貞操逆転世界で占い師(軍師)を務めていたら、貴族令嬢方に包囲され逃げられなくなった件について   作:ですわお嬢様

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第四章 一葉落ちて天下の秋を知る
第28話 風雲


 

 不逞な匪賊、クルアン教徒の略奪部隊は、イスペリア王国実効支配下の農村へと各個分散し跋扈していた。

 

 その狙いは、農村部を疲弊させイスペリアの継戦能力を削ぐこと、山間に引き篭もるイスペリア軍主力を平原へと誘い出すことであろう。

 

 これに対してイスペリア王国と同盟を結ぶマリーナ騎士団は、迅速に南方を脅かす匪賊達の排除を開始する。

 

 初戦の奇襲による大勝で終えた後、休む間もなく近隣地域の敵部隊に対して強襲を仕掛けた。

 

 こちら側、マリーナ騎士団が一方的に奇襲できるアドバンテージがあるのは、農村部に救援部隊が来ていることを知られていない今を置いて他になかったから。

 

 

「オラァ、マリーナ騎士団ですことよ!」

 

「他人の夫棒を無断使用する輩は、大体死んでいい奴だよ。そういうわけで死ねーっ!!」

 

 

 勢い良く令嬢方が掠奪している最中の村を強襲し、敗走する敵をメイド隊が待ち伏せして撃滅する。

 

 この要領で、敵部隊を壊滅させることおよそ三回。

 逃げる敵から奪い返した食糧や男性、貴金属の類いは数多。

 

 その勇姿を、命からがら助けられた男性諸氏達は、返却された資産と共に涙ながらに語ってみせた。

 

 悪辣な異教徒の魔の手から、如何に救われたかを。

 残虐な異教徒を、どれだけ鮮やかに切り伏せて行ったかを。

 

 このことにより、イスペリア農村部におけるマリーナ騎士団の勇名は、揺るぎないものとなる。

 

 彼女達は、一つの伝説となった。

 民間伝承として、長く長く、寝る前の子どもに語って聞かせる物語として、イスペリア人の間で語り継がれることとなったのだ。

 

 そんな、遠い未来でフォークロアと化した令嬢方は現在……やや後退をしていた。

 

 何故、と問われれば理由は簡単。

 分散して略奪に勤しんでいたクルアン教徒達は、状況を把握して集結を図ったのだ。

 

 これに対して、マリーナ騎士団は正面から攻撃する愚を避けた。

 

 今まで一方的な攻撃を加えられたのは、相手が隙だらけであったからだ。身構えているところに突っ込んでいけば、それ相応の代償を払うことになる。

 

 だから、一旦休息も兼ねて、敵の奇襲を受けない位置まで後退していた。

 

 幸いにも、敵も略奪を停止している。

 戦線は膠着し、互いに手探りの状況へと突入したのだった。

 

 

 

 

 

 前線と後方の中間地点で、マリーナ騎士団、俺たちは天幕を張っていた。

 休息を兼ねつつ、次のことを思案するために。

 

「ジルベールさん、敵の様子は如何ですの?」

 

 やっと一息つける、そんなタイミング。

 他の令嬢達は、はしゃぎながら近くの川へと繰り出している。

 

 そんな中でも、クローデットさんは緩まず弛まず、マリーナ騎士団の仮本部である天幕の中で、この先のことを考えていた。 

 

 本当に偉いし、尊敬している。

 ……でも、それはそうと、少しは息抜きをしても良いのにって思う。

 

 クローデットさん、ずっと働き詰めだから。

 

「敵はエブラ川周辺に布陣していて、イスペリア軍からの情報によると動きはないみたいです。数はおよそ5000、内訳が歩兵4000に騎兵が1000です」

 

「やはり、糾合されると厄介ですわね」

 

 けど、情報整理は重要なことだから、水を差すような真似は出来ない。

 

 クローデットさんの言葉に頷いた。

 少なくとも、正面からはどうにもならない相手だ。

 

「だが、北上する動きすら見せていない。こちらの奇襲に泡を食って、警戒していると言ったところか」

 

 そして、珍しくというとアレだけど、司令部に俺とクローデットさん以外の声がした。

 

 実は俺とクローデットさん以外にも、ここには人がいた。言うまでもないことだろうが、メイド隊の隊長であるベルタさんである。

 

 彼女は他の令嬢達とは違って、こういった場にも参画してくれるタイプの人だった(他のイスペリア人お姉様方は、令嬢達に一緒にあそぼーっと言われて、連れ去られていたが)。

 

「問題は、その警戒がいつまで続くのか、ということですわね」

 

「敵が動き出す頃合いを算出し、その間に我々は何を仕掛けるか、ということだな」

 

 そう、喫緊の課題というか問題は、敵がどうするのかということに尽きる。

 

 今回のマリーナ騎士団の目的は、農村部に侵入した敵を排除し、安定させて難民の増加を押し留めること。

 

 要するに、来ている敵を全て追い出さなくてはならない。

 

 なので、長々と居座られると面倒だ。

 敵がずっと動かないというのならば、こちらから揺さぶってみても良い。

 

 推定される今回の敵の主目的は、平野にイスペリア軍主力を引き摺り出すこと。

 

 だから、放置すれば民を守らないイスペリア王国の求心力自体が落ちる、略奪なんて手段を取っている。

 

 結果、イスペリア軍は放置する訳にもいかず、大部隊を編成して再編入したばかりの北西部を中心に討伐へと乗り出した。

 

 なので、敵の策略自体は成功している。

 ……かなり下衆の類のやり口だったけど。

 

「敵は既に目的を達成しています。撤退してもおかしくはないです」

 

「ん、だが引く気配はないぞ。略奪ありきとはいえ、5000人の兵站を賄うのはそれなりに苦労が多いのにだ」

 

「そう、なんですよね……」

 

 そう、そこが問題なのだ。

 敵の心胆が分からない。

 

 敵主力集団と呼応して、隙を見てバローラを脅かすつもりなのか。それとも農村部へ留まり続けて、略奪に明け暮れるつもりなのか。

 

 イマイチ、やりたいことが伝わってこない。

 動きがない敵が、不気味に見えた。

 

 まるで、警戒されること自体が目的みたいな感じもする。

 

「……何かを待っている、何を? 敵の主力が、イスペリア軍を撃滅するのを待って、西と東から挟撃するつもりなのかな? でも、それで5000も遊兵を作るのは、よっぽどの自信家すぎるし……」

 

「思索の邪魔をするようで悪いですが、メンドース将軍から北西部へ転進し、イスペリア軍主力部隊と合流してほしいとの要請も来ておりますわ」

 

「村周辺の敵を排除しなければ、離れようにも離れられんだろう。却下に決まっている」

 

 二人の言葉を耳にして、ふわりと思考が浮いた。

 目の前のことから、イスペリア全体を盤面にした敵に関してのものへ。

 

 複数箇所で戦線が動いているという事実を前に、俯瞰した部分で物事を考え始めたのだ。

 

 

 まず、敵の目的。

 

 これは何度も言っているように、イスペリア軍主力と決戦をしてこれを撃滅し、北西部を再奪還すること。

 

 次に、北東部付近、この近辺に布陣している敵のこと。

 

 5000もの遊兵を作って、何かを伺っている。

 機が来るのを待っているのか、ここに警戒すべき何かがあるのか。

 

 この方面には、イスペリア軍は周辺領主の手勢と、俺たちマリーナ騎士団くらいしか居ない。

 

 バローラにはベラの親衛隊がいるが、それを警戒しているにしては、あまりにも動きが少なすぎる。

 

 だが、イスペリア側の兵が薄すぎるとはいえ、敵がいる以上は警戒をしなければならなくて。

 

 少なくとも、この敵が排除できるまでは、村の安全のためにもマリーナ騎士団は動けな──。

 

「…………そっか、ここが第二戦線なんだ」

 

 そこまで考えて、ようやく気が付いた。

 敵は意図を持って、エブラ川に布陣していることに。

 

「ジルベールさん、何か分かりまして?」

 

「多分、ですけど」

 

 クローデットさんの問い掛けに、俺は一つの仮説を話した。

 

 真意があるかはさておき、事実上そうなっているという事柄を。

 

「敵の目的は──マリーナ騎士団を牽引し、ここに釘付けにしておくことじゃないでしょうか?」

 

 それは、誇大妄想とまでは言わないまでも、ある種の自意識過剰さを伴った発言である。

 

 自身達を拘束するのに、敵は5000もの兵を張り付けているのだと言ったのだから。

 

 だけど、俺の発言を聞いた二人は笑うことはなかった。

 むしろ、成程と頷いてすらいた。

 

「この略奪劇は、マリーナ騎士団が何処にいるのか探り当てるための餌でもあったというわけか」

 

「最初からそれも目的だった、は穿ち過ぎだと思いますの。ですが、敵がエブラ川に集結してからの動きは、そう見えますわね」

 

 二人揃って、その前提で考え始めてくれる。

 自分で言っておいてなんだけど、ちょっと意外。

 

「結構、無理筋な主張って思ってたんですけど……」

 

 なので、思わず口が滑ってそんなことを言ってしまった。

 

 すると、クローデットさんは微笑ましそうな表情をしたが、ベルタさんは非常にジトっとした目をして。

 

「お前……前の北西部の戦いで、マリーナ騎士団がどれだけ城門を破壊したと思っているんだ。敵側として報告を聞いていた私は、戦意を喪失させるための虚報だと思っていたんだぞ」

 

「え、えっと」

 

「なのに、全部本当だったと分かった時、私がどれほどビビったか分かるか? そんな奴ら、5000の兵で金縛りにできるならするだろう、普通」

 

「……はい」

 

 改めて言われれば、その通り過ぎた。

 クローデットさん達令嬢方は、多分天下無双の強さだから。

 

 呂布やベリサリウス将軍の率いる少数部隊を5000の兵で釘付けにできるのなら、俺だってそうすると思うし。

 

「そういう訳だ。戯言はいいから献策……お前の場合は占いか、今後のことについて占え」

 

 結構めためたに言われたが、本当にそうすぎる。

 だから、苦笑しながら頷いて、思索の海へと沈んだ。

 

 こらから、俺たちはどうするべきなのかを。

 

 

 

「ベルタさん、言い過ぎですわ」

 

「団長、恋人だからと甘やかしては幕僚は育ちませんよ」

 

「だ、だだっ、誰と誰が恋人ですの!?」

 

「…………そういうプレイですか?」

 

「ワタクシ、まだ処女でしてよ!?」

 

「それであの心の距離感なのか……」

 

 

 

 聞こえない、何も聞こえない。

 ……でも、クローデットさん、そんなに強目に反発されると落ち込むからね。

 

「こほん、お二人とも、よろしいですか?」

 

「じ、じじ、ジルベルベールさんっ、よろしくてよ!」

 

「ベルが多いですよ、団長」

 

「楽しそうですね、クローデット様」

 

「五月蝿いですわよっ。あと、何処からともなく湧いてきやがりましたアンナ、ヤギミルクを持ってくるのですわ!」

 

「遠征先なのでありません、そこら辺の草で煮出した茶で宜しいでしょうか?」

 

「よろしくてよ!」

 

 よろしいんだ……。

 

 

 そうして、クローデットさんのメイドのアンナさんに淹れられた、謎のハーブティー(ちゃんと飲めるものだった)をちびちびと飲みながら、俺は今後の展望を話し始めた。

 

「マリーナ騎士団を誘引し、この地に縛りつけること。それが目標に入っているのならば、敵は近いうちに動き出すと思います」

 

「ワタクシ達に構われるために、ちょっかいを出そうということですわね?」

 

「そうです、敵は無害でないことを知らしめるために、動かねばならない。なので、そこに付け入る隙があると思います」

 

「……どういうことですの?」

 

 クローデットさんの問いは、疑問というより促しであった。

 

 だから、忌憚なく全てを語る。

 敵の指向性を把握して、どうコントロールするかを。

 

「敵はマリーナ騎士団を拘束するために動く、その行動原理自体が受け身的なんです。常にこちらの動きを窺っている。なら、こちらが行動すれば、敵もそれに合わせて動く、筈です」

 

 こちらの動きに、敵は必然的に引き摺られる。

 そこが、敵の目に見えている弱点。

 どうしても、俺たちのことを放置できない。

 

「つまり、この状況においては、戦うか否かの権利はクローデットさんが持っているんです」

 

 そう言うと、クローデットさんは少し考え込んで。

 

「……口振り的に、ジルベールさんは戦うべきだと考えているのですわね」

 

 確認の為の問いかけをして、自身の理解が正しいのかを確かめる。

 それに、俺は迷うことなく頷いた。

 

「居座っている敵は放置できませんし、それに……」

 

「メンドース将軍の方が、気になりますのね?」

 

「はい……」

 

 そう、難民を増やさないためにも、エブラ川の敵討伐は必須ではあるが、それ以上に問題であるのがイスペリア軍主力の勝敗。

 

 普通に負ける分には、仕方がないと言える。

 だが、大敗した日には、折角取り返した北西部を再度失陥するだけでなく、イスペリア存亡の危機に繋がりかねない。

 

 メンドース将軍は優秀だが、その優秀な将軍相手に勝ち続けてきた相手が出張ってくるだろうから、その点がどうしても気掛かりなのだ。

 

「救援に向かうためにも、目下の敵を倒してその余勢をもって救援に当たる。……言うは易しだが、行うのは至難のことだぞ」

 

 だが、流石に無茶だろうと常識的な見識を展開したのは、ベルタさんだった。

 

「そもそも、敵は5000でこちらは500。救援がどうだと言う前に、眼前の敵に勝てるかどうかも怪しいんだ。そこら辺の算段はついているのか?」

 

 上振れの理想値ばかりを語って、足元が留守になってはいないか。

 

 勇み足だったら咎めるためにも、やや厳し目に問いかけてきたベルタさん。

 その気遣いに感謝しつつ、キッパリと告げた。

 

「──勝算はあります」

 

「ほぅ」

 

 ベルタさんの詰めていた表情が、俄かに変わる。

 面白いことを聞いたと言わんばかりに。

 

「どうする気だ?」

 

「まずは、兵が足りないので、村と周辺の領主から増援を募ります」

 

 ただ、俺の話を言葉を聞いたベルタさんは、露骨にテンションが下がった顔をした。

 

「……むぅ、つまらん。そこは、500で勝てる様に努力するべきところではないのか?」

 

「相手の質は良くないみたいですから、それも出来るかもしれません。けど、相手が弱いこと前提で策は立てられませんから」

 

「それはその通りだな」

 

 ……何というか、ベルタさんって結構お茶目さんだった。最初のうちは、真面目一辺倒な軍人さんだと思ってたのに。

 

「兵を集めた後は、どうしますの?」

 

 変わって、言葉遣いが特徴的だけれど、マリーナ騎士団で一番真面目なクローデットさんが質問を受け継いだ。

 

 その問いに、俺は結論から告げた。

 

「──1週間以内にエブラ川の敵を片付けて、もう1週間以内にメンドース将軍の救援へ向かうんです」

 

 だから、差し当たってするべきことは、メンドース将軍に決戦を避け続けてくださいと使者を立てることですね。

 

 そう言って、バカみたいなスケジュールを立てた俺に、二人は宿題を大量に抱えたまま、夏休み最終日を迎えた学生みたいな苦悶の表情を浮かべていた。

 

 これから大変なことになると、揃って悟ったためだ。

 

 ……なんか、本当にごめんなさい。

 でも、絶対に上手くやるから──今度こそは!

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