貞操逆転世界で占い師(軍師)を務めていたら、貴族令嬢方に包囲され逃げられなくなった件について   作:ですわお嬢様

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第33話 突入

 

 それは、ある日の昼下がりのこと。

 

『のぅ、ジルにぃや。余はな、実はまだ正式な女王では無いんじゃ』

 

 目の前の幼気に見える少女は、そんな切り口で話を始めた。

 

『政治を宰相に任せているから、って意味かな?』

 

『いや、そういうことではない。歴代の女王の中では、政治を顧みず、宰相に全てを投げていた者もいるくらいじゃしな』

 

『じゃあ、どういう意味?』

 

『うぬ、それはの……』

 

 にぃや、と呼び掛けながら話す少女の顔ばせは、どこか懐かしそうで。

 

『王都マルドル、歴代の女王達はそこにある大聖堂にて、揺らめくステンドガラスの陽光を纏いながら、戴冠式を行うのじゃ。国家と神に奉仕すること、臣民に安寧を齎すことなどを誓いながらな』

 

 それでいて、どこか他人事みたいに話していた。

 まるで、御伽噺を口ずさむ、老人みたいに。

 

『ベラ、気にしてるの?』

 

『……少しだけ、の』

 

 けど、わざわざ口に出すということは、聞いて欲しいって思ってるってこと。

 

 だから話を深掘りすると、少女……ベラはほんのりと照れ笑いをしながら頷いた。

 

『そんな状況でないことは、当然理解しておる。じゃがな、物心持たぬ頃しか王都におらなんだのに──どうしようもなく、懐かしいんじゃ』

 

 ジルにぃや、と俺のことを呼ぶのは、ベラは甘えられる相手が欲しかったから。俺にこんな話をしてくれてるのも、甘えてくれているからだ。

 

 妹みたいにというよりは、擦り寄ってくる猫みたいな甘え方だけども。

 

 俺も、そんな彼女を甘やかしてしまう。

 頭を撫でて、分かるよって言いながら。

 

 この子は賢いけれど、それでもまだ子供だから。

 

『都ってさ、その国の人にとって誇りになり得るものだよ。だから、別に変なことじゃない』

 

『それはそうなんじゃが、な。今までは、そんなことはなかったんじゃ。最近、ちょっと意識する様になった』

 

 ジーッと、上目遣いでベラが見てくる。

 若干、目をキラキラさせながら。

 

『……マリーナ騎士団のせいじゃな、きっと』

 

 そうして、口の端に登らせたのはクローデットさん達のことだった。

 

『マリーナ騎士団は、強い。夢を見せてくれる、物語の勇者の如く、な』

 

『クローデットさん達が聞いたら、きっと喜んでくれるね』

 

『……汝もその一員のくせに、他人事みたいに言うでない』

 

『ん、そうだね』

 

 えいえいって頬っぺたを突かれて、俺も笑いながら頷いた。

 

 俺もマリーナ騎士団のみんなを仲間だって思ってるのと同じで、みんなもそう思ってくれているのを知っているから。

 

『故に、の……。その一員である汝に話すのじゃが』

 

 そんな俺に、ベラは弱々しく袖を掴んで。

 

『もし、マルドルに戻れる様なことがあれば──どんなことでも、報いたいんじゃ。……実力もない女王の言葉じゃが、笑うかえ?』

 

 普段の飄々とした態度ではない、弱々しい女王としての実態を纏った姿を見せた。自分の臣下には聞かせられない、そんな弱音と共に。

 

『……ううん、女王としてちゃんとしたいって表明でもあると思うから、立派だと思うよ』

 

『ジルにぃやは、ほんに優しいの』

 

 ベラからしたら、ほんの少し垣間見せてしまったただの弱音で甘えかも知れなかった。

 

 でも、あれは紛れもなく本音だった。

 だから、俺の心にも根付き、頭の片隅に残ったのだ。

 

 ──機があれば、マルドルを窺おうと。

 

 

 

 

 

 マリーナ騎士団にとって、イスペリア本隊の救援は最優先事項だった。

 だって、イスペリアに弱体化されたら困るから。

 

 共生関係を結ぶ相手が弱まると、必然的にマリーナ騎士団に掛かる負担も比例する様に増えていく。そうなれば、最後は共倒れすることになるだろう。

 

 だから、助けることは必須だった。

 マリーナ騎士団にとってイスペリアは、油断ならない家主にして、一蓮托生の相手でもあったからだ。

 

 そういう訳で俺たちは、北東部のクルアン教軍を排除し、決戦に参加するためエブラ川を降って、ドエロ川(何だこの川の名前!?)にいるイスペリア軍本隊への合流を果たそうと……。

 

 

「ジルベールさん、マリーナ騎士団は決戦に参加しない。……本当にこれで良かったのですの?」

 

「大軍同士の決戦に巻き込まれれば、マリーナ騎士団は大きな損耗を免れませんから」

 

 

 ……は、していなかった。

 むしろ、決戦の地から離れた場所へと進軍していた。

 

 メセラ高原、俺達の決戦の地となるであろう場所へ。

 

 俺がメンドース将軍に出した手紙、その返事を確認してからの進路変更であった。

 

「事前に説明してくださっているから、理解はしておりますわ。──敵主力が出払っている今こそ、根拠地を攻撃する機であるのだと」

 

 元より、手紙を出す前にクローデットさんには全容を話し、行動する許可を取っていた。

 

 今回の策、いわゆる兵法三十六計における"魏を囲んで趙を救う"を。

 

 

 

 クルアン教軍総司令官、ファイカ・ビント・ハミダの噂は時折聞くことがあった。

 

 イスペリア軍と親しく付き合っていれば、嫌でも聞くことになる名前だがらだ。

 

 多くのイスペリア人が、嫌悪と畏怖、それから諦めと共に口にする名前。

 

 イスペリアでは正に無双と呼べる活躍で、連戦連勝を続けていたみたいだ。

 

 民衆を数百人単位で捉えて敵軍に放ち、陣形を乱した後に攻撃を仕掛ける(メンドース将軍がやられたらしい)。

 

 攻略に手こずった都市に対しては捕虜を解き放ち、その後に逃げる捕虜達に弓を射掛けて追い立て、捕虜を助けるために城門を開けたところに突撃して都市になだれ込む。

 

 ……そんな感じで、とても褒められない戦い方をしてたみたいだけれど。

 

 でも、だからこそ手強くて、まともに相手にしちゃダメな相手だっていうことが伝わってきた。

 

 それに、卑怯なことだけが持ち味じゃなく、その用兵ぶりも老練の指揮官のもの。特に平地での野戦においては、小賢しいことをしなくても敵を圧倒する戦い振りをしてたみたいだ。

 

 そんな相手に勝てる方法は……。

 ……無かったのだ、うん。

 

 考えてみたけど、見当たらなかった。

 だって、何をしでかすか分からない相手だから。

 

 それでいて、野戦にもめっぽう強い。

 策を練っても、ちゃぶ台返しを食らいかねない。

 

 戦術面では、過去の情報を浚うだけでも格上だと認めざるを得ない相手だった(俺たちに出来ない酷いことでも、平然とやってくるだろうし)。

 

 ならば、どうするか?

 その答えは、至って簡単だ。

 

「相手が居ない場所で勝って、致命傷を与えればいい」

 

 要は、劉邦が項羽に勝ったのと同じやり方だ。

 本隊が殴られている間に、別働隊が都市を攻略する。

 

 数々の城を落としてきたマリーナ騎士団なら、それが出来る目算は立っていたから。

 

 それに……もしかすると、これで全部決着がつくかも知れない。

 

 ──イスペリアは、マルドルが国の中央に存在しているから。

 

 王都マルドルはイスペリア半島の中央に鎮座しており、各河川へのアクセスもしやすい。

 

 マルドルを支配するのは、イスペリアの交通網を支配するにも等しい。

 

 この連結点さえ押さえてしまえば、面での支配が分断されて、点での支配にならざるを得ない。

 

 あえて現代的に形容するのならば、電車(河川)を取り上げられて、徒歩での通勤を強いられると言った感じか。

 

 交通網が遮断されて、支配が隅々まで行き届かなくなる。

 

 10年前、マルドル失陥後のイスペリア王国がそうであったと、宰相に読ませてもらった戦報からも読み取れたから。

 

 

 

「そういう訳で、クルアン教軍の隙を突くなら今なんです。一回きり、二度目からは警戒されて使えない強襲です」

 

 その策の理屈を話した時、クローデットさんは小骨が喉に引っ掛かったみたいな顔をしていた。

 

「……素晴らしい策だとは思いますわ。ですが、イスペリア軍本隊が壊滅してしまえば、取って返してきた異教徒達にワタクシ達が各個撃破されて終わるのではなくて?」

 

 そして、当然の疑問を投げかけて来る。

 空を見上げすぎて、足元が留守になっておられませんか、と。

 

 正直なことを言うと、ちょっと怪しい。

 割と背伸びをしているという自覚はある。

 

 ……でも、今が最大の好機でもあるから。

 

「メンドース将軍次第、ですね」

 

 将軍が踏みとどまることが出来れば、イスペリアの趨勢が決まる。

 

 だが、将軍が破れてしまえば、クローデットさんの言う通り各個撃破の的になる上に、諸侯達から取り戻した北西部をイスペリアは完全に失いかねない。

 

 ハイリスクでハイリターン、賭け事みたいな策。

 

 ただ、俺達が直接決戦の場に増援として向かっても、同じくらいの危険性が存在していると思うのだ。

 

「マルドルさえ落ちれば補給線を遮断できますし、敵は嫌でも撤退せざるを得なくなります。決戦で敵に勝つより、分は良いと思います……多分」

 

「ジルベールさんは、異教徒の指揮官……ファイカなる人物が怖いのですね?」

 

 忌憚のない問い掛け。勝てる自信がないのだろうという言葉に、俺は恥入りながら頷いた。

 

「敵は倫理を踏み躙れる相手です。同じ土俵で戦える様になるには、俺はまだ未熟で……」

 

 調べれば調べるほど、敵の指揮官は何をして来てもおかしくないと思えてしまう。

 

 そういった相手に、適切な対策を献じられるかと問われれば、否としか言えなかった。

 

 慮外の敵の行動に、対処できる自信がなかったのだ。

 

「ジルベールさん、小癪な悪人の土俵で戦う必要などありませんわ。マリーナ騎士団は、その様な闘い方はいたしませんもの」

 

 そっと俺の頭を撫でてからながら、誇りと共に胸を張るクローデットさん。

 けれど、その後に"でも"と続けて。

 

「言い分は分かりました。マトモに相手をすると、疲れる相手だと言うことは。ワタクシ達は、取り合わないことにいたしましょう」

 

 俺の言い分を認め、策も受け入れてくれたのだ。

 

 ホッと、胸を撫で下ろせた。

 結構無茶なこと言っている上に、情けないことを言っている自覚もあったから。

 

 そんな俺へ、クローデットさんは"堂々巡りになるのですが"と改めて問うた。

 

「それで、結局メンドース将軍は耐えられると思いますの? 将軍からの返書には、一部の兵力を割いてワタクシ達に増援を上がってくださるとまで書いてありましたが……」

 

 結局のところ、今回の焦点はそこにある。

 

 俺達が各個撃破されるか、メンドース将軍が耐え切って敵が補給と帰る場所、それも戦略的要衝を失うか。

 

 そこが戦いの明暗を分ける部分で、一番重要な点だ。

 その見通しに対して、俺は……。

 

「……大丈夫だと思います、多分」

 

「それは、何故?」

 

 あれだけ怖がっていて、こんな無責任なことを言うのは憚られる。

 憚られるのだが、そこは濁さずハッキリ告げた。

 

「──メンドース将軍からも、敵と同じ気配を感じていたから、でしょうか」

 

 同じ気配、マトモに相手をするのが憚られる相手という意味合いで。

 

 そう、メンドース将軍の厄介さ、面倒臭さに対して、ある種の信頼をしていたのだ、俺は。

 勿論、地形や兵力を勘案して、だけれど。

 

「……そんな敵を、長年相手取って来た経験を信じた、と言うことですわね」

 

 クローデットさんは、そんな俺の言い草をオブラートに包みなおした。納得しようと、自身に言い訳してくれたんだと思う。

 

「メンドース将軍は、ちゃんと怖い人です。自分に何が足りていて、何が足りていないかを自覚している人ですから。それに……」

 

「それに?」

 

 小首を傾げているクローデットさんに、やや臆しながらも俺はハッキリと告げた。

 

「将軍も、戦場で勝てるなんて思ってない筈です。だから、逃げて逃げて逃げ続けて、泥まみれでも倒れない様に頑張る筈です」

 

「論拠をお聞きしても?」

 

「……将軍では勝てなくて、俺たちでも勝てない相手だから、勝とうとしないでって、そう手紙に書きましたから」

 

「ですわ!?」

 

 文字通りに、無礼極まりない文書を送りつけたと言った俺に、クローデットさんは目を剥いて口をパクパクとさせた。

 

 半ば公然と、将軍の実力に疑義を送りつけたのだ。

 クローデットさんが焦るのも理解できる。

 

 だけど、俺は落ち着いて、彼女が持つ将軍からの返書を指差した。

 

「将軍からは、増援を送るし委細任せると書いてありました。慌てなくても大丈夫です、将軍も全部分かってのことですから」

 

 慌てふためくクローデットさんにそう言うと、目をパチクリとさせた後に一言。

 

「……ワタクシ、ジルベールさんか将軍、どちらの手のひらの上にいますの?」

 

「うーん。クローデットさんを手玉に取るなんて、やっぱりメンドース将軍は恐ろしい人ですね」

 

 敢えて、俺の名前を聞かなかったことにして一つ頷いてみると、クローデットさんはジトーっとした目をして、こっちを見つめて。

 

「……悪い男の子になりつつありますわね、ジルベールさん」

 

 悪女もとい悪男を指弾するようなことを言って、諸々に納得を示してくれたのであった。

 

 

 なんか、うん、ごめんなさい……。

 でも、マリーナ騎士団のためなんです。

 

 ……それに、クローデットさんは悪党な俺も、きっと嫌いにならないでくれますよね?

 

 

 

 

 

 俺たちが真っ先に向かったのはメセラ高原、ここにいるイスペリア軍の別働隊と合流するためだ。

 

 夜闇に紛れて、クルアン教軍が陣取っていた丘陵を通り抜ける。

 

 そうして、何の障害もないままにイスペリア軍別働隊と合流することに成功したのだ。

 

 尤も、急に現れた俺達に、イスペリア軍の諸兵はビビり散らかして叫ばれてしまったが。

 

「マリーナ騎士団、ここに推参致しましたの!」

 

 クローデットさんがよく通る声で名乗ると、悲鳴はたちまち歓声へと入れ替わることになった。

 

 来るべきものが遂に来たと、理解したのだろう。

 イスペリア軍の兵士達は、今までにない程に士気が高まっていた。

 

 そして、俺たちを待っていたのは、その歓声だけではなかった。

 

 

「……ワタクシにメセラ高原のイスペリア軍6000の指揮を預けると、そう将軍が仰っていましたの?」

 

「はい、全てマリーナ騎士団の采配に従えと。あなた方のタイミングで指揮して頂かなくては、マルドルの門扉を開くに能わないと将軍は仰っていましたので」

 

 まさかのぶん投げに、俺もクローデットさんも開いた口が塞がらなかった。

 

 そして思い出す。そういえばイスペリアって人材不足だったな、と。

 

「……承りましたわ、ベルタさんが」

 

「そこで私に振るんですか」

 

 一方のマリーナ騎士団も、規模的に人員が限られている。必然的に、同じ人物にばかり負担が集中する構造になっていた。

 

「出来る人が貴方しかおりませんの。受けてくださりますね?」

 

「……ジルベールのお坊ちゃんを付けてくれるなら」

 

「無論、そのつもりでしたわ」

 

 けど、適材適所とも言えるわけで。

 揉めることなく、あっさり話が決まっていく。

 

 俺としても、何の躊躇もないから、そのまま頷いて。

 

 

「それで、どうする?」

 

 ベルタさんから早速、意見を求められた。

 

「丘陵に居座っているクルアン教軍を排除します」

 

 俺もそれに、澱みなく答える。

 あらかじめ考えていたことで、するべきことであったから。

 

「策は?」

 

「松明を2本ずつ、3000のイスペリア兵に持たせます」

 

「……早速動く気か」

 

「やる気いっぱいみたいなので」

 

 へっぴり腰で、槍をブンブンしているイスペリア兵を見て呟く。

 

 その動きは、マリーナ騎士団の屯田兵よりも鈍くて不安になるけれど、今はベルタさんの指揮下にいる。

 

 だから、最大限活躍してもらわなきゃって思いながら。

 

「夜であることを利用して、松明の数で兵力の誤認をさせる訳か。それで丘陵から引き摺り下ろして、一撃を加える、と。なら、残り3000のイスペリア兵は……」

 

「敵は松明を持った方をメセラ高原のイスペリア全軍だと錯覚して、殺到してくるはずです。そこを奇襲します」

 

 簡単に言った俺に、ベルタさんは少し渋い顔をして。

 

「敵は光源を持たず、出撃してくるだろう。こっちの松明を持った部隊に殺到すれば良いのだからな。対して、こちらは攻撃すべき目印を持たない。そのままの策だと、一方的にやられかねんぞ?」

 

「はい、ですから敵の進軍ルートをあらかじめ予測して、伏兵として置いておきます」

 

「なるほど、織り込み済みだったか。そのまま、松明の部隊も反転して、一斉攻撃をかける訳か?」

 

「いえ、同士討ちが怖いので、奇襲に成功したらすぐに退きます。それから……」

 

「あぁ、なるほど」

 

 まだ言葉にしていないのに、ベルタさんは俺が言いたかったことを直ぐに理解してくれた。

 

「うちの十八番(おはこ)、団長達による衝撃戦術だな?」

 

「はい、それで敵は崩壊する筈です」

 

 イスペリア軍からの伏撃で混乱しているクルアン教軍に、クローデットさんら令嬢方とメイド隊の圧倒的な破壊力の攻撃を加えれば、敵は自然とバラバラにならざるを得ない。

 

 そうすることで、俺達はようやく本命に取り掛かれるのだ。

 本命──イスペリア王都マルドルの奪還作戦に。

 

「前哨戦です、油断せずに一蹴しましょう」

 

「……ジルベール、気張りすぎないようにな。ま、頼りになるのは良いことだがね」

 

「はい!」

 

 

 

 そうして、メセラ高原の戦いは始まったのだが……ここでは、結果だけを書き記すことにする。

 

 何故ならば、敵は呆気ないほどにこちらの思う通りに動いてくれて、予想以上に粘りがなかったから。

 

 松明を両手で持ったイスペリア軍3000を主力と誤認し殺到しようとして丘陵から降り、その途上でイスペリア軍の伏兵3000の奇襲に遭い、混乱しているところに猛スピードで突っ込んできた令嬢方とメイド隊に轢き潰された。

 

 あ、これ全部成功しちゃうんだ、と思ってしまったのは、今までの敵がしつこい油汚れみたいにしぶとかったからか。

 

 だが、ともかく──これで道は開けた。

 10年前に失陥した、イスペリアの王都への道が。

 

 

「参りますわよ、マルドルへ!」

 

 

 クローデットさんの高らかな宣言に、イスペリア兵達は天にも届かんとする歓声をあげた。

 

 そうして、俺達は──。

 

 

 

「皆、丸太は持ちましたわね──突っ込みますわよ!」

 

 翌日の12時、近くの森林で調達した丸太を抱え、マルドルへと殺到していた。

 

 敵城兵は想定よりも数が少なく、城壁からの矢の数も密度が薄い。

 

「梯子を掛けろ、登るフリだけで良い。敵の対処能力を飽和させろ!」

 

 それに、ベルタさんのイスペリア兵を使った的確な撹乱も相まって、敵軍は混乱の淵へと立たされていた。

 

 

「何でここに山岳人どもが!?」

 

「知らないよっ、それより対処しなきゃ!」

 

「どこで、何を!?」

 

「それは……って、え?」

 

「じょ、城門が!?」

 

 

 その混乱は留まることなく、加速していく。

 石造りの分厚い城門に──ヒビが入った。

 

「オラァ、木が石を破壊できない道理なんてなぁーい!」

 

「いや、おかしいだろ」

 

 物理法則どうなってんだというベルタさんの呟きを無視するように、令嬢達の丸太車懸かりの陣が炸裂して、遂に城門が砕け散り、石の残骸へと変貌する。

 

「──突入ですわ!」

 

 そうして、クローデットさんの号令の下、令嬢方を筆頭にマルドル市街への突入を開始する。

 

 後に続くイスペリア兵達の顔色は、上気して赤らんでいた。

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