貞操逆転世界で占い師(軍師)を務めていたら、貴族令嬢方に包囲され逃げられなくなった件について 作:ですわお嬢様
イスペリア王国臨時首都、バローラ。
カルロス地方に属する、イスペリア北部で最大の街にして、かつては貿易港として栄えた海沿いの都市でもあった。
現在では制海権をクルアン教側に奪われていることもあり、貿易は滞っているが、それでも南部から脱出してきたイスペリア人で賑わい、文化振興も行われる大都市であることに違いはない。
人口は五万人に迫るとされ、俺たち亡命者を街に住まわす余裕が無いと受け入れられなかったのも、仕方がないことであっただろう。
何しろイスペリアの農民ですら受け入れを停止されており、其々が俺たちと同じく村の開拓を強いられ、もっと悪い場合は難民化している。
貴族とはいえ他国人を優遇しようものなら、農民の反感を買うことは必至だっただろうし。
そんな都市としてのキャパシティが臨界点を迎えつつあるバローラではあるが、諸々の事情を差し引いても遷都するにはここしかないと言える場所であった。
俺たちは、そんなイスペリア繁栄の残滓をかき集めた仮の王都へとやって来たのだ。
──貴族令嬢150名、総勢での来訪であった。
手紙にはこうあった。
"ガリティア亡命貴族諸氏との、同盟を模索している"と。
ならば、付加価値を付ける意味でも、令嬢方全員でバローラへと向かうべきである。手紙には亡命貴族諸氏、特定の誰かを指定する書き方をしていないのだから。
冬だし敵が来ないことを理由にバローラ行きを断らないよう強要してくるのならば、敵が来ないことを理由に総力を上げて来訪しても良いのではないか。
そんな俺の主張を、クローデットさんもエレーヌさんも肯定してくれた。
あと、少人数で訪れた場合、宰相個人との交渉となり、密約めいた取引を結ばされる可能性がある。俺たちは、イスペリアの貴族や諸将から宰相個人の私兵として見られるだろう。
そうなったら最後、良いように使われて、宰相以外のイスペリア人の憎悪を集めることになる。
そうならなくても、ひたすら前線に放り込まれてすり潰される未来が待っている可能性が大だ。
「宰相のオクタヴィアは、王家や廷臣達がカルロス地方に退去してきた際、受け入れる代わりに宰相位を要求したんだ」
「……それ、認めちゃったんですか?」
「他に行く当てがなかった王家は受け入れるしかなかった、認めたというか認めざるを得なかったが正しいかな。けど、それで多くのイスペリア人が激怒したのは言うまでもないことだよ」
何故、宰相オクタヴィアは嫌われているのか。
それをエレーヌさんから事情を聞いて感じたのは、間違いなく呆れだった。
いくら地方分権最盛期だとはいえ、王権から立場を保証されているのに、王様を相手にそれをするのはあまりにロックすぎる。一周回ってファックかもしれない。
そんな宰相の私兵になってしまったのならば、どれほど擦り潰しても心は傷まないだろうし、そもそもがイスペリア人ではなく亡命して来た没落ガリティア貴族達だ。
遠慮する理由など、どこにも無い。
むしろ、宰相以外のイスペリア人達は、積極的にこちら側を消耗させようとしてくるだろう。
だから、宰相個人と結ぶのは良くない。
イスペリアという国自体と、キチンと結びつく必要性がある。
その為に、ありったけの軍装を整えて、侮られないよう、またガリティア人の集団として一見して分かるようにガリティア王家の百合の旗を掲げての出立となった。
列を乱さず、甲冑を纏い、騎馬に乗って行軍する令嬢達。その出立ちは、びっくりするくらいに騎士らしくて。
思わず、格好良いと呟いてしまったのは俺だけの秘密である。恥ずかしいし。
……あっ、因みにみんなが乗っている馬だけど、これはこの前の戦い後に乗り捨てられた馬を鹵獲したものである。
試算したら維持費がバカ高かったので十数頭か売り払おうとしたが、お嬢様方が厩舎に立て籠って大反対したがために未だに全頭保持したままとなったのだ。
『おにーちゃん、これを見て』
『……サラ、なんで俺、馬の交尾を見せつけられてるの?』
『このお馬さん同士は、愛し合っているからだよ! それを売り払って仲を引き裂こうなんて、酷すぎることなんだよ! いくらおにーちゃんが素敵なおにーちゃんだからって、他所の家庭を壊しちゃうのは絶対に許されないんだよ!!』
更に意味不明なサラの理屈で、俺の方が論破されたみたいな空気が令嬢達の間で広まっていた。解せない。
結果、この馬達は餌代で村に赤字を垂れ流させる存在となったのだ。
……だが、こうしてみんなが馬に跨っている姿を見ると保持してて良かったと少しは思えた。
こう、見栄えの良さ的に。
本当にみんな格好いい。
騎士が愛馬に跨る様は、男子の憧れが全部詰まっていた。
本当に維持費が頭痛いくらいだが、幸いにもイスペリア北部は畜産の本場だ。豚や羊、山羊だけでなく馬もそれ相応に商っているため、餌代も比較的安く仕入れることができている。
だから、出費と睨めっこしながらも、何とかロマンを褒め称えられるくらいの余裕が俺たちには存在していた。
……将来的に農耕用に転用したら、少しは収支が改善するかな。
そうして、パカパカ蹄の音を奏でさせながら数時間。冬の風に晒されながらも、何とかバローラへと辿り着けた。
街の側も、俺たちを視認したのだろう。
慌ただしく、城壁の上を人が行き来しあっている。
「ガリティアのジラール伯が一人娘、クローデットですわ! この度はイスペリア王国よりお招きを頂き、あなた方と手を取り合う為に参上致しましたの!!」
その人達に、もっと言えば街の人たちにすら聞こえるような声量で、クローデットさんが来訪の目的を伝えた。
これも、事前に頼んだ通りの行動である。
自分たちがガリティア王国の騎士団であると声高に主張し、露骨にでも目立つ為に必要な行為であると判断したからだ。
とにかく衆目を集めて、無視できなくする。
イスペリアの貴族や民衆達に存在を知らしめることで、宰相個人と諾を通じに来たのではないと喧伝する。
これが、利用されるにしても使い潰されないための処世術であった。
効果があるかどうかは、事前の仕込み次第ではあるのだが……。
「ようこそお越しくださりました! お話は予々伺っております、どうぞご入場ください!!」
……なんか、想像よりも好感触の反応が返ってきた。
城壁の上から返事をくれたバローラ兵の女性は、キラキラとした笑みで俺たちを迎えてくれたのだ。
しかも、それは一人じゃなく、多くの兵士が同じように同じように明るい表情で、中には手を振りながら出迎えてくれた兵士もいた。
まるで、俺たちが歴戦の騎士団で、ピンチの戦場に颯爽と駆け付けて来たみたいな歓待ぶり。話し振り的に、先の戦いのことも知っているみたい。
よし、仕込みは上手くいったんだ。
工作活動が実を結んでたみたいで、ホッとする。
流石はエレーヌさんと感心しながら、招き入れられ市街へと入場すると……。
「見て、あれって噂のガリティアの騎士団だよね!」
「すごい格好良いね、確か100人で1万人の異教徒達をやっつけたって聞いたよ!」
「一人が一騎当千だから、10万人の敵とだって戦えるんだって!」
「僕の聞いた話だと、異教徒の操る邪悪なドラゴンを誅滅したらしいよ!」
「強すぎ、神様の軍隊じゃん!」
バローラ市に入ると、子供達を中心に城壁の兵士以上に笑顔で俺たちに手を振ってくれていた。
まるで、凱旋した常勝軍を向かい入れるみたいに。
「ご機嫌よう、あなた達の友が来ましたわ!」
場の空気を感じ取ったクローデットさんが、高らかに腕を天に上げると、それだけで周りの民衆の人たちのテンションが爆上がりする。
「私たちがガリティアの常勝騎士団だよ!」
「ドラゴン退治でしょうが化け物退治でしょうが、何だって意のままですわよー!!」
よく分かってないであろう他の令嬢達も、この歓迎にいたく感激したようで、民衆の期待に応えて手を振り返しまくっていた。
正直、ちゃんとした騎士の格好をしてあるからか、それが凄く様になっていた。
故に、民衆側の熱狂に更に火を注いで。
大歓声が、辺りを包んだ。
多くの商店から、パンや肉が届けられる。
歩く度に、物資が勝手に増えていった。
……待って、流石に様子がおかしすぎる。
ここまで成果を上げているなんて、一言も聞いていない。
バローラへと来る前、事前の工作を依頼した。
エレーヌさん経由で、バローラに駐在しているガリティア外交部に働きかけてもらって。
内容は単純で、市井の人々に俺たちの噂を流してもらったのだ。
曰く、ガリティアよりやってきた騎士の一団が、華麗に異民族を退けた。その勇壮なる騎士達は、イスペリアの友となることを何よりも望んでいる、と。
単なるダイレクトマーケティングだが、こうして噂を広めることで亡命ガリティア人を無視できない世論を形成しようとしたのだ。
結果、それは成功している。
……けど、成功しすぎていた。
このあまりにも好意的……どころか熱狂しているバローラの人達は、何があってこうなってしまったのか。
理解が追いつかない状況に、思わず震え上がった。令嬢のみんなは喜んでいるけど、俺としてはあまりに加熱した反応すぎて怖さを感じる。
思わず辺りを見回すと、そんな中にいても喜ぶでもなくジッと民衆を見つめている人が存在した。
「え、エレーヌさん、これなんですか? 一体何したんですか!?」
そう、エレーヌさん。村の法服貴族代表で、工作活動を頼んだ人。
何かやったのならば、間違いなくこの人が主犯だと思い、慌てて問い糺しに向かった。
「あはは……報告は受けていたけど、これはボクも予想外だったかな」
けど、何かをした筈の張本人であるエレーヌさんも、紅茶色の髪をイジイジとしながら、困った笑みを浮かべていた。
俺同様に、困惑の色を多分に含んでいる。
自分の手を離れた熱狂だと、そう言わんばかりに。
「……何があったんですか?」
これは、エレーヌさんの手によるものではない。
それを聞き、落ち着かなくなる気持ちを芽生えさせながら尋ねると、エレーヌさんは事のあらましを話してくれた。
曰く、イスペリア人達は精神的に凍えていたのだと前置きしてから。
俺が依頼した工作活動を行うため、ガリティア外交部の人達が真っ先に行ったこと。それは炊き出しであった。
今日の食べ物にも苦労している人たちを集め、温かなスープを提供する。それだけで、イスペリアの民衆達は感謝の意を示したという。
そうして、聞く耳を持ってもらった中で、噂を流し始めたのだ。
"ガリティアからやって来た騎士団が勝った"
"彼らは、イスペリアとの友好を望んでいる"
その言に、民衆達は素直に喜びを覚え、帰宅後に周囲の者へと噂を広めていったそうな。
なるほどと頷く、ここまでは俺の想定通りのことだから。
イスペリアに駐在していた外交部の手際に感心するけど、それ以上のことは何もない……ここまでは。
様子がおかしくなり始めたのは、噂が流れて3日程だった時のことであった。
ある酔いどれたイスペリア兵が、こんなことを述べ始めたのだ。
"自分はその噂の真実を知っている。ガリティアの騎士団は勇者の軍団で、異教徒を華麗に撃破した後に武器や軍馬まで鹵獲したのだ"、と。
キラキラとした表情で、まるで英雄について語るが如く話をし始めた兵士は、何でも斥候としてガリティア亡命村を監視しており、直にその活躍を目撃したのだという。
妙にリアリティに富んだその話し振りは、事実を見て来たのだと聞くものを信じさせた。
そして、その斥候は楽しげに最後にこう付け加えた。
"宰相閣下は彼女らを頼りにし、王国の再建を志している"、と。
そんな言を弄した兵士は、数日後に死体として発見されたという。だが、一度灯された火は消えることなく、瞬く間に広がっていった。
噂が広がるごとに尾鰭がつき、それこそ民衆だけでなくイスペリアの貴族の耳にまで届くくらいに。
彼らの中での亡命ガリティア騎士団像は、急速に虚像に塗れていき、今日に至るまでにそのイメージは膨張し続けているのだという。
全部を聞き終えた後、ポツリと言葉が漏れ出た。
「……そんなことある?」
エレーヌさんは、苦笑しながらも頷いて。
あり得ない話じゃないと、切り出し始めた。
「イスペリアは負けが込みすぎた。希望を見出せず、信じることもできない程に。そんな中で一筋の光が、希望の篝火が灯されれば、皆がその温かさにあやかろうとする」
語っている最中に、エレーヌさんの顔が陰った。
何か、良くない気づきを得てしまったみたいに。
けど、それも一瞬のこと。
直ぐに何でもないって顔に戻ると、総括としてこんな言葉を残した。
「人は日常が当たり前でなくなると、不安で仕方なくなる。約束された明日が来ない、明日にはどうなるか分からない、そんな状況に立たされた時、心の支えを求めるんだ」
「……英雄を?」
「そう、英雄。クローデットさんの側に居るなら、覚えておくと良いよ。彼女には、それに応えられる可能性があるからね」
エレーヌさんの横顔はどこか眩しそうで、どうしてか羨んでいる様でもあった。
歓呼の人波をかき分けるように進んで、多くの期待が篭った目を振り切り、ようやく目的地へと辿り着いた。
バローラ行政府、かつてはカルロス地方全域を統括していた心臓部であり、今はイスペリアを統べる中心部となっている建物。
──イスペリア宰相、オクタヴィア・カルロスの牙城。
宰相に就任した経緯、こちらに監視を付けていたこと、あの手紙自体のこと、どれも警戒するには十分な要素だ。
工作は予想以上の効果をあげたとはいえ、もしかすると何らかの手段を講じてくるかもしれない。
隙を見せず、構えていく必要がある
「油断、しちゃダメだ」
「落ち着いて、ジルベールくん。どれだけ身構えても、矢面に立つのは君じゃなくてクローデットさんだよ」
気合を入れていると、ポンと肩に手が置かる。
振り返れば、場慣れした様子のエレーヌさんの姿があった。
「それはそう、ですけど……」
「焦ったらダメだよ、外交はにこやかに、平静に、がモットーだから。それに、ボク達全員を会議室に押し込むなんて出来ないしね。だから、こうして全員を案内したということは……」
エレーヌさんの言葉に呼応するみたいに、一人のイスペリア人官僚が俺たちの前に現れた。エレーヌさんが言うところの、平静なにこやかさを纏っている。
「皆様、お待ちしておりました。どうぞこちらへ──ささやかながら歓迎会を準備いたしました」
その言葉に、令嬢達は騒めいた。
民衆からの熱烈な歓迎もあって、好意的な喜びが一同を包んだのだ。
「多分、宰相に突き上げがあったんだ。一人で会談するなんて、罷りならないって。だから、大きな会場で、イスペリア貴族同伴でのパーティーを主催することになった。……ジルベールくんの策、成功したみたいだね」
「いやいやいや」
その中で、エレーヌさんが賞賛を手向けてくれたが、あまりに偶然の玉突き事故が多すぎて素直に喜べない。とても、自分の手柄だと誇れるものではなかった。
「全部、エレーヌさんと外交部の人達のおかげです」
「工作しようって言い始めたのは、ジルベールくんだよ」
「俺一人だと、口だけで終わっていました」
そこまで話して、これ以上は謙遜を重ねても不毛であると気がついて。
「じゃあ、みんな頑張ったと言うことで」
「うん、そうしておこうか」
取り敢えずのところで、妥協を示して収束させたのだった。……外交って、こういうやりとりの繰り返しなのかもしれない。
「すみません、こちらで武器は預からせて頂きます。社交の場のことですので、どうかご理解ください」
そうして、俺たちは大広間を前にして、それぞれが武器を預けることになっていた。一人、また一人と令嬢達は係の人に手渡していく。
社交の場、久方ぶりに貴族間のある華やかな言葉に、胸を躍らせているみたいに、ウキウキしながら。
「……あなたは?」
「あっ、すみません、自分は武器を所有していなくて……」
俺の番が巡って来たから、そっとフードを上げて武器が無いと伝えると、係の人は目を丸くして。
「だ、男性の方でしたか! ……どなたかの伴侶の方でございますか?」
「いえ、俺も亡命して来たガリティア人です」
そう告げると、係の人は非常に難しそうな顔をして。
「……その、大変伝え辛い事ではあるのですが、通達が出ているんです」
「通達?」
「はい。──男性を、会場に通してはならない、と」
曰く、それはイスペリアの廷臣からの提案であったそうな。
今回の催しは交流ではあるが盟約の場でもある。故に、浮ついた気持ちで来る者は処罰せよ、と。
つまりは、女性だけの場にするから、男性を立ち入らせるなという意味だ。男性がいては憚る話だって、平然とする決意の表れでもあるのだろう。
それは分かった、理解もした。
……でも、困る。ここまで来て、俺だけ蚊帳の外にされるのはあんまりだ。
咄嗟に、近くにいたエレーヌさんに助けてと視線を送る。
すると、エレーヌさんは一つ頷いてくれた。
安心して、ホッと息を吐きそうになったところに一言。
「任せてほしい。会場入りできない君に代わって、しっかりクローデットさんを支えるよ」
「いや、そこは入れるように図らってくれる流れじゃないんですか!?」
「世の中、どうにも出来ないことはあるんだよ」
しかし、現実はあまりに非情だった。
俺は、一人シャンデリア輝く社交の場に立ち入ることを禁止されたのだ。
武器回収兼、受付係のイスペリア女性が哀れみの視線を向けてくる。エレーヌさんも、非常に申し訳なさそうにしている。
その様子から、どうやってもルールを引っくり返すことはできそうに無いと、嫌でも理解せざるを得なかった。
……あまりに無惨すぎる。
「ジルベールくん、本当は深入りするつもりはなかったけど、ここまで来たのなら、この場では本気でクローデットさんを支える。それは信じてほしい」
「……はい、エレーヌさん、本当によろしくお願いしますね」
「期待以上に頑張ろうと思うよ」
結局、決意を込めた目をしているエレーヌさんを見送ることしか、俺には出来なかった。無念の極みすぎた。
そうして一人取り残され呆然としていた俺は、気の毒がった受付係の人から控室へと案内された。
大きな荷物がいくつか置いてあるから、物置代わりにしている場所でもあるのだろう。
「厨房から幾らか、食べ物を分けてもらいました。これで無聊を慰めていただければと思います」
本当に申し訳なさそうにしながら、受付の人は終わり際に呼びにきますと残し、この部屋を去っていった。
目の前には、良い匂いのする肉やスープ、それに白いパンなども積まれている。村のいつもの食事と比べても、明らかに豪華だ。
俺一人じゃとても食べ切れる量じゃないが、謝罪の意も込めてのものだろう。
……ただ、あんまり手を伸ばす気になれない。
クローデットさん達が心配で、落ち着かなくて。
みんな、大丈夫かな。
もしかして、イスペリア貴族に恐喝されて、酷い条件の同盟とか結ばされてないかな。
俺よりよっぽど頼りになるエレーヌさんがついてくれてるのに、そんな不安にばかり取りつかれている。
──そんな最中でのことだった。
「うぬおーっ、汝はいつまでここに居座るつもりなのじゃーっ!」
「うえっ!?」
俺しか居なかったはずの部屋で、何処からか幼い女の子の癇癪じみた声が響き渡った。
思わず辺りを見渡すと、大きな箱がガタガタと揺れて。
「なんか良い匂いもするし、もう我慢できぬ! 余にも分けてくれたもれー!」
ばこーんっと箱が開くのと同時に、中からクローデットさんよりも巻きに気合が入っている、小柄な赤髪の少女が現れた。
着ている絹の織物を、埃まみれにしながら。
多分、サラくらいの年齢の子が。
……本当に、今日は一体何だというのか。
窓越しに見える曇った空を見上げて、深々と溜息が出てしまったのだった。