Fate Constantia   作:ミルトントン

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タイトル翻訳:証明


probatur

夜明けを超え、ロンドンが朝日に照らされる。

 

 

ブリテン王朝68年538年

 

彼等一同はテムズ北岸に位置する、ミドルセックスの丘に建つ教会、そこへと向かっていた。

 

「これで、終わるのですね」

 

緩い傾斜を歩いている中、アルトリアは感慨深そうに呟く。

そんな呟きを耳聡く聞き取ったルシウスは訂正も込めて返す。

 

「寧ろ、始まってもいないがな。」

 

「ああ、そうだとも。何しろここからが勝負どころだからね。」

 

軽く肩を落としながら、マーリンはこれから起こる回避不能の苦労へと思いを馳せる。

 

「それはどういう事でしょう?」

 

アルトリアはただ、頭を傾け、彼等に問いかけた。

 

「…………怠慢だなファーマー」

 

彼の軽い足蹴がマーリンの男らしい臀部に吸い込まれる。

 

「わひゃ!い、痛いぞぅ、もう少し、手心というものをだね。」

 

「普段使わない部分だろう?」

 

「痛みはあるに決まってるだろう!そりゃあさ、僕が言ってないのがいけないさー。けどさー、だからって、何も蹴ることはないでしょ、蹴ることは。

危うく僕の完成されたお尻が割れる所だったよ。」

 

そう言ってマーリンは己のお尻を慈しむように撫でる。

 

「夢魔は臀部が四分割出来るのか?」

 

彼は純粋な好奇心で問いかける。

 

「比喩に決まってるじゃないか!?

なんだい!?四分割って!?人じゃないじゃないか!?」

 

マーリンの怒涛の返答に、ルシウスは頭を傾けながら答える。

 

「お前は、夢魔だろう?」

 

マーリン怒る。

 

「もう怒ったぞぅ!だいたい君と言うや、ぶへぼぅ!」

 

アルトリア怒る。

 

「もう一度、問います。

それは、どういう事でしょう?」

 

ルシウスは謝った。

 

「おい、生きてるか?」

 

ケイは吹き飛ばされたマーリンの安否を尋ねる。

 

「はは、痛いね。」

 

「…こういう時、ルシウスさんならきっと、『色男になったな』、とか言うんだろうな。」

 

「……はは、だね。」

 

マーリンはケイから差し出された掌の己の掌で掴み返した。

 

 

「まず、前提からだ。

このロンドンはあくまで承認を得る場に過ぎない。」

 

ルシウス先生の有り難い解説が始まった。

 

「ここで諸王達から承認を貰い、キャメロットにて戴冠する。

これが基本的な流れだ。これはウーサー王も変わらず踏んだ手順だ、例外は等しくないだろう。」

 

そこで、ルシウスはアルトリアへ視線を向けた。

 

「『本来』王位継承権は結果に過ぎない。

王位とその血脈を携えた者、その者に自然と刻まれる刻印だ。

だが、此度は些かに異常過ぎる。

その最もたる例がお前だ。」

 

「私、ですか?」

 

「ああ、言い方は悪くなるが、お前は一般の位に毛が生えた程度の階級に過ぎない。

確かに、お前はエクター卿の養子にあたる存在だ。

だが、惜しむらくは彼が騎士を引退している事…だが、それすらも今は些事だ。」

 

彼は私から視線を外し、次に吊り紐にかかった聖剣に視線を移した。

 

「その剣が、此度の異常に他ならない。」

 

「この、剣が、でしょうか?」

 

「諸王達は賭け事が嫌いでな。

投資、戦略、魔術、果てには未来すらも。

言わば、夢を捨てた現実主義者達に過ぎない。

だからこそ、その剣は異常だ。

信仰、願い、異例、外部に依存したそれは酷く脆い。」

 

彼は視線を前方へと向けた。

その先には我々の目的地でもある教会堂が姿を現し始めていた。

 

「その剣だけでは証明は出来るだろう、だが、『正当性』は得られない。

その獲得こそが、お前の今、成すべき事だ。

……さぁ、漸く、辿り着いたぞ、お前の最後の試練が。」

 

その教会堂はこれまでの旅で見たどの教会堂と似ている相貌をしていながら、何処か異質な圧迫感があった。

彼は少し下がって、私の背を軽く押す。

 

私はいつの間にか掴んでいた聖剣へ、視線を移す。

 

(聖剣では無く、己の意志で、、。)

 

扉へと視線を映す。

 

(外装は他の建物と差異はない、けれど、今はこの扉が重厚な鉄で形成された堅固な城砦に見えてしまう……けれど、、けれど、開けなくてはいけない)

 

そうだ、開けなくてはいけない、こんなものは通過点に過ぎないのだから。

 

私は意を決して扉の持ち手に触れ静かに力を入れる。

 

扉は思っていたより軽かった。

 

 

部屋の中は、酷く簡素だった。

中には一つの円卓と8つの椅子のみの質素な空間が佇んでいた、けれどそれらだけで完成された室内は凄まじい程の神秘が篭っていた。

その椅子は3つの穴を残し、それ以外には各々の諸王が座している。

 

マーリンは諸王達の元へアルトリアを連れていく。

その姿を見届けながら、ルシウスは入り口近くに背を預ける。

 

(この日を、この日を、、永遠の彼方から身を昂らせる程に待ち望んでいた。……見ているか、ウーサー。

俺は因果を超え、ブリテンに渦巻くこの予定調和を、崩して見せよう)

 

一通りの紹介も済んだのか、マーリンがこちらへ招くようにこちらへ手を張っている。

 

思考を中断して、その場へと、彼は赴く。

 

「ほう?貴方がかのブリテンの天使で相違ないだろうか。」

 

「ウリエンス王の倅か。

ふん、此度の議会に騎士ルシウスの名は無意味だ。

見るべきは俺の経歴より、彼女の精神だろう。」

 

切り捨てるように告げた後、彼はアルトリアの一歩後ろへと佇む。

そんな彼の元へ一人の壮年な男性が近寄る。

 

「変わらずの息災で何よりだルシウス。」

 

「貴方も相も変わらずにご壮健な事だ。」

 

「ふっ、どれだけ時が重なろうと、その軽い口は今も健在か。

どれ、この再会を祝し、今宵久方ぶりに夕餉を共にしないか?」

 

壮年な男性はルシウスの華奢な腰に手を添え、彼の下顎に指を這わせる。

 

「少なくとも、ここでの保証は致しかねる。

何せ、今は彼女の騎士でもあるからな。」

 

 

「彼女、意外と嫉妬深いんだ。」そう言って彼は壮年な男性の手をやんわりと退かす。

 

「それに、此度の宴は盛大だ。貴方と俺だけで味わうのは、酷く不適切だとは思わないか?」

 

退かした腕を支えにルシウスは彼の耳元へと乗り出し、小声で囁く。

 

「………節操が無いな。」

 

「こちらもなりふり構ってはいられないからな。」

 

「ヴォーティガーン卿。これから審議を始める、即刻席へ戻って頂きたい。」

 

その一言にヴォーティガーンは俊敏な動きにてルシウスを拘束した後、彼の耳元へ囁く。

 

「健闘を祈っている。」

 

そう言い残して彼は元の席へと戻っていった。

 

 

「…祈り、、、そんな曖昧なものでは、世界は動かんよ。」

 

 

 

「では始めるとしましょう。

早速だが、私は、彼女の即位に賛成だ。」

 

「ふむ、それは何故でしょう?

いや、否定の意では無い、ただ余りにも早期に結論づけるものだからな。」

 

ペリノア王はバン王へと問いかける。

 

「我も参考までに聞かせてもらいたい。

何せ、この様な議会への出席はそう無いゆえ、先駆者の意見と言う物を知りたく思う。」

 

ユーウェイン卿もまた、ペリノア王に便乗する形で尋ねる。

 

「余り圧をかけて欲しくはないが、まぁ、簡単な話、マーリン殿からの推薦という部分が大きい。何せ、彼はウーサー王と共に一時代を築き上げた立役者だ、その慧眼に衰えはないと私は信じているに過ぎない。」

 

「だが、それは些か盲信が過ぎるのではないか?

側が幾ら美しかろうとも、中身が普遍な事は摂理に反する。

それはウーサー王とて同義であった筈だ。」

 

「.……ふむ、、アーサー君。貴方には彼がどう映る?」

 

ユーウェイン卿はアーサーへ視線を向け、そう問いかける。

 

「マーリンが、ですか?」

 

アルトリアは彼の意図が読めず、ただ内心にて頭を抱える事しかできなかった。

 

「ああ、やはりその者の『真実』というものは近しくあればある程明瞭となっていく。ならば貴方に聞く方が適している。」

 

「………私が、虚偽の真実を話す可能性は考えないのですか。」

 

彼からの指摘にユーウェインは軽く微笑みながら「杞憂であろう」と語る。

 

「例え一刻にも満たない会合であっても、貴方の清廉さを知るには十二分であろうさ。」

 

アルトリアには彼の視線が一才の澱みの無い清流に見えた。

 

「マーリンは、確かに軽薄な男です。

けれど、それだけが彼の全てではない。

私にとって、彼は誰よりも尊敬できる人物ですから。」

 

「ははっ、一言目の『軽薄』は余計だね。」

 

「事実でしょう?」

 

彼女はその清らかな瞳でマーリンへ問いかける。

 

そんな彼等の姿にユーウェインは腑に落ちた感覚を抱く。

 

「ふっ、良き忠臣を持ったな。」

 

「だが、それは本質では無い。

この場はマーリン殿の潔白を証明する場では無い。

彼女の特異性の有無、ただそれだけだ。」

 

ペリノア王は青臭いユーウェインの思想とは打って変わった意見を出す。

そこにロット王も身を乗り出して賛成の意を唱える。

 

「そこには余も賛成だ。

何故この様な小僧が王位を継ぐのか、理解に苦しむぞ。」

 

「ふむ、だがな老耄王よ。

彼方のそれは些か越権であろう。此度は時の山に然程価値は無い。」

 

ヴォーティガーンは両手の指を突き合わせながら愉快そうに指摘した。

 

 

「『王』は人だ。往々にして、人の肝心要とは常に中身に宿るもの。

だが、中身が同一であればそこに側は不要である。」

 

ペリノア王は背もたれにもたれかかりながら堂々と腕を組む。

 

「私が知りたいのは一つ、『その聖剣が君にしか抜けなかった』という証明なのだよ。

『聖剣を抜いた者が王になる』『王に至れる者が聖剣を抜ける』

この両者は似通っている様で、決定的な差がある。

故に証明しなければならない、提示しなければならない、裏付けをしなければならない。……長話失礼した。」

 

アルトリアには彼の思想は理解できた。

だが、それ以上に、己の無力さが心の臓を打ち尽くした。

 

「待った!その問いこそ越権行為に他ならない、貴方はこのブリテン島の意思すら邪推するというのか?」

 

マーリンは彼女を庇う様に躍り出た。

 

「貴殿のそれこそ妄信に過ぎないでしょう。

そも、姿無き曖昧な概念ががしゃしゃり出てくるな!

此処はとうに人の世であるのだ、宮廷魔術師殿!」

 

彼は背もたれを蹴り上げる勢いで立ち上がる。

 

「この際、明瞭に明言しておきましょう。

極論、私は象徴的な聖剣に微塵も興味は無い。

そんな曖昧な概念ではなく、彼の器にこそ心眼を映すべきであろう。」

 

ペリノア王はアルトリアへ視線を向けて、訂正の一言を放った。

 

「私は君を庇う気なんぞ更々無いからな。」

 

彼は再び背もたれに背を預け、腕を組んだ。

そんな彼等の一連の流れに我慢ならず、顔を充血させた王が怒鳴る。

 

「不愉快、不愉快だ!実に不愉快が過ぎるぞ青臭さの抜けない未熟者共め!!この小僧は所詮小僧だ!知恵も経験も地獄も知らない尻の青いしょんべん餓鬼に過ぎん!にも関わらず、何故お前達はこれを『承諾』する前提で問いかけている!?理解以前を越えた未知が過ぎるぞ!」

 

彼は肩で息をしながら分不相応な不埒者へ摂理を説いた。

例え、私情が大いに混じった過激な暴論であろうと、彼の発言は確固たる本質を突いたものであった。

 

「…堂々巡り…というわけですかい。」

 

バン王は額に手を当てながら唸る。

 

「耳が痛いな。

…………ふむ、ならば出すとしようでは無いか、奥の手というものを。」

 

ユーウェイン卿は軽く指を鳴らす。

 

「すまない、やはり貴方が必要になりました『叔母上』」

 

彼の背後から一つの鏡が出現する。

 

「やっと呼んでくれましたね。素直な子は好感が持てます。」

 

「私が貴方に求める事は一つ、『聖剣』の裏付けです。

稀代の魔術師である貴方なら容易い事でしょう。」

 

「ふふふ、ええ、その様な雑事、呪術より容易い。

しかし、そんなものは徒労に過ぎません。

何せ、その聖剣は紛う事なく『本物』なのですから。」

 

彼女は腕を組みながら愉しげに微笑む。

 

「ですが、それでは興が冷めると言うもの。

此処は少し趣向を凝らしましょう」

 

トントン。彼女が杖で床を数回叩く、それにより展開された魔法陣から一つの岩が出現する。

 

「少々お借りしますね、お嬢さん。」

 

アルトリアが意識を彼女へ向けた頃には既に己の得物は彼女の手へと渡っていた。

 

彼女は剣を岩へと突き刺した。

 

「やはり、まだ生きていましたか。さて、舞台は整いました。

我こそが王である、と自惚れる愚者のみがかの剣に認められる事でしょう。」

 

そう演劇染みた煽りを放ち、彼女は近くにいたユーウェイン興の側へ移動した。

 

しかし、かの選定の儀を実際に間近に感じ取った彼等は、少し後ずさりをしていた。

 

「ふははっ、やはり臆したか未熟者共め。我には血統も!武力も!知恵も!

とうにウーサーなんぞ越えている!我が剣を抜くんじゃ無い!

お前が我に抜かれるんだ!!」

 

彼は目玉が飛び出す勢いで持ち手を強く握りしめて引っ張り上げる。

 

10分後。

 

彼は脳に血が行き過ぎてしまった為、オークニーへと帰還する。

 

「ふむ、他に挑む者はおぬのか?

此度は忌憚なき儀礼故、物見試しでも結構だ。」

 

ユーウェイン卿の誘い掛けに彼等は沈黙で返す。

 

「ふふふ、まだ臆病者が一人残っています。

そうでしょう?ねぇ、ルキウス?」

 

ユーウェインは驚きと納得が同時に湧き上がる。

 

「ああ、そうであった!まだかの騎士ルキウスが試しておぬではないか!

やはり、流石は叔母上!目敏さは母上と遜色が無い!」

 

ユーウェイン、父譲りのうっかりを漏らしてしまう。

叔母上、額に青筋走る。

 

「…ユーウェイン、貴方は後で説教だ。」

 

「………我はまた何か失言をしたのだろうか。」

 

ユーウェイン、彼女の説教を思い出し頭を抱えてしまうのであった。

 

「少し、感慨深いものを覚えるな。」

 

気付けば聖剣の前に立つルシウス、その目に宿るは仄暗い深淵である。

 

「ごほん、さて、抜かないのですか?騎士ルシウス。」

 

「……一つ、修正点を加える。

俺はもう、騎士では無い…これより先、遍く行為が俺個人の意思だ。」

 

 

彼は聖剣の持ち手を握りしめる。

 

「今更に酔狂な事をしているな、だが、ふふふ、乗ってやろうじゃ無いか。

マーリン、よく覚えておけ。俗世には得てして抜け穴があるとな。」

 

 

彼は高らかに引き抜いた剣を宙へと掲げた。

 

 

 

 

 

 

 

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