貞操逆転世界で占い師(軍師)を務めていたら、貴族令嬢方に包囲され逃げられなくなった件について   作:ですわお嬢様

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第19話 妥結

 

 奇妙な静けさが、辺りを包んでいる。

 とはいえ、それが何も意思表明をしないことにはならない。

 

 イメルダ氏は、早く死ねと言わんばかりに宰相を睨みつけているのだから。

 

 けれど、宰相は微塵も動じた素振りを見せていない。

 少なくとも、表面上は。

 

 これが身内だけの場ならば、"私は下手人だが黒幕は別にいる、脚本家はこいつだ!"などと言い放って、憤怒の顔で俺を指差したことであろう。

 

 それを見たベラが大笑いするところまで浮かぶが、ここにベラはいないし黒幕然としているのは宰相一人であった。

 

 というか、勝手にアドリブで大事にしたのは宰相の方である。

 

 俺は軽く、クローデットさんのデモンストレーションをして欲しいと言っただけだ(丸太を投げたのはクローデットさんですアピールくらいの)。

 

 なのに、楽しくなってライブ感で突き抜けていったのは宰相自身(あと、場の流れを読んで同調したクローデットさんもだが)であった。

 

 演技が上手いのはあるが、それ以上にノリノリだった。

 何でそんなに悪党ムーブが上手いんだよ……。

 

「見誤っていた、ということか。流石は、四方に陰謀家として名を轟かせているだけはある。尊厳を穢し、踏み躙るのは得意と見える」

 

 その迫真の悪党ぶりを間に受けたイメルダ氏は、苦悶の表情でそう吐き捨てた。

 

 この場にクローデットさんが居なければ、間違いなく宰相に斬り掛かっていただろう。

 

「……私程度に過分な評価ではあるが、その策に絡め取られた貴殿はどうするつもりだ?」

 

 なのに、宰相は微塵も動じない。

 悪党であることを武器にし、選択を強要している。

 

 後に禍根が残りかねない手法ではあるが、相手を視野狭窄に陥れるという意味合いでは、実に効果的な手法だ。

 

「戦うか否か、か……」

 

 開門するか戦うか、選択肢は二つに一つとイメルダ氏は思い込んでいるのだから。

 

 それも、戦う選択肢は勝ち目が薄いかもしれないと、強烈な印象を残して。

 

 ……この人がイスペリアで政争してた時も、多分こんな感じで敵を量産していったんだろうなぁ。

 

 

 

 半ば他人事みたいに楽しくなりながら、脚本の斜め上を行く(下かもしれない)オクタヴィア・カルロス劇場を眺めていた俺の裾を、誰かが軽く引いた。

 

 控えめに、けれど勇気を振り絞った様に。

 

「──ジルベールくん、少し良い、かな?」

 

 これまで存在感を消して、空気に徹していたエレーヌさんだった。

 

 頷いてそっと近くに寄ると、エレーヌさんも身を寄せてくれた。

 思わず、照れてしまいそうな距離だ。

 

 そんな近さで、エレーヌさんは囁く。

 

「このままだと良くないと思う、将来的に」

 

 それは、交渉自体よりも、宰相の今後を憂いての言葉。

 

 そもそも、今回宰相が交渉に来たのは、自身の地歩を固めて貴族達にこれ以上の権力を渡さないためでもある。その点に於いて、宰相は蔑ろにしている点が存在していた。

 

「このままだと、イメルダ氏が帰順したとしても、貴族閥に走りかねないことを言ってるんですよね? ……分かりますけど、心象的にもうダメじゃないですか?」

 

 思ったことをありのまま口にすると、エレーヌさんは真剣な顔でまだだよ、と口にした。

 

「あれだけ恥を掻かされたら、そうかもしれない。けど、道理の上では宰相閣下の言葉も事実だと、バルゴ伯も分かってるんだ。図星だから、面子を潰されたと激怒しているんだけど……」

 

 判断付きかねるように、眉を厳しくして語らないイメルダ氏を一瞥して。

 

「この街の市民の声を、あの人は知っている。だからこの会談にも、嫌々ながら応じてくれたんだ。人の意見を聞いて、拾い上げる度量はある人だよ」

 

 冷静に分析しながら、最後にこう結んだ。

 

「だから、バルゴ伯には、強要させられて開城させられたと屈辱感を与えない方向で行きたい。自分が決めて、自分の意思でイスペリアに降ったと自尊心を守る方向で」

 

 極力、最後まで宰相を慮りながら、宰相が望んだ形の交渉結果にしたいと表明したのだ。

 

 それに、思わずため息を吐いた。

 一から十まで、エレーヌさんは優しすぎると。

 

 宰相が好き好んでこの手段を取ったのだから、それに任せれば良いのに、と。

 

 ……でも、エレーヌさんらしいと言えば、らしいか。

 

「俺に出来ることがあるんですね?」

 

 エレーヌさんにはいつも助けてもらっている……今回、宰相を助けようとしているみたいに。

 

 だから、偶には恩返しをしないとと思い、そう申し入れる。別に、宰相の為じゃない。すると、エレーヌさんは小さく頷いて。

 

「ジルベールくん、君にしか出来ないことがあるんだ」

 

 自尊心がくすぐられるような一言と共に、エレーヌさんはひどく真面目な顔でこう言ったのだ。

 

「感情的でバカ正直っぽい男の人を演じて、宰相閣下に恥を掻かせて欲しいんだ。バルゴ伯の溜飲を下げて、流れを変えるためにも。──流れが来たら、絶対になんとかするから」

 

 "場が荒れた時は、男の人が空気を変える切り札になるんだ"、なんて言いながら、俺の出来ることを伝えてくれた。

 

 けどそれは、幾らエレーヌさんのお願いと言えど、拒否権を発動したい類いの頼み事であった。

 

 

 

 内心で非常に嫌な汗を掻きつつ、俺は小さく深呼吸をした。

 

 今から空気を読めないバカ丸出しなことを並べ立てるのに、非常に気が引けながら。

 

「…………っ、宰相閣下、どうしてそんな言い方しか為されないのですかっ、本当は心配されていたのに!!」

 

「は?」

 

 それでもと、フードを脱いで殆どヤケクソで叫んだ俺に、意味が分からないと言わんばかりに宰相は困惑な声を上げて。

 

「…………男?」

 

 それ以上に、脳の処理が追い付いていないイメルダ氏が呟いたのを見逃さず、俺は畳み掛けるようにして宰相を──詰りはじめた。

 

「出立前、閣下は陛下の前で仰っておられましたよね! バルゴ閣下が帰順された暁には、自らの褒章は要らないから、バルゴ閣下に伯爵位を再び与え、厚遇してあげて欲しいって!」

 

「は?」

 

 宰相の顔に、"言ってないが、そんなこと"と困惑が露骨に浮かぶが、それを押し流すようにして俺はシャウトを続けた。

 

「バルゴ閣下は防衛戦の名将で、これからのイスペリアには無くてはならない人なんだって! 陛下にその勇名を語り聞かせていらっしゃったのにっ!!」

 

 なにそれ知らん、こわ……という顔をしている宰相に喋らせる暇もなく、ひたすらにありもしない空想エピソードを並べ立てる。

 

「陛下の帷幕にお招きしたいってお考えなのに、どうして真心ではなく陰謀を持って事を運ぼうとなさるのですかっ。宰相閣下が今なされるべきことは、陛下のためにもバルゴ閣下に礼を尽くし、帰順してくださるように対話を続けることでしょうに!!!」

 

 そして最後に、ヤケクソキレ散らかし罵倒を言い放って、言いたい放題適当なことをほざきまくった演技を終了した。

 

 バカみたいに叫び過ぎて、ハアハアと肩で息をしてしまう。

 

 けど、勢い任せに色々と叫んでいたからか、アドレナリンが分泌されて、罵倒する前に感じていた気恥ずかしさとかは全く感じなくなっていた。

 

 ……宰相が悪役ムーブ得意すぎるのは、毎回この状態になって、好き勝手に暴走しちゃっているからなんだろうな、俺は気をつけなきゃ。

 

 

 自戒と共に顔を上げる。

 どうなっているのか、恐る恐る。

 

 部屋は、沈黙に満ちていた。

 

「…………」

 

 イメルダ氏は、呆気に取られているみたいで。

 ぼんやり俺を見つめながら、上手く思考が纏まらない表情をしている。

 

 多分、虚を突くのに成功していた。

 戦場なら、脳死で突撃を指示すべき場面である。

 

 相手の思考に、空白地帯が出来ているのだから。

 

 今ならば、素直に話を聞いてもらえるかもしれない。

 そう思った瞬間であった。

 

 

「バルゴ伯イメルダ閣下、クローデット・ジラールが臣、エレーヌ・リオンが無礼を承知で申し上げます」

 

 

 この戦場(交渉)でその間隙を見逃さなかったのは、エレーヌさんただ一人。

 

 彼女はそのまま、意識の空白地帯を制圧するように、朗々と語り始めたのだ。

 

「我々が手を結んだ時、イスペリア王国は二つ、バルゴ伯は三つのものを手にできます」

 

 全員が、エレーヌさんに注視している。

 自然と場の空気を掌握し、自らの話を聞いてもらう土壌を作り出していた。

 

「イスペリアが手にできるのは、バルゴ伯を味方にすること、北西部へ攻勢を仕掛けられる権利です」

 

 けど、空気を支配していても、エレーヌさんからは高圧さを感じない。あくまで対等であると、そう思わせる爽やかさがあった。

 

「対して、バルゴ伯が手にできるもの。まず一つ目は名声、民のために裏切りの汚名を被った先代の誤解を解くことができます」

 

 指折り数えてみせながら、それがイメルダ氏の意識に内容を刷り込んでいく。

 

「次に、王家からの知遇。元より、陛下のバルゴ伯へと評価は低くありませんでした。それは、無闇にイスペリア人を傷つける用兵を行わず、双方にとって傷が浅い様に計らってくださったからです。陛下の下で重用されることでしょう」

 

 この言には、少し語弊がある。

 

 バール市の城壁を活用しながら戦うと、自然とそうなってしまうという戦術的な帰結があるのだ。

 

 けれど、結果として人道を尊ぶ指揮ぶりになっていたのも事実。語弊ではあっても、誤解ではなかった。

 

「そして三つ目、閣下が手になされるものは──この戦争を勝利へと導いた立役者としての地位です。この戦争は勝てる戦です、閣下さえ味方をしてくだされば」

 

 最後に、腰を低くしながらイメルダ氏に訴えたのだ。

 

「王国は閣下を望んでいます、どうか帰順して頂けませんか?」

 

 誠実な、少なくともそう装えている弁舌であった。あの宰相の後だから、余計にそう見える。

 

「共に、英雄になりましょう」

 

 呼応する様に、クローデットさんもイメルダ氏に語り掛ける。未来は明るいと素朴に信じている、そんな若者の声であった。

 

「私は……」

 

 呼び掛けに、イメルダ氏は少し目を揺らがせた。

 迷いが生じたのだと伝わってくる。

 

 もう一押し、何かあれば。

 そう思ったところに、誰かが口を開いた。

 

「先程は無礼を失礼した、あなたの力が必要なのだ。……宮廷で謀に溺れ過ぎていてな。皆の様子を見て、ようやく誠実さというものを取り戻せた。必要であれば、私を切っても良い」

 

 王国宰相、オクタヴィア・カルロスであった。

 口元をモゴモゴさせながら、自分の非を謝したのだ。

 

 多分、場の空気を読んでのこと。

 自分のために茶番を繰り広げているんだと、気がついた宰相の咄嗟の機転であった。

 

 それは、恐らくはイメルダ氏にとって、驚きの出来事であったのだろう。

 

「あのオクタヴィア殿が、謝った……?」

 

 悪名高い宰相が頭を下げた、その姿に動揺を覚えた。どれだけヤベー奴扱いされていたのか、一目で理解できる反応だ。

 

 けど、悪名でも役に立つ時はある。

 

 あのオクタヴィア・カルロスが、素直に頭を下げたという事実は、イメルダ氏にとっては大きなものであったのだろう。

 

 この宰相が人に弱い部分を見せる、その事実は存外に重いものであると受け止められたのだ。

 

 

 

「…………どうしたものか」

 

 途方に暮れた顔で、イメルダ氏はため息を吐いた。

 

 心が揺れている、提案を頑として撥ね付ける意思は消失していた。けれど、だからといって軽々に動くべきなのかという迷いが見える。

 

 信じて良いのかどうか、その一点で悩んでいた。

 こればかりは、この人がリスクを取るかどうかに掛かっている。

 

 これ以上俺たちが言い募っても、煩い営業の電話にしかならない。後はイメルダ氏の心持ち次第でしかないのだ。

 

 だから静かに、息を殺すようにして待つしかなくて。

 

 そんな中で、口を開いたのはイメルダ氏の家宰であるメイドであった。

 

「……若様、先代は民を安んじるため、城門を閉じました」

 

「今回も、それが正しい、と?」

 

「そうは申しません。ただ、指針として、どの選択が民を安んじることになるのか。それを、若様が選んでくださいませ」

 

「領主として、か?」

 

「はい、責任でございます」

 

 所々に皺が見えて、中年から老境へと差し掛かる自らの臣下の言に、イメルダ氏は深々と目を閉じた。

 

 受けた忠言を噛み締める様にし、自己ではなく自らの抱える民達のことに思い巡らせているであろう。

 

 暫しの、瞑想にも似た沈黙の後、イメルダ氏は瞳を開けた。

 

 

「地位や知遇、名声などは要らぬ」

 

 

 その言葉に、落胆を感じなかったかと言えば嘘になる。

 ダメだったと、徒労が胸に巣作りを始める。

 

「──だが、通行の許可は出そう」

 

 けれども、その一言で全てが裏返った。

 皆の瞳にも、輝きが戻って。

 

「本当か、イメルダ殿!?」

 

「但し、我らは兵を出さぬ。それを承知するのであれば、補給も担おう」

 

 勝てるというなら見せてみろ。

 必要なのは、自分ではなく北西部への通り道であろう。

 

 イメルダ氏の言い方は、率直に言い換えるとそうなる。散々重ねてきた美辞麗句を一刀両断する物言いだけど、それも事実ではある。

 

 むしろ、周辺の地理を把握しているイメルダ氏が補給を担当してくれるアドバンテージの方が、非常に上であるといえた。

 

「……北西部への遠征、勝利の暁には貴殿の英断こそが讃えられるであろう」

 

「貴殿は口でなく、結果で示してもらうとしようか」

 

 調子の良い宰相に、チクリと皮肉を投げかけたイメルダ氏……いや、もうバルゴ伯に戻るのか。

 

 そんな彼女に、宰相は不敵な(なんか悪人っぽい)笑みを浮かべて、力強く頷いた。

 

 

「──図らずしも、貴殿は王国の未来を救ったのだ。必ず、その期待に応えて見せよう」

 

 

 

 

 

 聖教暦722年2月、バルゴ伯イメルダ帰順。

 その報がもたらされた時、声にならない激震が軍部を襲った。

 

 喜ばしい報告であるが、それを主導したのが宰相オクタヴィア・カルロスであった点が、彼女達に動揺をもたらした。

 

 あの難攻不落の街に、最後まで自分たちは勝てなかった。その意識が、軍部の中でオクタヴィアに対する少なからざる嫉妬と僻みの温床となったのだ。

 

 それに伴って、弱まっていた宰相の勢力がこの一件を経て大幅に回復したこと。

 

 これにより、敢えて泳がせていたはずのオクタヴィアを除くことが不可能になった。

 

 出し抜かれたと、軍部高官の誰もが歯噛みした。

 疎ましい宰相を、もっと早く除いておけばと後悔もした。

 

 けれども、それ以上の野心が、彼女らには灯されたのだ。

 

 

 ──山を越えた北西部には、安穏と午睡を貪っている叛徒達が跋扈しているのだから。

 

 

 手柄など、これから幾らでも立てられる。

 その野心が、欲望こそが、彼女らを政争よりも戦場に駆り立てた。

 

 結果として、オクタヴィアは地歩を固める時間を得ることになったのであった。

 

 

 

 そうして、春が来る。

 未だに雲が空を覆われている、実感のない灰色の春が。

 

 未だに肌寒さが抜けない中で、イスペリア王国はメンドーサ将軍を総司令官とした、1万5000の軍を起こした。

 

 情報は固く封鎖されており、欺瞞工作によりバルゴ伯が帰順したことも伏せられている。

 

 ──大規模な奇襲を敢行し、北西部を一挙に奪還するために。

 

 

「メンドーサよ、北西部の空き地には今回戦功を立てた貴族を封じようと思っておる……と、オクタヴィアが言っておった。あまり、はしゃぐでないぞ?」

 

「ふふっ、承知しておりますわ、陛下」

 

 

 出征の見送りに来たイザベラに、略奪をしてくれるなと釘を刺されながら、メンドーサ将軍率いる軍団は出立した。

 

 陛下も、宰相の操縦が上手くなった、と少し面白がりながら。

 

 

 祖国を解放するための戦い、これまでの防衛戦とは違う様相に、イスペリア軍の兵士達は、これまでにない程に士気が高まっていたのだ。

 

 遂に彼女達は山頂を越えて、北西部へと踏み出し始めた。

 そして、その先鋒を務めたのは──。

 

「各々、丸太は持ちましたわねっ」

 

「ドタマかち割る準備は満タンでしてよ!」

 

「早く早く、ぶち転がしに行こー!」

 

 何故かイスペリア軍よりも士気旺盛な、マリーナ騎士団の面々であった。

 

 冬の間、ずっと我慢を強いられていた彼女達は、謂わば待てを命じられていた猟犬の群れだった(実質的には、猪の群れであるが)。

 

「でしたら構いません──突撃ですわ!」

 

 しかし、団長自ら、もう良いよとお許しが出た。

 その言葉を聞いた瞬間、令嬢達の誰もが我先にと北西部へと雪崩れ込み始めたのだ。

 

 

「おっしゃー、いてこましてさしあげますの!」

 

「街の処女膜をぶち破れー!」

 

「城門のことを処女膜とか言うの、下品でしてよ。──城門は肛門に決まっているじゃないですの!」

 

「っ、確かに!」

 

「お黙りなさい、おバカ!!」

 

 

 異様な興奮の中、其々が攻城用の丸太を担いで、北西部のサンカルタン地方へと侵入を果たした。

 

 真っ先に攻撃の対象となったのは、バルゴ地方との接続点となっていた街、サンタルニャである。

 

 

「何事だ!?」

 

「て、敵襲!?」

 

「異教徒共が、自治権をとりあげに来たのか!?」

 

「いや違う──丸太で武装している騎士の集団だ!」

 

「は?」

 

 何かの聞き間違いではないか、そう思って眼前を見下ろした城壁の兵達は、そこで言われた通りのおかしな光景を見てしまった。

 

「肛門を破壊して、再起不能にしてやるー!」

 

「快便のお時間でしてよ!!」

 

「……なんだあれ」

 

 令嬢たちが丸太を担ぎ、下品な言葉を叫びながら引くほどの速さで城門まで殺到してくる情景を。

 

 混乱と困惑の中、イスペリア軍の過度な情報封鎖が功を奏し、先鋒を務めたマリーナ騎士団は、見事なまでの奇襲に成功したのだ。

 

 攻城兵器(丸太)を担いでいるにも関わらず、尋常でない速度の行軍が可能にした一撃であった。

 

 半ば呆然とする中で城門が破壊され、マリーナ騎士団を筆頭に後続のイスペリア軍も雪崩れ込んでくる。

 

 サンタルニャの街はロクに抵抗もできないままに、呆気ないほど簡単に落城した。

 

 後の世で、イスペリア解放戦争と呼ばれる戦い。

 その序幕が、切って落とされた瞬間であった。

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