Fate Constantia   作:ミルトントン

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タイトル翻訳:訣別


vale

は?

 

誰の戸惑いだったか、しかしその戸惑いは瞬く間に教会堂全体へと伝播していった。

 

「ーー所詮は出涸らしか。ーー受け取れ。」

 

彼は聖剣へと一目映した後、興味を無くしたのかーー彼女へと聖剣を投げ渡した。

 

反射的に聖剣を受け止めた彼女、しかし状況は依然と飲み込めてはいなかったのか、茫然と聖剣を見つめる事しか出来なかった。

 

そんな中、一人の夢魔が声高に疑問を叫ぶ。

 

「待ってくれ!!なぜ君にあると言うのだ!!それは!ーーその剣は!!」

 

彼はその問いに軽いため息を吐く。

 

「〈聖剣は『資格』ある者にしか抜く事は叶わない〉ーーお前の推測は適正だ。」

 

彼は目を細めて怪しく微笑む。

 

そんな彼の豹変振りにマーリンは咄嗟に己が獲物へと手を伸ばした。

 

「一つ、聞いていいかい?それは、君の意思なのか?」

 

刹那ーールシウスは目を見開く。

だが、即座に乾いた笑いを彼へと向けた。

 

「ーーやはり……あんたは人間だ。

……ああ、残念だろうがーー俺は俺の意思を譲る気はない。」

 

ーー思い出す、彼との日々を。

ーー低迷する、解れる決意が。

ーー静かに視界を開く、責任と執着を携えて。

 

「そうであって欲しくはーー無かったよ。」

 

彼はいずれヴォーティガーンすらも凌駕する敵となる。

 

(すまないアルトリアーー恨むなら私を恨んでくれ。)

 

剣を彼の喉元へと走らせる。

 

「堅実だな。だが、安直過ぎる。」

 

ぎゅーーん、ぎゅぎゅーーきゅぃーーん!!

 

瞬く間にマーリンは何かに剣を弾かれる感触を覚える。

 

それはルシウスを守るように警戒の体制をとっていた。

 

「ーー些か想定外が過ぎる。期せずして、これを出す羽目になるとはな。」

 

それは、ぎゅーーぃぃーんと獣の様に唸り声をあげる。

 

異質だったーー形状、位置、用途ーーその武装を構成する要素全てが、現ブリテン島に現存するどの武装とも異なりを見せていた。

 

「本気って事で良いよね。」

 

ルシウスは身に纏っていたオーバーサイズの上着を脱ぎ捨てる。

 

ーー異常だったーー胸棘筋に埋め込まれた武装、肩下辺りまでどす黒く変色した両腕、鼠蹊部から鎖骨へと広がる漆黒の神代回帰。

それら全てがブリテン島に現存するどの生命体とも異なっていた。

 

「さて、少し脱線が過ぎたな。」

 

彼は円卓へと足を進める。

 

彼等の瞬きが終える頃、既にルシウスは円卓へと辿り着くーー彼は一つの紙を取り出した。

 

「では、議論を再開するとしよう。」

 

一枚の紙を静かに置くーーそこには王位継承勅書と書かれた紙が置いてあった。

 

アルトリアを除いた全ての者たちが数秒、呼吸を止めた。

 

アルトリアは意を決して彼へと問い掛ける。

 

「……ルシウス、その紙は一体…」

 

彼はその問い掛けに振り返らず答えた。

 

「これは…」

 

「まさか、そんな物を持ち出してくるとは…貴族内でのまことしやかな噂だと思っていましたよ。」

 

彼等の中から一番に復帰した彼女ーーモルガンは頭痛を抑える様、額に手を添えながら割り込む。

 

「なんだ、既知の上で仕掛けてきたと思っていたがーーふっ、姉妹だな。」

 

姉妹ーーその言葉に先程までの疑問が一時だが吹っ飛んだアルトリアは重ねてルシウスへと問い掛ける。

 

「姉妹とは、彼女と私ーー僕がですか?」

 

妖艶な雰囲気を纏う彼女を見つめるアルトリア、その事実を受け止めきれない彼女は只管に頭を抱えるばかりだ。

 

「種違いだがな。…さて、いつまで黙秘を続ける気だ?」

 

諸王達も漸く理解が追いついたのか、はたまた現状の複雑さに胃を歪めてしまったのか、皆揃って頭を抱えていた。

 

そんな中、一人だけ爽やかそうな、はたまた愉快そうな喜悦に満ちた表情を浮かべながら拍手を送る諸王が一人いた。

 

「いやはや、正に究極の一手だな。

まさか、此方の生にてこれを拝める日が来るとは、やはり俗世は書物より奇なるものだ。

だが、これは厄介なものだ、何せ王位継承者が今期に二人も出てきたのだからな。」

 

やれやれと両手の指先を突きながら頭を軽く左右に揺らす。

 

「ふむ、参考までにこの様な事例は過去に存在するのだろうか?」

 

ユーウェイン卿は諸王達やモルガン、ルシウス達にも問い掛ける。

 

「ないね」「ありえん」

 

皆口々に答えていく。

当たり前の話ではあるが、王とはそう頻繁に交代していくものではない役職であり、王位の実態とは直人の夢想とは遥かに乖離する役回りなのである。

 

「……いや、あったな。」

 

諸王一同が一斉にルシウスの方へと視線を釘付けにした。

 

「今から50年前、かつてこの場にも二人の王位継承者がいた。

方やその者は戦時における戦績より継承権を得た者。

片やその者は戦時における国防より継承権を得た者。

諸王達は彼等の実績故、果てしの無い議論を続けた。

それは三日三晩も続いた、その末に諸王は苦渋の決断を強いた。

『両者達による決闘の末に勝者に冠を授ける』と。

その結果、方や勝利の末、栄冠を勝ち取り。

片や敗北の剣を心の臓へと突き刺され絶命。以上だ。」

 

彼が語り終えたのも束の間、諸王達は燃料を入れた動力機が如く静かな議論を繰り広げた。

 

数刻後。諸王達は漸く決断できたのか、ルシウスとアルトリアを召集する。

 

「議論の末、我々もかつての先代達に倣い、『決闘』によって決めるとした。だが、この決闘において一つ、規則を設定した。

単純な話、相手を殺さずに証明する事、ただそれだけだ。

それ以外にこちらから何か抑制する事はしない、さて、時間も惜しい、早速舞台へと向かうとしよう。」

 

そう言って立ち上がったペリノア王、それに連なる様にユーウェイン卿やバン王、ヴォーティガーンも立ち上がりその地へと向かった。

 

 

フォロ・ロマーノ跡地

 

その地に佇む決闘場にて王位継承者はただ、顔を合わせていた。

 

彼等の間に肌寒いそよ風が通り過ぎる。

 

「私達が、戦う意味はあるのでしょうか?」

 

片や王位継承者は問い掛けた。

 

「意味とは後から来るものだ。」

 

方や王位継承者は端的に答えた。

 

「ならば!ーー私達二人で王になりませんか。

政治は私で、軍事はルシウスが!ーーそれはきっと何よりも堅固で、強靭な、慈愛に包まれた暖かな国になる筈です!

だから、だから……」

 

ルシウスはただ、瞳を閉じるばかりだ。

 

「…貴方は、以前私を頑固と評しましたが、案外、貴方も頑固な人ですよ。」

 

アルトリアは聖剣の鞘を強く握り締めた。

 

片や王位継承者は鞘から輝かしい剣を抜き出す。

 

方や王位継承者は胸棘筋から生えた尾を展開する。

 

「もし、私が勝ったのなら、その時は洗いざらい吐いてもらいますよ。」

 

「既に勝った気とはーー見せてやろう、純粋な力のみが成立させる真実を、世界を」

 

王位継承者両名の決闘が今、幕を切った。

 

 

「『勝利すべき黄金の剣〈カリバーン〉』!!!」

 

開幕の火蓋を切るは、彼女の聖剣から放たれた直線上の光線だった。

 

「迎え撃て、『レーア・ティオ〈理性〉』」

 

ぎゃーーぃぃいーん。

 

主の指令を即座に実行に移した武装は瞬く間に蓄積していた魔力・神秘を燃料に光線を持って撃ち返す。

 

両者共に高質量の熱量をぶつけ合い、相殺していく。

 

「うう、うううああああ!!」

 

更に魔力を込める彼女の気迫に応える様に聖剣は更に輝きを纏う。

 

「ほう、その剣でそこまでの出力を起こすとはーーだが、驕るな。」

 

かの聖剣が放つ輝きさえも飲み込む様に鉄尾の放つ光線は熱量を増すばかり。

 

そして、その時は訪れた。

 

ルシウスは彼女から魔力の起こりが無くなった事に気付いた。

 

だが、その時には既に遅し、彼女の剣は既に間合いに入っていた。

 

「ほう、器用な事をするものだ。だがーー脇が甘いぞ。」

 

ルシウスとアルトリアによる光線の衝突は一時的な魔力の乱れを引き起こしていた。

これは主にルシウス側による影響が多大にある。

鉄尾にはある特性がある、それは魔力・神秘・神性を帯びた物の出力制限、魔力強奪、機能模倣を持つ事だ。

尚、これらは元を辿ればとある天使の権能にへと帰納するのだが、今話では割愛する。

 

魔力の乱れにより一瞬でもルシウスは彼女を捉える事が不可能となってしまった。

 

その一瞬という間は、アルトリアが彼との距離を詰めるのには十二分に過ぎたのだ。

 

(とった!)

 

しかし、次の瞬間には彼女は首元を占められていたのだ。

 

(ーーばかな、余りにも速すぎる!)

 

ぎゅぅぐぅっ

 

「くっ、うっっ」

 

彼女はただ、呻く事しかできなかった。

 

「さて、どう出る?」

 

酸素が脳に回らなくなりつつある彼女が死の間際に見せた決死の抵抗。

 

「……誰だ、その曲芸を仕込んだ猪は。」

 

彼女は死の間際に己の首元を握り締める彼の腕に脚を巻き付け、そのまま彼の腕をへし折ったのだ。

現代で言う、腕ひしぎ十字固めにあたる技である。

 

「ごほ、ごほ、はぁっ、はあっ。」

 

モルガンはマーリンへ睨む様に視線を向けた。

 

「……随分な教育をしているそうだな。

まさか、あんな技まで仕込んでいるとはーー私の妹を宴芸用の動物にする気か?」

 

「私じゃ無いぞう!私だってあんな技初めて見たともさ!」

 

マーリンが必死に弁明を図るも、それが返って胡散臭さを漂わせている事に彼は気づかないのだった。

 

 

漸くアルトリアも呼吸が落ち着いたのか、すかさず落とした剣を拾い上げ、彼から飛び下がる。

 

「来い『ルーメン・エクリプス〈光蝕〉』」

 

彼は鉄尾の顕現を解き、己が愛用する可変武装を召喚した。

 

かきん、かきゃん、かしゃん。

 

彼の思考を読み取った可変武器は主が求める形状へと変わっていった。

 

彼女は彼の出方を伺いながら剣を彼へと向ける。

 

次の瞬間、反射的に己へと振られた一振りを受け止めた。

 

(……落ちたものだな。)

 

「はああぁぁぁ!!」

 

押し返すように、彼女の一振りが彼ごと振り払う。

 

そんな衝撃すらも、彼は涼しく受け流し、余韻も与えぬ間に二発目三発目と繰り返して放つ。

 

(どれも一撃一撃は軽いものに過ぎない。

初撃は反射的に対応できた、けれどそれ以降からは単純な経験の差なのだろう。

軌道予測が意味を成さない見せかけの連続、軽い一撃の中には中々の威力を持ったものもある始末……中々にやりにくい人だ)

 

両名の剣戟はまさに静と動の衝突だった。

 

片や、聖なる輝きを放つ聖剣の一振りは暴風が如く大気すらも巻き込んだ途轍もない衝撃波を生み出す。

 

方や、鉄と魂と血で刻まれた武装の一振りはかつての全盛期をより低落しようと、そのキレは依然と変わらず、かの衝撃波を両断する程の切れ味だった。

 

誰もが固唾を飲み込み只管見守る事しか出来ない。

 

たが、そんな均衡も束の間に過ぎなかった。

 

聖剣カリバーンーー本来儀礼剣に過ぎないそれは戦闘において明確な特性・性能を持たない。

あくまで『選定』という側面に特化しただけの聖剣が果たして、彼が持つ研磨されし武装に打ち勝てると言うのか?

 

否であるーー既に数百と超える剣戟による損耗の蓄積は通常を遥かに凌駕する程の速度で積み重なっていったのだ。

 

は?

 

それは、諸王の声だったか、あるいは激闘の最中に立つ彼女からだったか。

 

「脆いな。」

 

剣が折れてしまった事により体が固まってしまった彼女は、気付けば大地に横たわる様に倒れていた。

 

「既に勝敗は決した!」

 

ルシウスは得物をしまい諸王達へと告げる。

 

「かの聖剣は既に鉄屑に変貌した!それが意味する事は一つ、『彼女は王位継承者』に有らず、只人に過ぎない事だ!」

 

けれど、例え剣が折れようと彼女は立ち上がる。

彼女は虚な目で、折れた剣を彼へと向けて果敢に挑む。

 

「抗いは無意味だ。」

 

彼は突進してくる彼女の持つ剣を振り払った後に彼女の首元へと掴みかかる。

 

「それは過剰だ。既に栄冠は貴方の物なのだから、これ以上は無駄な争いに過ぎない。」

 

「…幻術か。」

 

「冠は君に預けておくさ、けどね。

このブリテン島の正統な王は間違いなくこの娘だよ。」

 

既に空になった己の掌へと視線を送ったその時には、既にアルトリアを抱えた彼等はその場から立ち去っていた。

 

「ふん、そんな事はとうに理解している。

理解できるが故ーーこのブリテン島は彼女を持て余す。」

 

先程まで彼等がいた場所、もう何も無い地点へと軽く視線を向けた後、

諸王達の元へとゆっくり進んでいった。

 

「見ているか、ウーサー。

因果を超え、予定調和は崩された。

お前の大願、今こそ果たして見せよう。」

 

ブリテン王朝69年539年。

 

暖かな陽射しが包み込むブリテン島にて、長らく空席となっていた玉座に一人の男が鎮座する。

 

「さて、始めるとしようかヴォーティガーン。」

 

「また、この地に立つ日が来るとはーー誠心誠意尽くすさ我が王よ。」

 

この日、ブリテン島ログレス国キャメロット城にてルシウスは遂に戴冠を果たしたのであった。




注釈:王位継承勅書……前王が存命中に発する公的勅令であり、
指名された者を正統な王位継承資格者としてあらかじめ認証する文書である。
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