貞操逆転世界で占い師(軍師)を務めていたら、貴族令嬢方に包囲され逃げられなくなった件について   作:ペンギン3

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第52話 出向

 リスボアは、潮風香るイスペリア西岸の港町だ。

 

 対岸には大きく果てのない海が広がっており、遥かなる海の先には世界の果てが待ち受けているという言い伝えがある。

 

 その言い伝え自体は、ある種の教訓に過ぎないのかもしれない。大海原の果てを見ようと旅立ったものは、誰一人として帰ってこなかったという。

 

 しかし、だからと言ってリスボアの民は、海そのものを忌避していない。

 何も遮るものが無い海こそが、各地にアクセスできるというリスボア最大の価値にもなっているのだから。

 

 北部はガリティア西岸に島国ブリトラが。

 南部には文字通り、南方大陸が広がっている。

 

 リスボアは、そんな両者を結ぶ異文化的中継地点として、貿易業を主として発達してきた都市だ。

 海そのものを厭う理由など、一つもない。

 

 ただ、ここ十年は交易が途絶えていた。

 なにせ南方大陸対岸は、敵性勢力であるクルアン教に席巻されたのだから。

 

 リスボア自身も、クルアン教の軍門へと降った。

 一応は聖教圏である、ブリトラやガリティアと交易が途絶えるには十分すぎる理由であった。

 

 だが、それでもリアボアは活気を失わなかった。

 

 リアボアの港は、かなり整備されていた。

 また、イスペリア半島の東西に跨るドエロ川を遡上すれば、マルドルへと容易にアクセスが出来る。

 

 それに目を付けたクルアン教側が、南方大陸とマルドルを結ぶ中継基地として、リスボアを選んだのだ。

 

 斯くして、リスボアの繁栄は維持された。

 街中にクルアン教徒が溢れ、異教の教えを奉じる寺院も建設された。

 

 それでも、初期の頃は上手くやれていた。

 クルアン教徒側は節度を堪ち、リスボアにも多額の金が落ちた。

 

 クルアン教側が、改宗を無理に迫らなかったのも大きい。リスボア内でも、一定数の親クルアン教派が形成された時期もあった。

 

 ……だが、事情が変わる出来事があった。

 

 クルアン教の本国兵が、南方大陸民であるガルガン人に置き換えられていく時期のことだ。

 

 ガルガン人達は、クルアン教に征服されて日が浅かった。しかし、多くのガルガン人達がクルアン教に改宗をしていた。

 

 これは、かつて聖教圏の国に征服された折に、自分たちの信仰を捨てさせられて、無理やり改宗を迫られたことに発端がある。

 

 聖教を押し付けられ、土着信仰を無理やり捨てさせられた。

 この屈辱は、恐らく南方大陸民の中でも多くの者が持ち合わせていた感情であろう。

 

 だから、自らの信仰を強要しないことに好感を持ったし、露骨に見下してくる聖教圏の人間と違って、フラットに接してくるクルアン教徒達は、ガルガン人達にとっては自らを尊重してくれる支配者であった。

 

 そんな背景があった上で……リスボアに上陸したガルガン人たちは、今度は自らが支配階層になったと思い込んだ。

 

 聖教圏の人間は自らが支配者になった時に教えを強要したのに、自らが支配される側になっても教えを捨てない。

 

 この姿勢が、ガルガン人達にとって、凄まじく癪に触ったとも言える。

 

 結果として、リスボアにおいてガルガン人達の横暴が目立つようになっていった。

 

 単純な乱暴に始まり、金品略奪、暴行、果ては男性に対する行為に及ぶなど。リスボアの治安は、急速に悪化していった。

 

 無論、クルアン教側、イスペリア総司令官であったファイカさんは、座して見守っていた訳ではない。

 

 軍旗を乱す者は粛清すると御触れを出し、実際に特に酷いものについて(男児陵辱、殺人など)は問答無用で公開処刑に処している。

 

 ……ただ、それでもリアボアの治安は回復し切らなかった。

 

 やり過ぎが良くないと理解したガルガン人達は、やり過ぎない程度にこれらのことを続けたからだ。

 

 軽犯罪を犯したものを全員処罰していては、兵が足りなくなるという事情もあった。

 

 そして当のガルガン人達は、クルアン教に改宗しない聖教徒達を、仲間とも味方とも見なさなかった。

 

 反抗的で生意気、それでいて間違った教えを奉じ続けている愚か者共と、露骨に見下し続けた。

 

 かつての聖教徒達の自らへの態度が、ガルガン人達にとってはコンプレックスになっていたのだろう。

 

 それを晴らすために、イスペリアでガルガン人達は横柄に振る舞い続けた。クルアン教徒であることが道徳的に正しく、聖教徒であることを人非人の如く定義して。

 

 ある種、建前の上でなら、それは正しかったのかもしれない。元々、クルアン教がイスペリアに押し入る時に使った文言は、自らの教えを聖教圏に齎すためだったのだから。

 

 だが、実際の目的は、新たな税収を見込める地域への侵略でしかなかった。何より、総司令であるファイカさんがそれを心得ていた。

 

 ファイカさんは戦争時には下衆な手段を躊躇なく行使したが、統治する時には意外な程に気を遣っていた。

 

 聖教徒は啓典の民(一神教を奉じている民)として遇し、古い教えを信じているだけで一神教同士、クルアン教徒と聖教徒が信じている神は同じなのだと説いていた。

 

 これはクルアン教の聖典にも書かれていることで、クルアン教の法学者も認めていることである。

 

 何なら、クルアン教の聖典には、聖教のメシアは偉大な神の使徒であるとまで書いてある。

 

 ……が、そんな事情は、ガルガン人達は関知しなかった。

 

 いや、ちゃんとクルアン教について学んだ少数の敬虔な者はその限りではなかったが、多くのガルガン人達はニワカなクルアン教徒である。

 

 積極的に、クルアン教徒であることを立場として利用し、かつての自らの受けた怨念をイスペリアへと還元していった。

 

 彼女らが一通りスッキリした頃には、リスボアに留まらずにイスペリア中に怨嗟が渦巻いていた。

 

 ファイカさんのイスペリア支配、それを揺るがせた一因とも言えた。

 

 このせいで、ファイカさんはイスペリア人達から大いにそっぽを向かれて、使役が大変に困難になったのだから。

 

 結果的には、ガルガン人達の怨念返しが、イスペリア解放戦争に大きく影響したのだ。

 

 

 

 

 

 以上が、リスボア郊外の野営地で、たった今アマルさんから聞いた、クルアン教とリスボアの前史。

 

 多少バイアスが掛かっている感じもあるが、アマルさんは極力中立的な立場から物事を説明してくれた。

 

 お陰で、今の状況が、とても分かりやすくなった。

 ……とても、骨が折れそうだ。

 

「ガルガン人を、統制、出来なかった。婆に私、ついでに、ラービアの、せい」

 

「あたしもですか、お嬢!?」

 

「連帯、責任」

 

「えー、ガルガン人が悪いっすよ、ガルガン人がー!」

 

「責任転嫁、ダメ」

 

 ともあれ、事情は把握できた。

 

 リアボア側がクルアン教に対して、敵愾心を持つ理由はある。それが分かっただけでも、充分だと言えた。

 

 単に異教徒は生理的に嫌、という理由でリスボア側が拒否していた場合、もうどうしようもなかったから。

 

「リスボアについては、時間をかけて取り組みましょう。子供の喧嘩みたいに、無理やり仲直りなんてさせようが無いんですから」

「ん」

 

「なので今は、差し迫っている課題を解決しましょう」

 

 確かに、リスボアとの関係改善は必要である。

 けれど、それよりイスペリアのクルアン教徒達にとって、優先すべき喫緊の課題があった。

 

「……住む場所?」

 

「そうです、その他諸々も含めて」

 

 それは、衣食住の全てが不揃いであること。

 リスボアに入場できない現状では、関係改善とかそれ以前に、家もないまま飢えて死にかねない。

 

 何としても避けねばならない未来だ。

 生存は、何より優先されるべき事柄なのだから。

 

「暫く野営することになるでしょうが、それがずっとは耐えられません。住む場所を建設する必要があります」

 

 そう、また村作りからである。

 元々建設した村はリスボアから遠すぎるから、新たに建設するしかなかった。

 

「一から……マジっすか……」

 

「はい、残念ながら」

 

 すごく面倒くさそうな顔をしているのは、ファイカさんの配下で副司令官格だったラービアさん。

 

 170cmくらいの高い身長に、褐色の肌と豊かな黒髪を持つお姉さんだ。

 

 今はアマルさんを立ててサポートしている人で、何事もそつなくこなす人である。

 

 けど、のんびりするのが好きみたいで、忙しくなりそうな時は嫌そうな顔をする。

 何かと正直で、表裏があんまりない人みたいだ。

 

「何処に、作る?」

 

「リスボアから離れすぎず、それでいて近くに水源や森がある場所、でしょうか」

 

 前の村も、大体似た条件の場所に建設された。

 この時代で村を建設する場合は、生活するためにも、似たり寄ったりな条件にならざるを得ない。

 

「幸い、大河が近くになるので、水源には困りません」

 

「うん、ドエロ川」

 

「いつ聞いても、ふざけた名前の川すぎる……」

 

「? イスペリアの川、大体こんな、名前してる」

 

「そうですけどね!」

 

 頭をブンブン振って、余計なことを篩い落とす。

 

 偶々、不幸な文字が重なってしまっただけで、決してスケベ過ぎる川という意味合いではないのだから。

 

 ……何だよスケベ過ぎる川って、えっちなクロエさんが水遊びしてる川かよっ。

 

「ジルベール、どうか、した? 便秘?」

 

「お嬢、多分男の子の日っすよ。そっとしておきましょう……」

 

「そんな訳ないでしょう!」

 

「え、天使様に、むちゃ怒鳴られたんすけど……。お嬢、あたしに、て、天罰とか降り注ぎませんよね?」

 

「ラービア、便利、だった……」

 

「惜しまれてる!? ていうか、せめて"良い奴だった"とかにしてくださいよ! 便利だと、道具か何かじゃないすか!!」

 

「? ラービアは、良い奴じゃ、ない。怠けすぎ」

 

「こんなにも一生懸命なのに、酷いっす!」

 

 頭を再度ブンブン振って、えっちなクロエさんを頭の隅に追いやってから、何だか愉快な二人に話し掛けた。

 

「俺は天使じゃないので、天罰は落ちませんよ」

 

「ほ、本当っすか?」

 

「はい、本当です」

 

「……お嬢、ジルベール様って、天使じゃないんすか?」

 

「天使」

 

「どっちの言うことを信じれば!?」

 

「素直に、本人の言い分を信じてください」

 

 堂々巡りすぎる話を制止しながら、俺は持ってきていた地図を広げた。

 

「それより、何処に定住するかを決めましょう。イスペリアの村々と距離を取った方が良いことを考えれば、自然と場所は決まってきます」

 

 地図の川沿いに指を這わせながら、おおよその辺りをつけ始める。

 

 うーん、当たり前だけど、立地が良い場所には、既に村が建設されてしまっている。

 

 この分だと、ちょっと離れた場所に村を建設せざるを得ないかもしれない。

 

 そんなことを考えていると、アマルさんの指が、そっと地図をなぞって、一つの場所で止まった。

 

 それは俺が考えていた場所よりもリスボアに近くて、人口密度も少ない。ついでに言えば自然豊かで、多くの森林が存在してる場所だった。

 

 ただ、一つ問題があるとすれば……。

 

「……山?」

 

 指さされた場所は、緑豊かな山林地区だった。

 

 イスペリア人は山に耐性があるし普通に住み着くが、大規模な河川があって耕作に適しているリアボア周辺では、開発が後回しにされている土地。

 

「そう、ここ。サンドラ山脈」

 

「っ、お嬢流石っす、そこがありましたね!」

 

 無表情ながら若干ドヤ顔なアマルさんと、その手があったかと喜んでいるラービアさん。

 

 二人は通じ合っているが、俺は全く事情がわからない。

 何かあるのかな、ここに。

 

「川から外れてますけど……何でそこに?」

 

「それはっすね、元々そこがあたしらの開発予定地だったからっす。事前調査で山に地下水あるのは分かってましたし、井戸自体はもうあちこちに掘りまくってましたから」

 

「あぁ、そういうことですか」

 

 説明されて、やっと俺にも分かった。

 

 マルドルへの玄関口になっていたリスボアは、さっき話しからして情勢不安定になっていた。そんな中で、クルアン教側は新たな拠点を求めていたのだろう。

 

 もしリスボアが反乱を起こしても、直ぐに討伐できる、首根っこを抑える場所に。

 

 ……リスボアの人には、他言できる話じゃない。

 けど、事情はともあれ、そういうことなら話は変わってくる。

 

「あたしらの文化では、石造の家に住むことが多くて。自分達の街を建てるのなら、そういう造りにしたいんすよ」

 

「この辺りなら、水も木も石ある」

 

「井戸掘り時に、小さいながら簡単な営舎も建ててた筈っすからね。一から全部やるより、かなり楽っす」

 

「……それが本音?」

 

「これも、本音なだけですよぉ」

 

 二人の話を総合すると、確かにサンドラ山脈が一番の立地だった。

 

 ある程度の下準備が整っているのだから、新規で村を建設するより費用も格段に抑えられる。

 

 それに、今いるクルアン教徒の中には、建築などに携わっていた技術者集団もいるらしい。

 

 もう、決まったも同然だった。

 

「結果だけ見れば、ここしかない場所ですね」

 

「ん」

 

「なら、早速クロエさんに許可を貰ってきます。十中八九、許可をくれると思いますよ」

 

 俺に言葉に、アマルさんは頷いて、ラービアさんは期待してるっすと言ってくれた。

 

「村が完成したら天使様も招待しますので、楽しみにしていてほしいっす!」

 

 ただ、ラービアさんのその言葉には、ちょっと待ったを掛けた。

 

「あの、すみません。邪魔かもしれませんが、俺も同行しますよ?」

 

「へ?」

 

 何故か、俺が置いていかれる前提になっていたから。

 

 一応、クルアン教の総括官になったって、役職のことと一緒に伝えてたんだけどな……。

 

「え、えっ、ちょっと待ってくださいっす! 天使様、ついてくるつもりなんすか!?」

 

「クルアン教徒の人たちを管理する義務があるって、イスペリアの新宰相からお達しが出てますから」

 

「いやいやいや、天使様男の子なのに?」

 

「む、確かにクロエさんの方が、俺なんかよりしっかり者で頼りになりますけど……」

 

「そういう意味じゃないっす!」

 

 じゃあ、どういう意味なのか。

 ……というのは、流石に理解できる。

 

 この世界では、男は護られる存在なのだから。

 

「ラービアさんの言いたいことは、理解できます。けど、クルアン教徒の人だけで行動されると、今のイスペリアでは差し障りがあるんです。どうか、魔除けの鐘とでも思って、連れていってください」

 

「いやぁ、それでも気が引けるっすよ。粉塵や木々が飛び散る建設現場に、天使様を連れていくのは。誰か、別の人とか呼んでもらいないっすかね?」

 

 なので、誠意を持って頼んでみたつもりだったのだが、ラービアさんは思っていたより頑固だった。

 

 どうにかならないかと、アマルさんに視線を向けると、どうしてかボンヤリした顔をしていた。

 

「アマルさん?」

 

 呼び掛けると、無表情ながらビクッと体が震えて。

 

「……ジルベール、一緒にきて、くれる、の?」

 

「はい、そのつもりです」

 

「クローデットに、許可、取った?」

 

「事前に取りました」

 

 すごく葛藤しながら、"10日に一度は戻ってきてくださいまし!"と泣きそうなお顔で伝えてくれた。

 

 多分、都市レベルの統治なんてしたことなかっただろうから、色々と相談したいとこがあったんだと思う。

 

 それを抑えてでも許可をくれたのは、俺の役職とクルアン教徒の統制を考えてのことだろう。

 

 本当に、クロエさんには頭が上がらない。

 そういう訳なので、今更いきませんとは言えない。

 

 なので、一緒に行けます、行かせてくださいと、アマルさんに改めて伝える。

 

 すると、彼女はコクンと小さく頷いてから、助け舟を出してくれた。

 

「彼は、天使。天使ジルベール。その言葉は、神のお告げに、等しい。ラービア、天意に、叛く気?」

 

 ただ、その助け舟はとんでもない衝角付きで、ラービアさんに突進を始めたのだが。

 

「うぇ!?」

 

「そう、叛く気、なんだ。……お墓は、村の真ん中に、建てる、から」

 

「いやいやい、滅相もないっす! ていうか、何で村の真ん中にあたしの墓立てるつもりなんすか! 死んだ後、毎日お参りしてくれるつもりですか!!」

 

「叛逆者には、毎日、石、投げないと、いけないから……」

 

「見せしめ扱い!?」

 

「あそこに埋まってるのは、ラービアとかいう、叛逆者。神罰、執行後、失禁して、死んだ」

 

「歴史書でよくある、カスみたいな死に様を勝手に描写されてるやつまで!?」

 

「ラービアのこと、忘れさせない。そのために、全力、尽くす」

 

「悪名残ってるじゃないすか、後世まで! 絶対に嫌っすよ、ていうかあたし、そこまでやられる程お嬢に何かしたっすか!!」

 

「別に、エブラ川で、私の言うこと、聞いてたら、勝ちの目、あったとか……半分しか、思ってない」

 

「不味い、しっかり心当たりある! むちゃ根に持たれてるっす!!」

 

 気が付けば、ラービアさんはあっという間に半泣きにさせられていた。

 

 そして、必死な形相で俺の足元に縋り付いてきたのだ。

 

「じ、ジルベール様ぁ! あたし、まだ25なんです! 死にたくないし、死んでから地獄の業火で焼き続けられるなんて、ごめん被るっす! どうか、どうか命をお助けください〜っ」

 

 …………大人のお姉さんなのに、こんなにも情けない命乞いとかするんだ。

 

 最近はベルタさんという格好いいお姉さんが近くに居ただけに、何だかショックである。

 

「……ジルベール、今なら、いける」

 

 けど、アマルさんに促されて、放心状態から解放されて。

 

 そのまま、縋り付くラービアさんの肩に触れながら、それっぽく要求を押し倒すことにした。

 

 ちょっとアレな状況だけど、千載一遇の機会には違いないから。

 

「ラービアさんは、主の意に背いてなんかいません。……俺も、連れていってくれるんですよね?」

 

「もちろんですぅ!」

 

 結果、物凄く元気のいい返事が返ってきた。

 ……何というか、面白い人だ。

 

「そういう、こと。ジルベール、よろしく」

 

「はい、よろしくお願いします。……ちょっと、やり過ぎちゃってたり、しません?」

 

「ジルベールに、カッコつけ、しようとしたラービアの、責任。あなたは、男の子な前に、天使。ラービアも、理解したはず」

 

「違いますけどね?」

 

 訂正、面白い人"達"だ。

 ラービアさんだけでなく、アマルさんも含めて。

 

 ……うん、ひっそりと上手くやれるか不安だったけど、この空気感なら大丈夫な気がしてきた。

 

 少なくとも、今回も退屈とは無縁な日々になりそうだった。

 

 

 

 

 

 そうして、クロエさんに許可を取った後(切なそうな顔をされて、俺まで寂しくなってきてしまった)、クルアン教徒の人達を率いてサンドラ山脈までやってきた。

 

 そこで翌日から、早速作業に取り掛かったのだけれども。

 

「…………ジルベール、これ、何?」

 

「はい、これは令嬢方です」

 

 現場は、巨大な石や木々が物理的に飛び交う現場と化していた。

 

 どういうことなのかといえば、出立に際して令嬢方を50人ほど、クロエさんにお願いして連れ立ってきたのだ。

 

 俺自身は役に立てそうになかったから、代わりに役立つ人材達を連れてきた訳である。

 

 

「ねえねえ、誰が巨石を指定の頭で一番早く運べるか、勝負しない?」

 

「良いですね、乗りました!」

 

「よし、じゃあよーいスタート!」

 

「え、岩を無理やり転がしながら運ぶなんてあり!?」

 

「えっへん、これで私が一番だね!」

 

「……でも見た目、クソデケェ糞転がしだよ?」

 

「バカな!?」

 

 

 ちょっとふざけたりもするけど、それでも令嬢達の圧倒的なパワーは非常に頼りになっていた。

 

 何というか、現場に大量の重機を持ち込んだみたいに、劇的な作業効率を見せつけていたのだ。

 

「うひゃあ、凄いっすね! ……あたしら、こんなのと戦ってたって、マジっすか?」

 

「……私も、出来るよ?」

 

「お嬢は現場監督義務があるんすから、大人しくしててください」

 

「ジルベール、頼りっきりで、良いの……?」

 

「大丈夫です、令嬢方は細かい作業は苦手ですから」

 

 無表情ながらに、申し訳なさそうにしているアマルさん。

 けど、その申し訳なさは別に問題ではなかった。

 

 どちらにしろ、加工作業はクルアン教徒の人にやってもらうしかない。

 一から十まで、令嬢方が何でもするわけではないのだ。

 

「でも、令嬢方は労って上げてください。ご飯に、異郷の料理とか出したりとかして」

 

「ん、分かった」

 

 けど、何にしろ令嬢達が大活躍しているのは間違いではない。

 

 お陰で、村の建設期間は劇的に短縮されていった。

 僅か1ヶ月で、ある程度の物が形になっていったのだから。

 

 工事現場においては、パワーは正義。

 それを実感した一月でもあった。

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