですか? ギルドで食べていかれます?」

「ええ」

「それはよかったです!」

 

 なぜだか嬉しそうなアンナから報酬を受け取って、私は食堂のスペースに移動する。

 当然のようにギルドには食堂が併設されていて、質もなかなかいい。

 何よりこの世界は食に関してはかなり水準が高い。

 いや入浴文化があることを考えれば、全体的に文明レベルはそこそこ高いか。

 素材の買い取りが自動化されてる辺り、全体的に軽めの世界観なのだろう。

 ありがたい話だ。

 

「コーヒーを」

 

 食堂の方で、夕飯を注文する。

 当然ながら頼むのはコーヒーだ。

 かっこいい飲み物ランキングで紅茶、ワインと頂点を争うかっこいい飲み物の雄。

 頼まない理由はない。

 続けて夕飯も頼む。

 

「サラダと、スープ、それから……」

 

 基本的に、ギルドは大衆食堂。

 飲み物と違って、かっこいい料理というのはそこまでない。

 優雅に振る舞うにも限界があるということだ。

 自然とギルドで私が頼む料理は決まっていた。

 私が考える、ギルドの料理で一番かっこいい料理は――

 

 

「――クロワッサンを、お願い」

 

 

 そう、クロワッサン。

 前世のころから、ずっと好きだったのだけど、異世界にも存在しているのだ。

 何しろ、この形からして三日月というクールすぎる見た目をしているのに、味までいい。

 カスがポロポロしてしまう可能性もあるけれど、私は当然それを対策済み。

 アイテムボックスに回収させるのだ。

 これにより、私は優雅にクロワッサンを楽しむことができる。

 一緒にミルクとジャムも頼んで、コーヒーを先に受け取ってクロワッサンを待つ。

 ミルク入のコーヒーでかっこよさを演出しながら、ふと思う。

 

 何だか周囲の視線がさっきより増えている。

 私のかっこよさは、基本的にひと目につかないものだ。

 特に日常の小さなかっこいい活動は、誰かに伝えるためのものではない。

 むしろ、自分が満足するためのもの。

 だからこそ、こうしてかっこよさをアピールできる部分ではアピールしていきたいのだ。

 クロワッサンはあの独特の甘みと食感が最高の食べ物だ。

 コレ以上に、かっこよくて美味しい食べものは世界に存在しないのではないか、と思うくらい。

 私がそれをかっこよく食べることで、少しでもクロワッサンの普及に務めたい。

 それもまた、かっこいい活動の一つと言えるだろう。

 

 ――なお、これは随分後に知ったことなのだが、私の食事シーンに対する感想は「かっこいい」ではなく「かわいい」だったらしい。

 普段はかっこいい私が、食事の時だけ年相応になるから、だとか。

 私は普段通りにカッコつけているはずなのに、おかしい。

 これはあまりにおかしい。

 でもまぁ、食事中の私は明らかに幸せそうで、普段よりも可愛げのほうが勝っていたのだけど。

 残念ながらこのときの私は全くそれに気付いていない。

 どころか、気付くのはもっと歳を重ねてから。

 今の私は、盛大に黒歴史を積み重ねている状態なのだと、後に気付く事となる――




こういう面もかっこいいTS女子には必要だってTS老師が……
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