貞操逆転世界で占い師(軍師)を務めていたら、貴族令嬢方に包囲され逃げられなくなった件について   作:ですわお嬢様

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第12話 誰、なのだろうか?

 

 現在、箱の中から現れた謎の少女に、ご飯を分け与えていた。よく分からないが、物欲しそうな目をされたので。

 

「うましうまし。いやぁ、すまぬのぉ」

 

「良いから、落ち着いて食べて」

 

「うむ、上品振ることにかけては、余に追随出来るものはおらぬからな。安心して見守ってくれたもれ」

 

「フリなんだ」

 

「そうそう、フリじゃフリ。小煩い教育係どもめ、余が心底から上品になるなどと思うてくれたら大間違いなのじゃからな!」

 

 バクバクとお肉を平らげていく姿は、育ち盛りという他にも暫く食べていなかった好物を食べるかのような風情がある。

 

 その一生懸命さは、ジッと見ていられるものだった。

 

「んぐんぐ……なんじゃ、汝もお腹、空いたのかえ?」

 

 ただ、見つめすぎてしまったのか、目の前の子は口元を肉の油でテカらせながら、そんなことを気にしてくれた。

 

「大丈夫だよ、別に俺は──」

 

 お腹は空いてない。そう言おうとした辺りで、返事のかわりにお腹が鳴る。

 

 さっきまで澱んでいたように感じていたお腹は、この子の微笑ましい食べっぷりを見ているうちに退散していた。むしろ、思い出したかのように主張をする。

 

 思わず赤面すると、その子はウンウンと頷いて。

 

「分かるぞ、他人が美味そうに食べる飯ほど羨ましいものは無いからのぅ。ほれ、ちこーよれ」

 

「な、なんかごめん……」

 

「よいよい、気にするでないわ」

 

 "元は俺に出された食事……"、と大人気ない言葉を飲み込んで近付くと、ポンと柔らかい白パンを手渡される。

 

「ありがとう。それじゃ頂きます──あっ、美味しい」

 

 口に運んだ白パンは、驚くほど柔らかくて小麦の優しさに満ち溢れていた。

 

 最近は、パンを食べれたとしても黒パン……クソ固い、武器にできそうなパンばかりだったから、こんなに柔らかいパンは久しぶりに食べた気がする。

 

 

 あと、余談ではあるが、令嬢方は黒パンが普通に好きらしい。

 

 俺はスープに浸して柔らかくしてから食べてるけど、令嬢方は豪快にそのまま噛み砕いてる。固いのが好きとか何とか。あまりにもワイルドすぎる。

 

 みんな可愛くて美人なのに、日頃の所作を見ていると美人に見えなくなってくるバグが、あの村には存在していた。

 

 以上、余談終わり。

 

 

「うむ、今日の食事は豪華よな。いつもは民衆の暮らしが〜、などと抜かしよるが、廷臣どもはこういうものをたんまりと食べておるのじゃ。許せなくないかえ?」

 

「生活水準上げると、戻せなくなるらしいね」

 

「全く、嘆かわしいばかりじゃ」

 

 そう言いながらも、この子曰く嘆かわしい食事を続ける。

 だって、美味しいんだから。

 

 目の前に出されたご飯に対して、食欲よりも憤りが勝るなんて、日頃から色々食べながら庶民の暮らしに思いを馳せているインテリ層くらいしかないんじゃないかな?

 

 そして残念なことに俺も、おそらくはこの子も、饗されたご飯に対してキレられる程に感性が育ちきっていなかった。

 

「ごめん、お肉分けてもらえる?」

 

「何じゃ、しょうのない奴よな」

 

 美味しいものを食べさせてもらえると、人は寛容になる。ブツブツ言いながらも、フォークとナイフを器用に手繰り肉を切り分けてくれた。

 

 上品振るのは得意と言っていたが、そもそもの所作が綺麗で整っている。

 

 多分、良家のイスペリア子女。

 小さいから、会場入りできなかったのだろう。

 

 その子から貰った肉を口に運ぶと、暴力的な脂質が脳を焼く。きちんとローストされている丸々とした鶏肉は、あまりにも旨みに満ちていた。

 

 柔らかいパンは美味しいし、油の乗ったお肉は活力になり、温かいスープは染み渡る。

 

 俺たちは今、食べる幸せを思い出していた。

 

 

 

 

 

 そうして、目の前の食事を全て片してからのこと。口元を拭き終えてから、ふと思い出したように目の前の子が呟いた。

 

「たくさん食べて落ち着いたところでじゃが……お主誰じゃ?」

 

「すごい今更な上に、中々のご挨拶だね?」

 

「見覚えのない顔じゃからな、しかもよくよく見ると男でたまげておるわ」

 

「今まで気が付いてなかったんだ……」

 

 満腹になり落ち着き、食欲が去った瞬間に気がついたのだろう。そういえば、この人知らない人だと。

 

 俺からしてみても、それは同じである。

 何でこの子はこんな場所の箱の中なんかに隠れていたのか、全く持って意味が分からない。

 

 何だこいつはという視線が絡み合う。

 珍妙なものを見る視線で、お互いを見遣っていた。

 

「で、何者なのじゃ? 亡国の王子みたいな顔をしておるが、ガリティアの王族かの?」

 

「違うよ、恐れ多い」

 

 ズケズケと、とんでもない邪推をしてきた。

 けど、大外れもいいところだ。

 

 そもそも、ガリティアの女王陛下の子は王女様お一人だけで、そのお方も現在は行方不明。むしろ、ここまで落ち延びてくださったら……。

 

 そこまで考えて、首を振った。

 もしもを考え始めたら、無限に分岐を考えずにはいられないから。

 

「でも、ガリティアっていうのは正解。俺は、ガリティアからの亡命者だよ」

 

 だから話題をズラして、俺のことを話し始めた。

 すると、先程まで胡乱な目をしていた彼女は、目を朝の陽射しみたいにキラキラさせて。

 

「汝はガリティア騎士団の一員なのかえ!?」

 

「そ、そうだけど?」

 

 勢い良く机を両の手で叩いて立ち上がりながら、身を乗り出した。その勢いに思わずのけぞりそうになるが、それよりも素早く両手を掴まれて。

 

「──聞かせてたもれ!」

 

 "今日は、その騎士団を一目見るために、コソコソと隠れながら来たのじゃ!"

 

 そう告げられて、二の句が継げなくなる。

 あまりにも純真な目で、御伽噺をねだる子供みたいに話すことを請われてしまったから。

 

 それを断るなど、俺にはできそうになかった……。

 

 

 

 

「そうして、クローデットさんは言ったんだ。"──ならば、あの世で広めてくださいまし。ガリティアと、ジラール家の武威を"って」

 

「クローデット殿、格好良いのじゃ〜!」

 

「うん、クローデットさんは本当に頼りになって、素敵な女の子なんだよ」

 

 話し始めてみると、この子はとても良い反応をし続けてくれた。こちらまで、思わずノリノリになってしまうくらいに。

 

「お陰で、足りていなかった武具や馬がたくさん手に入った。村を守りやすくなったし、本当に大戦果だったよ」

 

「景気の良い話じゃな、久々に胸がすいたわ!」

 

「まあ、馬の方は維持費がちょっと、あれだけどね……」

 

「維持費?」

 

「うん。馬って健啖家で、沢山ご飯を食べるからさ」

 

 一瞬、数字が頭によぎって顔が歪みそうになる。

 

 が、すぐに頭から追い出す。

 幼気な子供を前にして、夢のない話をするのは憚られたから。

 

 ……けど、目の前の子は、何だか興味を持ってしまったみたいで。

 

「お馬さんは、家族よりも大喰らいなのかえ?」

 

「そうだね、10〜20kgくらいは食べるかな。それが200頭分だからね……」

 

「そんなに!?」

 

 "余の体重の半分くらいじゃ……"と愕然と呟いている姿は、現実に対してショックを受けているようであった。

 

 夢を壊してしまったようで申し訳ない、ちょっと反省である。

 

「あはは、夢のない話をしてごめん。でも、生き物を飼うってこんなにも大変なんだって、それを実感しているところだよ」

 

 総括としてそれだけ述べて、もうこの話は終わらせようとする。亡命者村……というよりもガリティア騎士団の話で、もっと聞きたいことがあると思ったから。

 

 けど、この子は俺の顔色を伺いながら、心配そうな顔をした。

 

「無敵の騎士団でも、どうにもならないのかえ?」

 

「冒険して、宝物を探しに行けるご時世なら、何とかなったかもしれないのにね」

 

 今は戦争中で、御伽話を擬したごっこ遊びさえできない。彼女に喜んでもらえる表現にしようとしたら、謎に皮肉が籠ったような物言いをしてしまった。

 

 まるで、君の国がしっかりしてないから、みたいな受け取り方もできてしまう言い方だったから。非常に申し訳ない。

 

 咄嗟に、クローデットさんのお茶目な話に切り替えようとする。いつだって、クローデットさんの話題は滑らないから。

 

 でも、何も言ってないうちに、彼女は顔を上げて。

 

「──盟約を結びに来たのじゃったな、お主たちは」

 

 息を呑んでしまうくらいに真剣な面持ちで、そんなことを尋ねてきた。

 

「そ、そうだけど?」

 

 気圧されそうになりながら答えると、彼女は深く頷いた。そして、泰然とした振る舞いで告げたのだ。

 

「なれば、イスペリアの友人じゃ。友人が窮しておるのに、手を差し伸べぬのは国の前に人として道理に背いておる」

 

 自分ならどうにかできると言わんばかりの口調。

 思えば、彼女の着ている絹は貴重品も良いところだ。

 

 妙に大仰な話し方も相まって、思わず疑念が溢れた。

 

「──君は、誰?」

 

 その問い掛けに、ふと彼女の気配が緩んだ。

 顔を俯かせて、何かを考えながら小さく呟く。

 

 

「……思えば、余にここまで馴れ馴れしい奴も中々おらぬな。いや、そもそも気がついておらぬのか。……うむ、うむうむ。そう考えると、諸々が惜しいな」

 

 

 何かをブツブツと呟きながら、チラチラとこちらを見てくる。何かを気にしているように、悩んでいるみたいに。

 

 もしや、名乗れないレベルのヤバめな名前だったりするのだろうか?

 ……ミエルダとか(イスペリア語でうんちの意)。

 

 まさかねと思いながら眺めていると、一通り悩み終えたのか、ウンウンと頷いて。

 

「余の名前はベラじゃ!」

 

 えっへんと胸を張るようにして、ムフリと口元を緩めながらそんな名乗りを上げたのだった。

 

 ──良かった、うんちじゃない!

 

「俺はジルベール、ジルベール・ネイ。よろしく」

 

「宜しくなのじゃー!」

 

 謎に張り詰めていた空気が弛緩して、息を吐いた。

 

 何だったんだろう、さっきの緊張感は。

 目の前にある緩々の顔を見てると、気のせいだった気もするけど……。

 

 もしかするとベラは高位貴族の家系であり、秘めてる魔力の含有量が多くて、威圧感みたいなのを振り撒いちゃう時があるのかもしれなかった。

 

 まあ、憶測ですらない邪推なんだけどね。

 一人称が余だし、あり得そうって思えたのだ。

 

「それで、ベラは馬たちのご飯について、何か当てがあったりするのかな?」

 

 そんなことより、さっきの意味深な言葉の続きが気になって尋ねると、ベラはニンマリと笑って。

 

「余にはどうにも出来ん!」

 

「そりゃそうだよね!」

 

 あまりにも身もふたもない事を言い放ったのだ。

 

 分かっていたことだけど、思わずコケちゃいそうにならなかった事を褒めて欲しい。

 

 さっきの意味深な言葉は、意味深なだけで意味は特になかったようだ。単に、俺たちズッ友宣言以外の何者でもなかったのだろう。

 

 ……好意的に見てくれるのは、ありがたいことだけどさ。

 

「──だが、余以外ならばどうにかできよう」

 

「……え?」

 

 でも、ベラはそうじゃないと首を振った。

 他に方法があるのだと、楽しげに話し始めた。

 

「要は、献上させれば良いのじゃ。騎士団の資金や馬の餌をな」

 

「え……まさか、イスペリアの王宮にふっかけろってこと?」

 

「いや、そっちはケチの極みじゃ。タカる相手は間違えてはいかん」

 

 妙にハッキリ言い切ることに違和感を感じつつも、わざわざイスペリアの宰相とかに隙を見せることもないと思い、そこは納得する。

 

 でも、だったらどこに……いや、待って。

 もしかしなくても、そう言うことなのか?

 

「あのさ、一応聞くんだけど──イスペリア市民それ自体に、寄付を募れって言ってるの?」

 

「ぬふふ、主は賢い奴じゃな。だが、市民よりも商人を頼った方が良いぞ!」

 

 まさかの発想であるが、目の前の少女はニッコニコで俺を褒めてくれた。それが間違いなく正解だと、肯定するみたいに。

 

 何でそんな提案をしてきたかは、少し考えてみれば見えてきた。

 

「今のバローラでは、空前のガリティア騎士ブームが来てるから、それに乗っかってパトロンになって貰おうってことだよね?」

 

「うむ、奴らは、あー、あれじゃ。女王の誕生日などにな、大量の物品を送りつけてきて、王城がそれを受け取ると"女王陛下もご愛用!"などと銘打って商売をし始める。丁度名が売れている汝達には、向こうも揉み手しながら寄ってくるじゃろ」

 

 あまりに俗っぽい言い分ではあったが、そこには商人の利が感じ取れる。だから、成程と納得できた。

 

 要するに、日本のテレビとかでやってるCMと一緒で、宣伝に使っていいから出演料ください、というのと同じ要領だろう。

 

 それなら、商人達にも利がある。ガリティア騎士団御用達という謳い文句があれば、国の危機に尽力している商人と印象付けることも出来るだろう。

 

 赤字垂れ流しで破産待った無しって思ってたけど、これなら目処が立ちそうだ!

 

 思わずベラの手を取った。

 そして、感情が赴くままにブンブンとシェイクする。

 

「ベラ、君天才だよ! うち来る? 俺、クローデットさんに口利きできるよ!」

 

「ふぬお!? よ、余も栄誉ある騎士団の一員になれるのかえ!?」

 

「うん! ……と言っても、前線に出るんじゃなくて、俺と一緒に裏方役に回ってもらうことになると思うけどね」

 

 ベラは間違いなく賢くて、尊大な喋り方に反して世間のことを慮れるタイプの女の子だった。この子を仲間にできたら、色々と内治の面とかも捗りそうな気がする。

 

 経験不足かもしれないけど、青田買いしたいと思う程に見識がある女の子だから。

 

 だから、どうかな? と問い掛けると、ベラは無茶苦茶悩ましげな顔をして。

 

「うぬ、うぬぬっ。……正直、なりたい。憧れはある、が……全部放り投げて、逃げ出すわけにもいかんからのぅ……」

 

 そうして、便秘に悩むくらいに顔をたくさん顰めてから、脱力したように首を振った。

 

「残念じゃが、家のことがあっての。余、これでもお嬢様でな、良い生まれなんじゃ」

 

「……そっか、無理言ってごめんね?」

 

「いやいや、本当に嬉しかったぞ。噂の騎士団員たちと友達になれるかもとも思うて、興奮したくらいじゃ」

 

 やっぱり、ベラは良家の子女であったらしい。

 

 この見識も、恐らくは領主のお母さん辺りにでも仕込んでもらったのか。納得すると同時に、やはり惜しく感じてしまって。

 

「……けど、俺はベラのこと、友達と思ってるから。他のみんなにも、素敵な知り合いができたよって伝えておくよ」

 

 未練の代わりにそう伝えると、ベラはその目をまん丸と見開いて。

 

「……そうか、友達か。友達……ぬふふ、良いな、それは!」

 

 嬉しさの詰まった、華やいだ笑顔を見せてくれて、俺の心にまで朗らかさを届けてくれた。

 

 

 会場入り出来なかった時は厄日かもと思ったけど、それを差し引いてもベラとの出会いは大きかった。

 

 災い転じて福と成した一日になった気がした。

 

 

 

 

 

 気が付けば外が暗くなり、雲に隠れた陽が落ちてから暫くして。

 

 夜が深まり、様子を見にきた受付係の人に差し入れてもらった蝋燭を灯しながら、羊皮紙に色々と書き連ねていた中──ふと、思い出したように部屋の扉が開いた。

 

「ごめんジルベールくん、遅くなって!」

 

「ジルベールさん、本当に申し訳ありませんでしたわ。ワタクシ、自分のことで必死になってて!」

 

 慌てて部屋へと駆け込んできたエレーヌさんとクローデットさんに、思わず頬が緩んだ。暗くなり切る前にベラを帰してから、ずっと一人きりだったから。

 

 暗がりに一人、慣れない場所に居るのは……まあ、結構寂しかった。いつも賑やかだったから、その反動もあって。

 

「待ってました、迎えにきてくれて嬉しいです」

 

 いつもは噤んで口にしないことが、ポロリと溢れた。ちょっと照れるが、でも嬉しいのは事実だった。

 

「け、健気なのですわ〜っ!」

 

「情けない、の間違いですよ。ここまで来て、結局交渉の役には立てませんでしたし」

 

 色々と、思うところはあった。

 だからと言って、卑屈になりすぎるのも良くないが。

 

 口が滑ったかなと若干後悔していると、二人は顔を見合わせて。そうして、若干の呆れを滲ませてから頷きあい、俺の方へと向き直ったのだ。

 

「そんなこと無いよ、ジルベールくん。キミが気を回しててくれたお陰で、交渉に値する場が整えられたんだ。イスペリア側も、一枚岩じゃなかったしね」

 

「ですわ、ジルベールさんは準備の段階からよくやってくれていました。お陰で、多分にワタクシ達に配慮した同盟を結ぶことができましたの!」

 

「話、纏まったんですか?」

 

「うん、ボクたちよりも宰相とイスペリア貴族が揉めに揉めて、こんな時間になっちゃったけどね」

 

 そうして、二人が聞かせてくれた同盟の内容は、以下の通りであった。

 

 

 

1.イスペリア王国とガリティア亡命貴族諸氏(ジラール伯一党と呼称する)は、己が出来うる範囲での互助を行うものとする

 

2.支援要請は前線指揮官を通じて行い、後方からの要請は一度前線へと稟議を挟んでから可否を判断する。また、前線指揮官はこれを否決する権限を有するものとする

 

3.防衛に際して宰相からの要請があり次第、参戦努力義務が生じるものとする

 

4.ジラール伯一党は独立した指揮権を有し、前線において独立した指揮権を確立するものとする

 

5.現ガリティア王国政権からのジラール伯一党への干渉は、断固として受け入れないものとする

 

6.イスペリア側から攻勢の事前通達を行っていた場合、ジラール伯一党は参戦する努力義務が発生するものとする

 

7.イスペリア王国、ジラール伯一党間の同盟を『聖隷同盟』とし、異教徒に対して確固たる意思で抗戦すると宣言するものとする

 

 

 

 他にも細々とした条項が幾つか存在していたが、特筆すべき項目は以上であった。

 

 一読してから、少し苦笑いが浮かんだ。

 それから、会議の内容がかしましいものだったのだろうという想像も。

 

「宰相オクタヴィアとイスペリアの貴族たちは、お互いにこっちを自由に使わせまいと妨害しあってたんですか?」

 

 尋ねると、クローデットさんは辟易とした顔を浮かべて、エレーヌさんは曖昧な笑みを浮かべた。どうやら、ずっとイスペリア側は内輪揉めしていたらしい。

 

 実質的に、その内輪揉めに二人は巻き込まれた形か。気疲れして然るべき場所に、身を投じていたようだった。

 

「……その間、他の皆さんはどうしてましたか?」

 

 難しい状況で、じっとしていられたのか気になって尋ねると、クローデットさんは瞬間的に顔を真っ赤に染め上げた。

 

 照れてるとかではない──キレてる類の赤色だった。

 

「あんの役立たずどもっ、ずっと揉めているイスペリア貴族たちを囃し立てたり、ワタクシやエレーヌさんに雑なエールを送りながら、自分たちは我関せずと飲み食いに明け暮れてやがったのですわ!」

 

 "他人事だと思って、他人事だと思い散らかしやがりましてっ!!"

 

 ブチギレながら、クローデットさんは地団駄を踏みまくっていた。あまりにも内側に溜め込みすぎて、突いたら即座に破裂してしまったみたいだ。

 

 乾いた笑いを浮かべているエレーヌさんは、流石に場慣れしていたのか比較的余裕があるみたいだった。

 

「まあ、とにかくそういう感じだね。同盟の場なのに、ボク達は蚊帳の外だった。お陰で、懸案のあった私兵や使いっ走りにならずに済んで、比較的緩めの条件で一国の支援を受けられるようになったけど」

 

 "甘え過ぎると、見限られるけどね"と呟くエレーヌさんの言葉を心に刻みつつ、とりあえずはホッとできた。

 

 外交による危機は、勝手に向こう側がこんがらがって自滅しただけみたいだが、何とか乗り切ることが出来たのだと実感できたから。

 

「とりあえず、一安心ですね」

 

 どうどうとクローデットさんを宥めながら、一先ずは弛緩した空気が流れる。一件落着みたいな空気が、この場を包んだのだ。

 

 

「……疲れているところすみません、俺の方からも提案があるんですが、良いですか?」

 

 

 その合間をつくように、今度は俺の番と話を切り出した。二人とも、気疲れが溜まっているから、簡単に概要だけを伝える形で。

 

「──俺たちの集団としての名前、決めませんか?」

 

 それは、ベラと話していた商会への売り込み前の下準備。格好いい名前がないと、喧伝しても響かないと思ったのだ。

 

 あと、何気にずっと気になっていた、俺たちの組織としての名前がないということを、そろそろ解決したくて。

 

「名前……そうですわね、必要ですわ。ジラール伯一党と呼ばれる度、賊の首魁にでもなった気分になりましたもの。……騒ぎ立てるだけだったおバカ共は、賊みたいなものでしたけれど」

 

 それにクローデットさんも深く頷きながら、賛意を示してくれた。エレーヌさんも、クローデットさんを慰めながら、一つ頷いて。

 

「提案したということは、名前に候補があるのかい?」

 

 察しの良いことに、エレーヌさんは俺がずっとその名前を考えていたことに、すぐに気がついてくれた。

 

 だから頷いて、先程までしたためていた羊皮紙を見せながら、一生懸命考えた名前を発表する。聞いてくださいと、少しもったいつけながら。

 

 

「──大いなる魔力を携えた万里を踏破する力を持ち全世界を守護出来る無敵のガリティア人騎士団」

 

 

 胸を張りながら、ベラが居なくなってから一生懸命考えた名前を公表した。

 

 日本の小説サイト、小説家を目指そう(通称めざし)にこんな題名の小説があったら、100万PVも夢じゃない(多分)。

 

 そんな、みんなが気にしてくれる題名になったんじゃないかって、誇りを胸に抱きながら、どうかなって二人を伺うと……。

 

「「却下ですわ(だよ)!!」」

 

「何で!?」

 

 どうしてか、完璧すぎる名前をつけたはずなのに、二人揃って可哀想な目をしながら俺の案を棄却したのだった。

 

 

 一生懸命考えたのに、何でだよぉ……。

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