雪の夜 作:ナナシノ
n番煎じかつスマホで書いているのでかなり読みづらいと思いますがそれでもよければお読みください。
ある雪の降る夜のことだった。
仕事終わりにふと、いつもとは違う道を通ってみよう、と少し遠回りをした。
何かあったわけではない。ただ、何となくその日はそういう気分の日だっただけだ。毎日同じことの繰り返しに疲れていたのかもしれない。
朝に起きて支度をして仕事をして家に帰ってまた眠る。
休日には特に予定もなく、ぼんやりとスマホをいじって気が付けば1日が終わっていることの方が多く、変化や刺激など遠いものだった。
幼いときから周りの顔色を伺うことが多く、当たり障りのない人間関係しか築いてこなかった弊害か、大人になっても繋がっている友人なども少なかった。…ほとんど居ないとすらいえるだろう。
人付き合いも消極的で人に対して執着することもなかったから深い関係になることもなかったし、それでいいとすら思っていた。
恋愛感情に関しても同様で、人を好きになったことすらなかった。唯一大切にしていたものは家族のみで、それすらも一月前になくなってしまった。
自分に残っているものは仕事のみで、日々をただ淡々と何事もなく過ごしていくことしかない。熱中しているものはなく、かつて楽しんでやっていたスマホのアプリを惰性で続けているだけに過ぎなかった。
家に帰っても迎えてくれる誰かは居らず、広い家に1人でいるだけならばいっそ、いつもと違うことをやってみようと思ったのだ。
いつもの道を少し外れると小さな公園がある。
幼い頃はここでよく遊んでいた。思い出の場所だった。
両親と一つ下の妹と共に家から少し離れたここまで遊びに来ていた。
小さい時からあまり人と関わることが少なく、本ばかり読んでいた自分のことを心配した両親が、少しでも外に目を向けられるようにわざわざ連れてきてくれていたのだ。
仕事が忙しく、いつも疲れた顔をしていた父が休日にわざわざ連れだしてくれるほど昔の自分は対人関係に問題があった。その時は余計なお世話だと思っていたし、実際になぜ行かなければいけないのかと父に文句を言ったことすらあった。それを言われた父の悲しい顔は今でも覚えている。生きるにあたって人付き合いはどうあれ切り離すことのできないものであるので、あの時諦めずに連れ出してくれたお陰で今生活ができている。大変なときにも側にいてくれた両親には本当に感謝している。…それを伝えることはできなかったし、今となってはもう謝ることすらできないのだが。
一人でいる時間が長いからか、どうにも無駄に考えを巡らせてしまう。これをしたところで思い出話をする誰かすら居ないのに。自分の悪い癖だ。
そうこうしているうちに公園についた。こんな時間に人がいるとは思えないが、今の自分にはちょうど良かった。
東屋にでも座ろうと思い、辺りを見回すと…人影があった。肌寒い日だ。雪だって降っている。まだまだ冬本番ではないとしても、そんな夜に公園にいるような人間が自分の他にいるとは思わなかった。
警戒しつつも、その日はなぜかその人影に声をかけようと思った。普段であれば決してしないであろう行いだが、たまにはそんなことがあってもいいだろう。近くに家もあるし、最悪襲われても問題ないように走る準備をして人影に近づいた。
その人は東屋に座っていた。遠目からは気付かなかったが髪の色が真っ白だった。雪に降られていたからだろうか。服も白くなっていて偶然通りかかるぐらいだと気付かないかもしれないとすら思ったのだ。
いざ声を掛けようとすると、それよりも早くその人は振り返った。
自分が何か行動するよりも先に、
「…よる?」
と声をかけられた。
自分の名前は“よる”ではないし、姓名どちらにも“よる”ととれる文字はなかったから、一瞬何をいわれたか分からなかった。
けれど混乱した頭とは裏腹に自分の口は無意識に動いていた。
「…ゆき?」
なぜその言葉が出たのかは今となってはわからない。昔を思い返していたからかもしれないし、無意識に心のどこかにしこりとして残っていたのかもしれない。
理由はどうあれ自分はその女性のことを思い出した。…女性だとは思っていなかったのだが。
「やっぱり“よる”だ!久しぶり!会えて嬉しいなぁ!元気だった?」
気付くや否やただ座っていた時とは真逆のテンションで話し始めた。
「“ゆき”って呼んだってことは覚えてるんだよね?またここで会えるると思わなかったよ!てっきりここのことも私のことも忘れちゃってるかと思った!」
「もしかして仕事終わり?この近くに住んでるんだっけ?いつもこの道は通ってないよね?」
「声をかけてくれるとは思ってなかったからなんだか嬉しいな!昔は人見知りというか、人にあんまり興味を持ってなかったような気がするからやっぱり会ってないと人って変わるんだね!」
次から次へと矢継ぎ早に言葉を発する女性に呆気に取られたが、何処かで口を挟まないとこのままずっと終わらないと悟って、何とか絞り出した一言は
「“ゆき”って女の子だったんだ…」
だった。他に何かあっただろうに、咄嗟に出た言葉がそれしかなかったのは完全に対人スキルの欠如でしかないだろう。
自分が少し恥ずかしくなった。
「あはは!仕方ないよ。昔は髪も短かったし、動きやすいように服装とかも男の子みたいなのばっかり着てたし。何なら口調とか一人称も今とは全然違うから、むしろよく私に気付いたよね~。」
「それは…“よる”なんて呼ぶ人は貴女しかいなかったから…」
「それでもすぐに出てきたことがすごいし、嬉しいの。記憶の片隅にも置かれず忘れられててもおかしくなかったから。」
会って話すまではほとんど覚えていなかったから、そういわれると少し座りが悪い。今日何となく此処に来ていなかったらきっと思い出すこともなかっただろうことと、直前に昔を思い出していなければとっかかりすらなかった可能性があるからだ。
「急に引っ越すことになって別れの言葉すら言えなかったから、忘れられても仕方ないな、って思ってたの。それでもここに座っていれば“よる”があの時みたいにきてくれるかなって。まさか本当にきてくれると思ってなかったけど!」
確かに昔、この東屋に集合して一緒に遊んでいた。いつも先に“ゆき”
が座って待っていて、後ろから自分が声をかけて遊びにでていた。
けれどいつからだったか、“ゆき”は来なくなってしまっていた。自分がここにきても“ゆき”は待っておらず、自分がいくら待っても来ることはなくなっていた。
母に、耐えきれず何故来なくなったのか、自分は何か嫌われるようなことをしてしまったのか、と聞いたことがある。
母は、
「あの子はね、引っ越してしまったの。おうちの都合で急な引っ越しになってしまったからあなたにお別れが言えなくてきっとあの子も悲しんでいるわ。あなたが嫌いなわけでも、来たくなくなった訳でもないのよ。」
と優しく諭してくれた。
「いつかまた会えるかな…」
「大丈夫よ。あなたが会いたいって思っている分、きっとあの子もそう思ってくれてるはずだから。」
「そうだったらいいな…」
「ふふっ。あの子に会う前だったらそんなこと言わなかったのに、子どもの成長はあっという間なのね。学校でも少しずつ人に関わっているみたいだし、こんなに親離れが進んじゃうと少し寂しいわ。」
「そこまで大げさなものじゃないよ。だけど…うん。もう少し頑張ってみる。また会った時に恥ずかしくないように。」
「そうね…きっとあなたなら大丈夫よ。いつかは絶対に会うことができるわ。」
「うん!」
「…“よる”?聞いてる?おーい!」
「あぁ…ごめん…昔のこと思い出してた。何の話をしていたんだったかな。」
「だから!連絡先を交換しようって!ここでバイバイだともう会えないみたいになるじゃん!」
「わかった。…ぼーっとしててごめん。1人だと考え事をするくらいしかないから。仕事終わりで気が抜けてたのかもしれない。」
「今は一人暮らしなの?ご両親と妹ちゃんとかとは別に暮らしてるのかな。みんなは元気にしてる?」
「………いや…みんな一月前に亡くなったんだ…」
「それは…ごめん。無神経だった。」
「“ゆき”は悪くないよ。知らないのは当然だし、それに一月もたてば少しは整理もつくから。」
「そっか…それでもごめん。そのかわり、何かあったらすぐに私に教えて!私にやれることならなんでもするから!」
やっぱり、姿や喋り方が変わっても根っこのところは何も変わらない。自分の知る“ゆき”そのものだ。明るく素直で、自分のような人間にも優しい。
だからこそ解せない。何故こんな夜に公園に一人でいたのか。
仕事帰りにしては服装はラフであるし、かといって遊びにでかけたにしても1人で公園にいるのには違和感がある。
……このまま考えていても仕方がない。直接聞くのが早いだろう。
「“ゆき”はなんでこんな時間にこの公園に?」
「……あぁ。少し前にこっちに戻ってきていてね。家が近くにあるんだ!懐かしくなってここに来てみたんだよ。ぼーっとして気付いたらこんな時間になっちゃってたんだけどね~。雪も降り始めちゃったし最悪だよ~。まぁ“よる”に会えたから全然プラスだけどね!!」
「そうだったんだ。」
「…ね。もしよければ私の家に来ない?明日は土曜日だし、多分休みだよね?まだまだ思い出話とかしたいし、大分寒くなってきちゃったから…どう?」
「それは…急にお邪魔するのは申し訳ないし、別の日に会う方がいいんじゃないかな。昔馴染みとはいえ、今日久しぶりに会った人を家にあがらせるのは無用心じゃない…?」
「そんなことない!あっ……ごめん……でも、“よる”だから家に入れるんだよ。“よる”じゃなかったら家にあがらせないよ。」
「それでも、今日急にいくのはやめておくよ。もし“ゆき”がいいのであれば、明日会うのはどうかな。」
「もちろん!何時に何処で集合する?……それと、本当に“よる”ならいつきても大丈夫だし、いつまでも居てくれていいんだよ。」
どうしてか、普通に喋っていたはずなのに、最後だけどこか暗い声だったように思える。しかし、彼女に限ってそんなはずはないだろう。記憶の中の“ゆき”はいつだって明るかった。
続かない