貞操逆転世界で占い師(軍師)を務めていたら、貴族令嬢方に包囲され逃げられなくなった件について 作:ですわお嬢様
「軍中占い師、ですの?」
「ご存じ、ありませんか?」
「いえ、ワタクシも武門の出。存じてはおりますが……」
言葉に出さずとも、何故とその目が語っている。
急に何を言い出したのだろうかと、そう思っているのがヒシヒシと伝わってくる。
それに怯まず、俺は改めて主張した。
「今、危機が迫っていることを予見したんです」
「危機、ですのね」
言葉を聞いた途端、クローデットさんの目が優しくなった。
ただ、その優しさは、幼子を見る類のもので。
恐らくは、偵騎を見たと聞いた俺が、怯えておかしなことを口走り始めたと思っている目だった。
「仰る通り、異教徒の軍勢に狙われる場合もあるでしょう」
「はい」
「その中であなたが、ワタクシ達のために何か成そうとしてくれていること、伝わってきましたわ」
「……はい」
「ですが、軍中占い師は士気を高めるだけの見せかけの役職。申し訳ありませんが、士気を高めるも何も、既にそのような状況では──」
「──侵攻してくる敵は、騎馬を主体とした機動力に優れた部隊です」
「……え?」
だから、無礼なのを承知で、クローデットさんの言葉を遮った。
多分、このままでは話を聞いてもらえないどころか、俺がはしゃいで危険を犯さないように、監禁されかねないと思えたから。
もし、監禁されるならそれも仕方ない。
けど、その前に伝えたいと思った。
おおよそで出した敵軍の概算と、その対策についてを。
きっと、クローデットさんなら役立ててくれると思えたから。
「この村は前線から比較的に離れた場所にあります。もし、異教徒がそういった後方の村々を襲っているのならば、何よりも足の早さを一義に置いてるはず。きっと一撃離脱、焼き討ちを目的とした部隊になるでしょう」
「ジルベールさん、あなた、何を……」
クローデットさんの目の色が変わった。
優しい、ともすれば侮っていた瞳は、蒼い理知を湛えたものへと変わる。
「また、冬季が近づいています。冬がやってくれば、軍は戦いどころではなくなる。長く対陣することは、絶対に不可能です」
「……相手の規模、予測できまして?」
俺の言葉を、無下にしていない。
いや、それどころか、ちゃんと試そうとしてくれている。
俺が妄言を口走っているのか、それとも根拠があって話しているのかを。
聞く価値があるかもしれないと、本気になって。
──初めて、クローデットさんが俺のことを睨んだ。俺が本気でモノを言っているのか、それを確かめるために。
怜悧な青の瞳は、まるで俺を糾す聖槍のような鋭さを持っている。
……軽く、息を入れる。
得意げにならないように、人の命を預かることであると、ばぁやが昔に言ってた言葉を胸に刻んで。
「異教徒側が大規模な軍を起こすと、イスペリア王国軍と全面衝突に発展します。なので、敵が運用できるのはおよそ300くらいの部隊でしょう」
「兵科は?」
「敵領を荒らすのに、鈍さは罪。ですので、軽騎兵の集団。内10程は魔術師、効率よく火をつけて回るために、そのくらいは必要でしょうから」
そこまで話すと、クローデットさんは怒らせていた眉を下げて。
「……なるほど、納得できる話ですわ」
ゆっくりと息を吐いた。
睨んでいた目尻が下がり、刃物みたいに感じていた表情から険が抜ける。
「ネイ家の血筋、なのでしょうね」
そうして、ボソリと呟かれた一言は、俺のことを認めてくれている類のもの。
ネイ家の血、軍人としての素養があると。
「…………はぁ」
「……何か、良くないことを言いましたか?」
褒められてすぐ、重いため息が聞こえてドキッとした。何か、どこかで見当違いなことを言ってしまったのだろうか、と。
だが、その懸念をクローデットさんは首を振って否定する。
すごく、困った顔をしながらではあるが。
「いいえ、違います。納得したのです、誠に卓見とも思いました」
「では、どうして?」
どうしてを重ねると、クローデットさんは身を乗り出して叫んだ。
「……っ、正しいと思った上に、優秀だと思えてしまったことが問題なのですわ!!」
「というと?」
説明を求めると、ジトりとした目を向けられた。
"この人は!"という気持ちが伝わってくる。
「〜っ、護りたい人に頼らざるを得ないのが、口惜しくて仕方ないからですわ!」
言われて思い出す。
俺の身を案じてくれていた、クローデットさんの思い遣りを。
『……いざとなれば、命に代えてでもお守りいたしますわ』
空元気で、それでいて決意を込めた目で。
俺のことを案じてくれていたのを、しっかりと思い出す。
前世の価値観的に、守ると言った女の子を頼ってしまうことになった、金髪イケメン男子という構図が近いかもしれない。
……男子の意地ならぬ女子の意地的に、微妙な気持ちになったのだろう。
俺としては、役立てる方がよっぽど嬉しいが。
「それもこれも、他のアホアホが騎士の真似事ばかりして、脳筋すぎるのがいけないのですわ!!」
しかし、感慨に浸る暇もなかった。
クローデットさんは、油を注いでないのに勝手にヒートアップしていたから。
「令嬢方、鍛錬してて偉いなって思ってましたけど」
そんなになのか、そう思って油を挿す感覚で突いてみると、クローデットさんはクワッと目を剥いて語り始めた。
……いつでも可愛い人だと言ってあげたいけど、流石に今の姿は怖さしかない。
「武門が何たるかを、あのお馬鹿さん達は何も理解していないのです!」
「そうなんですか?」
「そうなのですっ。武門の次期当主候補であるのに、剣や槍のことしか興味がないのですわ!」
「あー」
「軍略とは即ち、騎士たる己が邁進し、敵軍に突撃して中央突破を図ることだとばかり思っていて!!」
「英雄譚だと、大体そうですもんね」
「武門はそんなのばかりですが、逆に法服貴族(官僚として功を上げ、叙された貴族)の方は、悲観的になりすぎて、みんな死んだ目をして天の国について語り合ってばかりですの!!」
「うわぁ……」
鬱憤が溜まっていたのだろう。
憤慨しながら、身内の貴族がどれだけポンコツなのかを吐き出していく。
多分、敵が来るかもしれない中で頼れる人が居らず、責任を重く感じていたが故のブチギレだった。
一息に言い切ったクローデットさんは、糸が切れたみたいに椅子にへたり込み、そのまま突っ伏した。
「うぅ、どいつもこいつもなのですわ。誰か一人でもマシなのがいれば、ジルベールさんに心労を掛けることも無かったでしょうに……っ」
うー、と呻いている姿は、何処をどう見ても弱っていた。
こんなクローデットさん、初めて見る。
さっきの怒り顔も含めて、今日は知らない面を見せてくれていた。
……親しくなれた感じがして、結構嬉しいな、これ。
「でも、嬉しいですよ」
だから、慰めも含めて、本音をそのまま伝えた。
「何が、ですの?」
「──同じ荷物を背負えることが」
言葉にできて、胸がスッキリした。
これまでずっと、クローデットさんが助けてくれる側だったから、
きっと、身の上話をした時、俺が情けなく泣き出してしまった。あれで、クローデットさんにとっての俺という人間は、対等ではなく庇護対象となったんだと思う。
だから、俺に頼るという一事だけで、こんなにも申し訳なさそうにしている。
護ってあげないといけないのに、と。
正直、申し訳なかった。
俺はここで唯一の男性だし、扱いにくさは随一だっただろう。
……けど、今からは違う。
ようやく、対等というスタートラインに立てた。
助けられるだけでなく、助け合える関係になれたんだ。
「一人じゃなく二人で、今度は俺があなたを支える番です!」
晴れやかな気持ちでそう告げると、クローデットさんはのっそりと身を起こした。
どうしてか、またジト目をしていた。
それでいて、顔が真っ赤で。
「……一つ、言っておきますわ」
「は、はい」
妙な空気感を醸し出す彼女に、変に緊張しながら頷くとボソッと一言。
「男性から、それも弱っている時にそのようなことを言われると、その──ドキドキしてしまいますから、ご容赦くださいませですわ!!」
「え?」
言い終えるや否や、再び突っ伏して今度は動かなくなった。ただ、耳まで真っ赤になっているのは隠せてなくて。
……正直、すごく可愛いって思ってしまったのだった。
あまりに恐れ多いことですが、日刊ランキングの1位に掲載していただけました……。
見た瞬間、目を疑いました(未だに手の震えが止まりません)。
皆様の応援と期待に引け腰になってしまいますが、応えられるように何とか踏ん張っていけたらと思います!